ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜   作:霧のイージス艦

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武器選び〜八幡〜

よし、次は八幡達だな。まず八幡から、どうする?

 

食堂の視線が一斉に八幡へと集まる中、彼は居心地悪そうに首のあたりをガリガリと掻き、ふう、と長いため息を吐き出した。

 

八幡

どうする、って言われてもな……。ここにいる規格外の化物……失礼、最強の皆さんと違って、俺は戦闘力ゴミの一般人だぞ? 銃の反動で肩を脱臼するか、前線に出た瞬間流れ弾に当たって速攻で退場するのがオチだ。だから、派手な突入作戦とかそういうのは、キリト達やホワイトルーム組の皆さんに全面委託させてくれ

 

八幡は一度言葉を切り、腐った魚の目をさらに細めて不敵に歪めた。

 

八幡

ただ……お前らの言う『お掃除』とやらの後始末。マスコミへの情報リークのタイミングだの、政府側の無能どもの内紛を煽る搦手(からめて)だの、そういう胸糞悪い泥仕合ならいくらでも引き受けてやるよ。どうせ元から嫌われ者だしな。悪名を背負って敵のヘイト(敵意)を引くデコイ(囮)くらいにはなれるだろ

 

相変わらずの自己犠牲を前提としたひねくれた提案に、食堂の数箇所から呆れたような、しかしどこか呆れ混じりの信頼がこもった視線が刺さる。

 

彩加

八幡! またそうやって一人で泥を被ろうとする……! 僕だって、ただ守られてるだけじゃないよ。八幡のサポートなら、どんな細かい仕事だってやるんだから!

 

沙希

そうよ。あんたが一人で悪役ぶる必要はないって、さっき零も言ってたでしょ。アタシも手伝うわ。前線が戦いに集中できるように、物資の管理(ロジスティクス)でも何でもやってやるわよ

 

優美子

あーしも。小難しい書類仕事とかはパスだけど、あんたが変な奴らに絡まれたら、あーしが全員メンチ切って黙らせてあげるから

 

留美

……私は八幡の目になってあげる。子供だと思って油断してる大人の懐に入り込んで、情報を抜くくらいなら、私にだってできる

 

総武高の面々の言葉に、八幡は「お前らなぁ……」とさらに顔を顰めるが、その表情には隠しきれない温かさが滲んでいた。

その様子をじっと見ていた綾小路清隆が、静かに口を開く。

 

清隆

比企谷の提案は合理的だ。この手の作戦において、前線と同じかそれ以上に重要なのが、世論の誘導と敵の心理誘導だ。彼の『他者の悪意や欺瞞を逆手に取る能力』は、正攻法では崩せない局面で最大の武器になる。……坂柳や櫛田、それに生徒会にいた橘先輩と組んで、情報・心理戦のブレイン(参謀)に回ってもらうのがベストだろうな

 

有栖

ふふっ、大賛成ですわ。比企谷クン、私と一緒に、腐った大人たちの盤面(ステージ)をめちゃくちゃにかき乱して差し上げましょう?

 

決まりだな。八幡、お前にはその腐った目と頭脳をフル回転させて、裏での情報戦の指揮を執ってもらう。……あ、でも一応、最低限の『護身用の武器』は選んでもらうからな? 自分の身を守るくらいはしてもらうぞ

 

八幡

へいへい。じゃあ、できるだけ軽くて、引き金を引くだけで弾が出る一番地味なピストルでも用意しといてくれ……

 

しかし…零が言った。

 

……たきな、先に八幡をザ・ボス、そしてクルカイの所に連れてけ。銃は勝手に決める。一回その死んだ魚の性根をへし折る。戦場の本質と冷酷な事実を教える

 

零の冷徹とも言える声音が食堂に響いた瞬間、それまでどこか緩んでいた空気が一変して凍りついた。

 

たきな

了解しました。……比企谷さん、行きましょうか

 

たきなは一切の躊躇なく八幡の背後に回り込むと、逃げ道を塞ぐようにその細い腕をガチリと掴んだ。DA仕込みの無駄のない動きと、一切の情けを排した機械的なホールド。八幡が抵抗できるはずもなかった。

 

八幡

お、おいちょっと待て!? 銃は勝手に決めるって何だ!? あとザ・ボスって……あの『伝説の兵士』のザ・ボスか!? クルカイってあの硝煙の匂いしかしない完璧主義の硝人形(ドール)のことか!? 待て、俺はただの後方支援希望の一般高校――

 

たきな

問答無用です。現在の日本国を相手にする以上、後方にいようが前線にいようが、敵の弾丸はあなたの命を平等に奪いに来ます。『デコイになる』などという甘い自己犠牲が通用するほど、戦場は優しくありません

 

容赦なく八幡をずるずると引きずっていくたきな。その背中に、彩加や沙希たちが悲鳴に近い声を上げる。

 

彩加

八幡ーーっ! 死なないでねっ、八幡ー!

 

沙希

おい比企谷! 生きて帰ってきなさいよ!

 

優美子

マジ……? あの二人、ガチでヤバいって噂の……比企谷、南無……

 

留美

……八幡、お葬式の準備はしておくね

 

八幡

縁起でもないこと言うな留美! 助けてクラインさん! キリト! 綾小路ぃ!!

 

彼が必死に助けを求めるも、キリトは「すまん、頑張れ……」と目を逸らし、清隆に至っては「戦場の現実を脳に焼き付けるには、最も効率的な人選だ。行ってらっしゃい、比企谷」と静かに手を振る始末だった。

食堂を出て、拠点の地下に設けられた薄暗い特設射撃訓練場へと連行された八幡。

扉が開いた瞬間、全身を突き刺すような濃厚な硝煙の臭いと、肌がヒリつくほどの圧倒的な圧迫感が彼を襲った。

そこに佇んでいたのは、二人の女性。

一人は、白いスニークスーツを身に纏い、その身から「闘争の歴史」そのものを体現したかのような気高きオーラを放つ伝説の兵士――ザ・ボス。

そしてもう一人は、完璧に手入れされたHK416を傍らに置き、冷徹な青い瞳でこちらを射抜く戦術人形――クルカイ。

 

ザ・ボス

……連れてきたわね、たきな。それが、零の言っていた『死んだ魚の眼をした少年』ね?

 

クルカイ

はぁ……。零も人使いが荒いわね。こんな、戦う覚悟も戦術的価値も見出せない民間人の子供を私に預けるなんて。私の時間を無駄にさせないでほしいのだけれど

 

クルカイは冷たく言い放ち、八幡をゴミを見るかのような視線で見下ろした。その一言だけで、八幡の胃はストレスで悲鳴を上げる。

 

八幡

(ひぇっ……何だこのプレッシャー。威圧感だけで俺のHPがゴリゴリ削れるんだが?)

 

たきな

零からの伝言です。『一回その死んだ魚の性根をへし折って、戦場の本質と冷酷な事実を教えてやってくれ』とのことです

 

その言葉を聞いた瞬間、ザ・ボスの目が、より一層深く、鋭いものへと変わった。彼女はゆっくりと八幡に歩み寄り、その前に立ち塞がる。その身長差以上の巨木に見下ろされているかのような錯覚に、八幡は息を呑んだ。

 

ザ・ボス

……少年。さっき、自分が悪役(ヒール)になってヘイトを買うデコイになると言ったそうね

 

八幡

っ……! あ、ああ。俺みたいな一般人は、そうやって泥を被るくらいしか……

 

ザ・ボス

甘えてはいけない

 

ピシャリ、と射撃場に響いたザ・ボスの声には、これまで数多の戦場を駆け抜け、時代の犠牲となってきた者だけが持つ、絶対的な重みがあった。

 

ザ・ボス

戦場における『デコイ』とはね、ただの悪者になって注目を集めるゲームの役割(ロール)じゃない。敵の砲火をその身に引き受け、肉を裂かれ、骨を砕かれ、文字通り『死ぬ』ということよ。あなたが命を落とせば、そこに生じる戦術的空白のせいで、あなたの仲間が連鎖的に死ぬことになる。戦場に『汚れてもいい一般人』なんて都合のいい存在はいない。武器を持つ持たないに関わらず、この作戦に関わる以上、あなたも一人の兵士(ソルジャー)よ

 

八幡の額から、ダラリと冷たい汗が流れ落ちる。

彼女の言葉は、八幡がこれまで総武高校の奉仕部でやってきた「自分が傷つけば丸く収まる」という独りよがりの欺瞞を、根底から、そして残酷なまでに叩き壊すものだった。

 

クルカイ

ボスのアドバイスを、ただの精神論だと思わないことね

 

クルカイがカチャリ、と手元のHK416のボルトを引く。その金属音が、静かな射撃場にやけに大きく響いた。

 

クルカイ

国家を相手にするということは、向かってくるのは訓練された本物の軍隊や特殊部隊。彼らはあなたのひねくれた理屈なんて聞きやしない。ただ、確実にあなたの頭を撃ち抜いて排除しにくる。自分が死んでも誰も困らない? 笑わせないで。あなたの背後で泣きそうな顔をしていたあの子供や女たちの前で、肉片になっても同じことが言えるかしら?

 

八幡

…………

 

言葉が出なかった。

彼らが突きつけてきたのは、綺麗事でもなければ、高校生の生ぬるい人間関係のいざこざでもない。「生か、死か」という、あまりにも冷酷で、一切の言い訳を受け付けない現実。

八幡の「死んだ魚の目」が、恐怖と、そして自らの覚悟の浅さを突きつけられた屈辱で激しく揺れ動く。

 

ザ・ボス

目を逸らしてはいけないわ、比企谷八幡。自分の命の重さを知りなさい。それを理解して初めて、あなたは本当の意味で『ブレイン』として、仲間を生かすための作戦を立てられるようになる」

 

ザ・ボスは、テーブルの上に置かれていた一丁の拳銃――黒く、武骨なポリマーフレームの『グロック19』を八幡の前に差し出した。

 

ザ・ボス

零から預かっている、あなたの銃よ。これの重みを、その泥にまみれた両手で、しかと刻み込みなさい

 

その頃

たきなが静かに食堂の扉を開けて戻ってくると、室内の視線が再び彼女へと集まった。その表情は、まるで日常の雑務を一つ終えてきたかのように淡々としている。

 

たきな

戻りました

 

お疲れ様。で、八幡の武器はグロック19とUMP9でいいだろ。元リリベルなら問題ないだろ

 

たきな

はい。リリベルの基本教練を修めているのであれば、9mmパラベラム弾を使用するグロック19とUMP9の組み合わせは、反動の制御もしやすく扱い慣れているはずです。操作系もシンプルですから、後方での自衛用や、咄嗟の遭遇戦での火力制圧には最適の選択だと思います

 

たきなは何の疑問も抱かずにコクリと頷いた。彼女たちにとって、そこにいる少年少女が「元リリベル」や「元リコリス」である以上、銃器を扱えることは前提条件なのだ。

 

しかし、その会話を聞いていた食堂の面々――特に総武高校の女子たちは、驚きを隠せない様子で目を見開いた。

 

沙希

はぁ!? あんた達、サラッと恐ろしいこと言うわね……。比企谷の奴、あんなナヨナヨしてて死んだ魚の目してるくせに、銃なんか撃てるわけ?

 

優美子

マジ? ヒキオが銃とか、なんかイメージ違いすぎてウケるんだけど……。いや、ウケないわ、普通にガチで引くんだけど

 

腕を組んで信じられないといった声を上げる沙希と優美子。そんな彼女たちの戸惑いを宥めるように、同じく元リリベルであるキリトが苦笑交じりに口を開いた。

 

キリト

まぁ、あいつのあの性格だからサボりたがってはいただろうけどさ。俺たちリリベルは、嫌でも一通りの戦闘技術と銃の扱いは叩き込まれてるんだ。現実(リアル)のUMP9なら軽量だし、クローズドボルトだから命中精度もいい。前線に出ないあいつの護身用にしちゃ、むしろ贅沢なくらいだよ

 

クライン

おいおい、キリトお前なぁ……高校生が銃のスペックを日常会話みたいに語るんじゃないよ。おじさん、この世界の常識に脳みそが追いつかねえわ

 

クラインが頭を抱える中、隣にいた綾小路清隆が静かにコーヒーを啜りながら、冷徹な分析を付け加える。

 

清隆

妥当な判断だ。比企谷に最前線での突撃を求めているわけではない以上、信頼性が高く、扱いが容易な9mm口径の装備を宛がうのは合理的と言える。ザ・ボスとクルカイのシゴキに耐えきれれば、の話だが

 

留美

……八幡、生きてるといいな

ポツリと呟いた留美の言葉が、妙なリアルさを持って食堂に響く。

ひとまず八幡の処遇と装備の方針が決まったところで、零は手元の電子端末の名簿に視線を落とし、次なる「確認」へと移るために顔を上げた。

 

よし、それじゃあ次は……三上、お前だ。今世じゃラファエルさんたちのチート能力は使えないが、どうする?

 

零が視線を向けた先には、サラサラとした美しい銀髪に、どこか儚げな美少女の容姿をした少年――いや、中身は37歳の元ゼネコン勤務のサラリーマンである、三上悟(リムル)が座っていた。

彼は自分の髪を不器用そうにいじりながら、事も無げに言った。

 

リムル

んー? 俺か? そうだな……チートスキルがないんじゃ、あんまり無茶な前線突入は勘弁してほしいところだけど……。まぁ、銃なら『20式自動小銃』でいいよ。日本の最新型だし、日本国内で動くなら弾薬やパーツの調達も融通が利きそうだしな

 

その見た目からは想像もつかない、あまりにも現実的かつ具体的な銃器の指定に、食堂の空気がわずかにどよめいた。

 

クライン

おいおいおい! 待て待て! 冗談だろ!? なんだよその、中学生くらいのめちゃくちゃ可愛い美少女から飛び出していいセリフじゃねえぞ!

 

優美子

マジ……? なにあの子、見た目クソ可愛いのに、言ってることヒキオよりガチじゃん。ギャップ萌えとかそういうレベル超えてんだけど……

 

優美子がドン引きしたようにリムルを見る中、たきながプロの目つきで小さく頷いた。

 

たきな

妥当、いえ、非常に理にかなった選択です。豊和工業製の20式自動小銃は、日本の気候や環境に合わせて高度な防錆・排水性能を持っています。5.56mm NATO弾を使用するため、私たちのストックからも融通できますし、可変ストックやアンビ(左右両対応)の操作系は、小柄な今の三上さんの体格でも問題なくコントロールできるはずです

 

清隆

それに、彼の前世の経歴を考えれば、その選択の意味も分かる。ゼネコン勤務、つまり都市開発やインフラのプロだ。国内の地理や構造物、そして自衛隊の動向を意識した上での、最も『手堅い』武器を選んだんだろう

 

綾小路がコーヒーを置きながら、その鋭い観察眼でリムルの中身を見抜く。

 

流石だな、三上。見た目は可憐な美少女だが、中身は修羅場をくぐってきた(元)社会人だ。お前にはその『ゼネコンの知識』と、元々の高い調整能力をフルに活かしてもらう。具体的には、前線部隊が侵攻・撤退するための『ルート構築』、およびこの拠点の防衛構造の強化(要塞化)の総指揮だ。都市のインフラや地下道の配置に一番詳しいのはお前だからな

 

リムル

へいへい、了解。元サラリーマンの悲しい性ってやつだな、インフラ整備とルート確保なら任せてくれ。戦闘のプロたちの足引っ張らない程度に、20式を構えて後ろからサポートさせてもらうわ

 

リムルは苦笑しながらも、その瞳にはチート能力に頼らない、一人の人間の男としての確かな覚悟が宿っていた。

 

決まりだ。三上悟のメインは20式自動小銃。副兵装には、同じく自衛隊が採用している9mm口径の『SFP9』を支給する。操作感を統一しておいた方がいいからな

 

零は手元の端末に素早くデータを打ち込み、次の名前へと画面をスクロールさせた。

 

八幡

H&kUMP9

グロック19

 

三上悟(リムル)

20式自動小銃

H&K SFP9

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