ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜 作:霧のイージス艦
NPS隊が保管倉庫で堀北鈴音たち5名を無事に保護していた頃、延空木の別ルートからは、陸上自衛隊最精鋭のレンジャー部隊が恐るべき速度で上層へと突き進んでいた。
第1普通科連隊のレンジャー部隊を率いるのは、船越彰1等陸尉。
彼らは他のどの部隊よりも早く中層階を突破し、強固な陣形を維持したまま、さらに上の階層を目指して非常階段のルートを駆け上がっていた。
隊員A
隊長、このルート、やけに静かですね
先行していた隊員の一人が、周囲の状況を小銃のサイトでクリアリングしながら声を潜めた。
船越
そうだな。さっきからリコリスの少女とも、テロリストの残党とも遭遇しない。不気味なほどだ
そう、あまりにも静まり返りすぎている。そこに、背中の無線機に手を当てていた通信手の隊員が船越の元へ駆け寄った。
隊員B
隊長、各隊から連絡です! エルモ、SAT、NPSがそれぞれ別のフロアで少女たちを保護したとのことです。いずれも負傷者はいるものの、命に別状はないとのことです!
船越
そうか。それは何よりだ。緋村零たちの手際もいいな
隊員C
隊長、他隊に遅れをとるわけにはいきません。我々も急ぎましょう!
船越
その通りだな。よし、行くぞ! 警戒を怠るな!
一同
了解!
レンジャー部隊は一糸乱れぬ動きで、そのまま通路の前進を再開した。彼らのブーツがコンクリートを鳴らし、延空木の放送室へと近づいた、その瞬間だった。
ババババババババッ!!
突如として通路の奥から凄まじいマズルフラッシュが走り、猛烈な銃撃が壁を削り飛ばした。
船越
……! 隠れろ! 伏せろッ!
船越隊長の鋭い怒号と同時に、全隊員が弾かれたようにコンクリートの物陰へと身を隠す。彼らが隠れた壁の裏へ、容赦のない銃弾の雨が降り注ぎ、火花が激しく散った。
隊員A
コンタクト! 前方に敵の防衛線!
隊員B
敵は1個分隊規模! 突撃小銃に加えて、分隊軽機関銃の重火力を確認!
船越
怯むな、応戦しろ! 叩き潰せ!
陸自レンジャー部隊は直ちに反撃へと転じた。狭く見通しの悪い一方通行の通路という、極めて戦いにくい地形ではあったが、レンジャーの極限の練度はテロリストのそれとは比べものにならない。
隊員C
撃ち返せ! 火力を集中しろ!
各隊員が精密にコントロールされた89式小銃や、ミニミ軽機関銃を激しくぶっ放す。テロリストたちの無駄な乱射による給弾の隙や、僅かな射線のブレをミリ単位で見逃さず、遮蔽物の隙間から一人、また一人と確実に息の根を止めていく。
テロリストA
ぐはっ……! 弾が、壁を抜けて……!
テロリストB
ギャアアアッ!!
レンジャー部隊の容赦のない、そして寸分の狂いもない圧倒的な射撃の前に、あれほど激しかった敵の抵抗はあっという間に沈黙し、すべてのテロリストが床へと転がった。
船越
各員、状況を知らせ! 損害は!?
船越隊長が厳しい声で各隊員に状況を報告させる。
隊員C
隊長、全員異常なしです! 負傷者もいません!
船越
よし、分かった。……全員、その先にある放送室に入るぞ。クリアリングを徹底しろ
船越の合図とともに、レンジャー隊員たちは銃口を突き出しながら、通路の奥にある重厚な放送室の扉を蹴破って内部へと突入した。その部屋の中へ踏み込んだ瞬間、船越の目が驚愕に細められる。
船越
……!! 君たち、大丈夫か!?
放送室の床には、9人もの制服姿の少女たちが、頑丈なロープで縛られた状態で座り込んでいた。突然の乱入者に、少女たちの間に緊張が走る。
??
……! 敵!?
??
くそ!
中の全員が一斉に身体を硬くし、縛られたままでも戦おうとする苛烈な警戒態勢をとった。
船越
待て! 銃を下ろしてくれ! 我々は陸上自衛隊だ。君たちを救出にきた! 敵ではない!
その誠実で力強い言葉に、少女たちの間に驚きが広がった。しかし、一人の鋭い瞳をした少女が、なおも船越を値踏みするように見据える。
?る
待って。あなたたち、本当に陸上自衛隊なのなら、所属を言ってくれないかしら?
少女の冷徹な問いかけに対し、船越は背筋を伸ばし、迷いのない声で堂々と答えた。
船越
私は陸上自衛隊東部方面隊、練馬駐屯地、第1普通科連隊所属の、船越彰1等陸尉だ。政府からの正式な警護出動命令に基づき、この延空木に突入した
船越はそう告げ、彼女たちの出方を確認した。じっとその挙動を観察していた少女は、フッとわずかに表情を緩める。
??
所属や階級、動作、すべて本物の自衛隊員ね。みんな、大丈夫よ。この人たちは味方ね
??
良かった……本当に、良かった……
張り詰めていた空気が一気に霧散し、多数の少女たちが安堵の深い溜息を漏らした。
??
今すぐ拘束を外す。刃物を使うから、危ないから動かないでくれ
船越の指示で、レンジャー隊員たちが素早く駆け寄り、コンバットナイフで彼女たちを縛り付けていたロープを丁寧に切り離していく。全員の拘束を解き終わったところで、船越は改めて彼女たちの顔を見渡した。
船越
大事にならなくて本当に良かった。今後の保護のために、君たちの名前を聞かせてもらえるか?
少女たちはそれぞれ立ち上がり、衣服の埃を払いながら、自身の口調のままに答えていった。
??
本多小春です。助けていただき、ありがとうございます
??
兎沢深澄よ。本当に助かったわ
??
朝田詩乃よ。……ありがとう
??
竹宮琴音です、もうダメかと思いました……
??
早乙女紗知です。ありがとうございます
??
帆坂・カリーナ・朋だ。礼を言う
??
小比類巻香蓮です……! ありがとうございました……!
??
篠原美優だぜ! 助かった、ありがとよ!
??
高峰紅葉よ。本当に助かったわ
彼女たちの個性的で、しかし力強い名前と引き締まった表情を受け止め、船越は深く頷いた。これで中層階の要救助者の大半は確保できたはずだ。船越はインカムのスイッチを入れ、最上階を目指している緋村零たちに向けて力強く無線を飛ばした。