ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜 作:霧のイージス艦
俺は司令室の重厚な扉をノックし、そのまま勢いよく押し開けた。
緋村零
指揮官、入るよ
部屋の中には、厳格なオーラを放つザ・ボスを筆頭に、指揮官、式、そしてグローザ、ネメシス、キャロリック、コルフェンのエルモ号メンバーがすでに揃っていた。全員の表情は、いつになく険しい。
指揮官
零、よく来た。事態は急を要する
ザ・ボス
のんびり説明している時間はないわ。先ほど、千束とたきなから緊急の暗号連絡が入ったのよ
なに……?
緋村零
あの2人は確か、DA本部からの急な呼び出しで出かけていったはずですが……それと今回の緊急事態が関係しているんですか?
指揮官
その通りだ。これを見てくれ
指揮官が手元のキーを叩き、中央の大型コンソールを起動する。
グローザ
2人からの極秘連絡によると、真島率いるテロリスト集団が、新電波塔『延空木(えんくうぼく)』を舞台に大規模な占拠テロを起こそうと画策しているそうよ。しかも、偵察データの断片によると、先の羽田空港テロで零が瓦礫の下敷きにしたはずの、ヴァサゴとガブリエル・ミラーの健在も確認されたらしいわ
ホログラムコンソールには、不穏な赤色に明滅する延空木周辺の3Dマップと、不審な車両の動線がクッキリと表示されていた。
緋村零
チッ……あの2人の化け物ども、やっぱりあの程度の衝撃じゃ死んでなかったか。しぶとい売国奴め
両儀式
そのようね。死の線は確かに捉えたはずだけど、根本的な接続(コア)を絶ち切る前に瓦礫に阻まれたのが仇になったかしら
はぁ……と、俺は小さくため息を吐き出す。
緋村零
で、ボス。大高さんたちから俺たち『エルモ』への、具体的な仕事の内容(オーダー)は?
ザ・ボス
千束たちの確実な援護、および現場に取り残されるであろうリコリス、リリベルたちの保護と確保。そして真島、ヴァサゴ、ガブリエルを含むテロリストの完全殲滅、もしくは拿捕(だほ)よ。大高総理と高野幕僚長からも、超法規的措置としての正式な出撃許可が下りているわ
緋村零
了解。……メンバーはどうします?
ザ・ボス
清隆たち新兵を除いた、エルモの全一線級戦力で出撃よ。零と式は、先行して千束たちと合流しテロリスト主力を叩きなさい。グローザ小隊はそのバックアップを。現地にはすでに大高さんが手配した、こちら側の警察部隊も展開しているから、まずは彼らと接触して合流しなさい
緋村零
了解しました。――グローザ、式、いくぞ
両儀式
ええ、行きましょうか。今度こそ、あの男たちの息の根を完全に止めないとね
グローザ
ええ。エルモ小隊、各員、直ちに作戦準備を開始!
全員
了解!
短い応酬の後、俺たちは司令室を飛び出し、装備が保管されている地下の整備室へと廊下を急いだ。
その途中、訓練を中断して通路に集まっていた清隆たちと鉢合わせた。
清隆
零、呼び出しの件は何だったんだ? 随分と慌ただしいようだが
清隆が鋭い視線で聞いてくる。
緋村零
出撃指令だ。延空木で大規模テロが発生した。千束とたきなの援護に向かう
渚
僕たちは!? 早く銃を!
興奮気味に身を乗り出す渚を、隣の式が冷徹な一言で制した。
両儀式
あなたたちは居残り、待機よ。まだ実戦の許可は出せないわ。ハッキリ言って、今のあなたたちじゃまだ足手まといよ
ひより
ですが……仲間が危険に晒されているのに、私たちだけここに残るなんて……!
グローザ
気持ちは痛いほど分かるわ、ひより。でも、あなたたちも私たちにとって代えが効かない大切な仲間よ。それに、銃を持って前線で戦うことだけが戦闘ではないわ
有希子
え……?
緋村零
お前ら、全員DAの組織構造や、戦場がどうなるかは座学で知ってるな?
清隆たちが無言で、だが真剣に頷く。
緋村零
今回、俺たちの任務には『リコリスとリリベルの確保と保護』が含まれている。あの無能な上層部のせいで、現場の子供たちが大量に傷つき、凄惨な負傷者が続出する可能性が極めて高い。お前たちの任務は、搬送されてくる負傷者の受け入れ・治療準備、および万が一の事態における緊急出撃に備えての待機だ。……エルモの背中を、お前たちに託す
達也
……了解した。後方の守りと医療拠点の設営は、俺たちに任せておけ
深雪
分かりました。お兄様と共に、いつでも動けるよう万全の体制で待機いたします
緋村零
頼んだぞ、お前たち。……よし、いくぞ!
俺たちは清隆たちと熱い視線を交わして別れ、再び整備室へと向かって足を早めた。
訓練施設・地下整備室
重厚な防爆扉を抜けて整備室に飛び込んだ俺たちは、手際よくそれぞれの得物と装備を身体に纏い始める。
緋村零
コルフェン! リコリスたちの負傷者を想定して、凝固剤や医療用具、止血帯は通常の3倍、多めに積み込んでおいてくれ!
コルフェン
了解で〜す! 特製のクイックメディキット、山盛りで用意しちゃいますね〜!
俺はラックから愛用のM4カスタムと、サイドアームのH&K VP9を素早く引き抜き、作動チェックを完璧に終わらせる。次に、預かっていた千束の非殺傷仕様のHK416Dカスタムと、たきなのAR15カスタム、そしてそれぞれの予備弾薬をケースから取り出した。
緋村零
キャロリック、2人の予備兵装だ。現地で合流した時に渡すから、お前の車両に積んでおいてくれ
キャロリック
了解よ、零! ガッツリ預かったわ。私の爆薬と一緒に特等席に積んどいてあげる!
千束たちの銃をキャロリックに託すと、俺は新しく支給された実戦用の戦闘服に袖を通した。
俺が今身に纏っているのは
男用の黒のタクティカルギアだ。
身体の動きを一切阻害せず、ナイフや魔眼のハンドリングにも最適な、まさにプロ仕様の戦闘装束。
ベルトのバックルを鋭く締め、ナイフの感触を確かめる。
緋村零
よし……全員、準備はいいな?
グローザ
ええ……。突入準備、いつでもいけるわ
ネメシス
……星の目覚め……照準はすでに、延空木の最上階を捉えている……
キャロリック
こっちもOKよ! いつでもあのテロリストどもを吹っ飛ばしてあげるわ!
コルフェン
医療班、準備バッチリで〜す! 誰も死なせませんよ〜!
よし……。全員の魂が、再び戦場へと向けて完璧に同期した。
緋村零
エルモ小隊、これより出撃だ。行くぞ、お前たち!
さぁ……この世界に転生して以来、俺たちにとって初めての本物の実戦、そして国家リセットへの第一歩だ。真島、ヴァサゴ、ガブリエル……貴様らの歪んだ因縁、この俺の『直死の魔眼』で綺麗さっぱり絶ち切ってやる!