ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜 作:霧のイージス艦
プロローグ
??
……ふぅ、こんなもんか
机の上の書類を片付け、パソコンのシャットダウンボタンをクリックする。画面が暗転し、そこに疲れた自分の顔が映り込んだ。
地方都市にある、ごく普通の職場。そこで働く一人の青年――それが俺だった。
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にしても、今日は朝からどうにも胸騒ぎがするな。朝の占いが最下位だったからってわけじゃないが……こういう時の嫌な予感ってのは、妙に当たるんだよな
独りごちながら、俺は上着を羽織って職場を後にした。
すっかり日が落ちた街を、徒歩で帰路につく。
道中、陸上自衛隊の駐屯地前を通りかかる。正門前では、相変わらずプラカードを掲げたデモ隊が、拡声器を使って抗議活動を行っていた。それを遠目に見ながら、俺は小さく息を吐き、歩みを止めずに通り過ぎる。
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はぁ……相変わらず、平和の毒に気付いていないな
世界に目を向ければ、ロシアのウクライナ侵攻を皮切りに、国際情勢はいつ火がついてもおかしくないほど緊迫している。中国による尖閣諸島周辺への領海侵犯や違法海洋ブイの設置、繰り返される北朝鮮のミサイル発射。日本の安全保障は、戦後かつてないほどの危機に直面しているのが現実だ。
それなのに、目の前の彼らはその現実から目を背け、ただ甘美な平和の幻影にしがみついている。
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『欺瞞の平和』、か。まさしくあのレイバーアニメの自衛官が言っていた通りだ。現実から目を背け、他人の流す血で守られた平和を貪り続ければ……いずれ、本当に大きな罰が下されるぞ
冷めた思考を胸に、夜の帳が下りる街を進む。だが、その「罰」は、あまりにも唐突に、全く予期せぬ形で俺の目の前に現れた。
女性
キャアーーーーーーッ!?
静寂を引き裂くような、女性の悲鳴。
「なにごとだ!?」と、俺は咄嗟に声の方向へ視線を向けた。
街灯の光に照らされた視界の先。狂気じみた目をギラつかせ、剥き出しのナイフを振り回す一人の男がいた。その足元には、血を流して倒れる通行人たちの姿。
いわゆる、無差別通り魔だった。
男は興奮状態で、次の獲物を探すように周囲を見回し――そして、俺の方へと全速力で走ってきた。
反転して走ろうとした俺の視界に、小さな影が映る。
俺の数歩前、恐怖で完全に足がすくみ、泣き叫ぶことすらできずに立ち尽くしている、小学生ほどの女の子の姿があった。
男の狙いは、その子だ。狂気に染まった刃が、容赦なく少女へと振り下ろされようとしている。
通り魔
「死ねェェェーーーーーーッ!!」
??
「クソがッ!!」
考えるより先に、身体が動いていた。
理論も、損得勘定もない。ただ、あの小さな命が理不尽に奪われることだけは許せなかった。俺は地面を蹴り、女の子の前に割り込むようにして飛び込んだ。
――グサリ。
鈍い衝撃と共に、燃えるような熱さが腹部を突き抜けた。
??
ガ、ハッ……!
通り魔
ひっ、死ね、死ねよぉ!
男がさらにナイフを押し込もうとする。だが、タダで死んでやるつもりは毛頭ない。
俺は歯を食いしばり、アドレナリンの塊となった拳で、男の脇腹と顔面へ渾身の殴打を叩き込んだ。
ゴキリ、と嫌な感触が手に伝わる。男は白目を剥き、そのまま地面へと崩れ落ちて気絶した。
??
ハァ、ハァ……ク…
しかし、男が倒れる間際に引き抜いたナイフの傷口から、止めどなく鮮血が溢れ出す。視界が急速にセピア色へと染まっていく。立っていられず、俺は膝から崩れ落ちた。
??
(ああ、一瞬で分かる。これ、助からないやつだ……)
冷たくなっていく身体とは裏腹に、不思議と心は穏やかだった。後ろを振り返ると、女の子は無傷のまま、駆けつけた大人たちに保護されているのが見えた。
??
誰かを守って死ぬ、か……。ろくでもない人生だったが、せめて最期に……一人くらいは、守り通せたんだ……な……
そこで俺の意識は、深い闇の底へと沈んでいった。
??
……ん
どれほどの時間が経ったのだろうか。
目が覚めると、そこは上下左右の概念すら曖昧な、果てしなく続く真っ白な空間だった。自分の身体を見下ろすが、血に染まっていたはずの腹部には傷一つない。
??
ここは何処だ? 見た限り、三途の川や地獄の沙汰を待つ場所ではなさそうだが……
女神
こんにちは、迷える魂よ
背後から、鈴の音を転がしたような、透き通った声が響いた。
振り返ると、そこには背中に純白の翼を携えた、この世の者とは思えないほど美しい、天使のような女性が佇んでいた。
その神聖なオーラを見て、俺は直感的に察する。
??
あんた……もしかして、神様か?
女神
……えっ?
女性は予想外の反応だったのか、目を丸くして少し驚いた表情を浮かべた。
女神
そうです。よく分かりましたね。大抵の方はパニックになるか、状況が飲み込めずに呆然とされるのですが
??
何となくだ。それで、その神様が俺に何の用だ? 審判を受けるにしても、場所が締まらない気がするが
俺が尋ねると、女神は申し訳なさそうに眉を下げ、深く頭を下げた。
女神
まずは、貴方に深い謝罪を。……実は、私の手違いで貴方の寿命の計算を誤ってしまい、本来の予定よりも早く命を落とさせてしまいました。本当に申し訳ありません。そこで、その償いと言っては何ですが、貴方には記憶を保持したまま、異世界へ転生していただこうと思いまして……
なるほど、ネット小説でよくある『神様のミスによる転生』というやつか。
本当に現実にあるとは驚きだが、起きてしまったことをあーだこーだ言っても始まらない。死んだ身体が元に戻るわけでもないだろう。
??
事情は分かった。文句を言っても命が戻るわけじゃないし、転生の件、ありがたく受け入れよう。……だが、行く先や転生特典(チート)はこちらで指定させてもらっても構わないか?
女神
はい、私の過失ですから。世界観の許容範囲内であれば、貴方の望む条件を叶えましょう
女神の快諾に、俺は思考を巡らせる。
もし、あの理不尽な死が渦巻く世界に行くのであれば、二度とあんな無力な結末を迎えたくはない。守りたいものを、完璧に守り抜くための力が欲しい。
なら――条件はこうだ
俺は淀みなく、神に向けて告げた。
4. ??の選択
【転生先・初期スペック】
行く先: 『ソードアート・オンライン(SAO)』の世界。
身体能力: 『サーヴァント』並みのベーススペック(肉体・神経速度)。
【転生特典】
呼吸剣術(全集中・各呼吸の型) [鬼滅の刃]
透き通る世界 [鬼滅の刃]
飛天御剣流 [るろうに剣心]
直死の魔眼 [空の境界]
ホムンクルス製造能力(Fate)
これらの力を求めたのには、明確な理由がある。
まず、『呼吸剣術』『透き通る世界』『飛天御剣流』。これらは、SAOというデスゲームにおいて、数々の戦闘を圧倒的優位に進めるためのものだ。システムのアシスト(ソードスキル)に頼るだけでなく、肉体そのもののスペックと純粋な技量で、原作の悲劇(サチやキリトの仲間たちの死、そして血盟騎士団での犠牲など)を、少しでも防ぎ、ねじ伏せるために必要不可欠だ。
そして――『直死の魔眼』。
これが最大の鍵だ。戦闘における即死能力としてはもちろんのこと、俺にはどうしても救いたい人間がいた。原作において、現実世界の不治の病(汚染された輸血あるいは血液製剤によるHIV感染)で命を落とす運命にある、紺野木綿季(ユウキ)とその姉の藍子。
万物の「死の線」を捉え、概念ごと切り裂くこの眼があれば、彼女たちの身体を蝕む『病(ウイルス)』そのものを切って救うことができるかもしれない。
その可能性に賭けたかった。
ホムンクルス製造能力については、ユイ、ストレア、プレミア、ティア、アファシス(SAOFB)を始め、アンダーワールド内のユージオやアリスを現実世界に呼ぶ為である。
女神
……なるほど。世界のシステムとの擦り合わせは必要ですが、全て付与可能です。凄まじい覚悟ですね
女神は俺の提示した条件を確認し、納得したように微笑んだ。そして、白い空間のあちこちから淡い光の粒子が集まり、俺の身体を包み込み始める。
女神
では、新しい世界での生活を始める前に、貴方の新しい『名前』を決めてください
名前、か。
前の世界の名前は、あの街に置いてきた。これからは剣を執り、不条理な運命を切り裂いて進む生だ。ならば、それに相応しい名を。
俺はフッと口元を緩め、光の中に消えゆく自らの意識の中で、新しい存在の証明を口にした。
緋村零
俺の新しい名前は……**緋村 零(ひむら れい)**だ
直後、視界は強烈な光に染まり、俺は新たな戦場へと旅立った。