ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜 作:霧のイージス艦
俺たちは実戦用の装備を完璧に身にまとい、手配されたハイエースに乗り込んで施設を出撃した。本来なら自衛隊の最新の装甲車を転がしたいところだが、白昼堂々の都内で目立ちすぎるわけにはいかない。人目をごまかす以上、今は一般の商用車を装うのが最も都合が良いのだ。
緋村零
いよいよ、本当の戦いが始まるな……
窓の外を流れる見慣れた東京の街並みを見つめながら、俺は小さく呟いた。
この世界に転生して以来、真島やヴァサゴ、ガブリエルたちと何度も刃を交えてきたが、今までの衝突は例えるなら局地的な小競り合いに過ぎなかった。だが……これから延空木で幕を開けるのは、武装したテロリスト集団との全面戦争と何ら変わらない、文字通りの大激戦だ。
グローザ
あら零、珍しく緊張しているの? いつもより随分と顔が険しいわよ?
後部座席の隣から、グローザが俺の横顔を覗き込むようにして声をかけてきた。
ちなみに、ハイエースのハンドルを握って小気味よく車を走らせているのはキャロリックだ。そして助手席には静かに刃を研ぎ澄ます式、後部座席にはグローザ、ネメシス、コルフェン、そして俺という座席配置になっている。
緋村零
まぁな……。今世での戦闘は、基本的には隠し持ったナイフ一本の隠密戦がメインだったからな。がっつり銃火器を持ち出して戦ったのなんて、それこそ清隆たちのホワイトルーム救出作戦の時くらいだしな
キャロリック
へぇ〜! あの唯我独尊な最強のJTR(零)でも、そんな風に弱音を吐くことがあんのね。ちょっと意外
バックミラー越しにキャロリックがニヤリと不敵に笑う。
緋村零
俺だって人間だ、作戦前くらい弱音を吐くことだってあるさ。それに……今回の任務は、今までのどんな戦場と比べても条件が複雑すぎるからな
俺が肩をすくめて返答すると、今度はコルフェンがその小首を傾げた。
コルフェン
それって〜、さっき零さんが言っていた、現場に取り残されるリコリスやリリベルたちのことですか〜?
緋村零
あぁ、その通りだ。千束たちの援護やテロリストの排除だけでなく、最悪の場合は、無能な上層部に捨て駒にされるリコリスたちを状況に応じて保護しなさいってオーダーだからな。おまけに、俺たち『エルモ』の存在が公に露見したら、大高さんのクーデター計画の前提が崩れて1から練り直しになっちまう。戦闘しながら秘匿も徹底しなきゃならないなんて、神経を使うよ
俺が現実的なリスクを吐き出した、その直後だった。インカムから電子音が鳴り、耳元に懐かしい声が響く。
指揮官
『零、グローザ、聞こえるか? 指揮所より定時連絡だ』
指揮官からの直接のセキュア通信だ。
緋村零
あぁ、しっかり聞こえてる。指揮官、現地の状況はどうなってる?
指揮官
『たった今、千束とたきなの2人がDAの本部を出撃したと、監視についていたミカさんから連絡があった。お前たちはこのまま予定通り、大高さんが手配した警察部隊と合流。その後は行動を共にしろ。まずは作戦エリア付近のテロリストの斥候を排除次第、次の指示を出す』
グローザ
了解よ、指揮官。いつでも引き金は引けるわ
緋村零
了解だ。指揮官、その警察部隊との具体的な合流地点のナビを頼む
指揮官
『了解、現在地に最も近い極秘の合流座標(データ)をいま送った』
コンソールの画面に、暗号化されたマップと鮮やかな青いピンが表示される。
緋村零
座標を確認した。キャロリック、ルートを変更してこの座標に向かってくれ
キャロリック
了解、任せなさい!
キャロリックは鋭いハンドル捌きで、ハイエースの進路を指示された合流座標へと向けた。
指揮官
『進路確認。これより通信を暗号待機に移行する。……皆、幸運を祈る。無事で戻ってくれよ』
プチッと静かに指揮官との通信が途切れた。
グローザ
先手を打たれる前に急ぎましょう、零
緋村零
だな。ここからはスピード勝負だ
ハイエースは表向きは法定速度をきっちりと守りながら、刻一刻とテロの戦場へと近づいていく。
車を走らせておよそ1時間程が経過した頃――。
緋村零
まもなく、指示された警察部隊との合流地点だな。周囲への警戒を怠るなよ
俺たちが指定された寂れた倉庫街の座標近くへと滑り込んだ、その時だった。
キャロリック
零、ちょっと見て。あそこに見えるの、大高さんの言ってたお仲間じゃない?
キャロリックがフロントガラス越しに指差した方向を確認すると、建物の物陰から、こちらのハイエースに向けて手招きをしている多数の人影が視界に入った。
緋村零
そのようだな……。よし、キャロリック、あそこに車を寄せてくれ
キャロリックが滑らかにハイエースを人影の前に滑り込ませて停車させると、俺たちは銃器を隠匿したまま、速やかに車から降車した。
緋村零
失礼します。大高総理の要請で合流する手筈になっていた、警察部隊の方々ですか?
最前線に立っていた、どこか凄みのある渋い男が、こちらを見て力強く頷いた。
??
あぁ、そうだ。待っていたぞ
緋村零
特殊戦術小隊『エルモ』の緋村零です。これより指揮下に入ります、よろしくお願いします
??
おう。わしは谷大作だ。よろしく頼む。……先に言っておくが、儂らも零君、君と同じ、この世界にやってきた転生者だ
谷大作……え!? 日暮署の、あのゴリラ……!?
緋村零
も、もしかして、今回俺たちと合流して前線を張る部隊って……!
あまりの衝撃に俺が言葉を詰まらせると、薄暗い倉庫の奥から、さらなる強烈な足音と共に、一人の男が姿を現した。
??
君の予想通りだ、零君。大高総理から話は聞いている
その男は、トレードマークである漆黒のサングラスを静かに指でずらし、俺たちを射抜くような鋭い視線で見つめてきた。
??
初めましてだな。俺は警視庁西部警察署・捜査課係長、大門圭介だ。よろしく頼む
大門圭介……!!
あの、理不尽なほどの火力とカーチェイスで昭和の犯罪者を震撼させた、伝説の『大門軍団』の団長その人が、ショットガンを抱えてそこに立っていた。
嘘だろ……。
いくら平行世界が重なり合っているからって、真島や鉄血のテロリストを迎え撃つために、まさか日本警察史上最強の戦闘集団(大門軍団)が紺碧会に味方として引き入れられているなんて。
俺は脳内のデータベースをフル回転させながら、目の前の現実の光景に、流石に完全に言葉を失っていた。