ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜 作:霧のイージス艦
俺は今、前前世のグリフィン時代に誓約の指輪を渡し、文字通り生涯を共にすると誓った最愛の妻、黛煙と再び向き合っていた。世界が変わり、姿が変わっても、彼女の纏う空気と眼差しはあの頃のままだ。
緋村零
指揮官から超一線級の援軍が合流したとは聞いていたけど……まさかお前、いや、お前達だったんだな
黛煙
ええ、その通りです、旦那様。私たちがこちらに到着したのと同時に、エルモ号の指揮官から旦那様の危機を知らされまして……。他のメンバーは現在、外周でグローザさん達と共に、押し寄せるテロリストとの戦闘に入っています
緋村零
そうか。外はお前たちが付いていてくれるなら、これ以上ないほど安心だな
俺と黛煙が互いに視線を交わし、短い時間で状況を確認し合っていると、その様子を横でじっと見ていた式が、少しだけ面白そうな、それでいて鋭い視線を向けてきた。
両儀式
……零、この人がそうね。前前世のあなたの奥さん、でしょう?
緋村零
あぁ。――黛煙、紹介するよ。彼女は両儀式。この新しい世界で出会ったエルモの仲間だ。俺と同じ『直死の魔眼』の持ち主で、近接戦闘じゃ右に出る奴はいない
両儀式
両儀式よ。……旦那さんの噂は色々と本人から聞いていたわ。よろしくお願いするわね
黛煙
式さんですね、初めまして。黛煙と申します。旦那様がいつもお世話になっております。……同じ『目』を持つ心強いお仲間がいてくださり、私も安心いたしました。よろしくお願いいたします
二人は互いに凛とした佇まいのまま、大人の挨拶を済ませる。
緋村零
黛煙、それで今回こちら側の世界に合流したメンバーは誰なんだ? お前のいた『そよ風小隊』の面々か?
黛煙
はい。合流したメンバーは私たち、そよ風小隊の絳雨(コウウ)と朝暉(チョウキ)、緋(ウェン)私の4名です。今回は先遣隊として、真っ先に旦那様のもとへ駆けつけさせていただきました
緋村零
そうか……。あの賑やかな絳雨も来ているのか。それはまた、ずいぶんと騒がしくなりそうだな
黛煙
ふふ、懐かしいですか?
緋村零
まぁね。あの世界のエルモ号で、お前たちと過ごした時間は俺の魂に深く刻まれているからな
旧グリフィン、そして前前世のエルモ号での騒がしくも温かい思い出が脳裏をよぎる。全滅した極東の地から逃れ、あの移動基地の片隅でお前たちと交わした言葉は、今でも俺の支えだ。やはり、心底懐かしい。
緋村零
さて。ゆっくりと思い出話に浸りたい所だが……それはすべての敵を片付けた後だ。黛煙、このまま最上階まで付いてきてくれ
黛煙
ええ。元よりそのつもりです、旦那様。私の銃は、常に貴方の、私達の進む道を切り拓くためにあります
両儀式
話がまとまったなら、さっさと行きましょう。上の子供たちが泣き叫ぶ前にね
俺と黛煙、そして式は再び鋭い踏み込みで、千束たちが待つ最上階へと向かって非常階段を激しく駆け上がり始めた。
一方、その頃――。
延空木・最上階(千束Side)
千束
……制圧しろねぇ〜。言うのは簡単だけどさぁ……
私は時雨……零君との通信を切った後、無線機をポケットに放り込み、たきなと共に他のリコリスの集団から少し離れた柱の陰で、声を潜めて話していた。
リコリス
おい、こっちの止血帯が足りない! 誰か手伝って!
リコリス
今行く、待ってて!
中央のロビーでは、テロリストが放った例のロボット掃除機爆弾の容赦ない爆撃によって、多数のセカンド、サードリコリスたちが血を流して倒れており、動ける子たちも負傷者の応急手当てで完全に大忙しのパニック状態になっていた。
たきな
千束、どうしますか? 零からの指示は明確ですが……
千束
まぁ、零君の言う通り、思考停止して本部の命令を待ってるだけのリコリスたちをこのままにしといたら、真島たちの良いマトだし、全員ここで死んじゃうのは目に見えてる。だから制圧した方がいいんだろうけど……負傷者の手当てを必死にやってる真っ最中の子たちを後ろから撃つってのは、流石に気が引けるよねぇ〜……
さてさてどうしたものか……。私がそんな風に頭を悩ませていると、パニックの中心にいたファーストリコリスの春川フキが、本部からの通信を終えて重々しい声を張り上げた。
フキ
――総員、手当てを中断してその場で待機だ! 本部からの『待機命令』が出た!
その硬直した命令を聞いた瞬間、隣のたきなが、スッと目を細めて冷徹に呟いた。
たきな
(……千束。やはり本部(DA)は、情報の露見を防ぐために、ここに居るリコリス全員をテロリストごと見殺しにして処分するつもりですね?)
千束
(だろうね〜……。完全にトカゲの尻尾切り。無能な上層部がやりそうなことだよ、ホントに)
たきなも私と同じ最悪の結末を察したようだ。ちなみにたきなは、DAが限界を迎えた時に投入される『リリベル』という男の子の暗殺組織のことも、事前に零君からばっちり教わっている。だからこそ、この「待機命令」の異常さに誰よりも早く気づけた。
サクラ
ハァ!? 待機命令だって!? 撤退じゃないんスか!? 敵の姿も見えない、これ以上反撃もできないのにここに残れって、そんなのただの時間の問題で全滅でしょ!?
フキに噛みついたのは、セカンドリコリスの乙女サクラだ。たきながリコリコへ移籍(左遷?)させられた後、フキの相棒になった活きのいいリコリスである。
たきな
(千束、彼女たちが完全に混乱して動けなくなっている……動くなら、今しかありません)
千束
(だね。これ以上傷つく前に、零君たちの言う通り、一度全員眠ってもらおう!)
私とたきなはアイコンタクトで同時に頷き、即座に行動を開始した。
流れるような動作で、私は愛銃である非殺傷弾仕様の「デトニクス・コンバットマスター」を、たきなは実弾の「S&W M&P9」をホルスターから鋭く引き抜き、天井の照明に向けて迷いなく発砲した。
パァン!!!
銃声がロビーに鋭く響き渡り、火花が散る。
リコリス達
!?
一瞬にして静まり返り、全ての視線が私とたきなへと集中する。
千束
悪いけど〜、みんなのお仕事はここまでだよ、リコリスの諸君! ここから先は、私たちの部隊のやり方でやらせてもらうからね!
たきな
抵抗する者は、容赦なく力ずくで無力化します
千束
さぁて……お仕事、スタートだ!
不敵な笑みを浮かべた私と、冷徹に銃口を構えるたきな。特殊戦術小隊『エルモ』のリコリスコンビによる、身内の救出を兼ねた電撃的な大立ち回りが、ここに幕を開けた。