ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜 作:霧のイージス艦
千束とたきなが呆れ半分に納得したところで、零はパンと軽く手を叩き、全員の意識を次の現実的な問題へと向けさせた。
そこからが本題だ、と言わんばかりに、その鋭い視線が新参の3人へと注がれる。
零
で、3人。使用する武器、どうする? できれば弾薬は西側で統一してくれ。補給の問題がある。西側弾薬を使う銃なら、東側のAK-19とかでもいい
その言葉に、ピトフーイの目がさらに怪しく、そして爛々と輝き出した。
「弾薬の西側統一」――それは実戦におけるロジスティクス(兵站)を考慮した、プロとして至極真っ当な要求だ。しかし、東側を代表するカラシニコフでありながら西側の5.56mm NATO弾を使用する『AK-19』の名がさらりと飛び出したことに、彼女の銃器マニアとしての血が激しく騒いだらしい。
ピトフーイ
あはっ! 言うねぇ零。実戦の泥臭い補給の話をしながら、AK-19なんてニッチな名前を出すあたり、本当にそっち側の人間なんだね。いいよ、弾薬の規格さえ合っていれば、お好みの玩具(おもちゃ)を選ばせてくれるってわけでしょう?
エム
西側弾薬での統一か……。ならば私の得意とする7.62mm NATO弾(7.62×51mm)のラインも確保できるな。補給の足を引っ張るわけにはいかん、そこはミリタリーの基本だ
エムは安堵のため息を吐きつつも、プロの兵士としての顔を覗かせる。彼もまた、戦場における弾薬の互換性がどれほど生死を分けるか、座学と経験で嫌というほど知っているのだ。
イツキ
ボクも異論はないよ。西側の5.56mmや9mmなら、どんな戦場でも手に入りやすいしね。さて……このポリゴン姿のボクに、どんな実銃を握らせてくれるのかな? 今から楽しみで仕方が無いよ
相変わらずの胡散臭い笑みを浮かべるイツキを余所に、レンは「ま、また始まった……」と遠い目をする。
前話のルクスや自分たちの武器選びに続き、このGGOが誇る最大級の『銃器のプロ(狂人含む)』たちが、リアルの戦場で一体どんな得物を選ぶのか――部屋の空気が、一気に濃厚な硝煙の気配へと染まり始めていた。
零から提示された選択肢に対し、ピトフーイは一切の迷いなく、獰猛な笑みを浮かべて即答した。
ピトフーイ
私はAK-19で良いわ。前世のゲームでもAK使ってたし。あの泥臭くて、どんな環境でも確実に弾を吐き出す信頼性と暴力的なシルエット……やっぱりカラシニコフの血統は最高よねぇ
嬉々としてそう語る彼女の脳裏には、かつて別世界(GGO)で文字通り自分の手足として愛用していた近代化AKの感触が蘇っているのだろう。
東側が誇る最高傑作の系譜でありながら、西側の5.56mm NATO弾を運用できるAK-19は、実戦における補給の縛りを受けつつも「AKを使いたい」という彼女の狂った欲求を満たすにはこれ以上ない最適なチョイスだった。
レン
(あ、やっぱりピトさん、リアルでもAKなんだ……。しかも『前世のゲーム』ってサラッと言ったけど、やっぱり私たちのいたあのGGOのことだよね……?)
レンは引きつった顔で心の中で激しく突っ込む。ゲーム時代、あの凶悪な銃口を何度も向けられ、あるいは共に戦場を駆けた記憶が嫌でもフラッシュバックする。
エム
エルザがAKを持つということは、あの頃以上の超高機動近接乱戦(インファイト)をリアルでやるつもりか……。予備のマガジンは多めに用意しておかねばならんな。彼女の指は、一度引き金を引いたら敵が肉片になるまで止まらない……」
エムはすでに彼女が実戦で大暴れする未来を予見し、青い顔をしながらも健気に補給プランを脳内で組み立て始めていた。
零
そうか、AK-19だな。調達は問題ない。次はエム、お前はどうする?
ピトフーイの狂気を意に介さず、零は淡々と事務的に首肯すると、今度はその視線をモデル風イケメン)のエムへと移した。
エム
前世のゲーム同様、M14EBRで頼めますか
少し緊張した面持ちのまま、エムは零の問いに対して、自身のアイデンティティとも言える狙撃銃の名を挙げた。
M14 EBR(エンハンスド・バトル・ライフル)』。アメリカ軍の特殊部隊などで採用されている、重量級かつ高精度のバトルライフルだ。ゲーム時代、巨漢のアバターでその重厚な銃を軽々と扱い、正確無比な精密狙撃でレンたちを幾度も追い詰めた彼の愛銃である。
零
M14 EBRか。7.62mm NATO弾だな。西側の主流弾薬だ、補給のラインも問題ない。お前のような中・遠距離のカウンタースナイパーがその銃を握るなら、こちらとしても非常に心強い
零は小さく頷き、その選択を即座に承認した。実戦において、5.56mmの小銃(AK-19など)を扱う前衛を、一歩引いた位置から7.62mmのハイパワーな弾丸で支援できるスナイパーの存在は極めて大きい
フカ
出たわ、M14 EBR! っちゅうかエム、ゲームん時はあのいかつい大男やったから似合ってたけど、今のモデルみたいなシュッとしたイケメンが、あのクソ重たくてゴツい鉄塊振り回すんか? 絵面のギャップが凄すぎて、ファンクラブ作れそうなレベルやん!
フカ次郎が面白そうにニヤニヤしながら、エムの細身な身体(リアルの阿僧祇豪志)を見上げる。
ゲーム内アバターとは打って変わって、現在の彼は端正な顔立ちの優男だ。しかし、その体躯の内側には、ピトフーイの無茶振りに耐え抜いてきた強靭な基礎体力と、実戦仕込みの確かな技術が秘められている。
エム
う、うるさいなフカ次郎。リアルだろうがゲームだろうが、私の役目はエルザの背中を守ること、それだけだ。そのためには、あの銃の信頼性と確実なストッピングパワーが絶対に不可欠なんだよ
赤面しながらも、どこか誇らしげに、そして何よりエルザへの絶対的な忠誠を込めてエムは言った。
ピトフーイの超近接乱戦(AK-19)と、エムの中・遠距離精密支援(M14 EBR)。西側弾薬の縛りの中で、ゲーム時代と寸分違わぬ完璧なコンビネーションがリアルに再現されようとしていた。
零
いいコンビだ。では最後にイツキ、お前はどうする?
前衛と後衛のバランスに満足した零は、最後に残った一番の『不確定要素』。飄々と佇むイツキへと、冷徹な視線を向けた。
イツキ
ゲームで使ってたドラグノフ狙撃銃の7.62mmNATO弾仕様で頼むよ
冷機を孕んだ笑みを浮かべ、イツキは事もなげにそう言い放った。
『ドラグノフ(SVD)』――東側を代表する、あまりにも有名な傑作セミオートスナイパーライフルだ。本来であれば東側の7.62x54mmR弾を使用するその銃に対し、あえて「西側の7.62mm NATO弾仕様」を指定するあたり、彼のどこまでもひねくれた、かつ合理的な性格が透けて見えていた。
零
ドラグノフの7.62mm NATO弾仕様か。中国製のNDM-86か、あるいはサコーが手がけたような欧米向けのニッチな輸出モデルだな。ピトフーイのAK-19に続き、東側の皮を被った西側仕様を選ぶとは……相変わらず一癖あるチョイスだ
零は呆れることなく、むしろそのマニアックな指定に対して即座に具体的なモデルを脳内で弾き出し、フッと口元を緩めた。
イツキ
おや、すぐに理解してもらえるなんて光栄だね。あの流麗で美しいシルエットを維持したまま、君の言う補給のラインにも綺麗に収まる。ボクの『前世』の相棒をリアルで再現するなら、これ以上の正解はないだろう?
クレハ
ちょっとイツキ! あんたねぇ、今世にまで来て、そんな一筋縄じゃいかない偏屈な銃選ぶの!? 普通にエムさんみたいにM14にするとかさぁ!
ゲーム時代から彼のトリックスターぶりに振り回されてきたクレハが、思わず頭を抱えて抗議する。しかし、イツキは愛用の銃を肩に担ぎ直すような仕草のまま、楽しげに目を細めるだけだった。
ツェリスカ
いいんじゃないかしら、クレハちゃん。普通の型に収まらないのが『イツキ』という男よ。……それに、エムのM14 EBRが面での制圧と確実なストッピングパワーを担うなら、彼がドラグノフでピンポイントに戦線を撹乱する。GGOのトッププレイヤー2人が異なる特性の7.62mm狙撃銃を持つのは、戦術的にも非常に厄介(強力)よ
ツェリスカの冷静な戦況分析に、たきなも「確かに、前衛のピトフーイさんのAK-19と合わせて、中・遠距離からの7.62mmの波状攻撃は、敵からすれば悪夢ですね」と小さく頷いた。
零
調達の手配は済ませておく。これで3人とも決まりだな。で、拳銃は俺と同じSFP9で良いな?
メインウェポンが決定したところで、零は腰のホルスターに収められた自身の愛銃を軽く叩きながら、サブウェポン(拳銃)の指定に話を移した。
『H&K SFP9』――陸上自衛隊が次期制式拳銃として採用している、ドイツ・ヘッケラー&コッホ社製の最新鋭ポリマーフレームピストルだ。使用弾薬は世界で最も普及している西側規格の9mm×19パラベラム弾である。
ピトフーイ
あはっ、SFP9ねぇ! 日本の自衛隊の最新おもちゃじゃない。いいよ、9mmパラベラムならどんな戦場でも文字通り『腐るほど』手に入るしね。泥臭いAKのバックアップに、ドイツ製の精密なポリマーピストルを添える……悪くない贅沢だわ
ピトフーイは自衛隊の制式装備という点にニヤリと不敵な笑みを浮かべ、快諾した。彼女からすれば、確実に弾が出て、かつ弾薬の補給に困らないのであれば、サブウェポンに文句をつける理由などなかった。
エム
人間工学(エルゴノミクス)に基づいた優れたグリップに、ストライカー式特有の確実な操作性か……。実戦の極限状態において、その『扱いやすさ』が生死を分ける。零殿、素晴らしいチョイスだ、感謝する
エムはプロの目線からSFP9の堅実なスペックを絶賛し、深々と頭を下げた。エルザの無茶な突撃をサポートする彼にとって、咄嗟の状況で確実に機能するバックアップガンの存在は、何よりもありがたいものだった。
イツキ
ボクも異論はないよ。……それにしても零、君と『お揃い』の拳銃を握らせてもらえるなんてね。まるでボクたちが、君の組織の一部にでもなったような特別な錯覚を覚えてしまうよ。本当に、君はボクを飽きさせない
相変わらずアバター姿(ポリゴン)のまま、イツキは胸元に手を当てて芝居がかった一礼をする。その視線の奥には、零という存在への尽きない好奇心がギラギラと渦巻いていた。
たきな
9mmパラベラム弾ですか。私の愛銃(M&P9)とも弾薬の規格が共通していますね。これなら最悪の状況で弾薬の融通も利きます。……極めて合理的な判断です
千束の隣で、たきながストイックにそう言って頷いた。前衛から後衛、そしてサブウェポンに至るまで、完全に西側規格(5.56mm、7.62mm NATO、9mmパラ)で統制された兵站の美しさに、元リコリスとしても文句の付けようがなかった。
零
よし、決まりだな。これでSAO組の足並みは揃った
ピトフーイ
AK19
H&kSFP9
エム
M14EBR
H&kSFP9
イツキ
ドラグノフ狙撃銃(7.62mmNATO弾仕様)
H&kSFP9