ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜 作:霧のイージス艦
緋村零
さて、これで10個小隊が出来た訳だ。で…大高さんから指示だが…待機だ。
緊迫した空気が一瞬で霧散し、司令室には派手なズッコケの音と、それから一拍置いた大ブーイングが鳴り響いた。
漆黒の特殊作戦ギアに身を包み、今まさに戦場へ飛び出そうと闘志を滾らせていた防人たちにとって、その言葉はあまりにも見事な肩透かしだった。
錦木千束
ちょっと待ってよ零ー! こっちはもう、いつでもDA本部に殴り込めるようにハートのエンジン全開だったんだけど!?
井ノ上たきな
千束、落ち着いてください。……ですが零、この状況での待機命令には疑問が残ります。DAはすでに証拠隠滅や子供たちの処分に動いているはずです。一刻を争うのでは?
キリト
俺たちも、新しい武器の感触を体に馴染ませて、あとは引き金を引くだけの段階まで持ってきてたんだ。ここで生殺しはちょっときついな……
比企谷八幡
おいおい、勘弁してくれよ。せっかく地獄のシゴキに耐えて、冷徹な参謀ごっこをする覚悟を決めたってのに、出番お預けか? まあ、個人的には働かなくて済むなら永久に待機でも一向に構わんがな
川崎沙希
八幡、あんたねぇ……。少しは締まった顔をしなよ。せっかくあたしもあんたの後ろを護る黒い盾になる覚悟を決めたんだからさ
緋村零
お前らの言い分はごもっともだし、千束たちのズッコケのキレが良すぎて俺の腰も死にかけた。だが、これには表の政治戦と裏の強襲戦を『完全同期』させるための絶対的なロジックがあるんだよ。なあ、主任参謀?
零は苦笑しながら、新しく配備されたメガネのブリッジを指先で静かに押し上げた八幡へと視線を振った。
比企谷八幡
……チッ、話を振るなよ。まあ、大高さん――いや、大高議員たちの狙いは明白だ。今、このタイミングで俺たちがDA本部に突入して物理的に叩き潰しても、それはただの『テロ』か『武装暴動』として処理されるリスクがある
綾小路清隆
その通りだ。菅内閣の総辞職に伴う解散総選挙の火蓋が切られた今、世論の目は完全に表の政治の動向に集まっている。ここで裏の軍事行動だけを先行させれば、DAの上層部やその背後にいる売国奴どもに『国家の犬が暴走した』と逆宣伝され、最悪の場合は証拠ごとさらに深い闇に潜まれる可能性がある
坂柳有栖
ふふ、流石は清隆くん。チェス盤のルールが変わったのですよ。表の選挙戦で大高さんたちが現政権の不甲斐なさを突き、次期政権の主導権を確実に掌握するその瞬間。それと同時に、DAが隠蔽のためにシステムを開いたその刹那こそが、真のチェックメイトのタイミングです
ザ・ボス
その通りよ、若い防人たち。戦いとは、ただ銃を撃ち、敵を殲滅することだけではない。法的な大義名分、世論の支持、そして敵が最も油断する瞬間を見極めること。すべてが揃って初めて、国を正す真の『天岩戸作戦』は成立する
ザ・ボスは腕を組んだまま、静かだが威厳に満ちた声で部屋全体を包み込み、浮き足立ちかけた子供たちの空気を一瞬で引き締めた。
黛煙
旦那様。それでは、私たちが今この待機期間中にすべきことは……
緋村零
ああ。大高さんたちが表で完璧な舞台を整えるその日まで、俺たちの戦術ネットワークと連携の精度をさらに極限まで高める。それと、八幡や清隆たちが構築した『全スキャンダル自動誤爆ロジック』の最終調整だ。DAが油断して身内に牙を剥いた瞬間に、社会的にも物理的にも、この世から跡形もなく消し去るためのな。……ってわけで千束、そんなに腐るな。待機期間中は、スプリングフィールドの特製ケーキが食べ放題だそうだ
錦木千束
えっ!? 本当!? よっしゃあ! 待機万歳! じっくりたっぷり牙を研いじゃうぞー!
ピトフーイ
アハハ! ケーキ食べ放題なんて最高じゃない! でも零、私の銃が退屈で錆びつかないように、模擬戦の相手くらいはたっぷりしてもらうわよ?
エム
……エルザ、頼むから大人しく待機していてくれ……
緊迫感とコミカルさが絶妙に混ざり合う中、八咫烏(ヤタガラス)の防人たちは、来るべき国家リセットの瞬間に向け、静かに、しかし確実にその殺意の刃を研ぎ澄まし始めるのだった。
緋村零
まぁ、訓練以外に大高さんから要請が有ってな。セブン、達也、キリト、エイジ達4人だ。電子励起爆薬、作れるか?
唐突に投げかけられたそのあまりにも物騒な単語に、指名された4人だけでなく、周囲にいた技術屋の面々が一斉に視線を鋭くさせた。
特に『魔法科高校の劣等生』の世界から転生し、その爆薬の恐ろしさと有用性を誰よりも熟知している達也は、表情一つ変えないまま、その深い夜の色の瞳を微かに細めた。
司波達也
電子励起爆薬……。分子を構成する電子を強制的に高エネルギーの励起状態へ移行させ、その状態をナノ結晶構造の内部に凍結・安定化させた次世代の高エネルギー密度材料(HEDM)か。確かに俺のいた世界では軍事機密の最高峰として扱われていたが、大高さんはそれをこの世界で再現しろと?
セブン
ええっ!? 電子の励起状態をそのまま安定定着させるなんて、現代のナノテクノロジーや量子力学の常識を遥かに超えてるよ! でも……おもしろい。この歪んだ世界線の物理法則と、私がロシアで触れていた旧ソ連系の軍事データ、それに戦術人形の『コア技術』の応用理論を組み合わせれば、理論上の数式は組み立てられるかもしれないわ!
セブンは天才科学者としての旺盛な知的好奇心をその瞳にギラギラと輝かせ、すぐさま私物のハイスペック端末のキーボードを高速で叩き始めた。
キリト
おいおい、セブン、もう乗り気かよ……。いや、確かに電子制御の分野なら俺やエイジにも手伝えることはあると思う。前世のSAOのサーバー管理や、オーグマーの限定空間における量子演算データの処理技術を使えば、励起状態を維持するための『電子の檻(磁気拘束フィールド)』の制御プログラムは組めるはずだ
エイジ
ああ、キリトの言う通りだ。オーディナル・スケールで使われていた広帯域次世代ウェアラブルデバイスのミリ波管制システム。あの超高精度な局所電磁場制御をミクロサイズに縮小して応用すれば、ナノ結晶が外部の衝撃で不意に崩壊するのを防ぐ『電子安全装置(セーフティ・ロック)』の構築は可能だと思う
キリトとエイジは顔を見合わせ、技術者としての視点から瞬時にシステムの補完計画を組み立てていく。現代の科学を置き去りにした天才たちの高速な議論に、周囲の防人たちはただただ圧倒されるばかりだった。
司波達也
俺の世界では、その結晶構造の安定化と、起爆時における電子の解放タイミングの同調制御が最大のネックだった。だが、セブンの異世界のエネルギー理論と、キリト、エイジの超高度な電子制御ネットワークがあれば、この世界独自の『複合型電子励起爆薬』の製造は十分に可能だ
緋村零
流石は各世界の最高峰の天才たちだ、話が早くて助かる。大高さんからの裏の要請っていうのはな、これから決行される『天岩戸作戦』において、DAが保有する頑強な地下シェルターや独立重要拠点の隔壁を、周囲に無駄な爆風や熱害を一切撒き散らさずに『分子結合の崩壊』だけでピンポイントに消滅させるための超精密破壊兵器が必要なんだよ。通常兵器じゃどうしても一般市民を巻き込む大爆発になっちまうからな
比企谷八幡
なるほどな。周囲への被害はゼロ、だが標的の防壁だけを分子レベルで完全に消し去る魔法の爆薬、か。大高議員も綺麗事を言いつつ、裏ではとんでもないジョーカーを仕込もうってわけだ。まあ、実戦で余計な流れ弾や爆風に怯えなくて済むなら、参謀としてはこれ以上ない手札だな
八幡はメガネの奥の目を光らせ、チェス盤の上にまた一つ、絶対的な勝利の駒が追加されたことを冷徹に確信した。
ザ・ボス
いいわ、大高総理たちの政治的な大義を裏から支える、これ以上ない理外の矛ね。セブン、達也、キリト、エイジ。あなたたちの知略と技術の結晶、そのすべてをこの八咫烏の勝利のために捧げなさい。ただし、製造時の安全管理だけは絶対に怠らないこと。あなたたちは戦士である前に、守るべき未来の子供たちなのだから
4人
了解!
ザ・ボスの厳格ながらも温かい訓戒に、4人の天才たちは力強く応じ、新時代のテクノロジーを融合させた未知のジョーカーの具現化に向けて、即座に極秘の開発セッションを開始するのだった。
緋村零
後、これもだ。作れるか?
高性能多機能タクティカルサングラス
採用組織:陸海空自衛隊、警察、海保
解説
外観はタクティカルサングラス。暗視とサーマル装置のシステムを組み込んだ新世代装備。従来の装置よりも邪魔にならない。
零が懐から取り出したもう一枚の設計データがメインモニターに映し出されると、先ほどまで爆薬の数式を睨みつけていたキリトとエイジの目が、今度は驚きと歓喜で一気に跳ね上がった。
そこに映っていたのは、従来の武骨で重厚な暗視ゴーグル(NVG)の常識を根底から覆す、極めてスマートで洗練された一本のタクティカルサングラスの3Dモデルだった。
キリト
おいおいおい! 零、これって……どう見ても俺たちが前世の現実世界で使っていた、あのAR型情報端末『オーグマー(Augma)』の光学フレームがベースになってるじゃないか!
エイジ
間違いない。オーグマーの最大の特徴だった、超小型高精度の『網膜投影システム(レーザー網膜走査ディスプレイ)』の技術だ。これなら、液晶パネルを目の前に置く必要がないから、フレームを普通のサングラスサイズまで極限まで薄型化できる。それに、視界を塞がずに現実の風景へ直接、暗視やサーマルの補正映像をオーバーレイ(重ね合わせ)できるぞ
二人はモニターの設計図に吸い寄せられるように一歩前へ出ると、前世で使い慣れた最先端ウェアラブルデバイスの構造を瞬時に見抜き、熱っぽく語り出した。
セブン
なるほどね! オーグマーの網膜投影技術をハードウェアのコアにするわけか。それなら、私の方でロシアのミリタリーネットワークから引っこ抜いておいた最新の『超高感度CMOSセンサー』と、戦術人形の光学アイに採用されている『広帯域赤外線・熱源探知アルゴリズム』のプログラムをデバイス内にパッキングできるよ。可視光がゼロの完全な暗闇でも、昼間と全く変わらないクリアなカラー視界を確保して、同時に壁の向こうの敵の体温まで完全に透過・視覚化してみせるわ!
セブンは楽しげに指を鳴らし、サングラスのレンズ部分に実装される異次元のセンサー群のスペックを次々と書き換えていく。
司波達也
光学迷彩の看破や、魔力的・超常的なエネルギー残滓の視覚化フィルターなら、俺の世界の精霊の眼(エレメンタル・サイト)の観測理論を応用した演算プロセッサを組み込めば対応できる。陸海空の自衛隊や警察、海保への制式配備を見据えているなら、ハードウェアの耐久性は米軍のミルスペック(MIL-STG-810H)を遥かに超える、チタン合金とナノ結晶グラフェンの複合フレームにするべきだな。どんな至近距離の爆風や衝撃を受けても、歪み一つ起きない強靭さを持たせよう
達也は静かな口調のまま、あらゆる過酷な戦場に耐えうる絶対的な物理剛性と、神の眼にも等しい多機能観測システムをそのスマートなフレームの中へと設計していった。
クルミ
ちょっと、僕の専門分野をそっちの天才たちだけで完結させないでよね? 陸海空に警察、海保の全部隊がこれを装備するってことは、戦場での『リアルタイム・データリンク』の構築が必須でしょ。全国のレーダー網やDAの監視衛星、それに我がエルモの戦術ネットワークのデータをすべてこのサングラスの視界に直接同期させる『統合バトルマネジメントOS』の暗号化パッチは、この世界最強のハッカーであるウォールナット様が直々に組んでやる
カウンターの奥からロリポップを咥えたクルミが不敵に笑いながら参入し、このサングラスが単なるゴーグルの代替品ではなく、戦場全体を支配するための『歩く指揮管制端末』へと昇華することを示唆した。
比企谷八幡
従来のNVGみたいにヘルメットの前に重い機械をぶら下げる必要がなくなって、見た目はただのサングラス。おまけに暗闇が昼間になって、壁の向こうの体温が透けて見えて、味方の位置やドローンの映像まで全部視界に表示される、か。……おいおい、こんなもんを現場のSATや自衛隊のレンジャー全員が装備してみろ。情報戦を仕掛ける側からすれば、イカサマの透視メガネを配るようなもんだぞ。DAの隠密部隊なんて、文字通り一歩も動けないまま全員がハチの巣だ
八幡は呆れたように肩をすくめつつも、そのメガネの奥の腐った瞳には、完璧なまでの非対称戦争(一方的な蹂躙)を可能にする新装備への冷徹な計算が光っていた。
緋村零
はは、主任参謀のお墨付きも出たな。この『高性能多機能タクティカルサングラス』があれば、夜間や屋内での強襲作戦における八咫烏(ヤタガラス)の戦闘速度はさらに倍加する。大高さんたちが表の国会や選挙戦でDAの法的根拠を剥ぎ取る裏で、自衛隊や警察の精鋭部隊にこれを一斉支給し、一文字通り敵の『目』を完全に潰すんだ。……作れるな、お前ら?
キリト
当然だ。電子励起爆薬と並行して、こっちの試作品も秒速で立ち上げてみせるよ
エイジ
ああ、俺たちの技術の結晶が、この歪んだ複合世界の新しい『正義の目』になるんだ。最高のデバイスを完成させてみせるさ
頼もしい言葉とともに、キリト、アスナ、達也、セブン、エイジ、そしてクルミたちの手が、目まぐるしい速度でキーボードと設計ホログラムを動かし始めた。
八咫烏の誇る黒きギアの一部として、夜闇と欺瞞の霧をすべて切り裂く理外のデバイスが、今まさに産声を上げようとしていた。