ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜 作:霧のイージス艦
部屋に戻った後、俺は軽くシャワーを浴びてから鏡の前に立った。髪を整え、クローゼットから一着の衣服を取り出す。
零
服装はこれで良いか。
身にまとったのは、機能性と規律を象徴する海上自衛隊の迷彩服だ。襟元を正し、小さく息を吐く。
零
行くか。
部屋を出て、指定された部屋へと足を向ける。案内された場所は、何の変哲もない無機質な会議室だった。
零
失礼します。
ザ・ボス
来たわね。
部屋にはすでにザ・ボスが席に着いていた。俺はその隣の椅子を引き、腰を下ろしながら本題を切り出す。
零
それで、最初は誰から?
ザ・ボス
枳殻虹架よ。
枳殻さん、か……。
零
……ボス、すいませんがこの聴取だけ俺1人でやらせてくれませんか?
ザ・ボス
……何かあるの?
零
いえ……強いて言うなら、勘です。
ザ・ボス
……わかったわ。
俺の言葉に、ザ・ボスは深く追及することなく席を立った。そのまま静かに部屋を出ていく。もちろん、この部屋には監視カメラがあるため、筒抜けであることに変わりはないのだが、彼女と2人きりで話す空間を作る必要があった。
しばらくして、ドアが静かに開く。
レイン
失礼します。
入ってきたのは、枳殻虹架。
零
どうぞ、座って。
彼女が対面の席につく。俺は努めて冷静を装いながら、彼女の挙動や視線を細かく観察した。
確信がある。彼女が俺に向けている視線は、他の初対面の人間に対するものとは明らかに違っていた。それはまるで、長い旅の果てにようやく巡り会えた、かけがえのない存在を見つめるような……深い情愛が混ざった瞳だ。
レイン
あの、ザ・ボスさんは……?
零
済まない、少し政府から緊急の連絡が入ってね。彼女はそっちの対応に追われているから、代わりに俺が話を聴くことになった。それじゃあ、始めようか。まず、名前は枳殻虹架さん、だね。
レイン
はい。
零
生年月日は6月21日、現在の年齢は14歳。ロシア人の父親と日本人の母親を持つハーフ。所属はDA(Direct Attack)で、リコリスとして活動していた。
レイン
間違いありません。
零
君がリコリスとしてDAに身を置くことになった経緯は?
レイン
修学旅行の際、不慮の事故に巻き込まれたんです。表向きの報道では『修学旅行生は全員死亡』と処理されていますが、その実態はDAが裏で仕組んだ偽装工作です。
零
なるほど。ついでに確認したいんだが、当時通っていた学校の名前は?
レイン
私立聖エテルナ女子学院です。明日奈さんや詩乃さんも、同じ学校に通っていました。
やはり、エテルナ女子学院か……。
零
成る程、わかりました。
ふむ。事前にSR班から上がっていた極秘情報とも完全に一致するな。整合性は取れている。
レイン
あの……私からも、一つ質問をしてもいいですか?
零
……? ああ、どうぞ。
レイン
単刀直入に言わせてもらいます。私は、貴方のことをよく知っています。……貴方が、この世界への『転生者』であることも。
やはり、彼女も転生者だったか……。
零
……何故、それを知っている?
レイン
……ソードアート・オンライン フェイタルバレット。
零
……何故、その作品の名前を?
レイン
だって、私はその世界で生まれて、その世界で貴方と出会ったんだもの。ゲームの中で、貴方はずっと私を一番のパートナーに選んで、隣にいてくれたでしょ?
……そういうことか。すべてのピースが繋がった。
零
そっか……俺が前世で初めてプレイしたSAOのゲーム作品……それがSAOFBだった。そして、数あるSAOのキャラクターの中で、俺が一番惹かれていた推しの女の子だったもんな……レイン。
レイン
!……やっぱり、零だったんだね……!
その瞬間、レインは椅子を蹴るようにして立ち上がり、机を回り込んで俺の胸に飛び込んできた。その小さな体を、俺はしっかりと受け止める。
零
久しぶり、レイン。
レイン
零も……! 会いたかった……!
懐かしい温もりを感じながら、しばらくの間、俺たちは言葉もなく抱き合い続けた。気持ちが落ち着いた頃、俺はふと浮かんだ疑問を口にする。
零
ねぇレイン、もしかして一緒にいる桐ヶ谷君たちも……?
レイン
うん。キリト君たちもこの世界への転生者だよ。ただね、彼らは私がいた『フェイタルバレット』の世界線から来たわけじゃないと思う。
零
だとすると、あっちの桐ヶ谷君たちは原作の世界線から来たってところか。
レイン
うん、きっとそう。キリト君たち、私やフィリア、それにコハルちゃんたちのこと、全然知らない様子だったから。
零
そうか。状況としては、SAOFD(フラクチャード デイドリーム)みたいな現象が起きているって感じだな。
レイン
なに? そのSAOFDって。
俺は前世の記憶にある最新のゲーム作品、様々な世界線が交錯する『SAOFD』のシステムについて彼女に噛み砕いて説明した。
レイン
成る程ね。確かにそれなら、世界線が違う私たちがこうして同じ場所に集まっている説明がつくね。
そうだな。この歪んだ世界の現状を表しているようだ。
零
レイン。
レイン
なに?
零
レインは、俺のことが好き?
レイン
うん! 大好きだよ!
レインは満面の笑みで、迷うことなく答えてくれた。
零
嬉しいな。でもさ、レイン。
レイン
?
零
俺は前世で、色んな恋愛ゲームをやり込んできたし、作中で色んなキャラと結婚もしてた。これから先、この世界にその人たちが合流してくる可能性は高い。つまり、その人たちと色々ライバル関係になるかもしれないけれど……。
レイン
大丈夫! どんなライバルが相手だって、私は絶対に負けないから。それに、たとえ誰が来ても、私は零のことが大好きなのは変わらないもん!
……嬉しいな。本当に、彼女の真っ直ぐな言葉が身に染みる。
零
じゃあ、あのゲームの世界みたいに、これからよろしくね。レイン。
レイン
うん! よろしくね、零!