ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜 作:霧のイージス艦
緋村零たちが坂柳有栖、神室真澄と接触していた頃、延空木の非常階段ルートからは、警視庁特殊強襲部隊「SAT」が漆黒の装備に身を包んで突入していた。
隊員A
コンタクト! 前方に敵影多数!
非常階段の重厚な扉を蹴破り、視界が開けた直後のフロア。待ち構えていたテロリストの残党が一斉に発砲し、瞬く間に激しい銃撃戦へと突入した。
中丸
敵の武装はわかるか!? バラまかれている銃の種類を特定しろ!
隊員B
前方、AK47にRPK軽機関銃、トカレフの模様です!
武器マニアの隊員が、遮蔽物に身を隠しながら瞬時に中丸隊長へと報告する。
中丸
よし、容赦するな! 撃ち返せ!
装備、練度、そして戦術のすべてにおいて、SAT部隊はテロリストの烏合の衆を遥かに凌駕していた。防弾盾を先頭に立て、緻密な連携で遮蔽物から遮蔽物へと渡り歩き、確実に敵の数を減らしていく。
テロリストA
クソがッ! なんで日本の警察の、あのSATがここに突入してきてるんだよ!
テロリストB
日本警察は命令がなきゃ動けない腰抜けの集団じゃなかったのか!?
テロリストC
おい、容赦なく頭を狙ってきやがるぞ! 誰だよ、日本の警察や自衛隊は戦闘の時は腕や脚を狙ってくるとか、そんなおめでたい誤情報を言いふらしたのは!? 話が違いすぎるだろ!
自分たちが吹き込まれていた甘い情報とは根底から異なる、容赦のない「殺傷戦闘」を仕掛けてくるSAT部隊の前に、テロリストたちは大混乱に陥っていた。
隊員D
喰らえ!
遮蔽物から身を乗り出した隊員が、正確にコントロールされた89式自動小銃の点射でテロリストの胸部をブチ抜く。
隊員E
そこ、見えてるぞ
さらに別の隊員が、豊和M1500ボルトアクション狙撃銃の照準をミリ単位で修正し、物陰から顔を出したテロリストの脳頭部を躊躇なく撃ち抜いた。
中丸
よし、敵の制圧を確認。陣形を維持したまま、前進!
戦闘のプロフェッショナルとして完璧な動きを見せるSAT部隊。彼らが歩調を速めて通路を進む中、インカムから零の声が流れてきた。
緋村零
『こちらエルモ1。中層階において少女2名を保護した。複数の銃創あり。至急、医療班および消防隊の応援を頼む』
喜多見
『こちらMER喜多見、了解! 零君、そのまま動かさずに待機していてください。これよりMERカーの資材を持ってそちらへ急行します!』
隊員A
エルモの部隊、さっそく見つけたみたいですね
中丸
あぁ、彼らの手際は流石だな。よし、俺たちも負けていられん、急ぐぞ!
隊長が頼もしく鼓舞し、さらに歩を進めようとした、その時だった。
ギィー……
コンクリートの壁に備え付けられた錆びた鉄扉が、不気味な音を立てて開く。
中丸
……! 全員、止まれ! 銃口を向けろ!
一瞬にして緊張が走り、SATの全員が音がした方向へと一斉に小銃の照準を合わせた。その扉の奥から姿を現したのは、傷ついた制服姿の女の子が2名、そして彼女たちを庇うように立つ成人女性が1名だった。
??
……! 敵!?
成人女性のほうが、鋭い警戒の眼光とともに手にした拳銃をこちらへ向けてくる。
中丸
待て! 撃つな! 我々は警視庁特殊強襲部隊、SATの者だ! 君たちの敵ではない!
中丸隊長がすぐさまドスの利いた声を響かせ、緊迫した場を制止した。しかし、背後の隊員たちはまだ引き金に指をかけたまま銃口を向けている。
中丸
おい、お前ら、銃を下ろせ。彼女たちは保護対象だ
隊長の明確な指示により、隊員たちは一斉に銃口を床へと下げた。それを見た大人の女性も、張り詰めていた身体の力を僅かに抜く。
??
……本当に、私たちの敵ではないのね? 処分しにきたんじゃないのね?
中丸
あぁ。我々は君たちの味方だ。国からの正式な命令のもと、君たちを助けに来た
中丸がヘルメットのバイザー越しに誠実な目を向けると、彼女もようやく拳銃を下ろした。
??
うぅ……あ……
??
珪子、しっかりして! もう大丈夫だから、頑張って!
制服を着た少女の一人が、苦痛に顔を歪めてアスファルトにへたり込む。
隊員C
おい、傷を見せてみろ。触るぞ
一人の隊員が素早く駆け寄り、少女の傷口を検分する。
隊員C
大丈夫だ、安心しろ。弾は綺麗に肉を突き抜けて後ろに抜けてる。これくらいなら、俺たちの戦場じゃ唾でもつけておけば治るレベルの傷だ。ただ、出血の量が酷いな。今すぐ止血帯でガッチリ止める。少し痛むが、我慢してくれよ
??
ありがとう……ございます……
隊員が手際よくターニケットを大腿部に巻き付け、出血を力づくで止めていく。その隣で、別の隊員がすかさず無線機のスイッチを入れた。
隊員E
『こちらSATアルファ。非常階段ルート中層階にて少女3名を保護した。うち1名は出血がかなり酷い。医療班および消防隊は、至急このポイントへ急行願う』
藍沢
『こちら翔北救命センターの藍沢だ。了解した。これよりドクターヘリの医療資材を持ってそちらへ直行する。それまでしっかり圧迫止血を維持しておけ』
無事に応援の手配を終えたのを見届け、中丸隊長が彼女たちに向けて静かに口を開いた。
中丸
すまない、今後の引き継ぎのために君たちの名前を聞いてもいいか?
傷ついたリコリスたちは互いに目を見合わせ、覚悟を決めたように名乗った。
??
私は、篠崎里香
??
綾野珪子……です……
??
星山翠子よ。この子たちを守ってくれて感謝するわ
彼女たちの名前を脳裏に刻み込み、中丸は再び通路の奥へと鋭い視線を走らせた。この延空木には、まだ救いを待つ命が数多く残されている。