ゴブリンスレイヤー【魔法剣士の異聞録】   作:星屑の騎士

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どうもです、今回はタイトルどおりの話になります。




初仕事、終えて

トロルとかち合うというアクシデントがありながらも、無事にゴブリンを討伐した魔法剣士と女神官は、救出した村娘ふたりを村へと送り届けて帰路についていた。

 

「……あの人たち、大丈夫でしょうか?」

 

「……さあな。こればかりはわからない」

 

 並んで歩く女神官の疑問に魔法剣士は、そう返すしかなかった。

 

 ゴブリンに攫われたあの村娘たちがどう幸せになるのか、ふたりにはわからない。

 

「だけど生きてれば次がある。生かしてやるのが俺たち冒険者の仕事だ」

 

 ゴブリンの慰みものにされたことを儚んで出家するか、自死を選ぶか、それともまた違う道を見つけるかはわからない。

 

 だが次があるのは生きてる者の特権だ。

 

 道中、ふたりの脇を荷車を引いた馬車が通った。

 

 荷車には、襤褸の外套を頭から被った女の子たちが複数人に乗っていた。

 

 魔法剣士がチラッと見れば、誰もが顔を俯かせ、死んだ目をしていた。

 

 それで魔法剣士には、彼女たちがゴブリンの慰み者にされた者たちだと悟った。

 

 もしかしたら、女神官もあんなふうになっていたかもしれないと考えると、ほんとに勝つことができてよかったなと、魔法剣士は自分たちと同い年くらいの黒髪の女の子を見て思う。

 

 それにこれは、よくある話だ。

 

 ゴブリンどもによって村が襲われ、娘が攫われたことも。

 

 新米の冒険者たちが、初めての冒険としてゴブリン退治に赴くことも。

 

 それが成功することも、失敗することも。

 

 ゴブリンの巣穴から、冒険者によって娘たちが救出されたことも。

 

 助け出された娘たちが、ゴブリンの慰み者にされたことを儚んで神殿に入ることも。

 

 何もかもが、この世界では日常茶飯な、よくある話だ。

 

 女神官には、よくわからない。

 

 あのような人の一生を破壊してしまうような事件が、本当によくあることなのか。

 

 だとすれば──

 

「わたしは……地母神さまを信じ続けられるのでしょうか?」

 

「……わからないな。だが、わからないからこそ信じて進むしかないんじゃないか? 結局、答えなんて簡単には出ないもんだ」

 

「そういうものですか?」

 

「ああ、きっとな」

 

 暗い雰囲気を払拭するように明るく力強く言う魔法剣士に、女神官は強張っていた表情を柔らかく緩めて微笑む。

 

「そうですね……ならわたしは、これからも冒険者を続けようと思います」

 

「そうか……ならこれからもよろしくってことでいいか? なんか怖がらせたみたいだが……」

 

「え、い、いえ! そんなことはありません! あなたのことが怖かったわけではなく、自分自身にというか……とにかくあなたに対してではないです!」

 

 魔法剣士の言葉に女神官は、慌ててそう返した。

 

 実際、女神官はあの現実味ない現実を前にして自分の心が冷めたことに恐怖したのだ。

 

 魔法剣士が子供のゴブリンを手にかけたことも納得している。

 

「そうか……しかし、あれだな。いろいろ反省点や考えないとならないことができたな」

 

 魔法剣士は、先の冒険を振り返って言う。

 

 ゴブリン退治は、冒険ではないがトロルとかち合い、挑んだのは間違いなく冒険だった。

 

(盾はいいが片手が塞がるのがよくない。取手を外してもらって腕に括り付ければ、盾を装備したまま片手が空く。そうすれば武器や松明を持てるな)

 

 魔法剣士は、内心で自省する。

 

(それに依頼に合わせて装備を固めるのも考えものだ。小剣しか武器がなかったから、トロルに余計に苦戦したしな。剣も大小装備して使い分ければ不足の事態を減らせる)

 

 そこまで考えて魔法剣士は、空気を変えるように言う。

 

「まあ、駆け出しがトロルにかち合って生き残ったうえに、討伐までしたんだ。確かに陰鬱なことはあったが、そこは誇ってもいいよな」

 

「あ、それはわたしも思いました」

 

 魔法剣士の言葉に女神官は、いま思い当たったとばかりな表情で頷く。

 

 これもまた勝っても負けても生きてるからこその次。

 

 ふたりは、話し合ってるうちに次第と気分が晴れていき、ようやく実感が湧いてくる。

 

「……俺たち、勝ったんだよな」

 

「はい……勝ちましたね」

 

「…………」

 

「…………」

 

「やったな!」

 

「はい、はい!」

 

 考えないとならないことは沢山ある。

 

 熟練者から見ればまだまだだっただろう。

 

 だが、自分たちの冒険だ。

 

 誰かが賢しげに何を言おうが関係ない。

 

 勝ったこと、生き残ったこと、いろいろな感慨を胸にふたりは興奮とともに喜び合う。

 

 女神官は、下半身の生暖かさや湿り気もあって恥ずかしかったが、あの陰惨な怪物の領域からの生還に嬉しさを覚える。

 

 だからふたりとも、改めてもっと強くなろうと決意する。

 

 それは体だけでなく心もであり、自分のためだけでなく相手のためでもあった。

 

 お互いがお互いのためにも決意を新たにし、冒険の成功に喜び合うところを通りがかった通行人たちが微笑ましげに、あるいは羨ましげに見ていた。

 

 魔法剣士と女神官は、それに気づくともう街道近かったことに恥ずかしげに身を縮こませ、片や顔を逸らし、片や俯いて街道を行き、西の辺境の街を目指すのだった。

 

 

 

 

 

       §

 

 

 

 

 

            

 

 

 

 

 昼過ぎに辺境の街に戻ってきた魔法剣士と女神官は、疲労感と充足感とともにその足で街の入口にある冒険者ギルドに向かった。

 

 自在扉を開けるとベルが鳴り、微睡んだ空気感ながら、ずいぶんと久しぶりに感じる人の営みの温かさがある雰囲気に帰ってきたことを実感する。

 

 僅かな時間ながらそう感じるほどに怪物の領域というのは、心身に負担をかけたのだ。

 

 だが、依頼以上の仕事──文字どおりだ──をした魔法剣士と女神官は、武具と防具に傷や汚れがありながらも堂々と自信や力強さに満ちた表情、姿勢、足取りでギルドのロビーを進む。

 

 真っ直ぐ受付に向かうとそこには、顔見知りの受付のお姉さんがカウンターの向こうに座していた。

 

 魔法剣士は、進行方向にちょうどあった受付のお姉さんの下に向かう。

 

「ようこそ、冒険者ギルドへ。本日は、どのようなご用件でしょうか」

 

「依頼の報告がしたい」

 

 微笑を浮かべる受付のお姉さんに魔法剣士は、端的に言った。

 

 受付のお姉さんは、無事に帰ってきたふたりに微笑を浮かべて「かしこまりました」と言うと尖筆と書類を取り出した。

 

「どうぞ」

 

 魔法剣士は、促されるままに冒険であったことをありのままに伝えた。

 

 依頼人の居る村に立ち寄って情報を収集したことに始まり、小休止をしてから冒険に挑んだこと。

 

 洞窟にゴブリンを二匹、一匹の順番で殺したこと。

 

 ゴブリン三匹を仕留めたと思ったらトロルが居たこと。

 

 トロルをふたりで協力して殺したこと。

 

 ゴブリンの子供を三匹殺し、救出した姉妹は村に送り届けたこと。

 

 魔法剣士は、女神官とも記憶を照らし合わせながら虚飾も何もなく、ありのままの事実を伝えた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 洞窟にトロルが居たのですか?」

 

 それに魔法剣士が頷き返せば受付のお姉さんは、信じられないといった表情を浮かべる。

 

「トロルが居たこともですが……そのトロルを新人でありながら倒しただなんて……」

 

 チラリと受付のお姉さんが同期の監督官に視線を配れば、監督官は頷く。

 

「至高神に誓っていまの話は全部ほんとだよ」

 

 細い鎖に通した天秤と剣の聖印を握って監督官は断言した。

 

 どうやら報告の途中から〝看破〟の奇跡を使っていたようだ。

 

 この奇跡の加護の下では、あらゆる嘘が通じない。

 

 つまり魔法剣士の話が嘘偽りないと神によって証明されているのだ。

 

「申し訳ありません。まさかトロルが居ただなんて。依頼に不備があったのは、こちらのミスです」

 

 尖筆を走らせていた受付のお姉さんがそう言って謝罪する。

 

 監督官も頭を下げていた。

 

「申し訳ありませんでした」

 

 ただでさえ新人のゴブリン退治は危険だというのに、依頼内容が正確ではなかったなど冒険者ギルドとしてあっではならないことだ。

 

 魔法剣士と女神官は、顔を見合わせるが頷き合い、向き直ると言う。

 

「気にしなくていいです。トロルは、洞窟からまず出てこないでしょうし、村人も知らなかったんでしょう」

 

「は、はい。その、わたしたちは大丈夫というか、無事に生きて帰って来れたのであまり気にしないでください」

 

 受付のお姉さんたちの謝罪に魔法剣士と女神官は、そう返した。

 

 トロルは、陽の光を浴びると岩になると言われているためまず日中には出てこない。

 

 仮にトロルを見ても村人には、ホブゴブリンと区別がつかなかっただろう。

 

 そもそも難易度はもちろん違うがトロルの存在に拘らず、ゴブリン退治といった時点で新人冒険者には命懸けであることに変わりない。

 

 これは、謂わば不幸な事故だった。

 

 だが、落ち度があったのは事実。

 

 だからこそ魔法剣士と女神官の対応は、ギルド職員の立場から見れば好印象だった。

 

 ましていまだに神の奇跡の下であり、そこに嘘がないとわかればなおさらだ。

 

 こういった小さな立ち振る舞いが冒険者として上へといける素質のひとつだ。

 

 ただ強いだけでは、昇格できないという理由がここにある。

 

「では、先輩──職員が嘘偽りなしと証明した以上、この場合はギルド規定に従って報酬の増額になりますね」

 

 と、受付のお姉さんが尖筆を動かしていた手を止めて微笑を浮かべてそう言った。

 

「後日、細かな手続きなどが終わってからトロルの討伐報酬をギルド側からお支払いしますわね」

 

 そう付け加えると受付のお姉さんは、監督官に視線を向けた。

 

 監督官は、問題ないと頷き返した。

 

 ギルド長に掛け合う必要はあるが、間違いなく通るだろうし、せめてもの償いに認可を通すために自分も協力するつもりだ。

 

「ありがとうございます」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 魔法剣士と女神官は、そう言って小さく頭を下げた。

 

 同僚の監督官の肯定を確認した受付のお姉さんは、魔法剣士たちに微笑を向ける。

 

「では、先にゴブリン退治の報酬をお支払いいたします。等分でよろしいですか?」

 

「はい」

 

 魔法剣士が頷き返すと受付のお姉さんは、秤を使って報酬をきっちり等分にして小袋に入れて手渡す。

 

「はい、お疲れ様でした。今後のご活躍を期待していますね」

 

「「ありがとうございました」」

 

 小袋を受け取った魔法剣士と女神官は、口を揃えてそう言ってもう一度頭を下げるとカウンターをあとにした。

 

 受付のお姉さんと監督官は、その背中を見送るとホッとひと息つき、早速ギルド長に掛け合いに向かうのだった。

 

「……やったな」

 

「……はい」

 

 そう言葉を交わし、魔法剣士と女神官は笑顔を浮かべる。

 

 報告を終え、認められ、達成感は実感となってふたりの胸中を改めて満たした。

 

「これからどう、しますか?」

 

「せっかくだから少し休んで夜にでも小さな祝杯はどうだ?」

 

 女神官の問いに魔法剣士は、少ないが確かな成果の証であるゴブリン退治の報酬が入った小袋を掌中で弄びながらそう言った。

 

「あ、はい。賛成です。それならまたあとで」

 

「ああ、またあとでな」

 

 微笑を浮かべた女神官とギルドの二階に続く階段前で別れ、それぞれの寝床に向かった。

 

 それからしっかりと寝たあと、夜も更けて仕事帰りの冒険者たちが溢れたギルドに併設された酒場、その隅の一角に魔法剣士と女神官の姿はあった。

 

 魔法剣士は、パンとフリッテッラの盛り合わせ一人前に林檎酒、女神官は食が細いのか、神官らしく清貧なのかパンとスープに薄めた葡萄酒をそれぞれ頼んだ。

 

「はーい! かしこまりましたー!」

 

 注文を受けた獣人給仕は、快活に応じて厨房へと向かった。

 

 魔法剣士と女神官は、料理が来るまでの間、冒険者たちで賑わう酒場をなんとなく眺めた。

 

 冒険者たちは、冒険の成功を祝いながらあれが良かった、これはダメだったと口々に語り合いながら大いに盛り上がっている。

 

 冒険中には決して口にしないことだ。誰だって生死がかかっているときに喧嘩などしたくない。

 

 だから冒険が終わったあとにこうして騒ぎながら言い合うのだ。

 

 そうすることで死んだ仲間を弔うことにもなるのだろう。

 

 そんな熱気ある喧騒を眺めながら魔法剣士と女神官は、獣人給仕が運んできた料理を前に杯を手にする。

 

「初めての冒険の成功に」

 

「わ、わたしたちの今後に」

 

 乾杯、と言葉を重ねて静かに杯を打ちつけ合う。

 

 杯を呷り、酒精が喉を通り過ぎた。

 

 男性と初めて一緒に飲酒する女神官は、恥ずかしそうだったが同時に楽しそうだった。

 

「……ふぅ、改めてお疲れ」

 

「んっ……はい、お疲れさまでした」

 

 ひと息つき、お互いにねぎらい合うと微笑を交わし、料理に手をつけていく。

 

「ああ、生き返るなぁ」

 

「ふふふ。そうですね」

 

 料理に舌鼓を打ったふたりは、酒の肴にと周りの冒険者たちに倣って、今日の冒険について興奮冷めやらないままにいろいろと話した。

 

「細かな気遣いは助かった」

 

「ま、守ってくれて凄い頼もしかったです」

 

「あの聖光はさすがだったな」

 

「いえ、そんな……あなたの魔術もすごかったです。わたし、魔術って初めて見ましたけど、かっこよかったです」

 

「そうか? ありがとう。俺も奇跡は、あまり見たことがなかったが、祈ってあれだけのことを起こすなんてすごいな」

 

「い、いえ、そんな……すごいのは、わたしではなく地母神さまでして」

 

 よかったところから始まり、悪かったところ、改善できそうなところ、今後の課題など、駆け出しにありがちな未熟さがありながらもお互いに先を見据えて会話を交わす。

 

「あ、それと指示のときに砕けた口調になってましたが……もしかして?」

 

「……ああ。あれが素だな。女の子にいきなり馴れ馴れしくするのはな」

 

 はたと思い当たった女神官が切り出せば、魔法剣士は若干気恥ずかしげにそう返した。

 

 知識神の文庫で歳上の女性に囲まれて育った魔法剣士は、自然と女性に対して柔らかく接するようになっていた。

 

「な、ならこれからは楽に接してください。一緒に冒険者をやっていくんですし」

 

「そうか? ──ならそうさせてもらおう」

 

 女神官の申し出に魔法剣士は、頷くと微笑を浮かべた。

 

「改めてこれからもよろしくな」

 

「はい! こちらこそよろしくお願いします!」

 

 先ほどは交わせなかった言葉を今度こそふたりは交わした。

 

 魔法剣士と女神官が固定の一党を組んだ瞬間だった。

 

 それからもふたりは、時間を忘れて話し合った。

 

 こうしてふたりのまだまだ始まったばかりの冒険、その最初のひとつは終わりを迎えるのだった。

 

 

 

 

END




これで初仕事は終わりです。行って帰ってくるまでが冒険ですからね。

改めて魔法剣士くんと女神官ちゃんは、正式な一党を組むことになりました。まだ一党というよりはコンビですが、いい組み合わせかなと思います。いろいろ連携の幅もありそうですしね。

↓ご協力よろしくお願いします!

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=320477&uid=21593

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=320269&uid=21593

受付のお姉さんの外見のイメージは……

  • エノメ(不徳のギルド)
  • ルナ(このすば)
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