ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜   作:霧のイージス艦

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リコリス達の思い

 

緋村零たちが作戦会議をしている最中、彼らによって延空木から救い出されたリコリスたちは、広場に設置された救護エリアで治療を受けていた。慌ただしく動く医療従事者や自衛隊の衛生隊員たちの中には、エルモのコルフェンの姿もあった。

 

春川フキSide

 

DMAT医師

熱があるな……脱水も起こしている。点滴いけるか?

 

DMAT看護師

はい、ただちにライン確保します

 

自衛隊員

右腕からの出血が酷い! 深い裂傷だ、止血帯をもってきてくれ!

 

自衛隊員

了解、ただいま!

 

DMAT医師

よし、こちらの処置は完了だ。スーパーアンビュランスへの搬送をお願いします!

 

救急隊員

はい、通ります! 下がってください!

 

ファーストリコリスの春川フキは、目の前で繰り広げられる怒濤の救命劇を、ただ黙って見つめていた。幸いにも軽症であった彼女は、緑色のトリアージタグを腕に巻かれ、敷かれたブルーシートの上に力なく座り込んでいた。彼女の周囲には、眩いほどの赤色灯を放つ多数の緊急車両がひしめき合っている。

 

警察指揮官

警戒線、あと5メートル下げろ! 医療搬送の邪魔になる!

 

警視庁の指揮官が無線機を肩に押し当て、鋭い目だけで現場全体を見渡して怒号を飛ばす。周囲の隊員たちは即座に応じ、資材搬入路を確保するために動いた。

そしてその横を、東京消防庁だけでなく、応援出動した千葉、横浜、埼玉消防の各レスキュー隊員たちが、ストレッチャーや破壊機材を手に泥だらけになりながら次々と駆け抜けていく。自分たちが座るブルーシートの向こう側には、まるで壁のように夥しい数の救急車群が並んでいた。

 

ふと延空木のエントランスの方へ目を向ければ、陸上自衛隊の16式機動戦闘車や96式装輪装甲車、軽装甲機動車が、まるで巨大な防盾となるかのように頑強に布陣していた。その周囲では、多くの自衛隊員やSAT、SIT、NPS、そして機動隊員たちが、小銃や重厚な防弾盾を構えて周囲の暗闇を油断なく警戒している。

 

凄まじい爆音が夜空から響いてきた。

見上げれば、自衛隊のAH1Sコブラ対戦車ヘリやUH60JAブラックホークの他、ドクターヘリ、警察、消防の航空隊ヘリが激しくローターを回転させて飛び交っている。さらにその遥か上空を、航空自衛隊のF2戦闘機2機が首都を守るように轟音を立てて飛行していた。

近くの指揮車両に設置されている大型モニターには、東京湾内を臨戦態勢で警戒航行する海上自衛隊の護衛艦きりしまとてるづき、そして海上保安庁の大型巡視船あきつしまといずの姿がリアルタイムで映し出されている。

 

自衛隊、消防、警察、海保、そして医療従事者。それはまさに、この国の「総力戦」と言える状況だった。すべてが、自分たちを救うためだけに動いている。

私はたまらなくなり、近くで付きっきりの治療を続けている東京MERの医師に、擦り切れた声で話しかけた。

 

フキ

……なんで、助けに来てくれたんだ? こんな危険を承知の上で、なぜ、私たちなんかのために?

私の問いかけに、MERの医師であり厚生労働省の官僚でもある音羽は、手を休めることなく冷徹に、しかし確かな響きを持つ声でこう答えた。

 

音羽

俺たちが初めて君たちの存在を知ったのは、延空木でのあの銃撃事件の映像を見てからだ。最初は、我々MERだけで独断で動くつもりだった。しかし、自衛隊の幹部から極秘裏に応援要請が入った。だが、その直後だ。東京消防庁や警察、そして自衛隊に、政府から正式な『出動指令』が下された

 

フキ

政府から……?

信じられなかった。戸籍もなく、存在しないはずの自分たちを救うために、国のトップが動いたというのか。そこへ、静かな足音とともにエルモの黛煙が歩み寄ってきた。

 

黛煙

関東圏の自衛隊部隊にはね、正式に警護出動命令が発令されたのよ。最初はただの基地警備が名目だったけれど、現場の大人たちがその命令を最大に拡大解釈して、私達はあなたたちの救出にここへ来たの

 

さらに、隣でテキパキと医療器具を片付けていたMER看護師の蔵前夏梅が、優しく、しかし諭すようにフキを見つめて話した。

 

蔵前

あなたたちはまだ子供よ。そして私たちは大人。目の前で傷ついている子供を助けるのに、それ以上の理由なんていらないわ。職業人として、大人として、あなたたちを助ける義務があるの

 

彼女はそう言って、戦場には不釣り合いなほど温かい微笑みを浮かべた。

 

フキ

(……あぁ、そうか……)

 

胸の奥から、熱いものが一気に込み上げてきた。

今まで私たちがDAでやってきたことは、法律も人権も何もかも無視した、闇の中の暗殺行為だ。どうせ18歳になる前に、リコリスとしての短い寿命を迎えて死ぬ。所詮、私たちは国の平和のための都合のいい使い捨ての捨て駒で、それ以外の生き方なんてない。死にたくなければ、ひたすらに特訓して、感情を殺して目標を排除する。それだけがすべてだと、頑なに信じ込んでいた。

でも、違ったんだ。

こうして、私たちの名前も知らない大勢の大人たちが、法律の壁をねじ曲げ、命の危険を冒して、今この瞬間も全力で戦ってくれている。

存在してはいけない不条理な道具なんかじゃない。

私たちは、一人の人間として、生きていていいんだ。

生まれて初めてそう心から思えた瞬間、私の目からは、堪えていた涙がボロボロと止めどなく溢れ落ちていた。

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