ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜   作:霧のイージス艦

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最終戦〜時雨vsガブリエル・ミラー〜

 

俺は歪んだ鉄骨を乗り越え、ついに延空木の最上階、静まり返った制御室へと足を踏み入れた。割れた天窓から吹き込む風が、ひどく冷たい。

 

緋村零

……コソコソ隠れてないで出てこいよ、ガブリエル・ミラー

 

ガブリエル

フッ……気づいていたか。やはり貴様の感覚は侮れん

 

暗闇の物陰から、不気味なほどの威圧感を纏ったガブリエルが悠然と姿を現した。

 

緋村零

お前、あの羽田の管制塔の下敷きになったくせに、よく生きてたな。さっきのヴァサゴと言いお前と言い、真島と言い、ゾンビみたいにしぶとい奴らだ。何か特別なカラクリでもあるのか?

 

ガブリエル

フッ、あいにくだが企業秘密だ。タネ明かしをしてやる義理はない

 

俺は油断なくガブリエルの装備を観察する。手にはカスタムされたM4A1、そして腰のホルスターには、おそらく.45口径の大型拳銃。

 

緋村零

まぁ、いいさ。どんなカラクリがあろうが、今日ここで確実にお前を殺す。それだけだ

 

ガブリエル

フン……殺されるのは、その傲慢な貴様の方だ、零……

 

そこから、張り詰めた完全な静寂が満ちていく。互いに銃口をミリ単位で合わせたまま、微動だにしない。

 

ガブリエル

引き金を引く前に、お前に一つ聞きたいことがある

 

緋村零

……なんだ。遺言なら手短に聞くぞ

 

ガブリエル

お前ほどの卓越した才がありながら、なぜ軍人、自衛隊という組織の歯車になる道を選んだ? 以前から……いや、初めて戦場で貴様の姿を見た時から、ずっと聞いてみたいと思っていた

 

選んだ理由、か。俺は20式小銃のストックを肩に押し当てたまま、静かに声を響かせた。

 

緋村零

俺たちのような特殊部隊ってのは、光の当たらない黒子の仕事だ。破壊工作、要人暗殺、裏の不正規戦……全てにおいて危険度は跳ね上がる。だがな、それを誰かがやらなければ、この国の日常は一瞬で崩壊する。誰かがやらなければならない汚れ役なら、それは他の誰でもない、自分でありたいと思っただけだ

 

緋村零

それにだ。誰かが命を賭けて裏で戦い、泥をすするからこそ、表の平和を維持できる。俺は守られる側から、命を賭けて守る側の人間に行きたかった。ただそれだけの、シンプルな理由だよ

 

ガブリエルはその言葉を、まるで品定めをするかのように静かに、深く聞き入っていた。

 

ガブリエル

なるほどな。どうやらお前の魂は、想像以上の最高級の上物だ。意志が強く、誇り高い者の魂ほど、奪い取った時に綺麗で甘美な味がする……

 

その歪んだ眼光。……やはり、前世の記憶(原作)と何も変わらない、救いようのない魂の蒐集家(サイコパス)だ。

 

緋村零

悪いが、お前みたいなサイコパスにくれてやるほど、俺の命は安くはないんでな……

 

俺はそう言い放つと、構えていた20式小銃と、腰のSFP9のマガジンを一気に排莢し、金属音とともに床へと投げ捨てた。そのまま腰のシースから、鈍く光るタクティカルナイフを抜き、逆手に握り直す。

 

緋村零

格闘戦で勝負しよう。互いに銃を撃ち合って一瞬で終わるより、その方がお前にとっても面白いだろ?

 

ガブリエル

フッ……いいだろう。貴様のその極限の足掻き、肉体で味わわせてもらおう

 

ガブリエルも不敵な笑みを浮かべ、M4A1と拳銃のマガジンを全て引き抜き、床へ叩きつけた。そして同じく、狂気的な輝きを放つコンバットナイフを構える。

 

緋村零、ガブリエル

………………

 

時間すら凍りついたような、極限の睨み合い。先にその均衡を破ったのはガブリエルだった。

 

ガブリエル

フッ!!

 

恐るべき爆発的な踏み込みとともに、ガブリエルが鋭い刺突を繰り出して飛びかかってくる。

 

緋村零

ッ!!

 

キン!!!

至近距離でナイフの刃と刃が激しく噛み合い、鼓膜を突き刺すような甲高い金属音が夜空に響いた。

 

緋村零

オラァッ!!

 

ガブリエル

クッ!!

 

俺は刃を押し返すと同時に、ガブリエルの顔面に向けて強烈な前蹴りを放つ。強固な腕で防がれるが、その衝撃を利用して互いに一旦距離を取った。

 

緋村零

ハァッ!

 

キン! キン! キン、キンッ!

 

ガブリエル

クッ……重いな……!

 

俺は体格差と俊敏性をフルに生かし、怒濤の連撃を仕掛ける。しかし、元特殊部隊の暗殺術を持つガブリエルは、その全てを最小限の動きで完璧に防御してきた。

 

緋村零

(くそ、さすがに刃物だけでは攻め手に欠けるな……。なら、ナイフ戦を続けるより……)

 

緋村零

フッ!

俺は一瞬の隙を突き、右手のナイフをガブリエルの顔面目掛けて力任せに投擲した。

 

ガブリエル

なっ……クッ!

 

キンッ!!

ガブリエルは自らに肉薄する刃に一瞬目を見開いたものの、驚異的な反応速度でそれを弾き飛ばした。

 

ガブリエル

自ら唯一の武器を捨てるとは、正気か!

 

緋村零

いや、この退屈な試合を終わらせるための、最高の切り札さ!

俺はナイフが弾かれた瞬間の目眩ましを利用し、ノーモーションでガブリエルの懐へと一気に密着した。

 

緋村零

ハァッ!!

 

ガブリエル

なっ!? グハァッ!?

 

ザ・ボス直伝の変則CQCが炸裂する。ガブリエルの強靭な肉体を完全にコントロールし、コンクリートの床へと激しく投げ飛ばした。だが、ガブリエルは受け身を取ると同時に、化け物じみた反射神経ですぐさま跳ねるように起き上がってくる。

 

ガブリエル

なるほど……柔道や空手を戦術的に組み合わせたCQCというわけか……。凄まじいな

 

緋村零

俺の教官が、世界最高峰に優秀だったんでね。あの人に比べればお前の動きは止まって見えるよ

 

本当に、地獄の訓練を叩き込んでくれたザ・ボスには感謝しかない。

 

ガブリエル

そうか……ますますその魂を、生きたまま肉体から引き剥がすのが楽しみになった

 

緋村零

寝言は寝て言え、サイコパス!

 

そこからは、互いの次の動きを数手先まで読み合う、常人には不可視の肉弾戦へと突入した。

 

緋村零

ハァッ!!

 

ガブリエル

フッ!!

 

時には俺が投げ飛ばされて壁に叩きつけられ、時にはガブリエルの関節を極めて床に組み伏せる。骨が軋み、肉が裂ける凄絶な攻防が、体感では優に1時間を超えるかのように果てしなく続いた。

 

緋村零

ハァ……ハァ……ハァ……

 

ガブリエル

クッ……ハァ……実実に見事な戦闘技術だ……。まさか、生身の人間相手にここまで消耗させられるとはな……

 

俺もガブリエルも、全身から汗と血を流し、息を激しく荒らして体力を限界まで消耗していた。

 

緋村零

(互いに疲労困憊だ。体格差と肉体のタフさを考えれば、これ以上肉弾戦を続けても確実にこちらが競り負ける。相手を的確に狩るには……もう一度、銃を使う他ない。だが、床の銃を取りに行けば確実に致命的な隙が生まれる。その隙を強引に作り出すには……!)

 

その時、俺の鋭い視線が、ガブリエルのタクティカルベストの腰にぶら下がっている「ある物」を捉えた。

 

緋村零

(一か八かだ……。この命、お前の狂気に賭けてやる!)

 

ガブリエル

(クッ……これ以上長引けば地上の部隊が上がってくる。次で決める……!)

 

二人の間に、嵐の前の不気味な静寂が流れる。

 

緋村零、ガブリエル

(次で、全てを終わらせる!)

 

張り詰めた空気が爆発する。

 

緋村零、ガブリエル

ッ――!!!

 

動いたのは、完全に同時だった。俺はガブリエルの胸ぐらを掴んで投げ飛ばそうとしたが、ガブリエルはその圧倒的なパワーで逆に俺のバランスを崩し、そのまま寝技の体勢へと引きずり込んできた。背後から強固な腕が俺の喉元を完璧にロックし、頚動脈を強烈に締め上げる。

 

緋村零

グッ……、う、あ……!

 

ガブリエル

これで終わりだ、零! 貴様の甘美な魂、俺が残さず喰らってやる!

 

視界が急速に黒く染まり、意識が遠のき始める。首を絞め続けられる絶望的な状況。だが……俺の唇は、血の混じった不敵な笑みを浮かべていた。

 

緋村零

……いや、……完全に、狙い通りだ……ッ!!

 

ガブリエル

何だと……!?

 

俺は遠のく意識を執念で繋ぎ止め、自由な両手をガブリエルの腰へと伸ばした。その指先が触れたのは、奴が装備していた「スタングレネード(特殊音響閃光弾)」だ。

俺は力任せにそれを奪い取ると、躊躇なくピンを指で引き抜き、ガブリエルの顔面へと腕を突き戻して押し付けた。

 

ガブリエル

しまっ――

 

バァァァァァァァン!!!!!

至近距離、文字通りのゼロ距離で、数十万カンデラの閃光と大音響が爆発した。

 

ガブリエル

グあああああああッ!!!!!

首のロックが外れ、ガブリエルが絶叫しながらのけ反る。顔面の直近で爆発を喰らった奴は、視覚と聴覚を完全に破壊され、平衡感覚を失って朦朧としながら、狂ったように周囲の空間をナイフで薙ぎ払った。

 

ガブリエル

クソッ! やられた! どこだ……零! どこにいる!? 姿を見せろ!!

 

ジャキン……!

激しい耳鳴りと視界の明滅の中で、ガブリエルの背後から、冷酷極まりない金属の「コッキング音」が静かに、しかし明確に響いた。ガブリエルが戦慄に目を見張り、弾かれたようにその方向へと振り向く。

その光の歪みの中に、立っていた。

 

緋村零

ジ・エンドだ。ガブリエル・ミラー

 

床に落ちていた20式小銃を素早く拾い上げ、マガジンを再装填してボルトを前進させた緋村零が、冷徹な目でガブリエルの眉間に銃口を突きつけていた。

 

パァン――!!

延空木の最上階に、一発の乾いた銃声が轟いた。

弾丸はガブリエルの額の真ん中を正確に撃ち抜き、奴の巨体は糸が切れた人形のように、ドサリと床へ崩れ落ちた。

俺は一歩一歩近づき、倒れたガブリエルの胸に向けて、迷うことなく再び引き金を引き絞る。

パァン!! パァン!!

心臓への確実な2発の追撃(ダブルタップ)。徹底した不正規戦の不殺ではない、確実な処刑。

俺は20式小銃を構えたまま腰を落とし、奴の頸動脈に指を当ててバイタルを確認した。

 

緋村零

……脈なし。ターゲットの完全な死亡を確認。……終わった、な……。

 

張り詰めていた緊張が一気に解け、全身の激痛と猛烈な疲労が俺を襲う。俺はふらつく足取りのまま近くのコンクリート壁へと歩み寄り、背中を預けるようにしてその場にズルズルと座り込んだ。

 

緋村零

あぁ……、そうだ……下に、無線を……入れないと……

重い腕をなんとか動かし、無線機の送信ボタンを震える指で押し込む。

 

緋村零

『こちらエルモ1、緋村零。……誰か、聞こえるか……?』

返答は、一瞬のディレイもなくすぐに飛び込んできた。

香椎

『こちらNPS隊長、香椎だ! 聞こえているぞ、緋村君! 無事か!? 状況を知らせてくれ!』

緋村零

『こちら緋村零。最上階の主犯格、ガブリエル・ミラーを完全に仕留めました。バイタル停止、死亡確認。……すいません、体力が限界です。救出部隊と医療班の応援を、大至急ここまでお願いします……』

 

香椎

『了解した! よくやった、本当に見事だ! 救急隊を含め、ただちに最優先で救出部隊を最上階へ向かわせる! それまで絶対に意識を保っていろ!』

 

緋村零

『了解……。待ってます……』

 

カチリ、と通信を切った俺は、手から20式小銃を滑り落とし、割れた天井から覗く夜空を見上げた。

 

緋村零

なんとか、すべて片付いたな……

 

東京の街を包む不条理な夜は明けた。俺は静かに目を閉じ、駆け上がってくる仲間たちの足音を待ちながら、深い安堵の闇へと身を委ねた。

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