ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜   作:霧のイージス艦

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根源接続者「両儀式」

 

両儀式。

俺が彼女と最初に出会ったのは、あの直死の魔眼を覚醒させ、凄絶な戦闘を行った電波塔事件の夜、ベッドに横たわった後に見た夢の中だった。

 

緋村零(時雨)

……なんだここ?

 

俺が気がつくと、そこは満開の桜の木々がどこまでも立ち並ぶ、幻想的な森のような場所だった。静寂に包まれた空間の中、ひらひらと美しい桜の花びらが止めどなく散っている。

 

緋村零(時雨)

夢の中か……? それとも、精神世界か何かか……?

 

前世の記憶を頼りにそんな事を考えていると、背後の暗闇から鈴を転がすような、だがどこか底冷えのする凛とした声が響いた。

??

あら。ここにお客様が来るなんて、一体どんな間違いなのかしら?

 

緋村零(時雨)

ッ!

 

俺は弾かれたように声がした方向へ振り向いた。そこに佇んでいたのは、やはり俺の予想通りの人物だった。

 

緋村零(時雨)

両儀式……

 

白い着物を優雅に纏い、その手に一振りの刀を持った美しい女性。紛れもない、両儀式だった。

 

あら。私の名前を知っているのね。

 

式は意外そうに眉を上げるが、俺はフッと息を吐いて仮面の奥の視線を鋭くした。

 

緋村零(時雨)

惚けるなよ。お前にはすべてが見えているはずだ。……俺が、何者なのか。

 

俺が式に向けて静かに言い放つと、彼女は少しだけ目を見張り、それから楽しそうに口元を綻ばせた。

 

そうね。貴方が何者なのか……それがどこから来た存在なのか、確かに分かるわ。でも、ここにいては駄目よ。貴方もよく知っていると思うけれど。

 

緋村零(時雨)

『境界のない場所』。確固たる名前を持つ俺のような生者が、本来は居てはいけない世界……だろ?

 

俺は淡々と答える。まあ、前世でも型月作品はゲーム、アニメ、漫画等の一通りを網羅していたし、その難解な設定も頭に入っている。ここがどういう領域なのかはすぐに理解できた。

 

なら、なぜここに来たの?

 

緋村零(時雨)

望んで来たわけじゃねーよ。自分のベッドで普通に寝ていて、気づいたらここに引きずり込まれてたんだ。というか、俺をここに呼び寄せて会いに来たのは、そっちの方だろ?

 

俺がそう呆れたように答えると、式は声を立てて妖艶に笑った。

 

ふふ。ごめんなさい。貴方がどんな存在なのか気になって、少しカマを掛けてみたのだけど……どうやら貴方には無駄だったみたいね。

 

はぁ……まったく、油断も隙もない女だ。

 

緋村零(時雨)

で……俺に一体何の用……!

 

そこまで話し掛けた瞬間、桜の森の空間全体がぐにゃりと大きく揺らぎ始めた。

 

緋村零(時雨)

……チッ。夢の終わりって所かな。

 

そのようね。時間切れのようだわ。

 

俺が呟くと、式も名残惜しそうに頷く。

 

緋村零(時雨)

まぁ、また会おうぜ。

 

えぇ。また会いましょう。次は――

 

そこで俺の意識は完全に途絶え、現実の朝へと引き戻された。だが、俺はその目覚めた瞬間から、自分の身体に対して強烈な、そして決定的な『違和感』を感じていたのだ。

 

そして、話は現在に戻る。

ホワイトルームの冷たいホールの通路で、俺は今、現実の肉体を持った両儀式と完全に対峙していた。

 

緋村零(時雨)

……久しぶりだな。

 

えぇ、久しぶり。やっと現実で会えたわね。

 

俺が仮面の奥から声をかけると、式は当然のように言葉を返してくる。その異様なやり取りに今にも銃撃を再開しそうな千束とたきなに向けて、俺は短く手を挙げた。

 

緋村零(時雨)

二人とも、その人は敵じゃない。銃を下ろせ。

 

俺の言葉に、千束とたきなは困惑しながらも、お互い顔を見合わせてゆっくりと銃口を下げた。さて……。

 

緋村零(時雨)

夢の中で再会の約束はしたが、随分と速い再会だな? こんな場所で待ち伏せしているなんて。

 

ふふ。少し、ね……。どうしても直接、貴方に会っておきたくて。

 

式は刀を鞘に収めながら、ふっと意味深に笑う。

 

緋村零(時雨)

で、何の用だ? わざわざこんな危険な施設にまで足を運んで。

 

俺が核心を突くように聞くと、式の表情が少しだけ真剣なものへと変わった。

 

貴方の身体のことよ。もう自分でも、明確に気付いているんでしょ?

 

緋村零(時雨)

……根源に接続してることだろ?

 

そう。あの満開の桜の夢から覚めた後、俺は自分の見ている世界の景色や、五感のすべてがそれまでと完全に違っていることに気付いた。世界に走る『死の線』が、より深く、より鮮明に脳へと流れ込んでくる感覚。それが、自分が『根源』へと接続してしまった結果だと理解したのは、夢から覚めてすぐのことだった。

 

分かっているのならいいわ。話が早くて助かる。

 

緋村零(時雨)

だが、それだけじゃないだろ? お前がわざわざ俺の前に現れた本当の理由は……。

 

……そうね。貴方に力を貸すために、私はここに来たのよ。

 

その言葉には、さすがの前世の知識を持つ俺でも驚きを隠せなかった。あの孤高の存在である両儀式が、自ら組織に縛られず、俺たちに力を貸すと宣言してきたのだから。

 

緋村零(時雨)

そいつはありがたいが……本当にいいのか?

 

勿論よ。貴方という存在を特等席で見ているのは、退屈しなくて本当に面白いもの。それに、これだけは約束してあげる。私はあなた達を守るために戦う。何があっても、絶対に裏切らないわ。

 

ふ……面白い。まさかこんな最強の味方が向こうから転がり込んでくるとはな。

 

緋村零(時雨)

分かった。そこまで言うなら歓迎するよ。よろしく頼むよ、式。

 

俺がそう言って彼女の手を受け入れようとした時、不意にたきなが警戒を解かない硬い声で俺の背後に歩み寄ってきた。

 

たきな

……本当に、信頼出来るんですか? 彼女の素性も目的も、まだ何も分かっていませんが。

 

緋村零(時雨)

大丈夫だ。式は、俺と全く同じ『眼』と、同じ力を持っている。彼女が裏切ることはあり得ない。問題ないさ。

 

たきな

……貴方がそこまで言うなら良いのですが。一応、頭に入れておきます。

 

たきなは俺の絶対的な確信に押され、ひとまず納得して銃を完全に収めた。

 

緋村零(時雨)

よし、全員揃ったな。これ以上の長居は無用だ、撤収するぞ!

 

俺たちは清隆、渚、達也、そして女子居住区から救出した少女たちを一斉に率いて、ホワイトルームの崩壊する防衛線を完全に突破し、一路、俺たちの拠点である『喫茶リコリコ』へと撤収を開始した。

無事に全員を連れ出し、作戦は完全成功に終わった。しかし、この時の俺はまだ知らなかった。リコリコに戻った後、この世界のクロスオーバーの歪みが、さらに俺を驚愕させる事態を引き起こすことになるということを――。

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