ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜 作:霧のイージス艦
GGOやフェイタルバレットの面々を見送り、俺は手元の資料に次の対象者の名前を表示した。
本多小春、竹宮琴音、早乙女紗知、帆坂・カリーナ・朋。……インテグラル・ファクター、ホロウ・フラグメント、そして原作SAOを彩る面々だ。
彼女たちのデータを見つめながら、背筋を伸ばす。今回も、俺と彼女たちの前世における奇妙な繋がりに向き合う時間だ。
零
どうぞ、入って。
コハル
失礼します……!
フィリア
失礼するよ。
サチ
失礼、します……。
アルゴ
失礼するねぇ、お兄さん。
ドアが開き、それぞれに独特の雰囲気を持つ4人が入室してきた。真面目で一生懸命そうなコハル、少し警戒心を滲ませながらも大人びたフィリア、おずおずと俯きがちなサチ、そして不敵な笑みを浮かべてこちらを観察しているアルゴ。
零
そこに並んで座ってくれ。それじゃあ、聴取を始めるよ。
全員が席についたのを確認し、俺は端末の画面に指を走らせた。
零
まずは本多小春さん。生年月日は2月23日、現在は14歳。所属はDAで『リコリス』。
コハル
はいっ、間違いありません!
零
君がリコリスに所属することになった理由は、これまでのメンバーと同様、私立聖エテルナ女子学院の修学旅行事故に見せかけたDAの拉致事件だね。
コハル
はい。あの事故の時、本当に何が起きたのか分からなくて……気づいた時には、リコリスとしての訓練が始まっていました。
零
大変だったね。……次は、竹宮琴音さん。生年月日は3月31日、現在は14歳。所属はDAで『リコリス』。
フィリア
ええ、合ってるよ。あのクソ組織のおかげで、ずいぶんと狭い世界に閉じ込められてたわけだけどね。
零
これからはその縛りもないから安心していい。君の所属理由も同じく修学旅行の偽装事故だ。……続いて早乙女紗知さん。生年月日は4月28日、現在は14歳。所属はDAで『リコリス』。
サチ
は、はい……間違いありません。私、運動とか全然得意じゃなくて、リコリスの訓練もずっと怖くて……。
零
もう怯える必要はないよ。ここでは君を危険な目に遭わせたりはしない。……最後は帆坂・カリーナ・朋さん。生年月日は12月23日、現在は15歳。所属はDAで『リコリス』。
アルゴ
カリーナってのはちと呼び慣れないねぇ、お兄さん。まぁ、データとしては間違い完ペキ、ってところだ。
一通り4人の基本情報を確認し終えたところで、俺は手元の端末を机の上に置いた。4人の顔をじっと見つめ、核心へと踏み込む。
零
さて、形式的な確認はここまでだ。ここからは、俺たちにしか通じない話をしよう。……君たち4人も、前世の記憶を持った『転生者』だね?
その言葉を口にした瞬間、4人の反応は一様に固まった。コハルは目を丸くし、フィリアは鋭く視線を険しくさせ、サチは小さく息を呑む。アルゴだけは、その細められた目の奥に、ゾクりとするような知性の光を走らせた。
アルゴ
ほぅ……。驚いたねぇ。まさか、こちらの最大の秘密をこうもあっさりと突かれるとは。お兄さん、ただの司令官代理じゃなさそうだ。
フィリア
あなた、何者……? どうしてあたしたちが転生者だって知ってるの?
零
俺も君たちと同じ転生者さ。ただ、君たちがいた世界と俺の世界はちょっと違う。……俺の世界では、君たちが前世で生きて、戦っていたあの『ソードアート・オンライン』の物語が、ひとつの作品として存在していたんだ。
コハル
え……っ!? 私たちの世界が、物語……!?
サチ
じゃあ、私が……あの暗い迷宮で……命を落としたことも……?
零
ああ。君がサチとして生きて、キリトの心に消えない傷を残したことも……コハルがパートナーの隣で懸命に戦い抜いたことも、フィリアがホロウ・エリアで孤独に耐えていたことも、アルゴが『ネズミ』としてあらゆる情報を売りさばいていたことも、全部知っている。
アルゴ
しゃあねぇなぁ、そこまで筒抜けじゃあ、情報屋としても形無しだ。お兄さんの世界じゃ、あたしたちは手のひらの上だったってわけだねぇ。
フィリア
なんだか、調子狂うなぁ……。じゃあ、あたしたちが前世でキリトたちと紡いできた関係も、その作品ってやつには全部描かれてたの?
フィリアがどこか探るような、複雑な視線をこちらに向けてくる。前世での彼女たちの絆は、それぞれの世界線でキリトという主人公と深く結びついていたものだ。
俺は彼女たちの目を真っ直ぐに見つめ、静かに、そして誠実に告げた。
零
ああ。だからこそ、君たちがどれほど過酷な運命を背負い、どれほど強い絆を持っていたかも理解している。……ただ、この世界は少し歪んでいてね。キリトやアスナ、リーファたちは原作の世界線から来ているから、現状、コハルやフィリア、君たちのことを知らないんだ。
コハル
え……っ! キリト君が、私を……知らない……?
コハルは一瞬だけ寂しそうな表情を浮かべたが、すぐに小さく首を振って微笑んだ。
コハル
……でも、いいんです。キリト君が生きて、アスナさんと一緒に無事でいてくれるなら。またここから、新しいお友達として仲良くなればいいだけですから!
サチ
キリト、くん……。生きて、いてくれたんだ……。それだけで、私は十分、救われた気がします……。
アルゴ
なるほどねぇ。世界線のごちゃ混ぜってわけか。だったら、お兄さんがこの世界で誰を一番のパートナーに選んでいるのか、情報屋としては非常に興味があるところだねぇ?
ニヤニヤと笑うアルゴの問いに、俺は迷うことなく答えた。
零
俺が前世のゲームで一番のパートナーに選び、誰よりも推していたのは――ついさっき個別の聴取を終えた、レイン(枳殻虹架)だ。それだけは、この世界でも変わらないよ。
フィリア
へえ、あのレインがね。あの子の真っ直ぐさはあたしもよく知ってるし、お似合いなんじゃない?
アルゴ
キキッ、やっぱりお兄さんも隅に置けない男だねぇ。あの歌姫を射止めるとは、大したもんだ。
コハル
レインさん、とっても可愛い方ですからね! 零さんがそこまで想っているなら、私、全力で応援しちゃいます!
彼女たちのそれぞれの想い、そして原作そのままの温かい掛け合いに、俺の胸の奥がじんわりと温かくなる。
零
ありがとう。みんなのことは前世の作品を通してよく知っているし、これからはこの基地が君たちの新しい家だ。不当な訓練を強いるDAからは俺が全力で守るから、安心してここで過ごしてほしい。
フィリア
そう言ってくれると助かるよ。これからはあなたの指示に従うわ、零。
サチ
よろしくお願いします、零さん……。
コハル
はい! よろしくお願いします! ……あの、もしよければ、私のことも本名じゃなくて、前世みたいに『コハル』って呼んでいただけると嬉しいです!
フィリア
あたしも『フィリア』で通してもらえるとありがたいね。琴音って名前、リコリスの任務以外じゃ耳が痒くなる。
サチ
私も……『サチ』って、呼んでください。
アルゴ
あたしも当然『アルゴ』さね。お兄さん、これからよろしく頼むよ。
零
分かった。それじゃあこれからは親しみを込めてそう呼ばせてもらうよ。改めて、これからよろしくな、コハル、フィリア、サチ、アルゴ。
こうして、SAOの世界を繋ぐ4人との聴取は、過去の運命を乗り越え、新たな未来へと歩み出す確かな一歩として、穏やかに幕を閉じた。