ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜 作:霧のイージス艦
翌朝、小鳥のさえずりと共に、昨日とは一変した柔らかな朝の光が802号室の病室を照らしていた。
紺野藍子
……ん、んぅ……
姉の藍子が先にゆっくりと目を覚まし、体を起こす。いつもなら朝起きた瞬間に感じる、あの鉛のように重く、身体の奥底から気力を削ぎ落とすような倦怠感が――なぜか、今朝は一切なかった。
それどころか、まるで数年ぶりに心の底から深い深い眠りにつけたかのような、信じられないほどの爽快感が身体を満たしている。
紺野木綿季
……ん、おはよ、お姉ちゃん……。あれ?
隣のベッドで目を覚ました木綿季も、自分の小さな両手を何度も握ったり開いたりしながら、不思議そうに首を傾げていた。
紺野木綿季
なんか……すっごく身体が軽いよ? いつも胸の奥がチクチク痛かったのに、全然痛くないの!
紺野藍子
木綿季も……? 私もなの。いつもと全然違う、まるで病気なんて最初からなかったみたいに……
2人が顔を見合わせ、その奇妙な、けれど確かな身体の異変に戸惑っていると、病室のドアが勢いよく開いた。
主治医
紺野さん、おはよう! 体調はどうだい……って、え?
毎朝のルーティンである検診のためにやってきた主治医が、2人の顔色を見た瞬間、手に持っていたカルテを落としそうになるほど目を見開いた。
昨日まで土気色だった2人の肌には、まるで年相応の健康的な赤みが差し、瞳には力強い輝きが戻っていたからだ。
主治医
あ、明日予定していた精密検査の数値を、今すぐ前倒しで計測させてくれ! 看護師さん! 至急、彼女たちの血液検査の準備を!
病院内は、朝から蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。
数時間後、何度も再検査を繰り返した末に出された最新の血液データを見て、主治医や専門医たちは、揃って頭を抱え、唖然とするしかなかった。
主治医
信じられない……。ウイルスの活動形跡が、完全に『ゼロ』だ。それどころか、破壊されていたはずの免疫細胞が、驚異的な速度で回復へと向かっている……。医学的に、こんな奇跡が起こるはずが……!
医師たちが「現代医学の常識を覆す謎の突然変異、あるいは奇跡的な完全寛解」と結論づけ、歓喜と混乱の渦に包まれる病院。
その頃、当の本人である緋村零は、自分の部屋のテレビで小さく報じられた「東北の総合病院で起きた難病患者の奇跡的な回復」というニュースを横目で流しながら、お気に入りの紅茶を口に運んでいた。
緋村零
ふっ……、上手くいったみたいだな
画面の向こうで涙を流して喜ぶ紺野姉妹とその両親の姿を確認し、俺は満足げに口元を緩める。
これでよし。彼女たちの未来は救われた。もう二度と、あの悲しい最期を迎えることはない。
緋村零
さて……。世界線の修正は順調だ。次は、いよいよあの『黒の剣士』に会いに行くとしますかね
俺はカップを置くと、まだ見ぬ最強の少年との接触に向け、静かに次の作戦へと意識を向けた。