ゴブリンスレイヤー【魔法剣士の異聞録】   作:星屑の騎士

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採取依頼

 

 休日を挟んだ魔法剣士一党は、今朝も冒険者ギルドに集まっていた。

 

「その新しい装備、似合ってますね」

 

「そ、そうですか? ありがとうございます」

 

「……ええ、都の流行りも取り入れているんじゃない?」

 

「そうなんですか? あのヒトにも似合ってると言っていただけて……」

 

 女性陣は、女神官の新たな装備のことで盛り上がっていた。

 

「大将、やるじゃねェか」

 

「そんなんじゃないぞ。ただ、せっかくなら似合うのがいいと思っただけだ」

 

 拳闘侠客に茶化されて魔法剣士はそう言い、朝の依頼貼り出しが終わって始まった依頼争奪戦に参加しようと席を立ったときだった。

 

「──申し訳ありません。少しお時間よろしいですか?」

 

 受付のお姉さんが声をかけてきた。

 

「何かありましたか?」

 

「ふふ。あなたたちに指名依頼が来ているのですが、それについてギルドからもご説明しなければならないことがありまして」

 

 指名依頼と聞いてすぐに錬金魔術師のことが思い出された。

 

 だが、ただの採取依頼であろうそれにギルド側から何があるのか、魔法剣士は疑問に思いながらも受付へと向かった。

 

 受付のお姉さんについていき、改めて受付を挟んで対面する。

 

「ありがとうございます。では、まず指名依頼についてご説明させていただきますね」

 

 微笑を浮かべて受付のお姉さんが依頼内容を説明してくれた。

 

 依頼主はやはり錬金魔術師だった。最近なぜか手に入らなくなってきた薬苔の採取依頼だ。

 

「その薬苔なら行商人とかから買えそうなものですが……」

 

 魔法剣士の疑問に受付のお姉さんは頷く。

 

「はい。ですが最近は、入手が困難になっていまして……このままでは一部の薬が値上がりしてしまうかもしれません。ギルドも調査するか検討していたのですが……その前に動きがありました」

 

 そう言って受付のお姉さんは、新たにもう一枚の依頼書を取り出した。

 

「こちらは、この指名依頼のあとに持ち込まれた依頼なのですが、それが件の薬苔が自生する洞窟の近くの村からなんです」

 

 受付のお姉さんが言うには、薬苔が採れる洞窟に盗賊の類いが住み着いてしまったらしい。

 

 その盗賊たちは、薬苔を採りたいなら代わりに食物や酒、女を要求してきた。

 

 村の資金源である薬苔が採れず、要求に応えては増長させて次から何を求められるかわからず、かといって無視するのも報復が怖い。

 

 困り果てた村人は、村の若者を夜に密かに使いに出し、冒険者ギルドに依頼を出しに来たという。

 

「その村人は、いま街の出入り口で依頼を請けてくれる冒険者さんをお待ちしています。そこでギルドからの仲介になります。この盗賊団を壊滅させる依頼、そして指名の採取依頼、同時に請けてはみませんか?」

 

 採取依頼、討伐依頼、異なる依頼だが前者を達成するには後者を先に達成せねばならない。

 

 目標、目的地が偶然か宿命か一致しているゆえに受付のお姉さんは、魔法剣士の一党にこの話を持ってきたのだ。

 

「……俺たちは、たしかに五人になりましたがだいじょうぶですかね?」

 

「絶対とは言えませんが、私が記録し記憶している限りでは、あなたはふたりだったときにならず者を五人斃しています。今回の件も盗賊は、五人以上、十人未満とされています。あとは、あなたたちしだいでしょうね」

 

 つまり請けるか請けないか、成功するか失敗するかは自分たち次第、と魔法剣士は受付のお姉さんの話を正確に受け取る。

 

(骰は投げられた、か……)

 

 そんなものに自分や仲間の命は預けないが魔法剣士は沈思黙考する。

 

(少なくとも黒曜に任せられる討伐依頼だ。難しくない仕事はないが、等級に見合った難易度ではあるってことだろう。危険を冒すからこその冒険だが、安全性はある程度自分たちで確保できる)

 

 つまりは、やってみなければわからないということだ。

 

「……わかりました。どちらも請けます」

 

「ありがとうございます。では、盗賊団を討伐し薬苔の採取を終えましたら、依頼達成とします。もちろん、報酬は依頼ふたつ分お支払いしますし、盗賊団が持っているものは、あなたたちのものにして構いません。ああ、村から盗られたものがあればそちらは、村に返してくださいね? 言うまでもないとは思いますが……」

 

 最後のは、人格を評価したうえでの言葉だろうと判断し、魔法剣士はその信用を裏切らないように力強く頷く。

 

「はい、わかりました」

 

 自分も、仲間たちもその心配はないと魔法剣士は、行動で示すと誓う。

 

 それを微笑ましく見つめ、しっかり記憶した受付のお姉さんは、依頼受理の作業を終えた。

 

「では、よろしくお願いします。頑張ってくださいね」

 

「はい、いってきます」

 

 魔法剣士は、受付のお姉さんに見送られ、仲間たちが待つ席へと向かった。

 

 

 

 

 

       §

 

 

 

 

 

            

 

 仲間たちに依頼内容の説明をしたあと、装備や道具、糧秣などを整えた魔法剣士一党は、街の出入り口で待機しているという依頼主の下に向かった。

 

 そこで待っていた青年に、依頼を請けた冒険者であることを認識票を提示して名乗った。

 

 人のいい青年なのか、黒曜五人組相手に頭を下げて礼を言った。それだけ村の状況が切羽詰まっているだけかもしれないが。

 

 魔法剣士一党は、青年が乗ってきた馬車に乗車し村を目指した。

 

 お世辞にも乗り心地は良くなかったが、贅沢は言えまい。多少なりとも楽はさせてもらえているのだ。

 

 そして馬車で移動すること一日半ほどが経過した頃、目的の村に到着した。

 

 その村は、どこにでもあるようなありふれた農村だった。

 

「で、では、ご案内します」

 

 ここまで連れてきてくれた、青年が緊張した様子で声を潜めて言う。そんな場合ではないだろうに、どうにも類い稀な美少女の女神官、賢狼剣士、銀髪魔法士に緊張しているようだ。

 

 その様子に魔法剣士は呆れるが気持ちもわかる。田舎の村に引き籠っていては、彼女たちのような美しく可愛らしい少女に出会うことはまずないだろう。

 

 青年に案内されたのは、村では一番立派な家だった。

 

 そこには、半ば予想どおりに年老いた男──村長が出迎えてくれた。

 

「おおっ! 冒険者のかたがたですな! よくぞ来てくださった! 長旅ご苦労様です。まずはゆっくり休みながら話を聞いてくだされ」

 

 そう言って村長は感激したように迎え入れてくれた。どうも最初は、黒曜五人で不審がられたが女神官が農村などで親しまれる地母神に仕える者とあって警戒が緩んだようだ。

 

木製の椅子に魔法剣士が真ん中に、その左右を女神官、銀髪魔法士が座り、一番端の席には賢狼剣士と拳闘侠客が横並びに座り、机を挟んで村長と向かい合う。

 

「それで、さっそくだが話を聞かせてもらいたい」

 

 出された茶で喉を潤し、魔法剣士がそう切り出した。

 

「はい。始まりは、もうだいぶんと前のことですじゃ……」

 

 村長の話をまとめると、薬苔が採れる洞窟に盗賊団が住み着き、薬苔が採りたければ食物や酒、女を提供しろと要求されたらしい。断ったり期限に間に合わなければ殺すとも脅されているという。

 

 ギルドで聞いた話とほとんど変わりはない。

 

 だが、それを確認することが大事だ。依頼を請けた冒険者が来るまでに状況が変わっていてもおかしくはないのだから。

 

「なるほど……他に何か変わったことはあったか?」

 

「変わったことと申されましても……」

 

「なんでもいい。些細なことでもあったら教えてもらいたい」

 

「ふぅむ、そうですなぁ……ああ、そういえば。奴ら、狼だか猟犬だかを一匹連れていましたな」

 

 魔法剣士が問いを重ねると、村長は思い出したようにそう告げた。

 

「……それは重要なことだな」

 

 魔法剣士が難しい顔で呟く。

 

 狼だか猟犬だかを連れているということは、まず見張りに使っているのだろう。つまり下手に洞窟に近づいて姿や匂いに気づかれれば吠えられてしまい、盗賊たちに気づかれる。

 

「不意打ちか、最低でも気づかれずに接近したいんだがな」

 

「それでしたら、音だったらわたしがなんとかできると思いますよ?」

 

「……私も呪文があるわ」

 

「……ああ、たしかに沈黙の奇跡や呪文があったな。ならまずはそれだ」

 

「は、はい!」

 

「……わかったわ」

 

「あとは、狼だが猟犬だかの気を逸らせたらな……」

 

「それでしたら……村長。お酢はありますか?」

 

「お酢ですか? もちろんありますが……」

 

「……なるほど。嗅覚がいいなら刺激の強い匂いに弱いか」

 

 魔法剣士の思案に女神官、銀髪魔法士、賢狼剣士がそれぞれ提案し、それを採用していく。

 

 それから村長の家で休ませてもらって馬車移動の疲れが取れてから、村長に酢を譲ってもらい、薬苔の採取許可ももらった魔法剣士一党は、薬苔が自生し盗賊団が占拠した洞窟へと向かった。

 

 

 

 

 

       §

 

 

 

 

 

            

 

 件の洞窟は、村から一時間少々離れた場所にあった。

 

 木々に囲まれた拓けた場所にぽっかりと開いた黒い穴。

 

「村の奴ら、どうするかな?」

 

「あれだけ脅したんだ。今日明日にも持ってくんだろ」

 

「だな。だが、搾り取ったらどうすんだ?」

 

「そうなったらもう用済みだろ。ここを引き払って村の連中も皆殺しさ」

 

「そいつはいい。約束と違う! とか宣いながら絶望して死んでくのを見るのは、女抱くのとはまた違った快楽があるよな」

 

 見張りらしい男たちがゲタゲタと嗤う。

 

 その様子を茂みに隠れて窺う魔法剣士、女神官、賢狼剣士、銀髪魔法士、拳闘侠客は、洞窟の出入り口の左右に男がひとりずつ、そな足下に狼が一匹見張りについていた。

 

「武装した男ふたり、狼が一匹か。想定どおりだな」

 

 魔法剣士の言葉に一党も頷く。

 

「……音は私が消すわ」

 

「そこを俺が強襲する」

 

「わたしは、万が一に備えて回復の用意をしておきます」

 

「でしたら、私はおふたりを守っておきます」

 

「ならオレは投擲といくか」

 

 各々が各々の役割を確認し、顔を見合わせて頷き合うと行動に移る。

 

まずは、銀髪魔法士の手番だった。

 

「《ペルフェクティ(完全)……プラキドゥム(沈黙)……ドヌームン(命令)》」

 

新なる力ある言葉が発せられたのを最後に、周辺の音が消失した。

 

「……?……っ!」

 

「……っ!……!?」

 

 見張りの男たちも自分たちの声が聞こえなくなっていることに気づき、身振り手振りで慌てふためく。足下の狼も異常な様子に身を起こして吠えるが、当然それは音にならない。

 

 そこへ魔法剣士が飛び出した。

 

 〝沈黙〟の効果内なため茂みの揺れる音、地を駆ける足音も発せられず、男たちへと接近していく。

 

 それに真っ先に気づいたのは、狼だった。音がなくとも匂いで気づいたのだ。

 

 狼が駆け出し、魔法剣士へと飛びかかる──その直前、茂みから拳闘侠客は雑嚢から取り出した瓶の蓋を開け、そのまま狼の鼻面めがけて投げ放った。

 

 飛びかかる寸前だった狼は回避できず、その鼻面を瓶にしたたかに打たれ、中身がぶちまけられる。

 

 狼は、中に入っていた酢の刺激臭にのたうち回る。

 

 魔法剣士は、狼の横を通り過ぎて一番近い男に長剣を振るって斬りかかった。

 

「……っ!?」

 

 武器を抜く間もなく、盗賊のひとりが首を斬られ、血の泡で窒息しながら息絶えた。

 

 もうひとりの盗賊は、畜生が! といった様子で槍を構え、鋭い突きを放った。

 

 魔法剣士は、それを盾で受けて横に流し、盾と槍の柄を接触させたまま走ることで横薙ぎを阻み、肉薄すると逆撃とばかりに長剣を突き出した。

 

 喉を貫かれた盗賊も込み上げる己の血に溺れるようにして死んだ。

 

 魔法剣士は、長剣を捻りながら抜いてトドメを刺し、振り返る。

 

 鼻面周りの毛に酢が染みついたことで未だに悶絶する狼に飛びかかった魔法剣士は、体重をかけながら長剣を突き下ろして狼の首を上から下に突き刺した。

 

 さらに魔法剣士は、突き刺した長剣をぐりぐりと掻き回し、確実に息の根を止めた。

 

 狼が息絶えたことを確認すると、魔法剣士は念のために盗賊ふたりも長剣で突いて生死を確かめる。

 

 死んでいれば良し。生きてるなら殺す。魔法剣士は徹底的で、容赦がなかった。

 

 確実に盗賊ふたり、狼一匹の息の根を止めた魔法剣士は、茂みに隠れた女神官たちを手で合図して呼ぶ。

 

 〝沈黙〟の呪文の効力が消え、辺りに音が戻ってきた。

 

「だ、だいじょうぶですか? お怪我は?」

 

「ああ、問題ない」

 

「いちおう、私が確認しますね」

 

 女神官の心配に応え、賢狼剣士が手ずから体を確認してくれた。戦闘の高揚で痛みに鈍くなってることもあるからだ。

 

「……問題ありませんね。ひとまずお疲れ様でした」

 

「ああ。ありがとう」

 

 賢狼剣士に礼を返し、魔法剣士は右手の長剣に血振りをくれてやると状態を検める。

 

 血脂は拭えばいいが刃毀れはどうしようもない。これでは、あと斬れてひとりふたりだろう。

 

(どうしたものか……まだ六人は居ると考えてもまるで足りないぞ)

 

 一振りの剣では、五人と斬れないという。達人が刃筋を見極めて斬るならともかく、実戦では骨や鎧に当たるし、相手の武器や盾と打ち合うこともある。どれだけ気をつけても武器は摩耗するのだ。

 

 もちろん、魔法剣士には魔術があるし、銀髪魔法士も攻撃呪文はある。だが、やはり武器があるのとないのとではわけが違うのだ。

 

 まだ小剣も短剣もあるがゴブリン相手ならともかく、盗賊を相手するなら長物が欲しい。

 

 武器、と考えてなんとはなしに辺りを見ていた魔法剣士は、偶然かあるいは日頃の努力の賜物か。閃くものがあった。

 

 魔法剣士は、息絶えた盗賊──そのうちの最初に斬り殺した相手の死体の傍らに片膝をついてしゃがみ込む。

 

 抜く間を与えずに殺したことで鞘に収まったままの長剣を鞘ごと毟り取る。

 

 鞘を払えばそれなりに状態がいい。少なくとも血脂に汚れ、刃毀れした自分の長剣よりは。

 

 魔法剣士は、ふむと頷くとその長剣を鞘に収め、自らの腰の鞘を外し、代わりに奪った長剣を佩いた。

 

 もうひとりの盗賊の槍は、背中に背負い、元々持っていた自分の長剣は、あとひと振り保てばいいと使い捨てると決め、抜き身のまま右手に握った。

 

「もう……」

 

「……あら、合理的じゃない」

 

「死人は武器も防具も使いませんからね」

 

 地母神に仕える身としては止めるべきだが、命に関わることだからと嘆息するに留める女神官に対し、銀髪魔法士と賢狼剣士は理解を示す。

 

「よし、大将も手伝ってくれや」

 

「ああ、わかった」

 

 それから拳闘侠客と協力して盗賊ふたりと狼一匹の死体を茂みに放り捨てて隠し、女神官が短く鎮魂を祈ったあと、一党は洞窟に踏み入ることにした。

 

 隊列は魔法剣士が先頭に立ち、賢狼剣士、拳闘侠客と続き、真ん中に女神官、最後尾に銀髪魔法士が立つ。

 

 魔法剣士は、盾を腕に括って空手になっている左手に松明を握り、女神官が甲斐甲斐しく火打石を取り出して火をつけてくれたことに礼を言うと──

 

「……いくぞ」

 

 そう告げ、女神官が頷いたのを確認して一党は隊列を組んで洞窟内へと踏み込んだ。

 

 

 

END

 

 

 

            

 

 

 

 

 

 

 

 

 




短いですが今回はこの辺りで一旦終わりとなります。

あと関係ないですがブルアカのミカ、やっぱりかわいいですね。

それではまた!

受付のお姉さんの外見のイメージは……

  • エノメ(不徳のギルド)
  • ルナ(このすば)
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