ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜   作:霧のイージス艦

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戦技教導、そして…

 

指揮官やグローザたちエルモ号のメンバーがこの施設に合流して以降、俺たちは合同で戦術・連携訓練に死に物狂いで精を出していた。お互いの世界の技術や戦闘理論を融合させたメニューは、生温い自衛隊の訓練とは一線を画す地獄のような強度だ。

緋村零

ふぅ……

 

戦術障害物コース、いわゆるキリングハウス(屋内戦闘サーキット)での単独突破訓練を終え、俺は汗を拭いながら一息つく。

 

ひより

零さん、お疲れ様です

 

そこに声を掛けてきたのは、次の走者として準備を進めていたひよりだった。どうやら、彼女もこの超実戦的サーキットに果敢に挑戦しに来たらしい。

 

緋村零

お疲れ様。ひより、今からサーキットに挑むのか?

 

ひより

はい。ですが……

 

ひよりは、管制モニターの最上部に表示されている俺の叩き出した最新スコアを見つめ、半ば圧倒されたようにため息を漏らす。

 

15秒50……本当に驚異的な速さだね。僕なんて、何度やってもようやく20秒台を切れるかどうかってところなのに

 

緋村零

こればっかりはな、机の上の座学じゃどうにもならない。実戦を死ぬほど経験し、その上で死線での身体の動かし方を体に叩き込み続けるしかないんだよ

 

俺は愛用のM4カスタムから空のマガジンを素早く抜き取り、テーブルにコトッと置きながら優しく諭すように話す。

ちなみに、本日ここまでの最新サーキットタイムのランキング上位は以下の通りだった。

【極秘サーキット・タイムランキング】

1位:緋村零 ―― 15秒50

2位:グローザ ―― 15秒70

3位:錦木千束 ―― 16秒00

4位:井ノ上たきな ―― 16秒30

5位:綾小路清隆 ―― 18秒80

当然の結果と言えばそれまでだ。前前世で最高峰の軍事サイボーグとして修羅場を潜り抜けた俺や、最新鋭の戦闘アルゴリズムを搭載された戦術人形のグローザ、そして現役最強のリコリスである千束やたきなが上位を独占している。

そんな圧倒的な実力差の壁を感じていると、通路の奥から足音が聞こえてきた。

 

清隆

あれ、零にひより。ここにいたのか

 

やってきたのは清隆だった。彼の後ろには渚と有希子、そして達也と深雪の姿もある。

 

緋村零

よぉ、お前ら。もしかして全員でサーキットの自主練か?

 

清隆

あぁ。まぁ、現状のままでは戦力として不十分だからな。少しでもタイムを縮めておきたい

 

どうやら、お互いを高め合うために全員で志願して訓練にやってきたらしい。

 

緋村零

熱心だな、本当に。その意気込みは兵士として100点満点だ

 

有希子

少しでも早く零さんや千束さん、たきなさんに追いついて、エルモの戦力として認められたいですから

 

うん。それに、「挑む者が勝つ(Who Dares Wins)」。勝つためには、目指す目標にたどり着く為には、どんなに壁が高くても挑み続けなきゃいけないんだって、そう心に決めたからね

 

緋村零

「挑む者が勝つ」……イギリス特殊部隊SASの有名な標語だな。それはボスの受け売りか?

 

達也

あぁ。あの人の語る戦術論と実戦経験は、世界を跨いでも完全に理にかなっている

 

深雪

ええ。ボスとのCQC訓練は、私どもの術式(魔法)の間合いの組み方においても、本当に役立つことばかりですからね

 

俺たちはそんな風に、互いの成長を称え合うような有意義な雑談を交わす。そんな中、ふとひよりが首を傾げた。

 

ひより

そう言えば、千束さんとたきなさんは今日はどちらにいらっしゃるのですか? ランキングに名前があるのに姿が見えないので……

 

緋村零

あいつらなら、何でもDA(Direct Attack)の本部から急な呼び出しを食らったらしい。詳しい要件までは聞いてないけど、機嫌悪そうに出かけていったよ

 

そうなんだ。やっぱり、羽田のテロの件で内部が相当荒れてるのかな

 

さて……いつまでも話し込んでいても身体が冷えるだけだ。

 

緋村零

よし、雑談はこの位にして、早速身体を動かそう。丁度俺の身体も温まってる。次のメニューは俺が直々に指導してやるよ

 

清隆

済まない、零。エースの直接指導はありがたい。助かるよら

 

緋村零

気にするな。俺たちはもう、同じ『エルモ』の戦友だろ

 

俺の一言で、清隆たちは一瞬にして表情を引き締め、それぞれの得物を取り出して準備を始める。まずは基本にして奥が深い、拳銃(サイサイドアーム)の精密・速射射撃訓練だ。

パァン! パァン! パァン! ――。

遮音ガラスの向こうで、心地よい破裂音が連続して響く。俺は射撃レーンに立つ清隆たちのフォームと、弾着モニターを見つめながら思考を巡らせた。

 

緋村零

(ふむ……流石だな。拳銃射撃に関しては全員全く悪くない。ブレも最小限だ。まぁ、普段から千束やたきなが英才教育でコツを叩き込んでいるし、ホワイトルーム出身の基礎体力があるんだから当たり前と言えば当たり前か)

 

有希子

……零さん、どうでしょうか?

 

全弾を撃ち終え、スライドがホールドオープンした銃を保持したまま、有希子や渚たちが真剣な眼差しで俺にアドバイスを求めてくる。

 

緋村零

そうだな、拳銃のハンドリングに関しては特に問題ないよ。グルーピング(集弾性)も綺麗だ。このまま今のルーティンを続ければ、遠からず俺たちの領域(レベル)まで確実に到達できる。だが、そこがゴールではないことだけは絶対に忘れるな。戦場じゃ、標的は止まってくれないからな

 

清隆たち

了解!

 

ふむ……。出会ったばかりのあの頃に比べて、全員が格段に鋭い『本物の兵士の顔つき』になってきたな。成長の速さには驚かされる。

 

緋村零

よし。次は予定通り、さっきひよりたちが気にしていたキリングハウスのサーキットを使う。全員、突入準備だ

 

俺がそう指示を出すと、清隆たちは素早くアサルトライフルやSMGを手に取り、サーキットのスタートゲートへと向かって整列した。

 

緋村零

よし、とりあえずの目標を設定する。清隆は、千束やたきなが叩き出した16秒台のタイムを明確な目標としてイメージしろ。それ以外のメンバーは、まず今の清隆の持つ18秒台の壁を破ることを目安に動いてみろ

 

渚たち

了解!

 

タイマーの電子音が鳴り響くと同時に、渚や清隆たちは次々と殺しの迷宮(サーキット)へと突入し、凄まじい速度で訓練を開始した。俺は管制室のモニターから彼らのキャットウォークの動き、クリアリングの精度を冷徹に見つめ、分析する。

 

緋村零

(……悪くはない。確実に上達している。だが……俺やグローザ、あるいは千束たちの淀みのない流れるようなフットワークと比べると……無駄な視線移動や、コンマ数秒の迷いがまだまだ目立つな)

 

俺は清隆たちの細かなストップ&ゴーの動きを見ながら、さらに思考を進める。

 

緋村零

(だが、圧倒的に飲み込みが早い。これなら、本格的な作戦が始まる頃には……)

 

そんな未来の可能性に確信を抱いている間に、渚たちは激しい息を吐きながら1回目のサーキットを終えて戻ってきた。

 

達也

零、率直な評価を聞かせてくれ。どうだった?

 

達也が小隊を代表するように、鋭い視線で俺に批評を求めてくる。

 

緋村零

そうだな……。タイムに関してはまだまだ縮める余地があるといった所だが、射撃の精度やクリアリングの動き自体は決して悪くない。及第点だ。だが――

 

俺は敢えて一度言葉を区切り、全員の目を真っ直ぐに見据えた。

 

緋村零

実戦を想定した致命的な欠点がいくつかある。まず、マガジン交換のタイミングだ。お前たちは今、弾を完全に撃ち尽くして(ボルトストップがかかって)からリロードしている。今後は必ず、一戦闘ごとに残弾を残した状態で素早く交換する『タクティカル・リロード(クイックチェンジ)』を徹底しろ。完全に弾切れを起こしてからリロードするのは、遮蔽物のない戦場じゃ致命的な無駄になる上に、せっかく腰にあるサイドアームの存在意義がなくなってしまうからな。だから、小銃にしろ拳銃にしろ、自分が何発撃ったか、残弾数を頭じゃなく『体』で数えて覚えるようにしろ。それから、角の出会い頭の超至近距離では、無理に長い銃を構え直すな。迷わずナイフを活用しろ。ハッキリ言って、半径1メートル以内の近接戦闘では、拳銃を抜いて構えるよりもナイフで頸動脈を裂く方が圧倒的に早い。これは俺の前前世からの経験論だ。……まぁ、今の段階で意識すべきなのはこんな所だな

 

達也たち

了解!

 

俺のあまりにも実践的で容赦のないアドバイスに対し、達也たちはその言葉を貪欲に脳内へと叩き込み、すぐさま修正を行うべく力強く返事をしてサーキットのスタートラインへと戻っていった。

 

緋村零

ふ……。あの貪欲さだ、あいつらが一体どこまで化け物みたいに強くなれるのか、今から本当に楽しみだな

 

その驚異的な成長スピードに、俺が不敵な笑みを浮かべていた、まさにその時だった。

 

アナウンス

『――緊急放送。深淵小隊長、緋村零1佐。至急、司令室にお越しください。繰り返します、緋村1佐、至急司令室へ』

 

全館スピーカーから流れてきたのは、日向2佐の緊迫した呼び出しのアナウンスだった。

普段の訓練終了時のトーンとは明らかに違う、張り詰めた声。

 

緋村零

……チッ。どうにも、胸の奥がザワつくな。嫌な予感がする……

 

俺は背後で訓練を続ける清隆たちに一瞥をくれた後、手にした得物を素早くラックへと収め、小走りで最上階にある司令室へと向かって廊下を駆け出した。

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