ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜   作:霧のイージス艦

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最終戦〜真島vs千束&たきな〜

 

俺たちは足元を激しく揺らす延空木の階段を、迷うことなく駆け上がっていった。

 

たきな

零、これ以上のぼれば、そろそろ首謀者たちと接敵してもおかしくない深度ですね

 

緋村零

あぁ。残る敵は真島、ヴァサゴ、ガブリエル・ミラーの3人だけだ。だが……

 

千束

零君。真島は、私とたきなでやるよ。あいつにはちょっと、私も個人的な因縁があるしさ

 

並走しながら、千束が鋭い眼光を崩さずにそう進言してきた。

原作でのあの死闘の流れを考えれば、ここはその因縁に任せるのが最も確実だ。

 

緋村零

了解した。任せる。そうなると、残るヴァサゴとガブリエル・ミラーの処理だが……

 

黛煙

零、ガブリエル・ミラーの排除を頼めますか? ヴァサゴは私がこの手で殺ります

 

黛煙の口から漏れたのは、普段の彼女からは想像もつかないほど、氷のように冷たく濁った殺意の言葉だった。

 

緋村零

黛煙、何故あえてヴァサゴを指名するんだ?

 

黛煙

……似ているんですよ、あの男。私がグリフィンに入る前の終末世界で嫌というほど見た……捕らえた私たち人形や、生身の間の人間の女たちを物言わぬ雌奴隷のように扱い、私利私欲のために人身売買を繰り返していた極悪な野良PMCの生ゴミどもにね。あの手の男は、生かしておいてはいけません

 

終末世界を生き抜いた戦術人形としての、壮絶な過去の記憶。その怒りを受け止め、俺は20式小銃のグリップを握り直した。

 

緋村零

分かった。お前のジャッジを信じるよ。頼んだぞ、黛煙

 

黛煙

ええ、任せてください。必ず地獄へ叩き落とします

 

たきな

……黛煙さんも、本当に気の遠くなるような苦労をされてきたのですね

 

戦術人形たちの過去の片鱗に触れ、たきなが同情の眼差しを向ける。

 

黛煙

そうですね……。社会の秩序というものが完全に崩壊してしまうと、力のない女は本当に酷い扱いを受けますから。だからこそ、私はこの世界をあんな地獄にしたくはないのです

 

そんな会話を交わしながら階段を蹴り破り、俺たちはついに延空木の最上層、広大な展望フロアへと足を踏み入れた。コンクリートの支柱が乱立するその中央に、人影があった。

 

真島

よう? 待ってたぜ、お前ら

 

一同

……!!

 

崩れた壁に背を預け、不敵な笑みを浮かべた真島が、俺たちの到着を悠然と待ち構えていた。

 

緋村零

よう、真島。お前も随分としぶといな。さっさとここで首を括って死ねば、少しは楽になれるぞ?

 

真島

そう言う訳にはいかねぇんだよ。俺はこの世界の歪みを正しにきたんだ。バランスを取らなきゃな〜

 

相変わらずの「バランス」という狂った大義名分。それを嘲笑うように、千束とたきなが前に出た。

 

千束

なら、その壊れた天秤をここで完膚なきまでに崩してあげるだけだけどね〜

 

たきな

ええ。その通りです

 

二人の銃口が、真っ直ぐに真島をロックする。

 

千束

ねぇ真島。あの時の決着、ここでハッキリつけようよ。あの時は零君の乱入で不完全燃焼だったしさ? ここなら、あんたの好きなだけ死合うバランスが取れるよ?

 

真島

はっ! いいねぇ。だが、そこの不殺を間抜け面で信条にしてるお前が、俺を殺――

 

千束

殺せるよ?

 

真島

……あ!?

 

真島が言葉を言い切るより早く、千束が底冷えする声でその言葉を完全に遮った。

 

千束

確かに私は今まで不殺を信条にしてきたよ。でもね、やらなければこちらが殺られる。何より、あんたらみたいな害虫を生かしておいたら、この国の一般の国民がどれだけ苦しむことになるか、嫌というほど理解したから

 

千束

それにさ、今の私はDAの捨て駒リコリスじゃない。自衛隊の特殊部隊員なんだよ。日本の国益を脅かす敵を徹底的に排除し、国民の生命と財産を護るのが、今の私の本当の仕事だからね

 

千束の宣言に続き、たきなも冷徹にAR15を構え直した。

 

たきな

そういうことです。真島、もし今でも私たちのことを、昔の甘いリコリスとして見ているのなら――骨の髄まで後悔することになりますよ

 

真島

クッ……!!

 

千束とたきなの全身から放たれる、常軌を逸した「実戦兵士」としての凄まじい殺気。その威圧感の前に、さしもの真島も本能的な恐怖から僅かに後退りした。

 

たきな

零さん、黛煙さん、上へ行ってください!

 

千束

ここは私たちに任せて、先を急いで!

 

緋村零

分かった。お前たち、絶対に後れを取るなよ

 

黛煙

どうか気をつけてくださいね

 

俺と黛煙は、真島の死角を突くようにして最上階へと向けて一気に走り出した。

 

真島

おい、待て! 逃がすかよッ!

 

真島が慌てて俺たちの進路を塞ごうと足を動かしたが、その爪先のアスファルトが激しく弾け飛んだ。

 

パァン!!

 

たきな

どこへ行く気ですか? あなたの視界に映るべき敵は、私たちですよ

 

千束

あんたの相手は私たちだよ〜。余所見してると、一瞬で頭が吹き飛ぶよ?

 

銃口から細い硝煙を立ち上らせながら、二人が真島を完璧に釘付けにしていた。

 

真島

チッ……! 最高の障害になりやがって!

 

背後で響く銃声を耳にしながら、俺は心の中で念じた。

(頼むぞ、二人とも。最高の戦闘を見せてくれ)

俺と黛煙はそのまま速度を落とすことなく、さらに上層の闇へと消えていった。

ここからは、真島VS千束・たきなの、すべてを懸けた致死戦闘の幕開けとなる。

 

千束

たきな、行くよ?

 

たきな

ええ。始めましょう!

 

二人の身体が、同時に爆発的な速度で駆動した。基本戦術は、千束が圧倒的なスピードで間合いを詰める前衛、たきなが精密な射撃で敵の退路を断つ後方援護の形である。

 

真島

チッ! ちょこまかと動きやがって!

ババババババッ!!

 

真島はリコリスから奪い取ったクリス・ベクターをフルオートで発砲した。45ACP弾という重い弾丸を、特殊な反動吸収機構で制御して弾幕を張ってくる。しかし、そんな常人の網膜を越える銃撃すら、今の千束の前には止まっているも同然だった。

 

千束

ほっ! よっと! 軽い軽い!

 

千束は自慢の異常な動体視力で弾道をすべて見切り、弾幕の僅かな隙間を縫うようにして一気に肉薄する。

 

たきな

逃がしません……ッ!

バン! バン!

 

千束の接近と完全に同期し、後方からたきなの放ったAR15の5.56mm弾が超精密に唸りを上げた。その弾丸は、真島が構えていたクリス・ベクターのレシーバーへと見事に命中し、機関部を容赦なく粉砕した。

 

真島

クソったれがァ!!

 

手元で武器を破壊され、真島が武器を投げ捨てる。その瞬間、勝負の流れは完全にこちらへと傾いた。

 

千束

たきな、あとは私が徹底的にやるから、そこでしっかりカバーしてて?

 

たきな

分かりました。しかし、万が一にでも危険と判断した場合は、容赦なく即座に撃ち抜きますよ?

 

千束

うん、お願い!

 

千束は手にしていたHK416とデトニクスを大胆に地面へと放り投げ、腰のタクティカルナイフを静かに引き抜いた。

 

千束

ねぇ真島。ここからは銃なんか使わずに、己の肉体と剥き出しの実力だけで勝負しようよ。私だけ銃を使ってあんたをハメ殺したら、それこそあんたの大好きな『バランス』が悪いんじゃない?

 

真島

……どこまで俺をコケにする気だ、オメェ……!?

 

真島は血管を浮き上がらせて激昂するが、今の千束から見れば、その程度の怒りは簡単に挑発に乗ってくれる格好の「獲物」でしかなかった。

 

当の真島は、心の中で冷や汗を流し、激しい困惑に支配されていた。

 

真島

(クソが、何なんだ……!? 今までの錦木千束とは、完全に構えの合理性が違いすぎる……! 相手を肉体的に破壊し、殺すことになんの躊躇いも迷いもない……。一体この短期間で、この女に何があった……!?)

 

その僅かな「困惑」が生んだ一瞬の遅れ。戦場において、それは致命的な隙となる。

 

千束

ハァッ!!

 

真島

(しまっ――)

 

気づいた時には、千束の身体が至近距離まで滑り込んでいた。真島は力任せに千束の衣服を掴んで投げ飛ばそうとしたが、千束はその腕の力を利用し、ザ・ボス直伝の変則CQCで真島の重心を完全に奪い取った。逆らう間もなく、真島の巨体が虚空を舞う。

 

真島

(CQCだと……!?)グハァッ!!

 

真島は背中からコンクリートの壁へと激しく叩きつけられ、肺の空気を強制的に吐き出された。

 

真島

クソガキがあああー!!

 

すぐさま狂気的な執念で起き上がり、千束の懐へとナイフを突き出しながら潜り込もうとする真島。しかし、千束はその軌道をすべて読んでいた。

 

千束

かかった

 

千束は差し出された真島の腕を鮮やかに捌くと、その強靭な両手で真島の頭部を鷲掴みにし、自らの体重を乗せた強烈な膝蹴りをその顔面へと叩き込んだ。

 

真島

グフぅッ!?

 

たきな

(……見事ですね。鼻が綺麗にあらぬ方向へと曲がりました)

 

後方で冷静にスコープを覗いていたたきなが、内心でその破壊力を賞賛する。真島は鼻血を撒き散らしながら、ふらつきつつも大きく距離をとった。

 

真島

お遊びは……ここまでだぜぇ……!!

 

真島も腰からサバイバルナイフを引き抜き、凶悪な刃を剥き出しにする。それに合わせ、千束もナイフを逆手に組み替え、呼吸を整えた。

 

千束

(フゥ……)

 

張り詰めた空気の中、互いに視線で肉体を切り刻むような睨み合い。先に痺れを切らして動いたのは真島だった。

 

真島

オラァッ!!

 

真島の放った鋭い刺突が千束の喉元を襲う。千束は上体を僅かに反らしてそれを躱し、流れるような動作で反撃の刃を振るう。真島もそれを紙一重で躱して斬り返す。肉弾戦の火花が散る中、真島の刃が千束の頬を薄く切り裂き、千束のナイフが真島の右腕の肉を深く切り裂いた。

 

真島

ハハッ! せっかくの綺麗なツラに、消えねぇ傷がついたなぁ!?

 

千束

生憎だけど、今の私はお人好しのリコリスじゃなくて兵士だからね。戦場で傷がつくなんて、当たり前のことだよ

 

真島

チッ……

 

千束は真島の安い挑発に一切動じることなく、ただ冷徹に真島の足元のステップを観察していた。彼女の脳裏に、ザ・ボスとの苛烈なCQC訓練の記憶が鮮明に蘇る。

 

ザ・ボス

『千束、ナイフ戦技や近接格闘戦において、相手を最も確実に無力化するために集中的に狙うべき場所はどこか、分かるかしら?』

 

千束

『う〜ん……急所っていったら心臓とか首筋とかですよね? 集中的に狙う場所……ちょっとわかんないです……』

 

ザ・ボス

『素直で良いわね。でも違うわ。ナイフ戦技において最も集中的に狙うべき場所、それは『足』よ』

 

千束

『……足、ですか?』

 

ザ・ボス

『そう。足の腱や筋肉をやられてしまうということは、兵士にとっては死を意味する致命的なことよ。すべての行動と回避が大幅に制限されるわ。ナイフ戦は接近する分、あなたにもリスクが伴う。でも、あなたには異常なほどの動体視力がある。相手の攻撃をすべて躱し、その踏み込んだ『足』の隙を狙って次の致命傷へと繋げられる。その特性を極限まで生かすのよ』

 

千束

『はい、教官!』

 

千束

……そういうことかよ、教官!

 

千束の瞳に宿る確信の光。彼女は地を蹴り、真島の懐へと一気にトップスピードで接近した。

 

千束

ハァッ!!

 

真島

グゥッ!?

 

千束のナイフが電閃の如く走り、真島の右足のふくらはぎの筋肉と、腰のホールドを正確に切り裂いた。足の支えを失った真島は、崩れ落ちそうになる右側を必死にかばうようにして、不恰好に足を引きずる。

 

千束

一気に、かたをつける!

 

勝機を確信した千束は、怒濤の連撃で真島を完全に圧倒し始める。

 

真島

クソッ、クソッ、クソクソクソクソがああッ!!

 

右足の自由を奪われ、完全に冷静さを失った真島は、がむしゃらにナイフを大きく振り回すだけの存在へと成り下がっていた。だが、戦場において冷静さを欠いた者に待っているのは、確実な敗北だけだ。

真島が大きくナイフを天へと振り上げた、その最大の隙。

 

たきな

そこです。終わりですね

 

たきなが冷徹にAR15の引き金を引き絞った。放たれた弾丸が、真島の握っていたナイフのブレードに正確に直撃し、その武器を遥か彼方の暗闇へと弾き飛ばした。

 

真島

なぁっ!?

 

たきな

私の存在を忘れるからですよ。それに、そんなに大振りをして、私に狙ってくれと言っているようなものです

 

千束

これで、終わりだよ! 真島!

 

たきなの完璧なアシストにより、完全に無防備となった真島の鳩尾に向けて、千束の全体重を乗せた渾身のストレートが、ズドォン、と爆音を立ててめり込んだ。

 

真島

ガハ、ッ……!?

 

強烈な衝撃波が真島の臓物を破壊する。……しかし、その瞬間、真島は千束の拳の威力を利用し、あえて自ら後方へと大きく跳躍した。

その先には、大破していた展望フロアの巨大な強化ガラスがあった。

バリィィィィン!!!

ガラスの破片が夜空に飛び散る中、真島はそのまま延空木の外へと、真っ逆さまに落ちていった。

 

たきな

……千束、さすがに今の打撃はやり過ぎだったのでは?

たきなが小銃を構えたまま歩み寄り、割れたガラスの縁から下を見下ろした。

 

千束

ううん、違うの。あいつ、私の拳が入った瞬間の勢いを巧みに利用して、衝撃を逃がすためにわざと後ろに跳んでたんだよ

 

たきな

なるほど、相変わらずの悪運ですね。でも、さすがにこの高さから地上へ真っ逆さまに落ちたら、いくらなんでも死ぬのでは?

 

千束

いや〜、どうだろ? だってあいつ、前にロケランの至近距離の爆発に巻き込まれて車ごと吹き飛んでも、ピンピンして生きてた男だしね

 

たきな

確かに……そうでしたね。あそこまでいくと、本当に人間なのか怪しいところです

 

千束

とりあえず、下に控えてるグローザさんたちに、真島がそっちに落ちていったって無線で連絡しとこう

 

たきな

そうですね。地上の皆さんなら、落ちてきたところを確実に捕獲してくれるでしょう

 

二人は互いに視線を交わし、兵士としての冷徹な笑みを浮かべた。自分たちの任された仕事は、これで完璧にやり遂げたのだ。

 

千束

あとは……零君、黛煙さん、そっちの怪物を頼むね。

 

千束は最上階へと続く暗闇の奥を見つめ、新しきリーダーたちの勝利を確信しながら、静かにその場を後にした。

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