ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜 作:霧のイージス艦
俺は心底驚愕していた。なんせ、いま目の前に立っているのは、戦史にその名を刻む特殊部隊の母とも言える、あの伝説の英雄「ザ・ボス」なのだから。
緋村零
……何故、あなたがこの店に足を運んだんです?
ザ・ボス
理由は単純よ。私も紺碧会の一員として動いているから。
目の前のレジェンドが紺碧会に籍を置いているという事実に、俺の驚きはさらに跳ね上がる。そこへ、状況を掴みきれていない千束が横から声をかけてきた。
千束
零君、零君。さっきから言ってるそのザ・ボスって、一体誰のこと?
緋村零
あぁ、ザ・ボスっていうのはな……
俺は千束たちの疑問に答えるべく、彼女が歩んできたあまりにも壮絶で偉大な経歴をかいつまんで説明した。
千束
えっ、それってマズくない!? 本物の怪物じゃん!
たきな
世界中の特殊部隊の母……そんな伝説的な人物が、なぜここに……
規格外の経歴を知り、千束たちも完全に圧倒されている。
ザ・ボス
大高さんからの伝言を預かってきたのよ。今後の国を揺るがす方針について、直接話したいことがある。指定した日に、この料亭へ貴方たち全員で来てほしい、とね
ザ・ボスから手渡された一枚のメモ紙。そこには格式高そうな料亭の名前と、厳格な集合時間が記されていた。
緋村零
分かりました。……せっかくですし、何かお飲みになりますか?
ザ・ボス
気持ちだけ受け取っておくわ。私にはまだ、片付けるべき任務が残っているから
そう言い残すと、ザ・ボスは圧倒的な存在感を漂わせたまま店を後にした。
ミカ
零、どう思う?
緋村零
俺一人を呼び出すならまだしも、千束やたきなまで連れてこいとなると……一体、何を企んでいるのやら
俺はミカさんと意見を交わしながら、大高さんの真意を深く思考する。
緋村零
まあ……その日になれば、嫌でもはっきりしますよ。それまではいつも通りだ。式、すまないが指定された日は店のほうを頼めるか?
両儀式
ええ、分かったわ。留守は任せておきなさい
頼もしい式の言葉を聞きながら、俺は一息つくために再び休憩へと戻った。
それから数日の厳かな時間が流れた、指定の当日。
緋村零
ここか……
俺たちは、大高さんから指定された約束の場所に到着していた。
千束
うわぁ……すっごい高級料亭じゃん! 緊張してきた!
たきな
ですね……空気の重さが普通ではありません……
まあ、そうだろう。リコリスの任務や一般人の生活を送っていれば、こんな格式高い場所に足を踏み入れる機会なんて、一生に一度あるかないかだ。
緋村零
行こう、待たせるわけにはいかない
俺たちは意を決して料亭の門をくぐった。
女将
いらっしゃいませ。緋村零様とそのお連れ様ですね?
美しい着物姿の女将さんが、洗練された所作で俺たちを出迎える。
緋村零
はい。間違いありません
女将
大高様たちは、既に奥のお部屋でお待ちかねです。どうぞ、こちらへ
女将さんの流れるような案内に従い、俺たちは奥へと進む。そして、ひときわ広い格式高い居間へと通された。
女将
お連れ様がご到着いたしました
大高
入ってください
その声を合図に、俺たちは静かに居間へと足を踏み入れる。そこには――
高野
待っていたぞ、零君
緋村零
高野さん……それに、清隆君たちまで
清隆
久しぶりだな、零
渚
久しぶり
達也
久しぶりだ
広大な居間には、大高さんと高野さん、そして先日のザ・ボスだけでなく、保護されているはずの清隆君、渚君、達也君の姿まで揃っていた。互いに短く挨拶を交わした後、俺は本題を切り出す。
緋村零
それで、今日は一体どのような用件で俺たちを呼んだんですか?
大高
うむ。単刀直入に言おう。実は……
大高さんの口から語られた計画は、あまりにも常軌を逸した衝撃的な内容だった。
千束
クーデター!?
たきな
クーデター、ですか!?
緋村零
……正気ですか、大高さん?
いや、確かに原作の歴史でもクーデターは巻き起こっていたが、まさかこの面々が主導する側に回るとは。
高野
正気も正気、大真面目だ。このまま腐敗した政府をのさばらせておけば、日本は内側から完全に崩壊する
高野さんも大高さんも、一切の冗談を排除した極めて険しい表情を浮かべている。
緋村零
確かに、現状の腐りきった政府や上層部を根底からひっくり返すには、それしか手段はありませんね。ですが……具体的にどうやって実行するつもりです?
俺は大高さんたちに核心を尋ねる。
高野
既に嘉納防衛大臣をはじめ、陸海空自衛隊の各幕僚長たちは味方に引き入れている。このクーデター作戦の土台と準備は、水面下で着実に進んでいる状態だ
緋村零
よく公安に察知されませんでしたね
自衛隊の内部には常に公安警察の監視の目が紛れ込んでいるため、この手のクーデター計画は未然に防がれるのが世の常だ。それを潜り抜けていることに俺は感心する。
大高
それにな、このクーデターを成功させてDAを完全に制圧・解体し、少しでも多くの若きリコリスたちの命を救わねばならんのだ。それが大人の義務だ
緋村零
おっしゃる大義は十分に理解できました。しかし、その国家規模のクーデター計画において、俺たちに何を期待し、何をさせるつもりですか?
俺は回りくどい言い方を避け、単刀直入に彼らの要求を聞いた。
高野
君たち……いや、ここにいる清隆君たちも含めてだが、我々の直属となる自衛隊の「超法規的特殊部隊」として最前線で動いてもらいたい
たきな
自衛隊の、特殊部隊に……!?
千束
私たちが国の特殊部隊になるってこと!?
あまりのスケールの大きさに、千束とたきなは完全に気圧されている。
緋村零
俺自身は戦うことに異論はありませんが、何故まだ子供である清隆君たちまでこの作戦に参加しているんです?
清隆
それは、俺たちが自ら志願したからだ
大高
今回のクーデター計画の最終目的には、DAの解体だけでなく、ホワイトルーム残党といった闇の組織の完全壊滅も含まれているのだよ
渚
時雨君たちの襲撃以降、ホワイトルームは世間からの激しい批判を浴びて解体されたはずだった。だけど、その生き残りである残党どもが、また新たなホワイトルームを一から再建しようと暗躍しているらしいんだ。しかも、その背後にいる黒幕が……
緋村零
まさか、DAの上層部か……?
達也
その通りだ……。彼らはリコリスに代わる、あるいはそれを凌駕する都合のいい兵器を求めている
高野
我々のSR班からも全く同じ報告が上がっている。裏付けは取れており、間違い探しの余地はない。このまま放置すれば、いずれ清隆君たちのような境遇の子供たちが、再び何人も生み出されることになるだろう。その前に、根絶やしにせねばならん
なるほどな、合点がいった。すべては繋がっていたわけか。
緋村零
千束、たきな、どうする? 俺は当然、この作戦に乗るつもりだけど……お前たちの意思を聞かせてくれ
俺は隣に立つ二人の目を見つめて問いかける。
たきな
……私はやります! これ以上、理不尽に命が消費されるのを黙って見ていられません!
千束
私もやるよ。正直、子供を道具としか思ってないDAのやり方には、もうとっくにうんざりしてたしね!
緋村零
……だそうです。俺たちの答えは決まりました
俺たちの決意に満ちた言葉を受け、大高さんと高野さんは深く満足そうに頷いた。
高野
かたじけない。基本方針として、君たちや清隆君は現在の「喫茶リコリコ」を極秘拠点として活動を続けてくれ。具体的な作戦指示やデータは、その都度セキュア回線で送信する
緋村零
了解しました。それと、作戦を始める前に一つ……
俺は懐から、独自に改良を重ねた特製の非殺傷ゴム弾を取り出して机に置いた。
緋村零
こいつの量産体制を紺碧会のルートでお願いします。あと、清隆たちが前線に出るなら、彼らが使う武器のメンテナンスパーツや予備兵装も一級品を揃えてください
高野
お安い御用だ、すぐに手配しよう。それから、今回の作戦にあたり、ザ・ボスが君たちの専任教官として直々に指導を行う。そのつもりで励んでくれ
あの伝説の「ザ・ボス」が俺たちの教官になるだと? ……これは最高におもしろい展開になってきた。
緋村零
分かりました。よろしくお願いします、教官
ザ・ボス
ふふ、いい返事ね。貴方たちをいかなる戦場でも生き残れる、一流の特殊作戦隊員に鍛え上げてあげるわ
大高
これからの日本の未来、皆さんに託しますぞ。零君、そして若き戦士たちよ
こうして、清隆たちという心強い仲間を陣営に迎え、腐敗した国家をひっくり返し、真の日本を取り戻すための前代未聞のクーデター計画が、静かに幕を開けた。