ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜 作:霧のイージス艦
俺たちは傷ついたリコリスたちを中央に庇いながら、延空木からの一次撤退を開始した。
緋村零
敵さん、今のところは居ないな
俺はカスタマイズされたM4A1を構え、銃口を左右に振りながら周囲の警戒を怠らずに言った。
今回のフォーメーションは、俺、式、そして黛煙が前衛。千束とたきなが後衛を務め、その間に戦闘不能に近いリコリスたちを挟み込む形をとっている。
黛煙
合流する前に、あらかた片付けましたからね
たきな
え、それを一人でですか?!
たきなが目を見開き、驚愕の声を漏らす。
黛煙
ええ。少しも歯ごたえはありませんでしたが
緋村零
まぁ、戦術人形1体で普通の1小隊並みの戦闘力があるからな。生身の人間じゃ相手にならんよ
式
チートも良い所ね……。呆れた戦闘能力能力だわ
千束
あはは、それ、式さんが言う〜? 式さんだって人間辞めてるじゃん
そんな他愛のない会話を交わしながらも、全員の視線は鋭く交差する通路の死角を捉え続けていた。
黛煙
そろそろ1階のエントランスですね。視界が開けます
緋村零
ようやくここまで降りてこれたか
重苦しい空気の中、なんとか無事に1階の広大なエントランス付近まで到達した。しかし、安堵したのも束の間、耳のインカムからクルミの緊迫した声が飛び込んできた。
クルミ
『零、千束、たきな! 大変だ! リリベルの武装集団がそっちに向かって全速力で移動してる!!』
一同
!!
クルミからの最悪の緊急連絡に、全員の身体が硬直する。
緋村零
チッ……! この土壇場でリリベルのお出まし軍団か
黛煙
どうしますか? 応戦しますか?
千束
それしかないよね〜。向こうは容赦なく殺しにくるだろうし
たきな
ですね。このままだとリコリスたち共々、普通に処分されます
式
やるしかないわね。私の刃の錆にでもなってもらいましょう
俺たちは一瞬で頷き合うと、すぐさま近くにあったロビーの椅子や重厚なデスクを引きずり、即席のバリケードを構築した。
緋村零
千束、たきな、こいつを使え!
俺は背負っていた予備のHK416Dカスタムと、AR15カスタムを二人に目掛けて鋭く投げ渡した。
千束
ありがとう、助かる!
たきな
いただきます!
二人が見事な手際で銃を受け取るのを確認し、俺も自分のM4A1のマガジンと光学サイトの点検を済ませる。
千束
これ……実弾、だね……
千束がシースルーのマガジンから覗く、鈍く光る真鍮の弾丸を確認して呟く。今回ばかりは非致死性のゴム弾ではない。本物の殺傷用実弾だ。
たきな
仕方がありません。今回ばかりは手加減して生き残れるような状況ではありませんから
千束
分かっているよ。私たちはもう、DAの都合の良いリコリスじゃない。自分の意志で戦う軍人なんだから
覚悟を決めた二人の会話が耳に届く。
黛煙
零、これを使ってください
そこへ、黛煙が静かに歩み寄ってきた。彼女の両手には、お馴染みのクレイモア対人地雷が握られている。
緋村零
サンキュ。いい判断だ
俺は受け取ったクレイモアを、即席バリケードの死角となる隙間に素早くセットした。その後、通路の左右にある太い支柱の陰に身を隠し、息を殺して待ち構える。護衛対象のリコリスたちはスペースの後方へ退避させ、式が彼女たちの前に立って鋭い眼光を放っていた。
緋村零
……きたな
無数の硬いブーツの足音が響き渡り、俺の呟きと同時に全員が指を引き金にかけた。直後、エントランスに黒い戦闘服に身を包んだリリベルの隊員たちが突入してくる。
リリベル隊長
急げ! 標的を包囲しろ!
リリベル隊員
前方にバリケードがあります! どうしますか?
リリベル隊長
構わん! 構わずそのまま突っ切れ!
そのあまりにも無警戒な突撃命令を耳にして、俺は呆れを通り越して鼻で笑った。普通の戦場であれば、あからさまな障害物にはトラップがあることを警戒し、爆薬で処理するか迂回するのが鉄則だ。
黛煙
零……あれが本当にこの国の最高峰の秘密治安維持部隊なのですか? どう見ても、ただの素人の集団にしか見えませんが……
緋村零
俺もまったく同感だ。――今だ!
ドガァァァン!!
激しい爆発音と爆風がエントランスを震わせ、悲鳴が上がった。
リリベル隊長
なっ、なんだ?! 何が起きた!?
リリベル隊員
地雷です! バリケードの手前に指向性地雷が仕掛けられていました!
ものの見事にトラップに引っかかり、前衛が消し飛んだ。絶好の好機だ。
緋村零
射撃開始! 叩き込め!
一同
了解!
M4A1、HK416D、AR15、そして黛煙の95式自動歩槍が一斉に激しい銃声を轟かせた。容赦のない実弾の嵐が、混乱するリリベルの集団へと容赦なく降り注ぐ。
リリベル隊員
て、敵襲だ! 反撃……ぐあああ!
リリベル隊長
怯むな! 撃て! 撃ち返せ!!
ようやくこちらに気づいたリリベルが、遮蔽物に隠れながら反撃を開始してきた。弾数は向こうが圧倒的に上だが、戦場での経験値と射撃精度はこちらが遥かに凌駕している。
緋村零
黛煙、右からの射線をカバーしてくれ!
黛煙
お任せください。そこ、通しません!
千束
たきな、マグチェンジ! カバーお願い!
たきな
了解、任せてください!
俺と黛煙、千束とたきなの完璧な連携ペアが、正確な射撃で敵の頭を完全に抑え込む。しかし、敵も数に物を言わせて強引に距離を詰めてきた。
リリベル隊長
撃ち続けろ! 相手はたったの4人だぞ! 何を手間取っている!?
リリベル隊員
クソッ、相手の練度が高すぎます! 射線が……ぐはっ!
リリベル隊員
撃たれた奴は放っておけ! 構わず前進して数で押し潰せ!
弾幕を張りながら、リリベルの兵隊たちがじりじりと距離を詰めてくる。
緋村零
さすがにこの数で強行突破されると、ちょっとまずいな……
千束
このままだと、さすがに弾切れか囲まれてやばいね……
黛煙
いいえ、大丈夫ですよ。間もなく『彼ら』が来ます
たきな
黛煙さん、何が来るというのですか?
黛煙
そよ風小隊の、残りのメンバーたちです
緋村零
黛煙、お前、まさか……!
俺がそこまで言いかけた、その瞬間だった。
??
どけどけぇ〜! 邪魔だよゴミ虫ども!
??
そこ、私たちの隊長の進路。邪魔をしないで
??
どきな! 命が惜しければね!
突如として、リリベルの背後から響き渡る3人の少女たちの鋭い声。それは俺の耳に、ひどく懐かしく、そして頼もしく響いた。
リリベル隊長
な、なんだ!? 後方で何が起きている!?
リリベル隊員
こ、後方から敵の激烈な増援です! 挟み撃ちにあって……ぐあああっ!
緋村零
案外、来るのが早かったじゃないか
黛煙
ふふ、そうですね。みんな隊長に会いたがっていましたから
一人は97式自動歩槍を腰だめに構えて激しい掃射を浴びせ、一人は06式短機関銃を正確にコントロールして敵を屠り、もう一人は手斧を振るいながらCZ75拳銃で確実にリリベルの息の根を止めていく。
後方からの圧倒的な急襲と挟み撃ちにより、さしものリリベルの精鋭部隊も、あっという間にその場に全滅させられた。
緋村零
助かったよ。そして……本当に久しぶりだな、絳雨、朝暉、緋
絳雨
久しぶり! 零お兄ちゃん! また一緒に戦えるね!
朝暉
零、久しぶり。元気そうでよかった
緋
久しぶりだな、零。またお前の下で暴れられる日を待っていたぞ
静まり返ったエントランスに、そよ風小隊の全メンバーが今、再び奇跡の集結を果たした。