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冒険者ギルドをあとにした魔法剣士と女神官は、地図に従って依頼人の待っている場所へと向かった。
ふたりがやって来たのは、辺境の街でも外れのほうにある拓けた場所だ。
外れとはいっても現状であり、開拓されていけば街中になっていくことだろう。
辺境の街では、こういう立地も珍しくはなく、こういう場所に居を構えることも珍しくない。
先物買いというやつだ。
魔法剣士と女神官は、ここまで来たら地図を見ないでもわかりやすい、目印さながらに荷物が積まれた場所に向かった。
「すまない。依頼を請けた冒険者だが……」
「──ああ、来たか。……白磁か」
魔法剣士が声をかけた男性は、ふたりの認識票を見て含むような呟きを漏らす。
「……何か問題でも?」
「いや、掃除だ荷物運びだといった仕事は、白磁か黒曜ぐらいしか引き請けちゃくれないだろ。荷物を持ち逃げせず、仕事をちゃんとやってくれたらいいさ。神官が居るならまずその心配もないだろうしな」
魔法剣士の言葉に男は、そう言って肩を竦めた。
女神官は、魔法剣士を馬鹿にされて少しむっとしたが声に出すことはしない。
駆け出しの冒険者は、無頼の輩と大差はなく、まだ信用はなく信用を積み上げている段階。
こういった扱いも珍しくはない。
やることをやればいい、そうと決まれば魔法剣士と女神官は早速動き出した。
まずは、女神官がメインとなって掃除を始め、魔法剣士も彼女の指示に従って手伝っていく。
女神官の仕事は、神殿で慣れているとだけあって丁寧かつ素早く、指示も下の子たちで経験があるのか魔法剣士も動きやすく、依頼人の男が思っていたよりも仕事が早い。
数時間をかけて掃除を終えたふたりは、一旦外に出ると水袋を呷って喉を潤した。
「……はぁ。さて、ここからは俺がメインにやるから、おまえは軽いやつを頼むな」
「ふぅ……はい、任せてください」
魔法剣士の言葉に女神官が微笑を浮かべて頷く。
「よし、ならさっさとやってもらおうか」
積まれた荷物に向き直り、依頼人の男が監督するなか、魔法剣士と女神官が行動する──そのときだった。
ザッと荒々しい足音が複数響き渡った。
そちらに視線を向ければ粗末な服を着た、複数の男たちが魔法剣士たちを半円状に取り囲むようにして迫ってきていた。
「な、なんだおまえたちはっ!?」
剣呑な雰囲気に依頼人の男は、顔を引き攣らせ、怯えを滲ませながらも声を張り上げた。
「──斥候の情報どおりだな。大層な荷物をこれみよがしに野ざらしにしやがって。盗んでくださいって言ってるようなもんだ。自分のバカさ加減を恨みな」
一番大柄な男がそう言って陰惨な笑みを浮かべる。
「なっ、なんだとっ! こんな奴らを野放しにしてっ、街の衛兵は何をしているんだ!」
依頼人の男は悪態をつくが、いちいち浮浪者の類いを全員取り締まってなどいられないのだろう。
この手の輩は、裏路地に入ればいくらだって居るのだ。
男たちは、体格のいい破落戸に引き入られた
(……数は五。リーダーの破落戸が小剣、他はナイフだな。あまりいい品ってわけじゃないが、個々の強さはゴブリンなんて問題にもならないな)
魔法剣士は、ゴブリンやトロルといった怪物と相対した経験から、破落戸やゴミ漁りを前にしても動揺はない。
かといって油断や慢心の精霊とは無縁だ。
もちろん、緊張はあるがそれは動けなくなるようなものではなく、冷静に状況を見据える冒険者には必須な心構えだ。
女神官は、魔法剣士よりも緊張していたが彼の背に守られて後ろに下がって位置取りを調整するように視線で指示され、積まれた荷を背にして距離を取った。
「ん? おいおい、いい女も居るじゃねぇか! 肉付きは薄いがそういうのも悪くねぇ! 最近は女日照りが続いてたからなぁ! 荷のついでに俺らがもらってやるよ!」
リーダーの破落戸が女神官に気づいて醜い欲望を隠さずに言う。
周りのゴミ漁りたちも口々に下世話な言葉で囃し立てる。
「……っ」
女神官は、怯えた表情を浮かべるがゴブリンやトロルから守ってくれた魔法剣士の頼もしい背中を見て、気を落ち着かせようと努力しながらぎゅっと錫杖を握って備える。
(くっ、どうすればいい! 荷を奪われるのか!? 白磁ではどうにもならん──いや、そもそもこいつらは掃除と荷運びの依頼で来た冒険者だ。所詮白磁、このまま逃げてもおかしくはない! 何か、何か手はないか!?)
依頼人の男は、内心焦燥に駆られていた。
信用ない白磁等級の冒険者たちは、目の前の破落戸やゴミ漁りとそう変わらない。
駆け出しの冒険者が冒険に失敗し、この手の輩に身を窶すことだって珍しくないのだ。
だいたいがこの事態への対象など依頼内容にはないこと。
仮に逃げても責めようがない。
しかし、依頼人の男の考えを裏切るように魔法剣士が女神官のさらに前に──依頼人の男の前にまで進み出た。
腰を落として新たな武装たる長剣を抜き、持ち手を外して左腕に括った円盾とともに構え、破落戸たちを鋭く睨む。
「なっ、坊主っ!? な、何を……?」
「仕事さ。俺たちの請けた依頼は、掃除と荷運び。なら、それを完遂するためには、荷物を持ってかれるわけにはいかないからな」
魔法剣士の言葉を聞いて女神官は微笑を浮かべ、依頼人の男は呆然とその背中を見つめている。
「それに俺の大切な仲間にまで手を伸ばそうっていうんだ。引く理由が何ひとつとしてない!」
その力強いセリフに女神官は頬を赤らめた。
「おいおい、正義の味方か英雄気取りか? んっなごっこ遊びならやめときな。怪我するぜ?」
「嫌なら帰ってママのおっぱいでも吸ってな!」
「そうそう! 助けてママ〜ってな! 後ろの女と荷物を置いて逃げれば命だけは助けてやるぜ!」
「おまえたちこそ、上等な悪役気取りか? 笑わせるな。せいぜいが小悪党だろう」
野卑な罵声を飛ばす破落戸たちに魔法剣士は、そう言うとなかなかに堂に入った構えで長剣と円盾を掲げた。
「御託はいいからさっさとかかってこい! それともビビってんのか!」
「……言ったな! 後悔させてやる! おいっ、やっちまいな! 殺すなよ? ボコって動けなくなったところで、目の前であの女を犯してやれ!」
魔法剣士の啖呵に、こめかみに青筋を浮かべた破落戸がゴミ漁りたちに号令をかけた。
半円状の前方左右から、それぞれふたりずつが粗末な武器を手に同時に向かってくる。
「荷物の後ろに隠れてろ!」
「あ、ああっ! た、頼んだぞ!」
魔法剣士の指示に依頼人の男が女神官のさらに後ろ、積み上げられた荷物に身を隠した。
魔法剣士は、背嚢から雑嚢に変えたそれに、盾の持ち手を外しで空手になった左手を入れて蜘蛛の巣の束を取り出す。
「《
真に力ある言葉によって膨れ上がった蜘蛛の巣は、魔法剣士から見て左側のゴミ漁りふたりへと絡みついた。
「な、なんだこれっ!?」
「ま、まさか魔法かっ!?」
粘糸が全身に絡みつき、お互いの体が邪魔して抜け出せず、踠けば踠くほどに身動きが取れなくなっていく。
これに驚き、躊躇いが生まれた右側のゴミ漁りたちに魔法剣士は、逆に決断的に踏み込んだ。
「っ!?」
慌てて粗末な武器を構えたゴミ漁りだが、魔法剣士が振るった長剣を受け止められずに刃が折れ、その身を斬られて鮮血が噴き出した。
「がっ!?」
喉を斬られて血の泡を噴き、自らの血で溺れながら倒れ伏すゴミ漁り。
「や、野郎っ!」
残ったゴミ漁りがハッとなり、仲間を殺された恐怖か怒りか粗末な武器を構えて襲いかかる。
魔法剣士は、突き刺すように振り下ろされた粗末な武器の切っ先を円盾を掲げて受け止めた。
ゴミ漁りが押し込もうと力を込めるが鍛えかたが違い、魔法剣士はビクともしない。
魔法剣士は、右足を振り上げてその爪先をゴミ漁りの股間に叩き込んだ。
「〜〜〜〜〜〜っ!?」
悲鳴なき悲鳴を上げ、武器を手放して股間を両手で押さえながら倒れ伏すゴミ漁り。
柔らかいモノを潰す感触に顔を顰めた魔法剣士は、長剣を振り払って悶絶するゴミ漁りの首筋を斬り裂いた。
動脈を斬られて血を噴き出しながら絶滅するゴミ漁りを見下ろし、魔法剣士は残った破落戸に視線を移した。
破落戸は、仲間が殺されているなかでそれを囮に声もなく魔法剣士に斬りかかる。
所詮利用してるだけで仲間ではなかったのだろう。
破落戸は、勝ちを確信してほくそ笑む。
だが、それが魔法剣士との違い。
破落戸たちは、群れていても徒党ではなかった。
対する魔法剣士は、ひとりではないのだ。
「光!」
「はいっ! 《いと慈悲深き地母神よ、闇に迷えるわたしどもに、聖なる光をお恵みください》……!」
かくして〝聖光〟の奇跡が齎される。
「ぐあっ!? 目がっ、目がぁっ!?」
予期しないことに女神官が掲げる錫杖を直視してしまった破落戸は、強い光に目を潰されてたたらを踏み、隙ができた相手に魔法剣士が踏み込んだ。
破落戸を間合いに捉えた魔法剣士の長剣が突き出された。
「げぅっ……が、ぁっ……!」
喉を貫かれた破落戸は、血の泡に溺れながらも苦し紛れに長剣の刃を掴もうとするが、魔法剣士は素早く長剣を引いて抜き取った。
破落戸は、喉から血を噴き出してよろめき、力なく倒れ伏した。
光に潰された目は、二度と開くことはなく、最期の光景は真っ白で、やがて転じて真っ暗になる。
魔法剣士は、それを見届けると残ったゴミ漁りふたりに近づく。
粘糸に絡みつかれて身動きを封じられ、地面に転がっているゴミ漁りたちは、ボスや仲間が死んだことを見て取ると引き攣った、媚びたような笑みを浮かべる。
「た、頼む助けてくれ! お、俺らはボスに無理矢理やらされてたんだ!」
「み、見逃してくれたらあんたらの前には二度と現れない! だから許してくれ!」
あっさりとボスや仲間を裏切って命乞いをするゴミ漁りふたり。
それを見下ろす魔法剣士は言う。
「──仲間を裏切るような輩の言葉に、説得力があると思うか?」
その言葉にゴミ漁りたちは声なき悲鳴を上げ、表情を引き攣らせる。
まさにそのとおりであり、この手の輩は逆恨みから必ず仕返しにやってくる。
だから──
「後顧の憂いは断っておく」
魔法剣士は、長剣を振り上げると二回突き出し、ゴミ漁りふたりの首を突き刺して殺した。
それを見た女神官は、初めての人死を目の当たりにして青ざめながらも地母神へ祈りを捧げた。
それから魔法剣士は、全員の死亡を確認し、他に仲間が潜んでいないことを確かめてから衛兵を呼んだ。
衛兵たちは、破落戸たちを始末してくれたことに感謝し、死体の後片付けをしてくれた。
それから少しの休憩を挟み、改めて魔法剣士と女神官は、片付いた部屋に荷物を運び、依頼人の男が指示する配置に並べ置いていく。
家具だのなんだのと重たいものもあるが、魔法剣士も伊達に鍛えているわけではない。
予想外なことはあったが夕暮れ時に依頼を終えた魔法剣士と女神官は、依頼人から依達成の印をもらい、帰ろうとしたが──
「……ありがとよ。それとすまなかったな。態度が悪くてよ。あんたたちみたいな白磁も居るんだな」
と、依頼人の男がバツ悪そうに、だが見直したといった表情でそう言った。
「俺たちは、自分の仕事をしただけさ」
「そうか。また何かあったらあんたたちに頼ませてもらうよ」
「そのときには、白磁じゃないかもしれないぞ?」
「ははっ、かもな。いい値を払ってやるよ」
「そのときは、よろしくお願いします」
魔法剣士、女神官がそれぞれ依頼人の男に応えたあと、ふたりはその場をあとにした。
夕暮れに照らされて伸びる影を眺めながら肩を並べて歩く魔法剣士と女神官は、しばし無言だったふたりだが、不意に女神官が口を開く。
「あの、その……大丈夫、ですか?」
「……何がだ?」
「その、つらそう、ですから……」
女神官が気遣うようにそう言った。
そう、魔法剣士は、ゴブリンやトロルを斬ってはいる。
だが、それはまだ怪物だった。
しかし、今回は、破落戸やゴミ漁りとはいえ同じ只人を殺したのだ。
魔法剣士の様子からしても女神官は心配だった。
「……そんなにわかりやすかったか?」
「えっと、その……は、はい」
「そうか……」
そこでようやく固い表情を緩め、微笑を浮かべた魔法剣士。
「……情けない話だし、身勝手な話だよな。同じ命、同じ殺しなのに怪物は大丈夫で、人間は……なんて」
魔法剣士は、いまだに破落戸たちの命を斬った感触が残っている気がする右手──微細に震える右手を見ながら苦笑する。
肉を、骨を断つ感触。
断末魔。
恨みがましい表情。
手に、耳に、目に残っている。
「……はい。で、でもそれは、わたしや依頼人のかたを守るため、ですよね?」
そう言って女神官は、魔法剣士の震える右手をそっと握った。
「だから……あなただけのせいじゃありません。もし、背負うならそれは、わたしも一緒に背負うべきです。だってわたしたち……一党じゃないですか」
「……ああ、そうか。そうだな」
魔法剣士は、ようやく納得がいった。
確かに人を殺めたことは事実。
だが、逆に自分や女神官、依頼人が殺されていたかもしれないのだ。
それから守ったと考えれば怪物とならず者、この命を奪うことになんの違いがあるだろう。
もちろん、まだ人の命を奪ったことを割り切れたわけではない。
また思い悩むこともあるかもしれない。
だが、魔法剣士はもう躊躇わない。
大切なものを守ることと敵を鏖殺することはイコールだ。
魔法剣士は、同じように震える女神官の手を握り返す。
「ありがとう。もう大丈夫だ。俺は、これからも冒険者を続けるよ」
「……はい。わたしも一緒ですから」
「ああ」
それは、色々な意味がある〝一緒〟だった。
この笑顔を、ぬくもりを失わないでよかった。
魔法剣士は、女神官の存在が自分の冷たくなった表情を、手を、心を温めて溶かしてくれた気がした。
「よし、報告して飯にするか」
「はい!」
いつの間にか冒険者ギルドまで戻ってきたふたりは、頷き合うと自在扉をくぐるのだった。
「──あっ! 言い忘れていました」
その直前、女神官が思い出したようにそう言って振り返った。
「守ってくれてありがとうございました!」
夕焼けに照らされた金髪をキラキラと靡かせた、女神官の笑顔に魔法剣士は、微笑を浮かべた。
「ああ、どういたしまして」
そう返し、今度こそふたりは前へと踏み出したのだった。
END
今回も依頼内容どおりにならない魔法剣士くんと女神官ちゃんの話でしたが、いかがでしたでしょうか?予想できたかたもいらっしゃったでしょうね。ただの掃除や荷運びがそうそう面白く書けるはずがないと。
たぶん、魔法剣士くんが英雄の卵みたいなのだからこうして想定外なことが起こされるんだと思いますね。四方世界を見守る神々も諸手を挙げて楽しんでいることでしょう。
結果、人死にに耐性ができましたからね。原作と違って魔法剣士くんについてくる女神官ちゃんは、今後もいろいろな怪物や悪党と戦うことになるでしょう。あ、読者の皆さんのご協力しだいなところもありますが。
それでは、また。募集への参加もお待ちしています!
受付のお姉さんの外見のイメージは……
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エノメ(不徳のギルド)
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ルナ(このすば)