ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜 作:霧のイージス艦
キリトたちとの事情聴取を終えた。一連の驚くべき真実をすべて受け止めたリーファは、頭を整理するためか、一足先に一礼して部屋から退出していった。
会議室には俺、キリト、アスナ、そして画面の中のユイが残される。
零
そうだ、キリト。ちょっとそのユイちゃんが入っているスマホ、俺に貸してくれないか?
キリト
え? ああ、構わないけど……一体どうするんだ?
ユイ
『零さん、私に何か御用でしょうか?』
零
まぁ見てなって。ちょっとしたサプライズさ。
俺は足元に置いていたカバンを開け、その奥から金属光沢を放つ小さな精密特殊部品を取り出した。
アスナ
……零くん、それは何ですか?
零
これは『戦術人形のメモリアルコア』っていう代物だよ。前世の知識があるならピンとくるかもしれないけれど、一言で言うなら機械の身体を持つ彼女たちにとっての『脳』、魂の器にあたるパーツだ。
俺はそのコアを取り出すと、手際よくキリトのスマートフォンへと有線で接続した。
零
ユイちゃん、今からそのスマホの領域から、このコアの中へデータを移して(移動して)くれるかい?
ユイ
『はい! 分かりました、やってみます!』
電子の妖精である彼女にとって、その作業は造作もないことだった。スマホの画面が一瞬だけ明滅し、データがコアへと完全に移行したことをランプの点滅が告げる。
零
よし、無事に移ったな。あとは……術式の展開だ。
キリト
術式って……おい零、本当に何をする気なんだ?
零
まぁ、ちょっと黙って見てろって。
俺は自分の頭髪から一本の髪の毛をぷつりと引き抜き、それを指先で弄びながら、頭の中でイメージを構築していく。その髪の毛を媒介――すなわち『触媒』として、体内に眠る特殊な術式を強く起動させた。
すると、俺の指先にあった一本の髪の毛が淡い光を放ち始め、まるで生き物のように急速に質量を増しながら、みるみるうちに人間の輪郭(かたち)へと変化しだした。
アスナ
な、何が起きているの……? これって……!
零
『ホムンクルス製造能力』。俺がこの世界に転生する際、特典として神様から授かったチート能力の1つだよ。
光が収まる頃には、髪の毛は完全に生身の人間の肉体へと変貌を遂げていた。小柄な少女の姿――年齢にして、およそ6歳児ほどの体躯だ。俺はまだ魂の入っていないその肉体の頭部へ、先ほどユイのデータを吸い上げさせたメモリアルコアを、術式を介してそっと埋め込んだ。
零
よし……システム、起動。
俺が言葉を紡いだ瞬間、横たわっていた少女の肉体に劇的な変化が起きる。無色の髪に艶やかな漆黒の色彩が宿り、肌には血色が通って、より一層、愛らしくて女の子らしい造形へと書き換えられていく。その完成された姿は、まさに――。
キリト
……ユ、ユイ……!?
アスナ
ユイちゃん……!!
そう、ゲームの世界で2人が我が子のように愛し、守り抜いた愛娘・ユイそのものの姿だった。肉体を得たユイちゃんは、会議室の机の上へとゆっくりと舞い降り、やがてその瞼をそっと押し上げた。
ユイ
……え……? 触覚があります……私、身体があります……!
自分の小さな両手を何度も握り締め、驚きに目を見張るユイちゃん。意識の同調も、肉体の駆動テストもすべて問題ないな。
零
実験は成功、大成功だな。
キリト
ユイ……! 本当にユイなのか……!?
アスナ
ユイちゃんっ!!
ユイ
パパ……! ママ……!!
ユイちゃんが机から飛び出すと、キリトとアスナは涙を浮かべながら、その小さな身体を壊れ物を扱うかのように、けれど力強く抱きしめた。3人の温かい絆が、無機質だった会議室を満たしていく。
零
俺から君たちへの、まぁちょっとした……いや、最高のプレゼントかな。
キリト
零……本当に、本当にありがとうな……! この恩は一生忘れない!
アスナ
零くん、ありがとうございます……! またこの子を抱きしめられるなんて、夢みたいです……!
ユイ
零さん、私に素敵な身体をくれて、本当にありがとうございました!
感動に震える3人の姿を眺めながら、俺は満足感に浸る。うん、やっぱりキリトとアスナの2人の距離感も最高に素晴らしいけれど、そこにユイちゃんが加わった『キリアスユイ』の家族の団
欒は、何物にも代えがたい尊さがあるな。
零
一応、2人が20歳を迎えたら、それに合わせてユイちゃんの身体も自然と成長が始まるように設定しておいたよ。
キリト
え……!? 成長する、って……ユイが、普通の人間みたいに大きくなれるのか……!?
アスナ
本当ですか……!? 零くん……っ!
零
ああ。ホムンクルスの肉体とメモリアルコアの術式を同期させてあるからね。今は6歳くらいの姿だけど、2人が大人の仲間入りをする頃には、ユイちゃんも一緒に時を刻み始める。パパとママの背中を追いかけられるようにね。
ユイ
私、パパやママと一緒に大きくなれるんですね……!
アスナ
嬉しい……っ! ユイちゃんの成長を、この目でずっと見ていけるなんて……本当に、本当にありがとう、零くん……!
キリト
零……お前、どこまで粋なことしてくれるんだよ。感謝してもしきれないぜ。
零
気にするなって。家族の未来は、やっぱりみんなで一緒に歩んでいくのが一番だからな。