ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜 作:霧のイージス艦
櫛稲田優里奈たちを見送った後、手元の端末の画面を指でスクロールし、次に会議室へと呼び出すメンバーの資料を表示する。
画面に並んだ名前に、思わず目を見張った。
比企谷八幡、戸塚彩加、川崎沙希、三浦優美子、鶴見留美。……やはり俺の知る、あの「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」の面々だ。
これまでSAOやGGO、フェイタルバレットといった仮想世界の戦士たちが続いていただけに、この世界で彼らがどんな運命を辿り、どのような口調で話すのか、深く息を吐いてからドアに向かって声をかけた。
零
どうぞ、入って。
八幡
失礼します……。
彩加
失礼します……!
沙希
失礼するよ。
優美子
失礼するし。
留美
失礼します……。
ドアが開き、全く異なる空気をまとった5人が入室してきた。死んだ魚の目をしながらも周囲を警戒するように見回す八幡、可憐な雰囲気を漂わせながら緊張気味の彩加、鋭い視線でこちらを睨みつける沙希、腕を組んで不機嫌そうに佇む優美子、そして年齢にそぐわない冷めた瞳をした留美。
零
そこに並んで座ってくれ。それじゃあ、聴取を始めるよ。
5人が席に着いたのを見届け、俺は端末を操作して資料の読み上げを開始した。
零
まずは比企谷八幡。生年月日は8月8日、現在は14歳。所属はDAで、少年暗殺部隊『リリベル』。
八幡
……ええ、間違いありません。というか、そのリリベルとかいう物騒な部署、できれば今すぐ辞めさせてほしいんですけど。俺の理想は働いたら負けの専業主夫なんで。
零
はは、その気持ちは分からなくもないよ。君がリリベルになった経緯は、やはり中学校の修学旅行の最中に事故に見せかけてDAに拉致された、だね。
八幡
ええ。あの時は本当に終わったと思いましたよ。修学旅行の楽しかった思い出が、一瞬で国家組織の拉致事件にすり替わったんですから。日本の闇は深すぎます。
零
まったくだな。……次は、戸塚彩加さん。生年月日は5月9日、現在は14歳。所属はDAで『リコリス』。
彩加
は、はいっ! 間違いありません。あの、僕、男の子なんですけど……リコリスの可愛い制服を着せられて、最初は本当にどうしたらいいか分からなくて……。
零
うん、事情は分かっているよ。彩加くんの所属理由も同じく修学旅行の偽装事故だ。そのままで十分に素敵だから、無理に戦おうとしなくていいからね。
彩加
あ、ありがとうございます……! 零さん、すごく優しい人ですね。
八幡
(心の声:おいおい、ちょっと待て……何だこの司令官代理、戸塚の可愛さに動じてないだと!? いや、それ以上に戸塚の可愛さは今日も世界を救うレベルだな……)
零
……続いて川崎沙希さん。生年月日は7月7日、現在は14歳。所属はDAで『リコリス』。
沙希
……そうだけど。あんた、あたしたちをどうする気? DAの時みたいに、また無茶な命令でも下すつもりなら、あたしは従う気ないよ。
零
そんなことはしないさ。君の所属理由も同じく修学旅行の偽装事故。これからは弟や妹のことも心配しなくていいように、俺が全力でサポートするから安心していい。
沙希
……! 弟たちのことまで調べてるわけ。……まぁ、変なことしないなら、大人の言うことに少しは耳を傾けてやってもいいけどさ。
零
ありがとう。……次は、三浦優美子さん。生年月日は12月12日、現在は14歳。所属はDAで『リコリス』。
優美子
ちょっと、何なわけ? あたしが『リコリス』とかいうのにされて、あんなダサい訓練させられただけでもムカついてんのに。あんた、あたしのこと引き止めるなら、それなりの理由があるんでしょーね?
零
もちろん、君たちを危険から守るためだよ。優美子さんの所属理由も同じく修学旅行の偽装事故。これからはあんな窮屈な思いはさせないから。
優美子
……ふん。まぁ、あそこよりマシな部屋と食事があるなら、文句は言わないであげるし。
零
善処するよ。……最後は鶴見留美さん。生年月日は1月26日、現在は10歳。所属はDAで『リコリス』。
留美
……間違いありません。私、まだ小学生なのに、気づいたらあそこに連れて行かれて……。大人の都合で戦わされるの、本当にウンザリです。
零
そうだね。10歳の君にそんな重荷を背負わせたDAは間違っている。ここなら、もう誰も君に銃を持たせたりしないよ。
留美
……本当ですか? もし嘘だったら、絶対に許しませんから。
一通り5人の基本情報を確認し終えたところで、俺は手元の端末を机の上に置いた。5人の顔をじっと見つめ、ここからが本番だとばかりに核心へ踏み込む。
零
さて、形式的な確認はここまでだ。ここからは、俺たちにしか通じない話をしよう。……君たち5人も、前世の記憶を持った『転生者』だね?
その言葉が落ちた瞬間、会議室の空気が完全に凍りついた。八幡は死んだ魚の目を限界まで見開き、優美子は「はぁ!?」と声を荒らげ、沙希は警戒して身を固くし、彩加と留美は息を呑んで俺を凝視する。
八幡
……あんた、今なんつった? 転生者? ……何言ってんだ、そんなライトノベルのテンプレみたいな設定が、現実に存在するわけが――
零
存在するのさ、比企谷くん。現に君たち5人は、あの総武高校での青春の日々や、奉仕部での苦い、けれどかけがえのない記憶を持ったまま、この世界に生まれてきたはずだ。
八幡
……っ! なんで、奉仕部のことまで知って……。
優美子
ちょっと待ってよ! あんた、なんであたしたちが前世で同じ学校にいたことまで知ってるわけ!? ストーカー!? それともDAの差し金!?
零
俺も君たちと同じ転生者なんだ。ただ、君たちがいた世界と俺の世界はちょっと違っていてね。……俺の世界では、君たちが前世で悩み、傷つきながら紡いでいたあの『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の物語が、ひとつの作品として存在していたんだよ。
沙希
あたしたちの人生が……作品、だって……?
彩加
じゃあ、僕がテニス部で頑張っていたことも、全部お見通しだったんですか……?
零
ああ。彩加くんが可愛すぎて比企谷くんの理性が何度もゲシュタルト崩壊を起こしかけていたことも、沙希さんが夜遅くまでアルバイトをして家族を支えようとしていたことも、優美子さんが周囲を気遣いながらも自分の居場所を守ろうと必死だったことも、留美ちゃんがキャンプの夜に傷ついていたことも、全部知っている。
八幡
おい、前半に変な情報が混ざってただろ! 誰の理性が崩壊しかけたって!? ……いや、でも、そこまで詳細に知られてるってことは、本当に俺たちの生きた世界が物語だったってことかよ。笑えねぇな。
留美
……大人が書いたお話の中で、私たちは踊らされてただけってことですか?
零
いや、そんなことはない。君たちが前世で悩み、導き出した答えは、間違いなく君たち自身の本物(リアル)だ。だからこそ、この世界で君たちがDAなんていうクソ組織に拉致されて、暗殺人形として扱われているのが俺は我慢ならなかった。だから保護したんだ。
俺の言葉に、5人は驚きつつも、どこか深く救われたような、複雑ながらも確かな信頼の眼差しを俺に向けてきた。
優美子
……ふん。まぁ、あんたがそこまであたしたちのこと知ってて、助けてくれたって言うなら、少しは信じてあげてもいいし。
沙希
……そうね。あんな組織にいるよりは、ここでお世話になる方が、あたしたちにとっても都合がいいわ。
八幡
まったく、驚きすぎてラノベの主人公になった気分ですよ。まぁ、俺みたいな日陰者がこんな大層な基地に居座っていいなら、喜んでニート生活を満喫させてもらいますけど。
零
はは、ニート生活は困るけど、安全は完全に保障するよ。それから、これからこの基地で過ごすにあたって、前世の呼び名の方が馴染みがあるなら、そう呼ぼうか?
彩加
あ、僕は『戸塚』でも『彩加』でも、どちらでも嬉しいです!
優美子
あたしは『優美子』って呼ばれるのが一番しっくりくるし。
沙希
あたしも『川崎』か『サキ』でいいよ。
留美
私は……『留美』で。
八幡
俺は……まぁ、『ヒキガヤ』か『八幡』、好きに呼んでください。どうせ前世でも大して名前で呼ばれる機会なんてありませんでしたし。
零
分かった。それじゃあこれからは親しみを込めてそう呼ばせてもらうよ。改めて、これからよろしくな、八幡、彩加、サキ、優美子、留美。
あと、比企谷八幡がメガネかけて目が腐ってないメガネ系イケメンなのにちょい驚き。
八幡
いや、何ですかその微妙に褒められてるのかディスられてるのか分からないリアクションは。俺だって別に好き好んで目を腐らせてたわけじゃないですし、この世界に転生して視力がちょっと落ちたからメガネを導入しただけですよ。というか、目が腐ってないだけでイケメン扱いされるなら、前世の俺の苦労は一体何だったんだって話になりますからね?
優美子
ちょっと、何それ。ヒキオのくせにメガネかけただけでイケメン枠とか、生意気だし。相変わらず中身はひねくれたままだし、見た目だけ騙されないように注意した方がいいし。
サキ
まぁ……確かに前世のあの死んだ魚の目よりは、幾分マシに見えるけどね。あんた、その見た目で変な勘違いして、女子にセクハラまがいのことでもしたら承知しないよ?
八幡
川崎さん、俺の扱い辛辣すぎませんかね!? 誰もセクハラなんてしませんし、そもそも俺が自発的に女子に話しかける確率なんて、宝くじで一等当てるより低いわ!
彩加
あはは……でも、八幡のメガネ姿、すごく知的でカッコいいと思うよ! 僕は前の八幡も話しやすくて好きだったけど、今の八幡も素敵だな。
八幡
(心の声:うっ……!! 戸塚のその純粋無垢な笑顔と肯定感、相変わらず破壊力が天元突破してやがる……。危うく俺の新しいメガネが男色の光で叩き割られるところだったわ。やっぱり戸塚は正義だな)
留美
……見た目が変わっても、中身がダメ人間なら意味ないと思います。
八幡
鶴見さん、小学生の真っ当な正論が俺の心にクリティカルヒットしてるからやめて。頼むからこれ以上、俺のガラスのハートを粉砕しないでくれ。
零
ははは、まぁ中身がそのままで安心したよ。これからよろしくな、八幡。でも、
そう言いながら、川崎沙希さんが比企谷八幡、三浦優美子さんが戸塚彩加の恋人なのは調べがついてるからね?
4人
なんでしってる!?
零
ん? アスナとかから。
八幡
おいちょっと待て! 結城明日奈さん、一体どこからそんな極秘情報を仕入れて、しかもこの司令官代理に流してやがるんだ!? 情報の気密性ガバガバじゃねぇか! ああクソ、やっぱり女子のネットワークほど恐ろしいものはないわ……。
優美子
ちょっと、何でそれがあたしたち以外の人にバレてるわけ!? アスナ、あいつ絶対に許さないし! あたしと彩加が……その、恋人同士なのは、別に隠してたつもりはないけど、こうやって他人の口からド直球に言われるのはマジで有り得ないし……!
彩加
あはは……。優美子、顔が真っ赤だよ? でも、零さんに知られちゃったなら、もう隠す必要もないよね。僕、優美子の恋人でいられて本当に幸せだから、零さんにもちゃんと認めてもらえて嬉しいです。
優美子
~っ、彩加! あんたそういうこと、こういう公の場でサラッと言うのやめてって言ってるじゃん……! 恥ずか死ぬし……!
八幡
(心の声:いや、三浦が戸塚のガチ恋勢になってるの、前世の勢力図からしたら天変地異レベルの大激変なんだけどな。まぁ、戸塚のあの全包容力の前に屈しない人類なんて存在しないから、ある意味では妥当な結末なのかもしれん。……人のこと言えねぇけど)
サキ
……はぁ。まさか、あの私立聖エテルナ女子学院の女子たちの情報網を完全に舐めてたわね。明日奈さん、普段はおっとりしてるクセに、こういう情報に関してはリコリスのトップ並みに耳が早いんだから……。
八幡
いや、川崎さん、お前もそこまで落ち着いて現実を受け入れるなよ。俺とお前が付き合ってるって事実、前世の知り合いが聞いたら総武高校の校舎がひっくり返る大騒ぎだぞ?
サキ
何よ、文句あるわけ? あんたが私の妹たちの面倒をよく見てくれて、気づいたら放っておけなくなったんだからしょうがないでしょ。それとも、あたしと恋人なのが不満だって言うの?
八幡
いえ、滅相もございません。川崎沙希先輩、お前が最強に可愛くて、俺には勿ったいないくらいの彼女だと思ってますよ、ええ。
留美
……大人の世界って、本当に複雑でよく分かりません。でも、全員が顔を真っ赤にして慌ててるのを見るのは、ちょっと面白いです。
零
ははは、やっぱり前世と人間関係が変わってても、みんなのやり取りは最高に面白いな。アスナたちリコリスの女子ネットワークは侮れないから、秘密にしたいならもっと徹底した方がいいよ。