ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜   作:霧のイージス艦

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救出作戦

 

俺は手元の無線機のスピーカーの音量を最大に絞り、広場にいる全員に聞こえるように掲げた。沈黙の落ちていた夜空に、無数の機関から発せられる緊迫した交信の嵐が響き渡る。

 

港区消防本部救助隊

こちら港区消防本部救助隊、現着と同時に最優先で現場に向かう! 対象エリアにいる少女の救助および保護を第一優先とする!

 

墨東病院ドクターカー班

こちら都立墨東病院ドクターカー班! 小児外傷対応チーム随行の上、延空木へ向かう!

 

神奈川県警機動隊

こちら神奈川県警機動隊、ただいま都内へ進入! 臨場しだい、警視庁機動隊と合流し周囲の厳重な警戒に当たる!

 

千葉市消防局

千葉市消防局出動中! 東京消防庁と緊密に連携し、要救助者の救出および医療機関への移動中の患者搬送を全面サポートします!

 

横浜市消防局

こちら横浜市消防局! ただいま全隊出動! 湾岸線を抜け、延空木へ向かう!

 

茨城県警銃器対策部隊

こちら茨城県警銃器対策部隊! 県警機動隊とともに都内へ臨場、現場へ直行する!

 

警視庁高速隊

こちら警視庁高速隊! 都内主要高速道路の一般車通行規制、完全に完了! 緊急車両の最優先誘導を開始する!

 

陸上自衛隊中央即応連隊

こちら陸上自衛隊中央即応連隊! 宇都宮よりただいま出動! 現場に向かう!

 

第4対戦車ヘリコプター隊

こちら陸上自衛隊木更津駐屯地所属、第4対戦車ヘリコプター隊! これより現場上空へ向かう!

 

航空自衛隊百里基地

こちら航空自衛隊百里基地! ただいまF2戦闘機2機がスクランブル発進! 万が一の事態に備え、首都上空の絶対的な制空権を確保する!

 

護衛艦きりしま

こちら海上自衛隊横須賀基地所属、こんごう型イージスミサイル護衛艦きりしま! ただいま出港、東京湾内へ進入した! 周辺海域の厳重な警戒任務に入る!

 

護衛艦てるづき

同じく、あきづき型汎用護衛艦てるづき! 本艦はこれより、護衛艦きりしまの直掩および東京湾防空警戒に当たる!

 

巡視船あきつしま

こちら海上保安庁第3管区所属、ヘリコプター2機搭載型巡視船あきつしま! 本船はこれより東京湾内における不審船の侵入警戒に当たる!

 

巡視船いず

同じく海上保安庁第3管区所属、大型巡視船いず! 本船もただちに東京湾内の海上警戒および救難体制に入る!

 

絶え間なくスピーカーから流れ込んでくるのは、この国の防衛、治安、医療のすべてが「少女たちを救うため」だけに総力を挙げているという、驚天動地の無線交信だった。

 

たきな

こんなに……こんなにもたくさんの人たちが、私たちのために動いてくれている……

 

でも、誰もリコリスとは呼んでいないわね。すべて要救助者、あるいは、ただの少女たち、と言い換えているわ

 

たきなと式が、深く胸を打たれたように無線機を見つめて呟く。組織の闇に隠され、都合のいい道具として扱われてきた少女たち。その存在を、この国の現場の大人たちは、ただ守るべき一人の人間として認識していた。

 

リコリスC

私たち……見捨てられたわけじゃ……なかったんだ……本当に、大人たちが助けにきてくれたんだ……

 

あちこちから、堰を切ったようなリコリスたちの泣き声が漏れ出す。その涙を拭うように、俺と黛煙は彼女たちに優しく、しかし確固たる声で語りかけた。

 

黛煙

見た目がどうであれ、国の上層部があなたたちを何と呼ぼうが関係ないわ。今ここに集まっている現場の自衛隊員、警察官、消防隊員たちはね、あなたたちをただの『護るべき子ども』として見ているのよ

 

緋村零

あぁ……この国も、まだ捨てたもんじゃない。自分の信じる信念と正義に従って、これだけ身体を張って動ける本物の大人たちが、まだこんなに大勢残っているんだからな

 

俺たちが語りかけている間にも、広場には次々と消防隊員や警察官、自衛隊員、そして医療従事者たちが怒涛の勢いで押し寄せてきた。

 

神御蔵

神御蔵一號、警察庁NPSだ! 負傷者はどこだ!?

 

緋村零

緋村零と言います。負傷者はここにいるリコリスの30名です。他の者たちは……残念ながら、内部の激しい戦闘で不明です

 

神御蔵

そうか、分かった。あとのことは俺たちに任せてくれ!

 

喜多見

MERの喜多見と言います! もう大丈夫ですよ、私たちがついています!

 

喜多見チーフ率いる東京MERや、白石先生たちが率いる翔北ドクターヘリ部隊の医師たちが、すぐさま広場にブルーシートを広げて最速のトリアージを開始する。

 

音羽

重症者を最優先で処置エリアへ。比奈先生、夏梅さん、ただちに点滴の準備とモニターの装着を!

 

蔵前

了解! 医療資材搬入します!

 

弦巻

はい! モニター準備完了です!

 

千住

東京消防庁ハイパーレスキュー隊隊長、千住だ! 軽症者を順次、スーパーアンビュランス内の処置エリアへ運び出す! バックアップを急げ!

 

動ける軽症のリコリスたちは、東京消防庁の屈強なレスキュー隊員や救急隊員たちに優しく肩を支えられながら、次々と巨大なERカーへと搬送されていく。その光景を見届け、俺は隣に立つNPSの隊員へ向き直った。

 

緋村零

神御蔵さん、すいませんが、これより延空木上層階の奪還に向けた合同作戦会議を行います。各戦闘部隊の責任者を大至急集めてください

 

神御蔵

分かった、すぐに香椎隊長に伝えて天幕を用意させる!

 

広場の一角に急造された自衛隊の陣頭指揮本部。大型の天幕の中には、この国が誇る最精鋭部隊の指揮官たちが一堂に会していた。

 

会議参加者

陸上自衛隊第1普通科連隊長、西郷瀧

警視庁NPS隊隊長、香椎秀樹

警視庁SAT隊隊長、中丸文夫

特殊戦術小隊エルモ、緋村零、黛煙、グローザ

元リコリス、錦木千束、井ノ上たきな

その他、消防、警察、医療関係の責任者多数。

 

緋村零

全員、揃いましたね

 

俺は集まった猛者たちを見渡しながら、まずは深く頭を下げた。

 

緋村零

まずは我々の要請に応じ、これほどの大規模な救援をいただいたこと、心から感謝します

 

西郷

気にする必要はない、緋村君。国民の生命と財産を守るのが、我々自衛隊の本来の仕事だからな。それに、子供たちが泣いている戦場を放っておけるほど、うちの連中は冷血ではない

 

香椎

その通りだ。組織の垣根や大義名分など関係ない。目の前の国民の安全を確保する、それが我々警察の、そして大人の果たすべき義務だ

 

中丸

その思いに、自衛隊も警察も消防も医療も関係ありません。緋村隊長、あなたのその揺るぎない正義の意志に、我々は共鳴してここに集まったのです

 

緋村零

……本当に、ありがとうございます

 

彼らの熱い言葉に胸の奥が熱くなるのを感じながら、俺はすぐに表情を厳しく引き締め、作戦用のテーブルの上に延空木の詳細な見取り図を力強く広げた。

 

緋村零

時間がありません。これより延空木上層階の制圧作戦会議を始めます

 

一同の視線が見取り図の一点に集中する。

 

緋村零

まず、我々が最優先で身柄を確保、あるいは排除しなければならない主犯格は3名。ヴァサゴ・カザルス、ガブリエル・ミラー、そして真島。この3名です

 

香椎

警察庁の本部からも極秘で話は聞いている。真島は当然として、残りの二人は以前の羽田空港テロの裏にも関わっていたとされる、国際的な冷酷極まりないプロの傭兵集団だな

 

グローザ

ええ。奴らはただのテロリストじゃない。世界中の治安を脅かす極悪な存在よ。何としても、この延空木の最上階で息の根を止めなければならないわ

 

黛煙

奴らの直接の相手は、元々の因縁もある私たちエルモのメンバーで行います。しかし、今回最も厄介な問題なのは……

 

緋村零

まだ上層部に、多くの要救助者たるリコリスたちが取り残されている可能性が極めて高いということです

 

そう、俺たちが先ほどエントランスまで保護してきたのは、あくまで中層階にいた者たちに過ぎない。その上にあるメイン制御室や最上階の展望エリアには、まだ孤立しているリコリスたちがいるはずなのだ。

 

西郷

確かにその通りだな。錦木さん、上の階には現在、どれほどの要救助者が残されていると考えられますか?

 

千束

私たちは全員で50名の部隊でここに来ました。今下にいるのが30名ということは、あと最低でも20名が、上の階のどこかで孤立しているはずです

 

機動隊長

あと20人か……。時間は一刻を争うな

 

千住

上の階は、先ほどの真島たちの爆破によって激しく崩落しているはずだ。おそらく通路は瓦礫や火災で埋め尽くされているでしょうね……

 

SIT隊長

さらに悪いことに、ヴァサゴたちの手下であるテロリストの残党が、人質を盾にして伏兵として待ち構えている可能性も否定できません

 

緋村零

ええ、その通りです。なので……

 

俺は一同を見渡し、最も確実だと思われる突入作戦を提案した。

 

緋村零

まず、戦闘のプロである我々エルモ、陸自、SAT、そしてNPSが先陣を切って上層階に突入し、テロリストの残党を徹底的に制圧します。安全圏の確保が完了しだい、後方に待機している消防や機動隊の皆さんが進入し、要救助者の救出を――

 

喜多見

待ってください! 零君!

 

突如、強い口調で待ったをかけたのは、東京MERの喜多見チーフだった。

 

喜多見

それでは遅すぎます。もし上の階に、先ほどの肺挫傷や出血性ショックのような重傷患者がいた場合、完全な制圧を待っていては処置が遅れ、確実に死に至ることになります!

 

グローザ

しかし喜多見チーフ、テロリストの残党との激しい銃撃戦や爆発の危険が残っている以上、武器を持たない非戦闘員の医療従事者が同行するのはあまりにも危険すぎるわ!

 

喜多見

確かに危険なのは分かっています。でも、ここにいる医療チームの面々は、全員がその危険を最初から百も承知の上で、命を救うためにここに立っているんです!

 

喜多見の熱い眼光に呼応するかのように、天幕の中にいた他の指揮官たちからも次々と覚悟の決まった声が上がった。

 

機動隊長

確かに俺たち機動隊は、SATやNPSのような『テロ対処専門部隊』じゃない。だがな、すぐそこで『子供たちが助けを求めている』んだ! 理由なんてそれだけで十分だ! 命をかける価値がそこにある!

 

千住

要救助者の救出は、我々消防隊の絶対のプライドであり仕事です。そこに『救うべき命』がある限り、火の海だろうが弾丸の嵐だろうが、引き下がる選択肢などありません。覚悟の上です!

 

喜多見

我々MERの絶対の使命は『死者を一人も出さないこと』です! 危険だからと待っている間に失われる命があるなら、私たちはどこへでも飛び込みます! ここにいる全員で協力して、すべての命を救いましょう!「待っていたら救えない命があります」!

 

中丸

その通りだ。緋村隊長、我々SATも彼らの盾となる覚悟はできている。皆、危険など疾うに承知の上だ。彼らを信じて同行させてやってくれ

 

……まったく、本当にこの世界の大人たちは、どいつもこいつも熱くて、凄すぎる……。俺は彼らの圧倒的なプロフェッショナルとしての魂に、深い敬意の笑みを浮かべた。

 

緋村零

分かりました。そこまで言うなら、全員で同時に突入しましょう。では、主犯格の排除およびテロリスト残党の制圧は、我々自衛隊、エルモ、SAT、NPS、そしてSITが担当します。銃器対策部隊と機動隊の皆さんは、消防隊や医療従事者の盾となり、周囲の護衛を徹底してください。そして、要救助者の応急処置、瓦礫からの救出、搬送は消防隊と医療従事者の皆さんにお願いします。これでよろしいですね?

 

一同

はい!!!

天幕を震わせるほどの、凄まじい決意がこもった返事が一つに重なった。これですべての作戦のピースが完璧に噛み合った。

 

緋村零

よし、直ちに各部署で突入人員の選出、および重装備の準備に取り掛かってください。そして……

 

俺は一度言葉を区切り、天幕にいるすべての「正義」を背負った大人たちを真っ直ぐに見据えた。

 

緋村零

必ず、上の階に取り残されている要救助者全員をこの手で助け出し、犠牲者ゼロを成し遂げましょう!

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