ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜   作:霧のイージス艦

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錦木千束との再会

 

たきな

……失礼しました……

 

感情の奔流を抑え込むように、たきなは強く涙を拭うと、リコリスとしての背筋を伸ばして静かに立ち上がった。その瞳には、先ほどまでの絶望ではなく、どこか吹っ切れたような光が宿っている。

 

緋村零

気にするな。……正直、前世にいた頃からDAのやり方は反吐が出るほど気に入らないと思っていたからな

 

俺は再びカウンターの椅子に深く腰掛け、淹れ直された温かい紅茶を視線で追いながら、冷徹なトーンで言葉を紡いだ。

 

緋村零

自分たちの都合の良い『正義』という歪んだ思想を、身寄りのない子供たちに教育という名の洗脳で植え付け、自分たちの代わりに生々しい殺しをさせる。そんな組織の綺麗事には、ふざけるなとしか言いようがないがね

 

吐き捨てるようにそう言い、俺はカウンターの奥に佇むミカさんへと視線を向けた。

 

緋村零

……すみませんね。部外者の身でありながら、勝手なことばかり話してしまって

 

ミカ

いや、気にするな。正直なところ、私も今のDAの在り方には同じような懸念を抱いていたからな。……それに今の言葉を聞いて、君がただの危険分子ではなく、十分に信頼に足る芯を持った存在だと確証が持てたよ

 

ミカさんは深く重みのある声で同意し、俺の存在を完全に受け入れるように穏やかに微笑んだ。

 

緋村零

……そう言えば、今日は千束とみずきさんはどうしたんです? 姿が見えないようですが

 

ミカ

ああ、彼女たちならちょっとした買い出しに出かけているよ。そろそろ戻る時間だが……

 

その言葉が終わるか終わらないかの瞬間だった。

――バンッ!

威勢の良い音を立てて喫茶リコリコの扉が開け放たれる。

 

??

千束サマがっ! 満を持して帰還いたしました〜〜!

 

??

ちょっと、うるさいわよ千束! 荷物重いんだから少しは持ちなさいよ!

 

賑やかな騒音と共に現れたのは、ショートボブの金髪を揺らすリコリコの看板娘・錦木千束と、不満げに眉をひそめて大量の袋を抱える中原みずきだった。

 

ミカ

おかえり。2人とも、ずいぶんと賑やかだな

 

たきな

おかえりなさい、千束、みずきさん

 

先ほどまで泣いていたとは思えないほど落ち着いた声で、たきなが二人を出迎える。

 

千束

ただいま〜、先生! ……あれれ? そちらにいるの、お客さん!?

 

千束が天真爛漫な笑顔を輝かせながら、カウンターの俺へと近づいてくる。だが、その距離を詰めるよりも早く、背後から凄まじい風圧と共にみずきが割り込んできた。

 

みずき

ちょっと待ったぁ! アタシ、中原みずきといいます! ピチピチの27歳! 現在進行形で、最愛の彼氏を死に物狂いで募集中ですっ!!

 

迫真の顔面で迫ってくるみずきに対し、俺は紅茶のカップを持ったまま、微動だにせず冷淡に言い放った。

 

緋村零

すみません。俺、まだ12歳です

 

みずき

12歳ぃぃぃ!? ……うそ、またお預けなのぉぉぉ!?

 

俺のあまりにも容赦のない現実の突きつけに、みずきはその場に膝から崩れ落ち、悲劇のヒロインさながらに床を叩いた。そんな様子をスルーしつつ、俺は千束の方へと向き直る。

 

緋村零

……久しぶりだな、千束

 

千束

え? 久しぶり……って、あれ? 私たち、どこかで会ったっけ……?

 

俺の親しげな口調に、千束は人差し指を顎に当てて不思議そうに首を傾げた。まあ、あの夜とは違って、今は素顔を晒しているのだから無理もない。

 

緋村零

『JTR』……と言えば、その記憶に引っかかるか?

 

そのコードネームが俺の口から発せられた瞬間、千束の動きが完全に止まり、その丸い瞳が驚愕に大きく見開かれた。

 

千束

ええっ!? 君があの、電波塔の時の……っ!?

 

緋村零

ああ。まあ、君が前世(俺の記憶)と変わらず、お気楽で元気なようで安心したよ

 

千束

へ? ぜんせ……? 何のこと??

 

ちんぷんかんぷんといった様子で頭の上に疑問符を浮かべる千束に対し、隣から静かな声が割り込んだ。

 

たきな

……千束、私が説明します。少し、信じられない話ですが……

 

たきなは先ほど俺が語った『転生者』としての素性や、前世での繋がりについて、千束に分かりやすく、かつ簡潔に説明して聞かせた。

 

千束

そっか……そういうことだったんだね。色々とややこしいけど、とにかくあの時はありがとう、助けてくれて!

 

緋村零

礼には及ばない。お前のその『不殺』の信念を否定するつもりはないし、俺だって出来ることなら無駄な殺生はしたくない。……だが、時には何かを殺さなければ、絶対に守り切れない物がある。それだけは、プロとしてしっかり頭の片隅に叩き込んでおけ

 

少しだけ先輩風を吹かすように釘を刺す俺だったが、千束は悪戯っぽく笑いながら、俺の顔を真っ直ぐに見つめてきた。

 

千束

ううん、それだけじゃないよ。私が言いたいのは……さっき、たきなに寄り添って、あの子を救ってくれたこと。そのことも含めて、本当にありがとう、時雨君!

 

……ふっ。やはりこの少女は、前世(原作)の記憶にある姿と何一つ変わらない。どこまでも眩しく、底抜けに温かい光。

 

緋村零

やはり前世と同じで、お前はどこまでも優しいな

 

彼らの健在ぶりと、たきなの救済という目的を果たした今、これ以上ここに長居して調子を狂わされるのも不本意だ。そろそろ、お暇するとしよう。

 

緋村零

さて……注文した品も美味しくいただいたことですし、俺はそろそろ帰りますね

 

俺は伝票を手に取り、席を立とうとした。しかし、それを引き止めるように、千束が身を乗り出して俺の服の袖を掴んだ。

 

千束

ねぇねぇ、時雨君! 転生者さんってことはさ、もしかして今は1人暮らしなの?

 

……途端に、俺の第六感が強烈な嫌な予感を告げて警鐘を鳴らし始める。

 

緋村零

……まあ、諸事情あってそうだが。それが何か?

 

千束

やっぱり! だったらさ、前世でもここで働いてたんでしょ!? 決定! またここで、私たちの仲間として一緒に働いてみない? 有能な男手、大歓迎だよ!

 

やっぱりその展開か……。俺は心の中で盛大にため息をつきつつ、あえて表情を崩さずに試しに聞いてみた。

 

緋村零

……本当に、俺のような訳ありの化け物を雇ってもいいのか?

 

千束

もっちろん! 賑やかな方が楽しいしね! 皆も、文句ないよねっ!?

 

たきな

……はい、私も大賛成です! 時雨さんが先ほど言ってくださった言葉で、私は自分が本当にすべきこと、進むべき道を見つけられましたから。今度は私が、時雨さんをサポートしたいです!

 

ミカ

私も賛成だな。元リリベルという経歴や、あの『JTR』としての腕前は申し分ない。何より、前世でこの店にいたというのなら、尚更断る理由はないさ

 

みずき

アタシも全然オッケーよ! 年下だけど、これだけイケメンで頼りがいがあるなら、人手が増えて大助かりだしね!

 

外では冷たい雪が舞い散る中、この小さな喫茶店の中だけには、呆れるほどに温かい絆の光が満ち溢れていた。全員の弾むような賛同の声に、俺は仮面の裏で降参するように小さく苦笑した。

 

緋村零

……まったく。そこまで熱烈に歓迎されるなら、少しばかりお世話になるとしようかね

 

こうして、俺は『JTR』という裏の顔を隠しながら、喫茶リコリコの新たな店員としての籍を置くことになった。

SAOのデスゲームが始まるその時まで、この温かな居場所を守り抜き、さらなる力を蓄えるために。

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