ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜 作:霧のイージス艦
楠木司令が拳をデスクに叩きつけ、通信の切れた無線機を睨みつけていた。
楠木
まさか、あのJTRが裏で糸を引いていたとはな……。千束とたきなだけでなく、現場のリコリスたちまで完全に掌握されたか
司令室の大型モニターには、延空木周辺の混乱した状況と、通信の途絶えたリコリスたちの生体データが並んでいる。真島の作戦によってDAの「隠蔽」が崩壊しかけているこの最悪のタイミングで、かつて組織が総力を挙げても尻尾すら掴めなかった伝説の男、緋村零が表舞台に現れたのだ。
フキの同期であるリコリス
楠木司令! 現場からの定期連絡が完全に途絶えました! フキ隊長たちの電波も追えません!
楠木
慌てるな! 現場にこれ以上の増援は送るな。これ以上リコリスの姿を世間に晒すわけにはいかん。……それよりも、緋村零の率いる新組織の動向を洗え。彼らがどこへ向かうつもりなのか、手段を選ぶな
楠木は冷酷な眼光で画面を見つめながら、心中で激しい焦燥感を覚えていた。
楠木
ルールを守らないクズ、か。千束たちを拾い上げ、DAの根幹を否定するほどの思想を植え付けたあの男……。放っておけば、本当にこの組織が解体される
静まり返るDA本部の司令室で、楠木はただ、手のひらから完全にこぼれ落ちてしまった戦況を苦渋の表情で見つめることしかできなかった。
一方リリベル司令の虎杖は
楠木が焦燥に駆られていたその時、リリベルの最高司令室は不気味なほどの静寂に包まれていた。モニターに映し出されるのは、DAの隠蔽が剥がれ落ちていく延空木の惨状。そして、かつてDAとアラン機関の双方を翻弄し、歴史の闇に消えたはずの男――緋村零の姿だった。
虎杖
(不敵な笑みを浮かべ、組み替えた指に顎を乗せる)
……やはり生きていたか、緋村零。JTR。
副官
虎杖司令、DAの楠木は完全に動揺しています。リコリスの制御を失い、現場の隠蔽すら手遅れの状態です。……我々リリベルが出動し、延空木ごと「処分」しますか?
虎杖
(小さく首を振る)
いや、待て。楠木の無能に付き合う必要はない。リコリスなど所詮は欠陥品、あの男の相手になるはずもないさ。虎杖の目は、画面に表示されたリコリスたちの生体データではなく、緋村零の背後に控える新組織の動きだけを冷徹に捉えていた。
虎杖
楠木は千束たちの反逆を恐れているようだが、見誤っているな。緋村の狙いはDAという組織の破壊そのものではない。彼がやろうとしているのは、この国の「偽りの平和」のシステムそのものを根底から覆すことだ。
副官
システムそのものを……。では、我々はどう動きますか?
虎杖
(立ち上がり、窓の外の闇を見つめる)
リリベルの精鋭を動かせ。ただし、標的は千束でもたきなでもない。緋村零、奴の足取りを追え。……ルールを外れた狂犬を仕留めるのは、DAの出来損ないどもではなく、我々リリベルの役目だ。
虎杖の瞳には、楠木のような焦りは一切なかった。あるのは、最強の「不条理」を排除せんとする、冷徹で容赦のない軍人としての闘志だけだった。