ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜   作:霧のイージス艦

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大和と筑後。雪風の血筋

内閣総辞職という衝撃的な速報の余韻が残る会議室に、零は静かに、しかし決定的な重みを持つ電子ファイルを中央のメインモニターへと転送した。

画面に映し出されたのは、経年劣化で黄ばんだ羊皮紙の図面、そして色褪せた旧海軍の極秘公文書のデジタルスキャンデータだった。一番下には、一人の高潔な軍人の名が、力強い墨筆の署名として残されている。

 

それにだ……。実は大高さんから、防衛省に旧海軍の遺族から寄贈された古い資料の整理と精査を依頼されてな。この地下基地の機材を使って、徹底的に解析したんだ。……そうしたら、歴史の闇の底から、とんでもないものを見つけちまった

 

レイン

とんでもないもの……?

 

レインが不思議そうに小首を傾げ、モニターの文字を読み取ろうと大きな目を凝らす。その隣で、資料のヘッダーに記された『軍機』の文字、そして艦艇のスペックシートを目にしたシノンが、ハッと息を呑んで座っていた椅子から立ち上がった。

 

……これだ。シノン、ミリタリーや兵器の歴史に詳しいお前なら、これが何を意味するか嫌でも分かるだろ

 

シノン

嘘……でしょ……? こんなの、あり得ないわ……っ!

 

シノンは瞳を限界まで見開き、信じられないものを見るかのようにモニターを凝視した。その細い指先が、驚愕のあまり微かに震えている。

 

レイン

シノン? 一体何が書いてあるの?

 

シノン

レイン、落ち着いて聞いて。……ここにある『大和型4番艦・第111号艦』。これ、史実では太平洋戦争の最中に建造が中止されて、解体されたはずの幻の戦艦なのよ。伊勢や日向を航空戦艦に改造するための資材に回されて、歴史上では影も形もないはずの一隻。……それが、完成して……**『2代目戦艦大和』**として登録されてる……!

 

シノンは激しく乱れる呼吸を整えながら、狂ったように画面をスクロールしていく。

 

シノン

それだけじゃないわ! 隣の『大淀型軽巡洋艦・筑後』……これも計画だけで起工すらされなかったはずの幻の軽巡洋艦よ。それが、どっちも『北海道・稚内の秘密地下ドック』にて極秘裏に建造を完了。終戦時、連合国軍(GHQ)による接収と解体を回避するため、そのままドックごと偽装されて、現代まで完全に秘匿されてきた……って、そんなの、おとぎ話のレベルよ!

 

千束

ひええ……。戦艦大和って、あの世界最大最強の、男のロマンが詰まったおっきいお船の事だよね!? それが日本の北の端っこに、まだ丸ごと隠されてるってこと!?

 

千束が頭を抱えて叫ぶ。元DAのたきなも、冷徹なプロの表情を完全に崩し、戦慄を隠せない様子で零を見つめた。

 

たきな

……ロジスティクスの観点から言っても狂気の沙汰です。全長260メートルを超える超弩級戦艦を、当時の技術で、しかも連合国の目を盗んで現代まで維持・秘匿し続けるなんて……。でも、この署名は……

 

たきなが画面の最下部、色褪せたサインを指差す。

 

ああ。最後の連合艦隊司令長官、小沢治三郎大将の直筆サインと、当時のドック管理要員たちの血判状だ。あの人は、日本の敗戦を見届けながらも、いつかこの国が本当の危機に陥った時、真の独立を勝ち取るための『不屈の牙』として、この2隻を神州の北端に眠らせたんだよ

 

零は腕を組み、画面に映る漆黒の巨艦の図面を見つめながら、不敵に、しかし最高に獰猛な笑みをその顔に浮かべた。

 

大高さんが政権を奪取する表の総選挙。そして、俺たちが裏でDAや腐った売国奴どもをお掃除する『天岩戸作戦』。……大高さんの世界の軍や、別世界の自衛隊がこの世界に転移・合流する際の『絶対的な受け皿(フラッグシップ)』として、これ以上ない最高に贅沢なジョーカーが手に入ったわけだ

 

キリト

歴史の闇に眠ってた2代目大和と巡洋艦筑後、か……。ゲームのレイドボスでもお目にかかれないような、本当の『規格外の怪物』が味方についたわけだな。零、お前本当に、とんでもないものを掘り起こしてくれたよ

 

キリトが戦慄を通り越して嬉しそうに口角を上げる。

 

レイン

うん……! 小沢長官たちが命がけで残してくれたその遺産、今度は私たちが、日本の未来を守るために目覚めさせてあげる番だね、零!

 

レインが零の隣に並び立ち、その小さな拳を力強く握りしめて真っ直ぐな瞳で微笑む。

旧帝國海軍最後の提督が遺した、執念の超巨艦。

政権崩壊という激震の中、防人たちの手元に、時代をも超越した最強の「黒き鉄の牙」が完全に揃おうとしていた。

 

やれやれ…前世の爺さんの遺言通りだな…

 

キリト

零の前世の家族の事か?

 

あぁ。元駆逐艦雪風の乗員でな

 

シノン

雪風!?

 

シノンが今日一番の、悲鳴に近い驚愕の声を会議室に響かせた。ミリタリー知識において彼女の右に出る者はいない。だからこそ、その『雪風』という二文字が持つ重みと、そこに隠された異常なまでの『天運』の価値を、誰よりも理解していた。

 

シノン

雪風って……あの陽炎型駆逐艦の8番艦、大戦中のあらゆる激戦を最前線で戦い抜きながら、ほとんど無傷で生還したっていう、伝説の**『奇跡の幸運艦』**のこと!? 『呉の雪風、佐世保の時雨』って称えられた、あの戦時最高の武勲艦じゃない!

 

シノンは興奮のあまりデスクに両手を突き、零を問い詰めるように身を乗り出した。

 

キリト

幸運艦……? 銃弾を全部避けて生き残った、ゲームの回避特化型みたいな駆逐艦が本当にあったのか?

 

キリトが呆気にとられたように呟くと、シノンは激しく首を振って言葉を続ける。

 

シノン

そんな生ぬるいものじゃないわよ、キリト! ミッドウェー、ガダルカナル、レイテ、そして……あの戦艦大和の最期となった『坊ノ岬沖海戦(沖縄特攻)』にまで同行して、周りの艦が次々と撃沈される中で、最後まで生き残って味方を救助し続けた本物の不死鳥よ! その乗員だった人が、零の前世の爺さんだなんて……

 

たきな

……点と点が、完全に線で繋がりましたね

 

たきなが手元の資料の記述と、零の言葉を照らし合わせながら、冷徹な中にもゾクリとするような感動を覚えて呟いた。

 

たきな

初代『大和』の最期をその目で見届けて生き残った雪風の乗員だからこそ……旧海軍の残党たちが連合国の目を盗んで北の大地に建造していた、この『2代目大和(第111号艦)』の極秘計画に、何らかの形で関わっていたとしてもおかしくありません。歴史の裏側で、彼らは確かにバトンを繋いでいたんです

 

レイン

そっか……。零の爺さんの遺言があったから、零は真っ先にこの資料の異常さに気づけたんだね。……ねえ零、お爺さんはなんて遺言を残してたの?

 

レインが零の腕にそっと手を添え、潤んだ瞳でその横顔を見つめる。

俺は天井の無機質な灯りを見上げながら、前世の記憶の奥底にある、頑固で、けれどどこか誇らしげだった老兵の最期の言葉を思い出していた。

 

『大和は、まだ沈んじゃいねえ。国が本当にひっくり返りそうになった時、神州の北の果てで、2代目が必ず目を覚ます』……ってな。当時はボケた老人の戯言だと思ってたが、まさかこんな形で、本物の戦艦大和と軽巡筑後の眠るドックの鍵(データ)を手に入れることになるとはね

 

零は不敵に、そして旧海軍の英霊たちの執念をその背に背負うかのように、獰猛な笑みを深く刻み込んだ。

 

小沢治三郎長官が遺し、雪風の親父たちが守り抜いた最後の切り札だ。大高さんが表の選挙で勝って、俺たちが裏の『天岩戸作戦』でDAを叩き潰す時……この2隻の巨艦を、新生日本の『夜明けの凱歌』として、稚内の海から盛大に発進させてやろうじゃねえか

 

キリト

初代大和の最期を看取った『雪風』の意志が、2代目大和を目覚めさせる鍵になる、か。……最高に熱いシナリオじゃないか、零。俺たちの現実(リアル)の戦場、どこまでスケールが大きくなるのか、今からワクワクしてきたぜ!

 

キリトが黒の剣士としての不敵な笑みを浮かべ、相棒たちの感触を確かめるように拳を強く握りしめる。

内閣崩壊という政治の空白を突いて、歴史の闇から甦る二大巨艦。

前世の家族の因縁、そして旧帝國海軍の執念という最高の『大義名分』を手に入れた防人たちは、いよいよ一国家の枠組みすら超えた、世界の戦史を塗り替える大決戦へと舵を切り始めていた。

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