ゴブリンスレイヤー【魔法剣士の異聞録】   作:星屑の騎士

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どうもです!今回は、ちょっと賛否あるかもしれませんがお楽しみいただければ幸いです!


VSスパルトイ

 

 

 重々しい音が響いてくる最奥へと魔法剣士一党がやって来たとき、そこには迫り上がった床によって閉ざされた部屋の入口、その外縁が見えた。隙間からは、血が滴り落ちている。

 

「そ、そんな、まさか……!」

 

 女神官が口元を手で覆って青ざめるなか、魔法剣士たちは、警戒を強めていた。

 

 迫り上がった床下に空洞があり、その奥に宝箱の存在が確認できたのだが、それを守るように骸骨の戦士の存在が確認できたのだ。

 

 鋭い牙、爪、尻尾を持った骨の戦士は、さながら翼なき竜のようだった。

 

 手には、牙の刀をふた振り握っている。

 

 その姿は、まさに蜥蜴人の似姿──否、そのものだった。

 

「……まさか、ここを寝ぐらにしていた蜥蜴人、かしら?」

 

「それがアンデットに……?」

 

「……いいえ、蜥蜴人が低級のアンデットに堕ちるか怪しいものね。私は、彼らの文化を本などでしか知らないから断言はできないけれど……おそらくだけれど、自らを祖竜術で竜牙兵としたのではないかしら?」

 

 銀髪魔法士の冷静な推察と賢狼剣士の警戒が交わされる。

 

「それはなんのためにだ?」

 

「……さあ、私にはわからないわ。予想だけれど、蜥蜴人は戦達者な種族だから、死してなおも戦いたいとかそういう感じじゃないかしら?」

 

 言葉持つ者のなかでも随一の戦達者な種族である蜥蜴人は、その性ゆえに混沌に染まる部族も存在するほどだ。

 

 銀髪魔法士の推測は、そう間違っていないのかもしれない。

 

 それを証明するかのように、蜥蜴人の竜牙兵──スパルトイが動き出し、宝箱の安置された部屋から出てきた。

 

 そして一定の距離を保ち、立ち止まったスパルトイは、牙の刀を突き出し、魔法剣士一党を指し示した。

 

 それは、さながら戦えと言っているかのようだ。

 

「……仕方ない。どちらにしろやるしかないんだ。あれを倒して宝箱をいただくぞ!」

 

 頭目の決定に一党は動き出す。

 

「訊くが、あれをさっきのアンデットたちのように解呪することはできるか?」

 

「えっと、その、難しいと思います。あれを作ったのは、わたしよりも高位の神官だと思いますから……」

 

「……私も同じね。呪文で解呪できるようなものじゃないわ。下手に呪文を切らずに、真正面から戦ったほうがいいでしょうね」

 

 魔法剣士の確認に女神官、銀髪魔法士がそれぞれの呪文系統に基づいた答えを口にする。

 

「私もその意見に賛成です」

 

 戦うのが好きなのか、賢狼剣士は銀髪魔法士の意見に賛成なようだった。

 

「……よし、なら俺たちが前に出る」

 

 魔法剣士は、自分と賢狼剣士を指してそう言い、さらに指示を出していく。

 

「新しく授かったっていう奇跡を頼めるか?」

 

「はい!」

 

「俺も前に出るから、呪文を切るタイミングは任せる」

 

「……責任重大ね。ええ、任されたわ」

 

 魔法剣士の指示に女神官は錫杖をしっかと握って緊張気味に、銀髪魔法士は柘榴石の嵌った杖をきゅっと握りながらも気負わずに請け負った。

 

 まるで指示出しが終わるのを待っていたかのように、スパルトイが声なき咆哮を上げて前へと飛び出した。

 

「来ます!」

 

 それを先んじて察した賢狼剣士が鋭い眼差しで声音を発し、腰を落として木の盾を構える。

 

 魔法剣士も腰を落として円盾を構えた。

 

 ふたりの剣士の手には、鞘に収まったままの得物が握られている。再び骨相手とあって斬撃よりも打撃が有効と考えたためだ。

 

 スパルトイは、二刀を鋭く振るう。

 

「──っ! 避けてください!」

 

 それを盾で受けようとするが、何かを察したのか身を捻りながら賢狼剣士の発した警告に魔法剣士は、咄嗟に回避行動を取った。

 

 かろうじて回避した魔法剣士だが、掲げていた円盾の左半分が牙の刀によって斬り裂かれた。

 

(なんて斬れ味だ……!)

 

 奇跡で作り出された武器ゆえに、その斬れ味は生半可な剣のそれを上回っていた。

 

 対して賢狼剣士は、軽快な動きで回避しその身に怪我も、装備に損傷も負っていなかった。

 

 賢狼剣士との差、己の未熟さに魔法剣士は、劣等感を──抱かなかった。

 

(不甲斐ない……! だが、未熟なら諦めなければまだ成長できるさ! いまは、いまの俺にできることをやればいい!)

 

 己が不明を恥こそすれ、他者に嫉妬している暇などない。魔法剣士は、いまの自分がやるべきことをやると体勢を立て直す。

 

 スパルトイは、その身を翻すとその尾を振り回した。

 

 竜を彷彿とさせる──それは非常に甘い考えだが差し迫る死という意味としては変わらない──尾の一撃は、円を描いて魔法剣士と賢狼剣士を薙ぎ払いにかかる。

 

 魔法剣士と賢狼剣士は、身を屈めて前進し回避する。

 

 その頭上を空振る風圧にヒヤリとしたものを感じながらも、魔法剣士と賢狼剣士は、前へ前へと進む。

 

 スパルトイは、回転の勢いのままに両手の牙の刀を振るう。二刀を凌いでも、再度尾による打ち据えが控えている構えだ。

 

「《いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを、どうか大地の御力でお守りください》!」

 

 そこへ響いたのは、それらをすべて防がんとする女神官の祈りだった。

 

 地母神は、敬虔な信徒の信心に応え、不可視の力場を賜った。

 

 これが女神官が新たに地母神より授けられた、ふたつの奇跡のひとつ《聖壁》だった。

 

 牙の刀は、骨の尾は、聖なる壁によって阻まれ、魔法剣士にも、賢狼剣士にも届くことなく弾かれる。

 

 しかし、それでも崩れた体勢を即座に立て直すあたり、生前は立派な戦士だったのだろう。

 

 その隙を突いて左右から同時に仕掛ける魔法剣士と賢狼剣士へ、スパルトイは牙の刀をカウンターで二刀同時に振り下ろす。

 

「……《アルマ(武器)……フギオー(逃亡)……アーミッティウス(喪失)》!」

 

 しかし、それは銀髪魔法士が許さない。

 

 紡がれる真言によって効果を発揮したのは、《無手》の呪文だった。

 

 スパルトイの両手に握られた牙の刀は、使い手の意思に関係なく手放させられる。

 

 呪文名どおりに不意打ちで無手にされ、スパルトイは構わないとばかりにその爪爪牙尾で襲いかかった。

 

 生来備わった最強の武器は、死後とて変わらない。

 

 だが、魔法剣士と賢狼剣士は、この瞬間はスパルトイより一瞬先んじた。それが勝敗の分かれ目だった。

 

 ふたりの剣士が左右から同時に振るう鞘に収まった剣が、交差法として叩き込まれる。

 

 左右同時に叩きつけられる衝撃にスパルトイは、鞘剣に挟まれた背骨を打ち砕かれた。

 

 文字通りに崩れ落ちるスパルトイに対し、魔法剣士と賢狼剣士は、油断も容赦もなく鞘剣を叩き込んだ。

 

 いかに高位の竜司祭が死の瞬間、自らの遺骨を使って作った竜牙兵といえど、こうなってしまえばたまらない。

 

 粉々に砕き散らされたスパルトイは、ついにはその動きを止めて完全に沈黙した。

 

「……勝った、か?」

 

「……はい、動く気配はありません」

 

 魔法剣士の半信半疑な言葉に、賢狼剣士はその耳でたしかめて頷く。

 

「……勝ったぞ!」

 

 それを受けた魔法剣士は、鞘剣を掲げて宣言した。

 

 その様子に賢狼剣士は微笑み、銀髪魔法士もひと息つき、女神官は死者たちの鎮魂を地母神へと祈った。

 

「──はい、おめでとうございます、皆さん」

 

 そこへ聞こえるはずがない声が聞こえてきた。

 

 どこからと周囲を警戒する魔法剣士一党。しかし、その姿はどこにもない。

 

 それもそのはず。彼女は、たしかに死んだはずなのだ。

 

 だが、その最期をこの場に見届けた者は居ただろうか。

 

 迫り上がった床を見て、魔法剣士一党は疑問に思った。

 

 そこには、先ほどはたしかにあった滴る血がただの一滴も確認できなかったのだ。

 

 そのことに疑問を覚え、声の主の存在を警戒とともに探していると、不意に空中にピンク色の靄が集まっていく。

 

 その靄は、やがてヒトのカタチを成した。

 

 それは、その姿は──

 

「皆さんならやれる、と思っていましたが、まさか本当にやっていただけるとは思いませんでした」

 

 そう言って小悪魔的に微笑むのは、死んだと思われた依頼人──女子学者だった。

 

 死んだはずの依頼人の生存は、本来なら冒険者として喜ばしいことだ。

 

 しかし、それは、まともな状態であればの話だ。

 

 女子学者は、その様相を大きく変えていた。

 

 扇情的に肌が見えながらも、上品な衣装は学者というよりは、高級な娼婦のそれだ。

 

 それはまだいい。年頃の女の子がさまざまな事情から娼婦をしていることなど、この四方世界ではさして珍しい話ではないのだ。

 

 しかし、問題は普通のヒトにはあり得ないモノが生えていることだった。

 

 その背には、一対の蝙蝠のごとき黒い翼が生えており、その羽ばたきによって冒険者たちを高みから見下ろしている。

 

 さらにその尾骶骨付近には、先がハート型になっている尻尾が生えており、動いているのを見るとアクセサリーの類いでないことがわかる。

 

 その姿に該当する存在を、銀髪魔法士はその知識から導き出した。

 

「……夢魔(サキュバス)」

 

「はい、正解です」

 

 女子学者──夢魔は、微笑を浮かべて応じた。

 

 夢魔。それは、下級の魔神よりもさらに弱い魔神だ。

 

 だが、それはあくまで現実であればのこと。

 

 彼ら彼女らは、夢幻を操って異性の望む姿で籠絡し、虜にする存在だ。

 

「……俺たちを騙していたのか?」

 

「騙す? 私にそんなつもりはありませんよ。ここのアンデットたちを退治してほしかったのは本当です」

 

「それはなんのためにだ? 仮にも同じ陣営だろう?」

 

「う〜ん……そうですねぇ。あなたたちなら別にいいですね。私は、あなたたち人間を滅ぼしたい魔神王さまたちと違って、共生したいなぁと考えているんです。つまりは、混沌から離反した存在ですね」

 

 鞘から長剣を抜いた魔法剣士の問いに、夢魔は顎に指を当ててそんなふうに答えた。

 

「……それはなんでかしら? あなたたち祈らぬ者たちに、そんなメリットはないと思うのだけれど」

 

「はい、他のヒトたちはそうかもしれませんね。けれど、私たち夢魔はちょぉっと違うんです。私たちは、あなたたち、祈るものの見る夢、そこから得る精があってこそ存在できるので、言葉持つ者たちを滅ぼされるのは困っちゃうんですよね」

 

 銀髪魔法士が問うと、夢魔は呆れたように言う。

 

「だっていうのに、混沌のヒトたちは、秩序のヒトたちを滅ぼすって息巻いてますし、私たちを都合の良い性処理存在としか思ってませんし、そのくせたいした精は得られませんし、挙句に私たちの扱いは雑なんです。まあ、私たち夢魔は魔神界の小鬼程度なので仕方ないですが……それでも、もうやっていられるか〜って離反した一部の夢魔、そのひとりが私ってわけですね」

 

 今時世界滅亡とか、人類絶滅とか流行りませんよ、と夢魔は嘆息する。

 

「そんなことしようとしても、よくわからない力で反撃されるだけです。実際、いままでの魔神王さまたちは、逆に滅ぼされてますからね」

 

「そ、それで離反したん、ですか?」

 

 おどおどと女神官が訊くと、夢魔は臆面なく頷く。

 

「はい、そうです。私たち夢魔は、たいして強くないので下手につついて滅ぼされるくらいなら、媚び売って共生しちゃおうと思いました。ほら、娼婦っていう私たちにちょうどいい職業もありますし?」

 

「こんなふうに好みに合わせて姿も好きに変えられるからねー!」

 

「あ、あたしはそんなの嫌だけどさ! 仕方なくな、仕方なく!」

 

「でも、あまり乱暴なものは嫌だわ。怖いものね」

 

 夢魔は、ピンク色の長い髪の天真爛漫な美少女、ピンク色の髪を左右で結った美少女、母性的な美女へと姿を変えた。

 

「まあ、そういうわけであなたたちと戦ったりする気はありませんよ?」

 

 そう言って夢魔は、元の姿、といっていいかはわからないが女子学者の姿に戻る。

 

「なら、なぜこんな真似を?」

 

「うぅん、そうですねぇ……ここにマズいものがないかの確認をするため、ですかね。あんなにアンデットがたくさん居るのって気になりません? ほら、こういうなんてことないところから世界の滅亡とか始まっちゃいますし? 昔の死の迷宮みたいに」

 

 賢狼剣士が油断なく警戒しながら問えば、夢魔はそんなことをなんてことなく言った。

 

「あ、特に問題はないのであなたたちが持っていって構いませんよ? 報酬は、折半って約束でしたが、結果的に騙しちゃったお詫びってことで」

 

 夢魔は、そう言って宝箱を指し示した。

 

「……本当に敵対する気はないのか?」

 

「はい。もうそれなりの地位にありますし、ヒトの街は居心地もいいのでこれを手放してまで魔神王さまに味方する気はないですから」

 

 夢魔は、魔法剣士にそう返すとその身をピンク色の靄が包んでいく。

 

「あ、もし娼館を訪れたときは、たっぷりサービスしますね」

 

 消える瞬間、そんな爆弾を投下した。

 

「……行かないからな?」

 

 じぃっと見つめてくる女性陣に、なんとも言えないものを感じながら魔法剣士はそう返すのだった。

 

 

 

END

 




はい、女子学者はサキュバスでした。ちなみに危険度は、このすばのサキュバスくらいですのでほとんど無害です。

それではまた次回!

受付のお姉さんの外見のイメージは……

  • エノメ(不徳のギルド)
  • ルナ(このすば)
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