ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜 作:霧のイージス艦
緋村零
まず、俺に関する詳細な素性は大高さんから事前に聞いているな?
指揮官
あぁ。お前が暴露した世界の真実も、お前自身の規格外な秘密についても、すべて聞かされている
なるほどね……。大高さんはこの男をそれだけ信用して引き入れたというわけか。
緋村零
分かった。それが確認できたなら、話が早くて助かるよ
指揮官
やけにあっさりしているな? もっと警戒されるかと思っていたんだが
緋村零
大方、大高さんの方から納得のいく説明があったんだろうからな。わざわざ俺が同じ説明を繰り返す必要もないだろ
俺はパイプ椅子に深く腰掛け、ペットボトルの水を一口飲んで喉を潤した。
指揮官
しかし、今のこの平穏に見える日本に、ここまで大胆で過激な立ち回りができる本物の政治家が残っていたとはな
緋村零
大高さんは、私利私欲じゃなく本当にこの国の未来のために命を懸けて動いている。今まで、それをするだけの器と覚悟を持った政治家がいなかった、ただそれだけのことさ
俺は冷徹に言い放つ。現代の政治家ときたら、自分のささやかな保身や政権の維持、派閥の利益ばかりに血眼になっている連中が多すぎる。それに比べて、大高さんは己の身を顧みず、ただ日本の未来だけを見据えて大博打を打っている。その器の差は歴然だ。そんな風に思考を巡らせていた、その時だった。
ピルルルル! ピルルルル!
緋村零
悪い、失礼する
ポケットの中で激しく振動するスマホを取り出し、耳に当てる。
大高
大高です。零君、新しい傭兵部隊とは無事に合流できましたかな?
緋村零
ええ、何とかね。それにしても大高さん、羽田空港の惨状はニュースで見ましたか? 経済的な損失だけでも相当な額になりますよ?
大高
ええ、把握しております。管制塔や駐機中だった旅客機はそのすべてが爆破され、生存機体は皆無、全機スクラップ工場行きですな。滑走路もまるで航空爆撃を受けたかのような大穴がいくつも空いており、完全な復興には最低でも1年はかかるでしょう
あんだけ真島や鉄血の幹部が派手に大立ち回りを演じたんだ、当然の結果と言える。
緋村零
というか、その間DA(Direct Attack)の連中は何をしてたんですか? 国家防衛の要を自称しておきながら、これ以上ない大失態でしょう
大高
ええ。我が方からDA内部に潜入させているスパイからの報告によると、上層部は現在、文字通りの大混乱に陥っているようですな
緋村零
でしょうね……。テロを未然に防げなかったとなれば、組織の存続そのものに関わる致命傷だ。まぁ、どのみち俺たちがクーデターを起こしたら、綺麗さっぱり解体される運命なんですけどね
大高
うむ、その通りです。皮肉にも今回の件で、現政府とDAの無能さが証明され、我々のクーデター計画に必要な最後のピースがすべて揃いました。後はただ、大義名分を掲げて実行に移すのみです
緋村零
了解しました。とりあえず、これから合流した彼らを引き連れて、大高さんの待つ首相官邸に向かいます
大高
わかりました。では、官邸の地下執務室でお待ちしております
ピッ、と通話が切れる。俺はスマホをポケットに滑り込ませた。
緋村零
用件は以上だ。今から直接官邸に向かうが、移動の準備は大丈夫か?
指揮官
あぁ、いつでも動ける。……だがその前に、いい加減その余所余所しい『演技』は辞めたらどうだ?
その言葉に、俺の身体が一瞬だけ硬直する。……こいつ、今なんと言った?
緋村零
……どういう意味だ? 俺は最初から素のままだが
指揮官
ふ……何年、お前と共にあの過酷な戦場を潜り抜けてきたと思っている? 隠せているつもりか、十六夜……
言いながら、指揮官の男は不敵な、だがどこか懐かしむような笑みを浮かべた。
……やれやれ、まったく。
緋村零
はぁ……お前は前前世のあの頃から、本当に何も変わらないな……指揮官
指揮官
お前もな。姿形が変わってないからな、その魂の癖までは隠しきれていない。……それに、気づいていたのは私だけじゃないぞ
グローザ
私達もよ、十六夜
それまで静かに控えていたグローザが、一歩前に出て愛おしげに微笑む。彼女だけでなく、ネメシスやキャロリック、コルフェンたちまでもが、再会の光を瞳に宿して俺を見つめていた。
キャロリック
まったくもう! あんたが突然いなくなってから、残された私たちがどれだけ大変な思いをしたと思ってんのよ!
コルフェン
ですね〜。もう二度と会えないかと思って、みんな夜も眠れないくらい心配してたんですよ?
ネメシス
幻影……しかしそれは消えず、再び形を成す。約束の地にて、再び相見える運命だったということね……
ネメシスのその独特なポエトリーな口調は、相変わらずのようで少し安心する。
緋村零
……あぁ、すまなかったな。積もる話は山ほどあるが、その辺の事情も含めて、大高さんのいる官邸に着いてからじっくり話そう
指揮官
分かった、それがいいな。グローザ!
グローザ
了解。各員、直ちに移動準備! 武器の隠匿を徹底して
かつての戦友たちとの奇跡的な絆を取り戻した俺たちは、手際よく移動の支度を整えると、すべての決着の舞台となる首相官邸へと向けて出発した。