ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜 作:霧のイージス艦
訓練室の片隅、遮音壁によって激しい硝煙の匂いと金属音がかすかに遠ざかるスペース。
零は腕を組んだまま、メインモニターに表示された大高議員からの最新の極秘通達に目を通していた。表情一つ変えず、視線だけを隣に立つザ・ボスへと向ける。
零
じゃ、エルモから八咫烏へ改名を?
その声のトーンはどこまでも平坦で、冷静そのものだった。エルモという臨時の秘匿コードから、日本を正しい道へと導く神話の巨鳥『八咫烏(ヤタガラス)』への改名。それは、これからの戦いが単なる組織の防衛ではなく、国家の新体制を見据えた「正規の防衛機構」への移行を意味していた。
ザ・ボス
えぇ。大高さんが政権を取る前提だそうよ。まぁ、今の国民なら大高さんのような政治家を望むでしょうね
ザ・ボスは腕を組み、確信に満ちた静かな声で応じた。現政権の崩壊と、目の前に迫った解散総選挙。表の政治がひっくり返り、大高議員が国の中枢に座ったその時、彼ら防人たちは日陰の暗殺部隊ではなく、国家の未来を先導する正統な牙となる。
零
八咫烏、か。迷える国を導く三本足の烏……俺たちの『お掃除』の後の役割には、ちょうどいい名前です
零は冷徹な瞳の奥に次なる選挙戦と、その裏で決行される『天岩戸作戦』のタイムラインを重ね合わせながら、静かに改名の手続きを電子端末で承認した。
新組織『八咫烏』。その名が名実ともに新生日本のフラッグシップとなる日に向けて、防人たちの計画はより強固な大義名分を帯びて動き出した。
零は腕を組んだまま、メインモニターの端に「58」という数字と、そこに合流した戦術人形や大人たちのデータを並べ、冷徹な目で最適解を弾き出そうと思考を巡らせた。
零
そうなると、小隊を分ける必要がありますね。基本的に1小隊7人ですか
零の声音はどこまでも平坦で、私情を挟まない。大規模な組織を実戦で確実に動かすための、冷徹な機構(システム)としての計算がその脳内で動いていた。
ザ・ボス
えぇ。まだ詳細は決めてないわ。でも、少なくとも連携を考えないといけないわ
ザ・ボスは訓練場全体の熱気を視線で遮るように腕を組み、零の横顔を見つめた。
総勢60名を超えるこの大所帯。ただ集まって撃つだけでは烏合の衆だ。「八咫烏」として国家の喉元に噛み付くためには、完璧に統制された「戦術単位(小隊)」へのパージが不可欠だった。
零
1個小隊7人(セブン・マン・セル)……。指揮官の目が隅々まで行き届き、かつ市街地戦やCQBで最も柔軟に相互補正ができる絶妙な数です。問題は、編成の思想ですね。感情論は抜きとして、戦術と兵站(ロジスティクス)の観点から見れば、選択肢は2つあります
零はタブレットの画面をフリックし、2つの編成プランの骨子をボスに提示した。
零
1つは**『専門特化型』**。前衛突撃、中距離支援、後方狙撃、情報電子戦で小隊ごと役割を完全に分ける方法です。連携(リンク)の難易度は上がりますが、各分野のスペシャリストが固まるため、瞬間的な火力投射や情報制圧の威力は最大になります。特にシノンやランたちの『7.62mm狙撃班』や、キリトたちの『5.56mm突撃班』は、小隊内で弾薬の規格が完全に統一されるため、補給の効率は10割に達します
ザ・ボス
ミリタリーの基本ね。だけど、専門特化させすぎると、その小隊が単独で孤立した際に臨機応変な対応ができなくなるリスクもあるわ
零
ええ。だからもう1つの選択肢が、1個小隊の中に前衛、斥候(スカウト)、狙撃、バックアップを均等に配置する**『独立完結型(諸兵科連合)』**です。小隊内で使う弾薬の規格はバラバラになりますが、最悪、司令部との通信が途絶した単独任務(スタンドアロン)であっても、その7人だけで状況を打開できる。……ボス、お前なら、彼女たちの『前世の絆』をどう組み込みます?
零の問いに、ザ・ボスはフッと気高き軍人としての笑みを浮かべた。
ザ・ボス
戦場における『前世の絆』……つまり互いへの絶対的な信頼と、生きて帰るという執念はね、どんな最新鋭の兵器や合理的システムをも凌駕する最高の生存インセンティブよ。キリトとアスナ、八幡と沙希、エイジとユナ……。彼女たちの感情の繋がりを切り離してデータだけでシャッフルするのは、かえって戦力を落とすわ。……合理性と、彼女たちの『本物』の絆。その2つが綺麗に噛み合うラインを、これからあなたが主任参謀(比企谷)たちと一緒に入念に削り出しなさい
零
……了解しました。前世の勢力図(SAO、GGO、俺ガイル、よう実)のまとまりをベースにしつつ、実戦での戦術的穴(デッドスペース)が生まれないよう、1個小隊7人の枠に綺麗にハメ込んでみせますよ。……ちょうど、八幡たちの情報戦の初陣としても、この人員配置のチェス盤の整理は良い課題になりますからね
零は冷徹に、しかしどこか満足そうに口角を上げると、手元の電子端末に新たな「小隊編成タスク」を立ち上げた。
組織名「八咫烏」の誕生。そして、それを実戦で稼働させるための最強の7人×複数小隊の構築。防人たちの爪は、より具体的で逃げ場のない鋭さへと研ぎ澄まされようとしていた。