ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜 作:霧のイージス艦
DA(Direct Attack)の本部司令室。
旧電波塔事件の事後処理に追われる中、モニターに映し出された凄惨な現場の映像を前に、上層部や査察官たちは重苦しい沈黙に包まれていた。
楠木
……信じられないな。テロリストの主力100名近くが、僅か数分で全滅だと?
作戦を指揮していた楠木司令が、冷徹な声音の中に隠しきれない動揺をにじませる。
モニターが捉えていたのは、防弾装備を完璧に調えたテロリストたちが、まるで見えない刃に切り裂かれるようにして一瞬で命を落としていく不可解な戦闘記録だった。
査察官
銃弾を正面からすべて弾き落とし、常人では視認すら不可能な速度で移動する異形の仮面。……これは本当に人間の仕業ですか? 我々の管轄外である、他国の特殊工作員か何かの可能性は?
楠木
いや、防犯カメラや衛星の解析データをすべて洗ったが、該当する組織のデータは一切ない。突如として現場に現れ、真島を制圧し、千束の銃撃を回避して夜の街へ消えた。まるで、この世に実在するはずのない幽霊だ
司令室のオペレーターたちが、カタカタとキーボードを叩き、事件の分析データを大画面に表示していく。
そこには、犠牲となったテロリストたちの不自然なまでの「断面」と、一撃で息の根を止められた精密な創口のデータが並んでいた。
楠木
肉体、装備、そして銃器に至るまで、まるであらかじめ『破線』でも引かれていたかのように一刀両断されている。……常軌を逸した剣技とナイフ捌き。そして、一切の躊躇なく命を刈り取る冷酷さ。まさしく、近代に蘇った十九世紀の怪物のようだ
楠木は腕を組み、忌々しげにモニターを睨みつける。
楠木
この不確定要素を放置することは、我が国の治安維持にとって最大の脅威となる。リコリス、リリベルの全ネットワーク、および電脳統括システムを駆使して、この人物を最優先監視対象に指定する
キーボードのエンターキーが強く叩かれ、メインモニターに赤い文字で新たな個体識別コードが打ち出された。
【最優先抹殺・捕獲対象】
識別コード:『JTR(ジャック・ザ・リッパー)』
危険度:規格外(SSS)
楠木
『時雨』と名乗ったそうだが……それが本名であるはずがない。フキ、サクラ、そして千束にも通達しろ。今後、この仮面の男――『JTR』に遭遇した場合は、決して単独で交戦せず、即座に退避して本部へ報告せよ、とな
日本の平和を影から支配してきたDAにとって、その出現は、これまでの前提をすべて覆すほどの激震だった。
彼らが血眼になって『JTR』の尻尾を掴もうと動き出す中、当の本人である緋村零が、さらに巨大な運命(SAO)の渦へと歩みを進めていることを、DAの誰もがまだ知る由もなかった。