ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜 作:霧のイージス艦
俺たちはそよ風小隊の残りのメンバーである絳雨、朝暉、緋と合流を果たし、リリベルの死屍累々が転がるエントランスでひとまず息を整えた。
緋村零
久しぶりだな、絳雨、朝暉、緋。よく間に合ってくれた
絳雨
うん! 本当に、本当に久しぶり! また零お兄ちゃんと戦えて嬉しい!
朝暉
あの頃と変わりないようで安心した。相変わらず、無茶な戦い方をしているみたいだけどね
緋
だね。まぁ、それが私たちの隊長ってことさ
絳雨たちの変わらない笑顔と声に、俺の胸の奥に懐かしい温かさが蘇る。
黛煙
皆、お疲れ様。よく無事で戻ってきてくれたわ
絳雨
お姉ちゃんもお疲れ様! 私たち、お姉ちゃんに置いていかれないように必死だったんだから!
黛煙と絳雨が、戦場の真ん中とは思えないほど親密そうに言葉を交わす。固い絆で結ばれた姉妹のやり取りに、少しだけ場の空気が和らいだ。
千束
ねぇ零君、この人たちが『そよ風小隊』の残りのメンバーなの?
千束が興味深そうに目を輝かせながら尋ねてくる。
緋村零
あぁ。そよ風小隊の絳雨、朝暉、緋だ。ここに黛煙と俺を加えた5人が、本来のそよ風小隊の全貌だよ
たきな
一目で分かります。皆さん、ただ可愛いだけじゃない……極限の修羅場を潜り抜けてきた、かなり精強な雰囲気を纏っていますね
たきなが戦術人形たちの佇まいから、その圧倒的な戦闘力の本質を見抜いて呟いた。
黛煙
絳雨、朝暉、緋、こちらが零がこの世界で仲間になった錦木千束さんと、井ノ上たきなさん、そして両儀式さんよ
千束
錦木千束で〜す! みんなよろしくね!
たきな
井ノ上たきなです。よろしくお願いします
式
両儀式よ。よろしくお願いするわ。足を引っ張らないで頂戴ね
3人がそれぞれ個性の際立つ自己紹介を済ませると、そよ風小隊の面々もそれに続いた。
絳雨
私は絳雨! よろしくね! 一緒に敵を蜂の巣にしよう!
朝暉
私は朝暉。よろしく
緋
緋だ。よろしくな。隊長の仲間なら、私たちは全力で歓迎する
一通りの挨拶を終え、俺はすぐに表情を戦術小隊の長へと戻した。
緋村零
とりあえず状況を確認しないと。黛煙、外で戦っているはずのグローザたちと連絡は取れるか?
黛煙
少々お待ちを。回線を開きます
黛煙が通信機に指をかけた瞬間、ノイズ混じりの凛とした声が直接こちらのインカムへ飛び込んできた。
グローザ
『こちらグローザ。零、無事かしら? そっちの状況は?』
緋村零
こちら緋村零。千束やたきな、リコリスたちも含めて全員無事だ。そよ風小隊ともたった今、合流した
グローザ
『了解したわ。地上の障害は排除した。今からそちらのエントランスへ向かうわ』
緋村零
了解。外で合流しよう。通信を終了する
パツリと通信を切り、俺は動けないリコリスたちに視線を巡らせた。
緋村零
よし、とりあえず動けるリコリスたちを担いで、外に運び出そう。重傷者が多すぎる
見渡した限り、出血や骨折で意識を失いかけているリコリスの数は30人を超えている。
黛煙
ですね。これ以上この閉所に留まる理由はありません
たきな
急ぎましょう。彼女たちの命の灯火が消える前に
俺たちは傷ついたリコリスたちを支え、あるいは背負いながら、延空木の巨大なエントランスの扉を押し開けて外の広場へと脱出した。
外の広場に出た瞬間、冷たい夜風と共に、硝煙の臭いと無数の戦闘車両の排気音が俺たちの肌を刺した。
グローザ
零!
大門
おい、無事か!
緋村零
グローザ、大門さん。良いところに。ちょうど今降りてきたところだ
広場に展開していたグローザ小隊と大門軍団の面々が、俺たちの姿を認めて一斉に駆け寄ってくる。
緋村零
大門さん、周辺の敵と、避難した民間人の状況は?
大門
周辺のテロリストどもは文字通り全滅させた。民間人の圏内避難も、先ほど完璧に完了している!
グローザ
それに、指揮官からの連絡よ。防衛省から自衛隊に対して、正式に『警護出動』が下令されたわ。既に練馬の第1普通科連隊、及び朝霞の第1偵察戦闘大隊が、こちらに向かって全速力で進軍中よ
警護出動……。嘉納大臣や大高さんたちが、国会をねじ伏せて裏で動いてくれたか。俺は胸の中で二人の政治家の決断に感謝した。
フキ
……自衛隊が出動したって、本当に言っているのか?
リコリスのフキが、信じられないものを見るような目でグローザを睨み、掠れた声で問いかけてきた。
グローザ
ええ。というか、本来こういった国家規模のテロ事案に対処するのは自衛隊の役目よ。貴方たちのような、名前も戸籍もない子供たちが命を使い潰して対処する事案ではないわ
大門
その通りだな。子供が大人を頼れない社会は絶対に間違っている。子供の力でどうにもならない時は、大人の力で子供たちを全力で護ってあげる。子供たちを護るのは、俺たち大人の絶対的な責務だからな
緋村零
だからこそ、俺たちはDAの冷酷なやり方に反旗を翻したんだよ。子供なら、少しは子供らしく大人に守られていろ
フキ
………
フキをはじめとするリコリスたちが、その言葉に返す言葉もなく拳を握りしめた。その時だった。
リコリスB
う……あ……
ドサリ、とリコリスの少女が二人、糸が切れた人形のようにアスファルトに崩れ落ちた。
フキ
な?! おい、しっかりしろ! 目を開けろ!
すぐに俺と黛煙が弾かれたように駆け寄り、彼女たちの身体を検分する。
緋村零
まずいな……。浅い呼吸のうえに胸部を強く圧迫されている。激しい爆発の衝撃に直撃したか。多分『肺挫傷』だ。このままだと窒息するぞ
黛煙
こちらの方は顔面蒼白、脈が極めて弱いです。重度の『出血性ショック』を起こしています。一刻も早く、高度な医療設備の整った病院へ搬送しなければ命が持ちません
式
でも、いつ残党のテロリストが襲撃してくるか分からないこの大混乱の中で、救急車を呼んで民間人を巻き込むのはあまりにも危険よ?
式が周囲の暗闇を警戒しながら、冷徹な事実を告げる。くそ、どうする。ここで救った命を見殺しにするわけにはいかない。
指揮官
『お困りのようだな、零?』
耳のインカムから、エルモの指揮所にいる指揮官の余裕に満ちた声が響き渡った。
緋村零
指揮官! 負傷者の容態が深刻だ。何か手はないか!?
指揮官
『安心しろ。お前たちが命懸けで繋いだ命だ、決して見殺しにはさせない。間もなく、この国が誇る究極の救急救命のプロフェッショナルたちがそこに到着する』
緋村零
救急救命のプロフェッショナル……?
その時だった。地響きのようなサイレンの音と、夜空を切り裂くローターの爆音が、猛烈な勢いで延空木へと近づいてきた。
たきな
零さん! あれを見てください!
たきなが夜空と大通りを指差す。その視線の先から、常識を遥かに超えた規模の「救世主」たちが姿を現した。
地平線を埋め尽くすように、16式機動戦闘車を先頭にした自衛隊の重装甲車列が突入してくる。87式偵察警戒車、96式装輪装甲車、軽装甲機動車、高機動車や大型トラックが次々と広場を包囲していく。
その後ろには、警視庁特殊強襲部隊「SAT」や特殊捜査班「SIT」、さらに「NPS」の装甲車、機動隊の大型車両、自動車警ら隊、交通機動隊、機動捜査隊の白黒パトカーや白バイが列をなし、赤色灯の海で夜を真っ赤に染め上げた。
さらに東京消防庁のポンプ車、はしご車、そして超大型移動極限手術車「スーパーアンビュランス」が巨体を滑り込ませ、各都道府県のDMAT車両、TOKYOMERのERカー「TO1」が怒涛の勢いでエントランス広場へ進入してくる。
そして上空からは、翔北救急救命センターのドクターヘリが、激しい風を巻き起こしながら広場の駐車場へと爆音を立てて着陸した。
自衛隊員
第1普通科連隊、現着しました!
自衛隊員
第1偵察戦闘大隊、現着! 警戒線を構築せよ!
自衛隊指揮官
総員! 下車戦闘および人命救助作業、用意! 周辺の安全を完全に確保しろ!
装甲車のハッチが開き、重武装の自衛隊員たちが一斉に飛び出し、周囲の死角へ銃口を向けて完璧な防衛線を敷いていく。
SAT隊員
SATアルファ、現着! 周辺ビル群の狙撃ポイントを瞬時に制圧する!
SAT隊員
SATベータ、現着! 負傷したリコリスたちの保護および盾となって防衛を行う!
SIT隊員
SIT現着! 支援に入ります!
NPS隊員
NPS隊、現着しました! 一人も殺させない!
機動隊員
第4機動隊、現着! 外部からの侵入者を完全に阻止せよ!
特殊部隊の隊員たちが装甲車から下車し、リコリスたちを包み込むようにして防衛体制を整えていく。
消防隊員
東京消防庁、現着しました! これよりトリアージを開始する!
救急隊員
スーパーアンビュランス、拡張完了! 病床8床即座に確保! 重傷負傷者の受け入れを開始します!
巨大な特殊車両が瞬時に変形して即席の手術室を作り上げ、消防隊員たちが一糸乱れぬ動きで救助活動の作戦を練り始める。
DMAT職員
千葉DMAT、到着しました!
DMAT職員
埼玉DMAT、到着しました!
DMAT職員
静岡DMAT、ただいま到着! 医療資材の搬入を急げ!
全国から駆けつけたDMATの職員たちが次々と車両から飛び降り、消防や救急と瞬時に連携して、広場に完璧な救護エリアとトリアージラインを完成させていく。
白石
翔北救急救命センター、ドクターヘリ部隊、現着しました! 患者の容態は!?
喜多見
東京MERです! 現着しました! これより現場に飛び込みます! 死者を一人も出さないのが、私たちの使命です!
八雲
東京DMAT隊、臨場しました。直ちにトリアージエリアの統括に入ります!
東京MER、コード・ブルー、Dr.DMAT、そしてNPS。この国を守り、命を救うために自らの信念で動く、あらゆるドラマの壁を越えた本物のプロフェッショナルたちが、いまここに奇跡の集結を果たしたのだ。
千束
凄い……何、これ……信じられない……
たきな
こんなに……たくさんの大人たちが、私たちのために……
フキ
嘘だろ……国が、警察が、自衛隊が……私たちを助けにきたっていうのか……?
目の前の圧倒的な光景を前に、フキをはじめとするリコリスたちは、完全に呆気に取られて大粒の涙を流していた。当然だろう。今までDAという冷酷な組織の中で、使い捨ての捨て駒として扱われ、傷ついても隠蔽され、誰にも助けてもらえなかった彼女たちなのだから。
だが、今、目の前には、彼女たちの命を全力で、必死に救おうとする本物の「大人たち」がいる。
緋
凄いな……これは本当に、壮観としか言いようがないな……
式
ふん、これだけの人間が命を繋ぐために動いているのね。大したものじゃない
絳雨
うん……みんな、すごくかっこいいよ……!
絳雨たちもまた、その圧倒的な人間の意志の力に目を見張っていた。俺はそんな少女たちの姿を見つめ、静かに、しかし確信に満ちた声を響かせた。
緋村零
いつの時代にだって、どこにだって居るんだよ。上の狂った命令や組織のルールなんかじゃない。自分の『命を救う』という絶対的な信念だけで動く、本当のプロフェッショナルたちがな。……それに、驚くのはまだ早いぞ。今、関東圏のすべての裏社会で、同じような『夜明け』の動きが見られ始めている
俺は手元の無線機のスピーカーの音量を上げ、広場にいる全員に、国が、そして自衛隊が動き出した瞬間の音を聞かせた。