ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜   作:霧のイージス艦

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信じれる者達

 

俺は激しく咳き込みながら、口元を拭った。当然の反応だ。前世の知識がある俺からすれば、あの歴史改変の裏で暗躍する最強の転生者組織『紺碧会』に入ってくれと言われたのだから、心臓が止まるかと思った。

 

緋村零(時雨)

ゴホォッ! ゲホッ……! ……不躾ながら、因みに聞きますけど、何で俺を誘うんですか?

 

俺は吹き出した珈琲の始末をしながら、大高議員に直球で理由を尋ねた。

 

大高

そうですな。順を追って説明しましょう。

 

大高議員はリコリコの椅子に深く腰掛け、真剣な眼差しをこちらに向けた。

 

大高

まず、昨今の不穏な世界情勢は時雨君も当然ご存知ですな。

 

緋村零(時雨)

ええ、嫌というほど。ロシアのウクライナ侵攻、中東におけるイスラエルとイランの紛争とも言える激しい応酬、中国による尖閣諸島周辺への度重なる領海侵犯や違法海洋ブイの設置、さらには北朝鮮の相次ぐミサイル発射問題など、明らかに現在の日本の、いや世界の安全保障環境は戦後最悪のレベルで危機的状況にあります。

 

高野

その通りだ。しかし悲しいかな、我が国の多くの日本人は、あまりにも長く続きすぎた平和ボケに浸かっている。それどころか、果てしない増税に物価高騰も相まって、国民の生活は困窮し、国力そのものが内側から衰退するばかりだからな。

 

大高

政治家の本来の仕事とは、国家の主権を守り、国民の生命と財産を断固として守ることです。しかし……今の現世の政府は……。

 

緋村零(時雨)

どっかの増税クソメガネがまともに働きもしない国会議員の給料だけは速攻で上げるわ、どこかの某都知事や自称平和団体とやらは自衛隊のあらゆる正当な防衛活動を徹底的に批判して足を引っ張るわ……。正直、本当に狂ってますよ。このままだと日本は間違いなく亡国まっしぐらですよね。

 

大高

君の言う通りです、時雨君。実によく見えている。

俺が吐き捨てた痛烈な現状分析に、大高議員も高野幕僚長も深く肯き、全く同じ危機感を抱いていることをその表情で示した。

 

大高

では時雨君。もしもこの最悪の情勢のまま、今の日本が他国との本格的な戦争に突入した場合、一体どうなると考えますかな?

 

緋村零(時雨)

……少なくとも、一方的に負けますね。自衛隊の隊員一人ひとりの練度や個々の装備の質においては、間違いなく世界最強、あるいは世界有数のレベルでしょう。ですが、現在の圧倒的に不足している弾薬、燃料の貯蓄率では、ロジスティクスが崩壊して一ヶ月も持たずに完全に敗北します。

 

大高

その通りです。時雨君も知っての通り、我が日本は周囲を海に囲まれた島国であり、完全な無資源国家です。国を維持するためには海上交通路(シーレーン)の防衛が何よりも最重要。しかし、いざ今この瞬間に総力戦が始まったとして、我が国が独力で勝てるかと言えば、それは決してありません。

 

緋村零(時雨)

つまり……ただ無様に滅びる『負け』ではなく、国家の命脈を繋ぐための『より良き負け』、あるいは大国と対等に渡り合うための地盤を得るために、裏で何を行うべきか……そのための組織が『紺碧会』ですか。

 

大高

そうです。それに、我々が君をこうして直接スカウトしに来たのは、君の魂の『真実』を、あの我々をこの世に送り出した神様から直々に聞いたからなのですな。

 

俺はそれを聞いてさらに目を見張った。神様直々のリークか。なるほどな、合点がいった。

 

緋村零(時雨)

……他作品の主人公である潮田渚や司波達也、綾小路清隆がこの世界で同時に存在し、同じ施設に囚われていたのも……そう言う、神の悪戯か何かの理由ですか。

 

大高

その通りです。世界線が歪み、複数の運命が交差している。だからこそ、我々転生者の力が必要なのです。

 

重々しいトーンで交わされる俺たちの密談に、それまで静かに聞いていたたきなが、ついに耐えかねたように疑問の声を上げた。

 

たきな

……あの、すみません。先ほどから大高さんたちが言っている、時雨の『真実』とは一体何なのですか?

 

千束

そうそう! 私もさっきから気になってたんだけど〜! なんだか私たちだけ置いてけぼりじゃない?

 

二人の純粋な視線が俺に集まる。……フッ、そうだな。もうこれ以上、この世界で最も信頼する仲間たちに隠し事をする必要なんてない。話すべき時が来たんだ。

 

緋村零(時雨)

……分かった。全部話すよ。

 

俺は息を一つ吐き、リコリコのメンバー、そして救出した子供たちの前で、自分のすべての秘密を打ち明けた。

自分が実は前世という別の世界からの転生者であること。千束やたきな、ミカさんや先生、クルミたちの世界が、俺の前世では『リコリス・リコイル』という名前の架空のアニメ作品だったこと。清隆たちの世界も、渚たちの世界も、達也たちの世界も、それぞれが完全に独立した別々の物語(作品)であったこと。

そして――俺の本当の名前が『緋村零』であることを。

 

たきな

つまり……時雨は、前世からこのリコリコの店員だったわけでは、なかったということですか……。

 

千束

で、私やたきな、先生にクルミ達は、全員『リコリス・リコイル』っていう作品のキャラクターで……。

 

清隆

俺やひよりは『ようこそ実力至上主義の教室へ』という作品の世界の人間で……。

 

僕や有希子は『暗殺教室』という作品で……。

 

達也

俺や深雪は『魔法科高校の劣等生』という作品の人間だった、と……。

 

ミカ

なおかつ、時雨はそのすべての作品でこれから起こるはずだった未来の出来事を、最初から知っていたというわけかい……。

 

店内は、水を打ったような静寂に包まれた。無理もない。いきなり自分たちの生きる世界が『架空の物語が混ざり合った世界』だなんて言われたら、誰だって脳の処理が追いつかずに大混乱する。

 

緋村零(時雨)

ずっと黙っていたこと、そして……本当の素性を隠して嘘をついていたことには謝罪する。すまなかった。それに、この世界はいろんな作品が不条理にコラボしているクロスオーバー世界だ。俺の知る原作の通りになるかは分からない。だが……千束、たきな。お前たちは、こんな突拍子もない話を信じられるか?

 

俺は、拒絶や不信感を覚悟して二人に問いかけた。

 

たきな

……まぁ、いきなりこんな大それた話を聞かされても、すぐには信じられないですね。

 

千束

だよね~……。ちょっとスケールが大きすぎて、夢の話を聞いてるみたい。

 

でしょうね。それが普通の反応だ。

 

緋村零(時雨)

まぁ……そんなところだ。信じろと言う方が無理がある。

 

俺は正直、軽蔑されたり距離を置かれたりする覚悟はできていた。前世の知識で他人を操っていたと思われても仕方がない。しかし、俺が俯きかけたその瞬間、たきなが呆れたように小さく息を吐いて言った。

 

たきな

でも……別に私は気にしません。時雨のあの時の言葉と、これまでの行動がなければ、今の私はここにいませんし、命だって救われていませんから。

 

俺はその予想外の言葉に、驚いて顔を上げた。さらに、千束がいつも通りのひまわりのような笑顔を弾けさせる。

 

千束

そーそー! まぁ時雨がいなかったら、私やたきなが危ない場面なんて何度もあったしね〜! 転生者だか何だか知らないけど、時雨が私たちのために命を懸けてくれた事実は何も変わらないもん!

 

ミカ

それに、時雨がこの店に来てからというもの、うちの赤字続きだった売り上げも劇的に上がったからな。そこは感謝しか言えないよ。

 

清隆

何より……時雨がいなければ、俺たちはあの地獄のようなホワイトルームから一生脱出できなかったかもしれないんだ。言葉では言い表せないほど、本当に……感謝してる。

 

渚・達也

僕たちも、本当にそう思うよ。ありがとう、時雨君。

 

ひより・有希子・深雪

うんうん、本当にそうです!

 

子供たちが次々と俺に温かい笑顔を向け、式の言葉がそのトドメを刺すように響いた。

 

ふふ。貴方が勝手に一人で怯えているほど、この子たちの芯は脆くないわよ? ちゃんと貴方の『本質』を見ているわ。

 

温かい言葉の波が、仮面の裏の俺の胸を容赦なく満たしていく。

……はぁ。まったく。

 

緋村零(時雨)

……お前ら、揃いも揃って大馬鹿野郎だな……本当に……。

 

俺は視線を逸らし、照れ隠しに小さく、しかし心の底から愛おしそうに笑った。

 

緋村零(時雨)

なら、これからもよろしく頼むよ。……みんな。

 

俺の口から自然と、そして初めて心からの響きを伴ってその言葉が溢れた。

 

緋村零(時雨)

……親友。

 

前世の孤独な記憶を抱え、ただ生きるために戦ってきた俺(緋村零)は、この混沌とした歪なクロスオーバー世界で、ようやく何よりも固く、信じ合える本当の『宝物』を見つけたのかもしれない。

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