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ありふれたはずのゴブリン退治をこなした魔法剣士と女神官だったが、そこで出会ったものは──
「
その名を叫んだのは、魔法剣士だったか女神官だったか。
それは愚鈍の代名詞。
しかし怪力だが鈍重。
なれど強靭。
鱗や岩で覆われてこそいないが、その身に負った多少の傷は即座に塞がる。
締まりのない馬鹿笑いを浮かべ、大樹のごとき腕に握られているのは、肉を引き裂いて突き刺すために無数の釘が打ち込まれた粗雑な棍棒。
それを見せつけるようにか、単に鈍重ゆえかゆっくりと持ち上げる。
「な、なんでトロルがここにっ!」
「わ、わかりません! と、とにかく逃げないと……っ!」
魔法剣士の疑問か苛立ちに女神官が泣きそうな声で言う。
トロルは、かの人喰鬼ほどではないが駆け出しの冒険者が、それも初めての冒険で相手するには難敵という点で変わりない。
(逃げたいのは山々だがな……!)
魔法剣士は内心そう思って視線を向けた先、唯一の退路である女神官が待機する入口はトロルの向こうだ。
つまり、斃すにしても逃げるにしてもひと当てするしかないということだ。
(やるしかないっ!)
魔法剣士は、決意しトロルを見据える。
獲物を前にして馬鹿笑いを浮かべているトロルに──
(勝手に嗤ってろ!)
内心そう吐き捨て、魔法剣士は声を張り上げる。
「やるぞ!」
「で、ですが……っ!」
「でないと死ぬ! いや、無理ならひとりで逃げろ!」
「っ、そんなことできませんっ! あなたを見捨ててわたしひとりだけ逃げるだなんてっ!」
「ならやるぞ!」
「は、はいっ! やり、ます!」
尻込みし目尻に涙を浮かべる女神官だったが、魔法剣士を見捨てられない、彼に死んで欲しくないという想いから涙を拭って錫杖を構えた。
トロルは、獲物を嬲るように嗤ってばかりで貴重な一瞬一瞬を失っている。
「よし、なら俺が合図をしたら〝聖光〟を頼む!」
「わ、わかりました!」
トロルの弱点は、炎か酸。
魔法剣士の手札にはどちらもないが、ひとつだけ通じるであろう呪文があった。
(上等だ! やってやる!)
魔法剣士は、トロルを真っ直ぐ見据える。
(俺は、今日、冒険をするっ!)
トロルは、ようやく獲物を仕留めようというのかまずは魔法剣士に向けて棍棒を振り上げる。
(落ち着け! 受けるな! あれの前では、鎧兜も盾も役に立たない!)
少なくとも自分にはまだ盾で受け止めるにも受け流すにも、技量も筋肉も足らない。
だが先ほど不意打ちでも躱すことはできた。
(よく見ろ、よく見ろ……地に足をつけて武器を振るうなら、只人とそう変わらない!)
魔法剣士は、トロルに意識を集中し、振り下ろされる棍棒に対して横に跳んで回避する。
衝撃で小さく地面が震動するが魔法剣士は、体勢を崩すことなく即座に次へ備える。
トロルは、棍棒を横薙ぎに振るった。
「っ……!」
魔法剣士は、地面に体を擦り付けるように滑り込んで棍棒をくぐり抜ける。
滑り込みの勢いのままトロルの股下をもくぐり、後ろを取った魔法剣士は、起き上がると振り返りの勢いでトロルの膝裏を斬りつけた。
(っ、硬いっ! それにやっぱりこんな小剣では、ゴブリンでもないとダメージは微々たるもんか!)
もし生き残ったら依頼内容に関係なく小剣以外の武器も装備するようにしようと、魔法剣士は決意する。
トロルについた小さな傷は、泡立つように癒着する。
まさに戦士には恐怖の光景だ。
しかし、僅かでも痛みに苛立ったトロルが魔法剣士を叩き潰そうと振り返った。
「……っ! いまだ、やれ!」
魔法剣士の鋭い指示にトロルを真正面から見た女神官は、下半身に生暖かい感触を覚え、羞恥に身じろぎしながらも錫杖を掲げた。
「《いと慈悲深き地母神よ、闇に迷えるわたしどもに、聖なる光をお恵みください》……!」
掲げた錫杖の先に聖なる光が灯り、太陽のごとく燦然と煌めく。
地母神の奇跡だ。
魔法剣士の背後から後光のごとく降り注ぐ光を、勢いよく振り返ったトロルは真正面から直視してしまい、視界が真っ白に塗り潰される。
トロルが怯んだことで稼げた貴重な一手。
それを無駄にはしまいと魔法剣士が動く。
「……!」
魔法剣士は、意識を集中し没入。
脳裏に刻まれた真に力ある言葉を引き出し、塗り潰し、以って世界を改竄する。
「《
魔法剣士の身に紫電が走り、右手に収束していく。
「《……
視界が潰れて出鱈目に棍棒を振り回すトロルに向け、稲妻が放たれた。
「
雷電竜の咆哮さながらの轟音とともに大気を沸騰させ、のたうち回る蛇のような軌跡を描く紫電が瞬く間にトロルに直撃する。
雷にその身を打たれたトロルは、血液が沸騰し、泡が弾けるように血肉が内側から爆ぜて飛び散り、全身を高温で焼け焦がせていく。
自慢の再生力を発揮すること叶わず、全身を奔り回る雷に棍棒を取り落としたトロルの上げる絶叫すらも雷鳴が呑み込み、血肉を沸騰させて泡沫のように弾け飛ばし、巨躯を焼き尽くし破壊していく。
全身が爛れ、傷は癒着することできずに焼かれ続ける。
それでもなお死なないトロルに、一切油断していなかった魔法剣士が追撃をかける。
「おっ、おおぉぉぉおおおっ!」
気合いの
これこそが剣の師から学んだ、魔法剣士が身につけた第一の必殺剣。
曰く、〝力の剣〟と称される技──大地斬だった。
その威力は、極めれば巨岩すら簡単に真っ二つにしてしまうほどの名に恥じぬ破壊力を持つ。
今度は、岩のごとき硬さを持つトロルの耐久力に阻まれることなく、魔法剣士の斬撃はその首を刎ねた。
宙を舞うトロルの首は、かろうじて意識があったものの迸る雷に体内からも焼かれ、遂には息絶えた。
全身を奔り回る雷に意味もなく手で掻き毟っていたトロルの体は崩れ落ちた。
崩れ落ちたトロルの死体は、黒焦げで起き上がる気配はない。
魔法剣士は、トロルが確実に死んだことを確かめると、死体を足で踏んで固定して引き抜いた小剣を掲げた。
「──勝った……勝ったぞ!」
「──か、勝った……? やった、やりました!」
その姿に女神官もその場で喝采を上げる。
魔法剣士は、女神官に歩み寄ると片手を掲げ、女神官もつられておずおずと白い手を掲げて応じた。
パンッと乾いた音とともにふたりの手が打ち合わされる。
「やったな!」
「は、はい! ……あっ!」
魔法剣士に笑顔で応じた女神官だったが、不意に何かに気づいたやつように声を上げる。
「どうかしたのか? まさかトロルが生きてるのか!?」
「あ、い、いえ、その、そうじゃなくて……っ! ちょっと……」
魔法剣士がバッとトロルの死体を振り返るが動く様子はない。
声を上げてしまった女神官は、口ごもってしどろもどろ。
恥じらうように身じろぎし、魔法剣士から若干距離を取った。
そう、女神官は下半身の生暖かさと湿り気を思い出したのだ。
「えっと……あっ、攫われた人たちの容態を確かめないと!」
「ああ、そうだったな」
露骨な話題逸らしだったが言われてみれば確かに急務だった。
もちろん、女神官も話を逸らすためだけでなく村娘たちを心配してのことだ。
ふたりは、改めて辺りを見回す。
只人のふたりには、暗闇は見通せないが、女神官の手にしたランタンが光源になっているため問題はない。
女神官は、ゴブリンに組み伏せられていた娘、少し離れたところに転がされた娘をそれぞれ看る。
専門ではないが地母神の神官だけあって最低限の知識はあった。
「……どうだ?」
「……は、はい、ふたりとも生きてます」
「そうか……」
念のため周囲を警戒していた魔法剣士は、裸身の娘たちから目を逸らして頷く。
やがて警戒を怠らなかった魔法剣士は、明るくなった空間で露わになったそれに気づいた。
奥に粗雑で腐った木で組まれた小さな扉があった。
魔法剣士は、慎重に近づくとその扉の向こうから物音が聞こえたことで無理矢理に引き剥がすように開けた。
そこには、三匹のゴブリンが居た。
先ほど殺した三匹に比べたら、小柄なゴブリンでもさらに小さい。
それは、攫われたふたりの村娘が産んだゴブリンの子供たちだった。
「こ、子供……?」
「……」
それを後ろから覗き込んで見た女神官は戸惑い、魔法剣士は目と心が冷める。
刃のような冷たさで以って見下ろす。
怪物といえど子供。
しかし、ひとつ間違えれば女神官もあの村娘姉妹のようにゴブリンの母となっていた。
そう考えたときには、魔法剣士は前に一歩踏み出した。
「子供も、殺すんですか……?」
女神官は自分の声が、驚くほどに冷めていたことに気づき、身を震わせた。
心が、気持ちが、現実を直面して麻痺してしまっていると、そうあって欲しいと願う。
「当たり前だ。こいつらは子供でも怪物。見逃せばそう遠くない未来でまたこんなことが起きる。見逃す理由がない」
魔法剣士は、そう返すと振り上げた白刃を躊躇わずに振り下ろした。
断末魔が上がり、ゴブリンの子供たちが斬り殺される。
女神官は、その絶叫にビクッと体を震わせ、悲しげにしながらもせめてと地母神に鎮魂を祈った。
こうしてゴブリン六匹、トロル一匹は皆殺しにされた。
END
というわけでトロル戦でした。魔法剣士がやたら強いですが、才能と努力の賜物ですね。
あと、真言呪文はルビ振りが大変ですね。これからも苦労しそうです。
そしてアンケートの結果、受付のお姉さんのイメージは、ルナさんになりました。ご協力いただけたかたがた、ありがとうございました!
引き続きの募集参加よろしくお願いします!
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受付のお姉さんの外見のイメージは……
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