ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜   作:霧のイージス艦

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現世に来てほしい首相さん

 

俺たちは怒涛の救出作戦を完全成功させ、深夜の喫茶リコリコへと戻ってきた。

激しい銃撃戦の緊張感から解放され、店の扉を開けると、いつもの見慣れた温かい空間が俺たちを迎えてくれた。

 

緋村零(時雨)

ミカさん、ただいま戻りました。

 

ミカ

おかえり、3人共。怪我はないかい?

 

カウンターの奥から、ミカさんがいつもと変わらない穏やかな声で俺たちを出迎えてくれる。そして、俺たちの背後に隠れるようにして入ってきた子供たちに視線を向け、優しく微笑みかけた。

 

ミカ

君達が綾小路清隆君と、その親友達だね。私はミカ。この店のマスターだ。まずは長旅、ご苦労様。よろしく。

 

清隆達

……よろしくお願いします……。

 

清隆君をはじめ、子供たちはまだ見知らぬ大人を前にして、警戒心を完全に解いてはいない様子だった。

因みに、ホワイトルームから一緒に助け出した少女たちは、それぞれの『親友』である清隆君、渚君、達也君の周りにぴったりと寄り添うように固まっている。

綾小路清隆の隣で静かに周囲を観察している少女が、椎名ひより。

潮田渚の袖を不安そうに握りしめている少女が、神崎有希子。

そして、司波達也の背後に影のように寄り添い、盲目的なまでの信頼の視線を向けている少女が、司波深雪だ。

……正直なところ、前世の膨大なアニメや原作の知識を持つ俺は、このあまりにも濃すぎる異色のメンツを一同に見た瞬間、あまりの状況の混沌さに猛烈な眩暈がしたと同時に、今後の世界の動向を考えて胃がキリキリと痛み出した。理由は、察してほしいとしか言いようがない。

 

ミカ

おや、そちらの彼女は……?

 

ミカさんが、俺たちの後ろから平然とついてきて店内の椅子に腰掛けた、白い着物の女性へと視線を向けた。

 

両儀式よ。式でいいわ。そこにいる時雨とは、まぁ、同じ『眼』と力を持つ者同士よ。

 

式のその一言を聞いたミカさんは、あからさまに驚いたように目を見張った。俺と同じレベルの規格外の能力者がもう一人現れたのだから、無理もない。

 

緋村零(時雨)

ミカさん。式は敵ではないですよ。道中で俺たちを助けるために現れてくれた協力者です。安心してください。

 

俺は慣れた手つきでM4A1を分解し、パーツを丁寧にクリーニングしながらミカさんに告げた。実戦で銃を撃った後は、即座に分解・整備を行うのはプロとして当然の常識だ。隣では千束とたきなも、それぞれ自分の相棒であるHk416DとAR-15の手入れを始めている。

 

千束

時雨、ちょっとその右側にある精密ドライバー取って。

 

緋村零(時雨)

ほい、これだろ。

 

千束

サンキュー! 助かる!

 

そんなこんなでリコリコの日常的な風景の中で銃の点検と整備を終え、綺麗になった得物をガンケースに戻すと、それらをまとめて地下の武器庫へと運んだ。

一仕事を終えて店内に戻り、俺はカウンター越しにミカさんへと向き直る。

 

緋村零(時雨)

ミカさん。今回のホワイトルーム救出作戦ですが、道中の警備員の装備や施設の隠蔽規模を含めて、やけに政治色の強い裏を感じました。もしかして、今回の件をリコリコに直接依頼してきたのは、政界の人間ですか?

 

俺が単刀直入に尋ねると、ミカさんは珈琲を淹れながら、少し困ったように苦笑した。

 

ミカ

……さすがは時雨だね、察しが良い。君の言う通り、今回の依頼は政府の要職にある政治家からの極秘案件だ。……で、その依頼者たちなら、ついさっきまで私と話をしていたんだが、今は2階にいるぞ。

 

緋村零(時雨)

へ? 2階に……?

 

俺が驚いてリコリコの2階へと視線を向けた、その瞬間だった。トントンと階段を降りる足音が響き、奥から2人の威厳ある男性が姿を現した。その顔ぶれを目にした瞬間、俺の脳内は再び大きな衝撃に見舞われることになる。

 

大高弥三郎

始めまして。衆議院議員の大高弥三郎です。

 

高野五十六

日本国海上自衛隊、海上幕僚長の高野五十六だ。よろしく、若きリコリスたち。

 

緋村零(時雨)

(……大高弥三郎衆院議員! それに、高野五十六海上幕僚長だと!?)

 

俺は完全に言葉を失った。なんせ、前世の記憶にある架空戦記の歴史改変作品において『現世に来てほしい首相ランキング不動の1位』と称される大高弥三郎、そして日本が誇る『軍神』とも呼べる名将、高野五十六が、この現代のクロスオーバー世界でタッグを組んで目の前に現れたのだから。

 

深雪

大高さん……!

 

驚いたことに、司波達也の隣にいた司波深雪が、顔を輝かせて大高議員の元へと駆け寄っていった。どうやら知り合いらしい。

 

大高

おやおや、達也君に深雪さん、お久しぶりですな。君たちが四葉一族の都合でホワイトルームに入れられたという噂はかねがね聞いていたが、本当にこんな場所に拘束されていたとは。

 

深雪

はい。一族の命令で無理やり連れて行かれました。ですが……皮肉にもそのお陰で、施設の中で達也さんに再会することができたのです。

 

高野

……辛い思いをさせたな。我々は以前より、あの非人道的なホワイトルームから最高傑作である綾小路清隆君を救出する計画を立案していてね。そこで、ミカさんを通じて彼らリコリコに作戦を依頼したのだが……まさか、君たちまで一緒に連れ帰ってくれるとは、嬉しい誤算だ。

 

大高議員と高野幕僚長が、救出された子供たちの無事を心から喜ぶように話をしている。そんな中、状況を冷静に見極めていた清隆君が、静かに大高議員へと問いかけた。

 

清隆

大高さん。質問があります。俺たちを助けてくれた彼らは、一体何者なのですか? 動きを見る限り、民間の警備会社などとは一線を画す、極めて高度に訓練された戦闘集団のようでしたが……。

 

ミカ

ふむ。それについては、元教官である私の方から説明しよう。

 

ミカさんが清隆君の疑問に答える形で前に出た。そして、ホワイトルームの子供たちに向けて、日本の治安を裏で支える秘密組織『DA(Direct Attack)』と、そこに所属する少女兵『リコリス』の実態について、包み隠さず静かに説明を始めた。

 

清隆

……日本の治安を、俺たちと同い年の少年少女が暗殺という形で守っている組織、ですか……。

 

事実を知った清隆君たちホワイトルームの面々も、さすがに驚きを隠せない様子だった。当然だ。平和に見えるこの国の裏側が、そんな歪んだシステムで回っているのだから。

 

緋村零(時雨)

清隆くん、そんな大袈裟で格好いい組織じゃないですよ。上の連中が立てる作戦は正直穴だらけだし、自分たちのメンツや保身のためなら、トカゲの尻尾切りみたいに現場を切り捨てる。テロリストをおびき寄せるために、現役のリコリスを囮にするような腐った奴らですからね……。

 

俺はミカさんが淹れてくれた温かい珈琲を啜りながら、DAの冷酷な本質を吐き捨てるように付け足した。すると、清隆君たちとの話を終えた大高議員が、ゆっくりと俺の方へと近づいてきた。

 

大高

君が、今回の作戦の主軸を務めてくれた緋村時雨君だね。ミカさんから君の噂は予々聞いているよ。……君も、我々と同じ『転生者』なのだろう?

 

……あれ〜?

 

緋村零(時雨)

ミカさん……俺が前世の記憶を持つ転生者だってこと、この人に喋っちゃったんすね……。

 

ミカ

ははは、済まないな、時雨。だが、彼らなら隠す必要はないと判断したんだ。

 

はぁ……と俺は深いため息をつき、珈琲カップを置いて大高議員と高野幕僚長を見据えた。

 

緋村零(時雨)

……ということは、やはり大高さんたちも、前世の記憶を持ったままこの世界に生まれてきた転生者なのですね。

 

高野

うむ。その通りだ。我々もまた、別の歴史、別の世界からこの激動の現代へと命を繋いだ身でね。

 

俺たちは静かに話を続ける。まあ、俺自身は前世で『紺碧の艦隊』シリーズをアニメも原作も全て網羅しているから、彼らがどのような思想を持ち、どのような存在なのかは最初から全て知っているのだけれど。

 

緋村零(時雨)

それで……国家の要職に就いているお二人が、俺のような一介のリコリスの協力者に、一体何の用ですか?

俺がそう尋ねると、高野海上幕僚長は鋭い眼光を仮面の奥の俺の目へと向け、一歩足を進めて威厳に満ちた声で言い放った。

 

高野

単刀直入に言おう、時雨君。我々が秘密裏に組織している、この国の真の未来を守るための裏の転生者組織――『紺碧会』に、君を迎え入れたい。ぜひ、我々の仲間になってほしい。

 

緋村零(時雨)

ブッーーーーーーーーー!!!!!

 

そのあまりにも予想外で衝撃的すぎるスカウトの言葉を聞いた瞬間、俺は口に含んでいた珈琲を、正面に向けて盛大に吹き放っていた。

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