ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜 作:霧のイージス艦
俺は今、羽田空港の広大な到着ロビーにある長椅子に腰掛けていた。目的は言うまでもなく、大高さんが新しく手配したという例の傭兵たちを出迎えるためだ。
緋村零
(……にしても、結構待たされるな)
空港の電光掲示板を見上げながら、到着予定時刻からすでに2時間が経過しようとしていた。
緋村零
(大高さんは、向こうの連中にも俺の情報を事前に伝えてあると言っていたが。まさか、何かしらのトラブルにでも巻き込まれたか?)
羽田空港に到着した直後、大高さんに一報を入れた際、確かに「迎えの者がロビーで待っていると伝えてある」と言われたはずなのだ。
緋村零
(まぁ、のんびり構えて待つと……)
最悪の事態は唐突に、そして暴力的にその幕を開けた。
アナウンス
緊急、緊急放送です! ターミナル内に銃を持った不審者が……きゃあぁあぁっ!!
凄まじい悲鳴がスピーカー越しに響いた直後、鼓膜を激しく震わせる爆音――ドガァン!!――と地響きが空港内を襲った。
硝子窓の向こう、音が響いた方位へと瞬時に視線を走らせる。
緋村零
マジかよ……
視界の先では、着陸したばかりの旅客機と、空港の要である管制塔が激しい炎を噴き上げて爆発していた。
一瞬にして黒煙が立ち込め、平穏だった空港内は瞬く間に地獄絵図のようなパニックへと一変する。躊躇いのない、あまりにも大規模なテロだ。
……チッ、DA(Direct Attack)の連中は何をサボってやがる。
緋村零
どうにも、胸クソ悪い嫌な予感がするな……
俺は低くそう呟くと、逃げ惑う群衆の波を文字通り切り裂くようにして、爆発の発生源へと向かって鋭く駆け出した。
その頃、黒煙の立ち込める滑走路付近――。
??(青年)
まさか日本国内に到着した早々、こんなお馴染みの連中を相手に実弾をブチ込む羽目になるとはな……
青年は冷静沈着な手付きで愛用の拳銃を構え、迫り来るテロリストの脳髄へ向けて容赦なく発砲を繰り返していた。
??
指揮官、このままだと流石に不味いわ。敵の増援が多すぎる
青年の傍らで、独特な形状をしたブルパップ式のアサルトライフルを冷徹に乱射している女が鋭く告げる。
指揮官
グローザ、敵の全滅は二の次だ。大高から聞いていた出迎えの人物と合流することを最優先に動くぞ
グローザ
承知したわ。ルートを切り拓くから、私の背後に付いてきて
再び、緋村零の視点――。
俺は今、激しく炎上する管制塔の目と鼻の先まで到達していた。
緋村零
もうすぐそこか……!
爆風を避けるため、ひときわ頑丈なコンクリートの物陰へと素早く身を隠す。そして、視界の先で銃を構える男の姿を捉えた。
緋村零
真島……
そこにいたのは、リコリス・リコイルにおける不滅の歪み、あの真島だった。しかし、事態はそれだけに留まらない。真島の周囲に佇む歪な影たちに目を凝らした瞬間、俺の網膜が微かに揺れた。
緋村零
! ……ヴァサゴに、ガブリエル・ミラーまで揃い踏みかよ……
そう。ソードアート・オンラインの劇中で数々の凄惨な事件を引き起こした最悪の狂人、ヴァサゴとガブリエル・ミラーがそこに並び立っていたのだ。
緋村零
……コイツらを生かして野放しにしておくのは、今後の計画にとってもあまりに厄介すぎる。ここで、確実に殺す
俺は迷うことなく物陰から堂々と姿を現し、彼らの背後から声を掛けた。
緋村零
久しぶりだな……真島
俺の冷徹な声に反応し、三人の怪物が一斉にこちらへと振り返る。
真島
あァ? 誰だ、テメェ
やはり俺のこの姿は見覚えがないか……。なら、思い出させてやる。
緋村零
旧電波塔、そして『JTR』と言えば、その足りない頭でも流石に思い出すか?
その単語を口にした瞬間、真島の目が爛々と輝き、狂気的な笑みがその口元に刻まれた。
真島
あぁ、そうかよ! 確信したぜ、あの時の執念深いお前がソイツか!
ヴァサゴ
ほう、コイツが例の『JTR』ねぇ。噂の割には美味そうなガキじゃねえか
ガブリエル
非常に、非常に興味深い人間だ。その魂の味を確かめてみたい
三人はそれぞれに歪んだ殺意を向けてくるが、俺は一歩も引かない。
緋村零
貴様らのくだらない御託はどうでもいい……ここで全員、殺す
俺は上着の内側から護身用に隠し持っていたタクティカルナイフを静かに引き抜き、同時に脳内のリミッターを解除――両目に鮮烈な「直死の魔眼」の極光を発動させ、戦闘の火蓋を切って落とした。
真島
クックックッ! あの時の特大の借りだ、ここでキッチリ世界のバランスを取らなきゃなァ!
ヴァサゴ
イッツ・ショータイムだ、クソガキ!
ガブリエル
戦闘を開始する……
三人が同時に地を蹴る。まず先陣を切ったのはヴァサゴだ。
ヴァサゴ
おらァッ!!
巨体に見合わぬ速度で、大型の大型肉切り包丁「メイトチョッパー」を容赦なく俺の脳天へと振り下ろしてくる。だが、世界に引かれた「死の線」を見据える俺の目をごまかせるはずもない。
緋村零
あぁ……本当に吐き気がするな、お前のその魂は
ザンッ!!
ヴァサゴ
なにぃ!? ガハッ、あ、ぁ……っ!?
直死の魔眼を宿した俺のナイフが一閃し、触れるはずのないメイトチョッパーを分子レベルで真っ二つに両断。さらに肉薄し、無防備になった彼の鳩尾へ向けて思い切りのいい前蹴りを叩き込む。
音を立てて吹き飛んだヴィサゴは、激しく燃え盛る旅客機の残骸へと弾丸のように突っ込んでいった。直後、大爆発と共に旅客機が完全に崩壊し、彼をその炎の底へと呑み込んでいく。
……あれで生きていたら、それこそゾンビ並みの生命力だな。
そう思考を切り替えた刹那、背後から強烈な殺気が肉薄する。
ガブリエル
クっ……!
バババババババババッ!!
今度はガブリエルが、手にしたミニミ軽機関銃の引き金を引き絞り、無数の弾幕を浴びせてきた。
緋村零
遅すぎるんだよ
俺は魔眼の視界で弾道の「線」を見極め、ナイフの刃で全弾を弾き、あるいは紙一重で躱しながら瞬時に間合いを詰める。
緋村零
死が、俺の前に立ち塞がるな……
ガブリエル
馬鹿な……!? カハッ、うぐっ……!
弾幕を強行突破した俺のナイフがミニミ軽機関銃の構造線を捉えて一瞬で破壊。そのまま、ガブリエルの鳩尾へと渾身の正拳突きを叩き込む。
凄まじい衝撃波と共に吹き飛んだガブリエルは、今度は崩壊寸前の管制塔へと激突し、その凄まじい質量によって管制塔そのものが轟音を立てて完全に瓦解、彼を生き埋めにした。
緋村零
後は……お前だけだ、真島
二人の怪物を一瞬で処理した俺が視線を戻すと、さしもの真島も冷や汗を流していた。
真島
テメェ……とんでもねえ化け物かよ……
化け物、か。
緋村零
そうだな……確かに、俺のこの力は常人とは懸け離れた異端の存在だよ。だがな、どんなに常人と懸け離れていようとも――俺は、人間だ!!
俺は真島を確実に仕留めるべく、残る死の線へ向かって鋭く斬り掛かる。しかし――
真島
おらァッ!!
バンッ!!!
真島は懐から引き抜いたスタングレネード(特殊閃光音響弾)を、俺の足元へ向けて思い切り投げつけてきた。
緋村零
クッ……!
凄まじい爆音と閃光が視界を白濁させる。俺は瞬時に腕で顔を覆い、魔眼へのダメージを最小限に抑えた。
光が完全に収まり、再び視界を確保したときには――真島の気配は完全に煙の彼方へと消え去っていた。
緋村零
……チッ、逃げられたか
俺は忌々しげにそう呟き、構えていたナイフを静かに鞘へと収めようとした。――その刹那。
??
オラァッ!!!
緋村零
なっ……!?
頭上から襲い来る、風を切り裂くような凶悪な一撃。俺は直感的な判断で身体を反らし、間一髪のところでその刃を回避する。
鋭い着地音と共に地面を削った相手を見据えるため、俺はゆっくりと顔を上げた。そこに立っていたのは、不敵な笑みを浮かべる少女の姿。
??
へえ! お前が真島の野郎が言ってた『JTR』って奴かよ!
俺はその異様な姿と、彼女が手にする武器の形状を見て、完全に言葉を失っていた。なぜなら、俺のデータベースがその存在の正体を瞬時に弾き出したからだ。
緋村零
(……嘘だろ。この世界はまだ、北蘭島事件どころか、民間軍事会社グリフィンすら設立されていないはずだぞ……)
緋村零
エクスキューショナー……
そこに獰猛な殺気を滾らせて立っていたのは、ドールズフロントラインの世界において、鉄血工造を率いるハイエンドモデルの人形――「エクスキューショナー」その人だった。