ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜   作:霧のイージス艦

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拠点完成

大分県国東市安岐町の沿岸部に設営された八咫烏の新たなる拠点。物資の搬入から2日が経過し、地上にそびえ立つ建物は、零の生まれ故郷の美しい海と砂浜に溶け込む見事なカフェ「ズッケロ」の姿へと生まれ変わっていた。

 

緋村零

できたな。

 

完成した内装を見渡し、零は満足そうに呟いた。

 

【挿絵表示】

 

大きな窓の外には、朝日にキラキラと輝く穏やかな大分の海が水平線まで広がっている。一見すると、どこにでもあるお洒落で居心地の良い海辺のカフェ。だがその窓ガラスには、アメリカ大統領専用車『ビースト』と同等以上の防弾・防爆ラミネートが施され、壁面には内部の熱源を一切外へ漏らさない最新のサーマル遮蔽材が完璧に仕込まれている。外見は100%の平穏、内側は100%の戦略要塞という、八咫烏の新たな牙城だ。

カウンターの奥では、ピカピカに磨き上げられたエスプレッソマシーンの前に、これ以上ないほど上品で美しい佇まいでスプリングフィールドが立っていた。彼女の淹れたてのコーヒーの高貴な香りが、真新しい店内にふんわりと満ちていく。

 

スプリングフィールド

ええ、本当に素晴らしい出来栄えですね、零さん。前前世の懐かしいズッケロの温かみが、この綺麗な安岐町の海辺にそっくりそのまま蘇ったようです。これなら、過酷な訓練を終えた防人の皆様も、心から身体を休めることができますね

 

聖母のようなおっとりとした微笑みを浮かべ、スプリングフィールドは零の前にトレイを差し出した。そこには、彼女が2日間かけて厨房のオーブンと格闘し、完璧な焼き上がりを見せる特製のデコレーションケーキが美しく鎮座している。

 

錦木千束

うわあああああ!! 出来てる! ズッケロも、スプリングフィールドさんの特製ケーキも本当に出来てるーーー!!

 

店内に足を踏み入れた瞬間、千束は目を輝かせてカウンターへと突進した。漆黒のギアを外し、動きやすい私服姿の彼女は、すでに待機期間の憂鬱など微塵も感じさせない様子でケーキに釘付けになっている。

 

井ノ上たきな

千束、そんなに騒がないでください。……ですが、この短期間で外見の偽装を一切崩さずに、ここまでの防弾・サーマル対策の改修を終わらせるとは。大高さんたちのロジスティクスと、私たちの戦術人形の作業効率の高さには、正直驚かされました

 

たきなは生真面目に店内の防弾ガラスの継ぎ目を指先で確認し、その一切の隙のない職人技に感心したように小さく息を漏らした。

 

キリト

これなら、たとえ上空からドローンで熱源探知をかけられても、中に68人もの武装集団が潜んでるなんて夢にも思わないだろうな。地下の射撃場や達也たちの爆薬実験ブースの遮音も完璧だし、まさに理想的な隠れ家(セーフハウス)だよ

 

キリトはフロアの木製の椅子を軽く引き、座り心地を確かめながら深く頷いた。すぐ後ろでは、アスナがユイの小さな手を優しく引きながら、大きな窓から見える砂浜を眺めて微笑んでいる。

 

アスナ

本当に素敵ね、キリト君。この窓からいつでも綺麗な海が見えるなら、毎日のご飯作りもなんだか楽しくなりそうだわ

 

ユイ

パパ、ママ! お外の波の音が、とっても優しく聞こえます!

 

小さな手を叩いて喜ぶユイの姿に、キリトもアスナも自然と表情を和らげる。そんな家族の温かい空間から少し離れた窓際の席で、肘を突いて外を眺めていた櫛田桔梗が、フンと鼻で笑って相変わらずのトゲを吐き出した。

 

櫛田桔梗

はぁ、やっと完成したわけ? 2日間も埃っぽい中で作業させられて、マジで最悪だったんだけど。大統領専用車だか何だか知らないけど、どうせこんなド田舎にDAの部隊なんて来やしないでしょ。お巡りさんが釣れますかって聞きに来るような平和ボケした街なんだからさ。まぁ、このケーキが劇的に美味しいっていうのだけは、認めないこともないけどね

 

不機嫌そうに素の口調で毒を吐きながらも、スプリングフィールドが切り分けたケーキをフォークで器用に口へ運ぶ櫛田。その様子を、白い着物の裾を静かに揺らした両儀式が、どこか現実感のない、儚くも達観した瞳で見つめていた。

 

両儀式

ふふ……。トゲだらけの可愛いお嬢さんも、甘いお菓子の前では少しだけ牙が鈍るのかしらね。それにしても、本当に綺麗な海の家だこと。零、あなたがこののどかな景色の裏に仕込んだ鉄の蜘蛛の巣……。いつかここに飛び込んでくる哀れな羽虫たちは、一体どんな顔をして、このガラスに弾かれるのかしら? 少しだけ、その時が楽しみになってしまうわね

 

式は眠たげな切れ長の瞳を緩め、大人の余裕とお茶目さを感じさせる笑みを浮かべながら、慈しむように零へ語りかけた。

 

ザ・ボス

いいわ、拠点の確保と物理的な防壁の構築はこれにて完了ね。だが、ここからが天岩戸作戦の本当の準備フェイズよ。表の選挙戦の動向を八幡たちの情報班に監視させつつ、突撃班は地下の射撃場とこの砂浜の地形を利用して、各自の小隊連携をさらに極限まで練り上げなさい。私たちが再びこの扉を開けて外へ進み出るその時、敵の歴史は完全に終わるのだから

ザ・ボスの威厳に満ちた号令が、潮風の香る新しい「ズッケロ」の店内に響き渡り、防人たちの胸に静かな闘志の炎が再び灯るのだった。

 

緋村零

さて、俺と黛煙は周辺住民さんへの挨拶回りに行ってくる

 

零がそう言って私服の上着を軽く整えると、その隣に、前前世からの最愛の妻であり、そよ風小隊を率いる戦術人形――黛煙が静かに歩み出た。彼女が身に纏っているのは、グリフィン時代から変わらない、あの東洋の気品と美しさを極限まで引き立てる伝統的な衣装だ。純白を基調とし、鮮やかな紅色の差し色と緻密な刺繍が施された美しい衣服。スリットから覗くしなやかな脚のラインと、歩くたびに軽やかに揺れる高貴な衣装の裾は、こののどかな安岐町の朝日の光を浴びて、まるで一幅の絵画のような圧倒的な存在感を放っている。

長い黒髪を上品にまとめ、凛とした大人の色香と、戦術人形としての確固たる誇りを胸に宿した彼女は、零を見上げてそれはそれは優しく、慈愛に満ちた笑みを浮かべた。

 

黛煙

ええ、我が最愛の旦那様。新しい拠点を構えるにあたって、古くからこの地を守る周辺の皆様への礼節を尽くすのは当然の務めです。この黛煙、旦那様の妻として、そして八咫烏の一員として、地域の皆様に心からの誠意をお届けしてまいりますね

 

その鈴の音のように清らかで、どこまでも旦那様への深い愛情に満ちた丁寧な声音。戦場での苛烈な硝煙を一切感じさせない大人の包容力に、見守っていた若者たちからは一斉に感嘆の声が漏れた。

 

錦木千束

うわぁ……! 黛煙さん、いつ見ても本当に綺麗……! そのお洋服、大分県の青い海と白い砂浜にめちゃくちゃ映えてるよ! 零、こんな美人の奥さんを連れて近所を歩くんだから、鼻高々だね!

 

井ノ上たきな

千束、からかうのはよしなさい。……ですが零、黛煙さんのそのお姿は非常に上品ですが、少し目を引きすぎるかもしれません。周囲の住民の方々に余計な詮索をされないよう、あくまで『新しくオープンしたカフェの従業員』として、自然な形で挨拶を済ませてきてください

 

たきなは生真面目にエプロンの位置を直しながらも、零と黛煙の漂わせる完璧な夫婦の空気感に、どこか誇らしげな視線を送っていた。

 

キリト

あはは、確かにこんな美男美女の夫婦が挨拶に来たら、地元の皆さんもびっくりするだろうな。零、近所の美味しい特産品とかの情報があったら、帰ってから教えてくれよな

 

アスナ

そうね。ご近所の皆さんと良い関係を作っておくのは、私たちがここで暮らしていくためにも一番大切なことだわ。零君、黛煙さん、いってらっしゃい

 

アスナも優しく微笑み、ユイと共に二人の出発を温かく見送る。そんな幸せに満ちた空間の端で、カウンターの椅子に背もたれを預けた櫛田桔梗が、フォークを弄びながら素の口調で容赦のないトゲを吐き出した。

 

櫛田桔梗

はぁ? 近所への挨拶回りとか、マジで怠すぎ。なんでわざわざあんなクソ田舎の年寄りどもにペコペコ頭下げに行かなきゃいけないわけ? バカみたい。まぁ、その黛煙って人の見た目だけは、近所のジジババを黙らせるには最高の武器になりそうだけどさ。せいぜい、あの人たちの猫なで声に騙されて、変なゴミ情報掴まされて帰ってこないでよね

 

相変わらずの毒舌を撒き散らす櫛田だったが、黛煙の持つ圧倒的な美しさと気品に対してだけは、内心で一目置いているような視線を向けている。

 

両儀式

ふふ……。トゲのあるお嬢さんの言う通り、その美しい衣装は、あの平穏な老人たちにとっては少しばかり刺激が強すぎる夢かもしれないわね。でも、とてもお似合いよ、黛煙。零の魂の根底にあるあの静けさと、あなたのその清らかな佇まいは、まるで最初から一つの対の絵のようだわ。いってらっしゃい、二人の往く道に、優しい風が吹くことを祈っているわね

 

式はお淑やかに着物の袖を重ね、眠たげな切れ長の瞳に大人の余裕とお茶目な光を浮かべながら、現実離れした儚い微笑みで二人を送り出した。

 

緋村零

ハハ。黛煙は古箏の腕も良いぞ。なんせそよ風小隊は元々バンドだからな。俺も古箏はよく引いたな。

 

零が懐かしそうに目を細めてそう言うと、隣に立つ黛煙は、ほんのりと頬を桜色に染めながら嬉しそうに微笑んだ。伝統衣装の美しい袖をそっと合わせ、旦那様を見つめるその瞳には、深い愛着と誇りが満ちている。

 

黛煙

ふふ、旦那様にそう言っていただけるなんて、これ以上の誉れはありませんわ。私の奏でる古箏の音色は、すべて旦那様とそよ風小隊の皆のためにあるものですから……。またいつか、この安岐町の美しい海を眺めながら、旦那様と二人で静かに弦を弾き合える日を、今からとても楽しみにしていますね

 

彼女のどこまでも上品で清らかな声音に、店内の空気までが優しく洗われていくようだ。するとそこへ、廊下からパタパタと小走りでやってきた絳雨が、元気いっぱいに会話に加わった。

 

絳雨

だね!お兄ちゃんとお姉ちゃんが古箏引くと本当に綺麗な音色だもん!

 

元気よく胸を張って、自分のことのように自慢げに笑う絳雨。その天真爛漫な姿に、周囲で見守っていた防人たちからも一気に興味の混ざった声が上がった。

 

錦木千束

えええーっ! 零もその古箏ってやつ弾けるの!? 凄いじゃん! 黛煙さんのあの綺麗な衣装でそんな楽器弾かれたら、それだけでカフェにお客さん大殺到だよ! 待機期間が終わったら、絶対に私にも聴かせてよね!

 

井ノ上たきな

千束、身内の特技にいちいち騒ぎすぎです。……ですが零、その古箏という東洋の伝統楽器の音色なら、こののどかな海辺の街の雰囲気にも非常に調和すると思います。地域住民の方々を招いたイベントなどで披露すれば、融和の速度はさらに加速するかもしれませんね

 

たきなは手元のメモ帳を片手に、戦術的な地域融和プロットとしての有用性を生真面目に分析しつつも、零たちの意外な特技に感心したように目を細めていた。

 

キリト

元々バンドか。戦術人形の皆が楽器を演奏するなんて、前世のSAOや現実世界(リアル)の常識からは想像もつかないな。でも、零と黛煙さんの合奏、俺も一度聴いてみたいな。きっと、アインクラッドの広場で流れていた環境音楽よりも、ずっと心に響くんだろうな

 

アスナ

ええ。銃弾が飛び交う過酷な前前世の中でも、そうやって音楽を大切にして、絆を繋いできたのね。ユイ、零パパと黛煙ママの音楽、いつか一緒に聴かせてもらおうね

 

ユイ

はい、ママ! ユイ、とっても聴きたいです! お兄ちゃんとお姉ちゃんの綺麗な音楽、今からワクワクします!

 

アスナの傍らでユイも小さな手をきらきらと輝かせ、無邪気に期待の声をあげる。そんな温かい家族のやり取りから少し離れた窓際の席で、髪を指先で弄んでいた櫛田桔梗が、素のトゲトゲしい口調のまま、フンと鼻を鳴らして毒を吐いた。

 

櫛田桔梗

はぁ? 古箏だか何だか知らないけど、そんな地味な楽器でバンドとか、どんだけ古臭いわけ。まぁ、近所の暇を持て余した年寄りどもを騙して、お茶菓子を巻き上げるくらいには役に立ちそうだけどさ。せいぜい、その猫なで声と古臭い音楽で、ド田舎の住人たちを良い感じに洗脳してきてよ。余計なトラブル持ち込まれるよりはマシだからさ

 

相変わらずの素の毒舌を吐き散らす櫛田。しかし、絳雨の嬉しそうな顔や黛煙の気品ある佇まいに、内心ではその異質な文化の重みを認めざるを得ないようだった。

 

両儀式

ふふ……。トゲだらけのお嬢さんも、二人の美しい旋律の前には、少しばかり耳を傾けたくなるのかしらね。古箏の響き、か……。万物の寿命を線として視てしまう私の眼であっても、その清らかな音色の中には、不確かな夢のような美しい生(せい)の輝きが宿るのでしょうね。零、黛煙、あなたたちの織り成す音が、こののどかな安岐町の海辺にどのような優しい風を呼ぶのか……少しだけ、お茶目な期待をさせてもらうわね

 

式はお淑やかに白い着物の袖を整え、眠たげな切れ長の瞳に大人の余裕とお茶目な光を湛えながら、どこか現実離れした儚い微笑みを二人に向けた。

 

ザ・ボス

いいわ、音楽というのもまた、人々の心を繋ぎ、戦士の魂を癒す立派な手段よ。零、黛煙、あなたたちの絆の音色を、まずは近隣の防衛線――すなわち地域社会の懐へと浸透させてきなさい。天岩戸作戦の基盤をより強固なものにするために、行ってらっしゃい

 

ザ・ボスの威厳と深い信頼が籠もった号令を背に受け、零と、原作通りの美しい伝統衣装を纏った黛煙、そして絳雨に見送られながら、朝日に輝く大分県国東市安岐町の穏やかな街並みへと、周辺の挨拶回りに向けて静かに歩みを進めるのだった。

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