ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜 作:霧のイージス艦
比企谷八幡たち5人が、顔を真っ赤にしたまま嵐のように会議室を去っていった。甘酸っぱくも賑やかな空気が残る部屋で、俺は手元の端末の画面をリセットし、本日最後となる2人の資料を表示する。
画面に映し出された名前を見て、俺は思わず居住まいを正した。
後沢鋭二、そして三上悟。……劇場版SAOのオーディナル・スケールで悲劇の渦中にいた青年と、転生したらスライムだった件の主人公が、シズさんの姿(人間の姿)になった状態のデータだ。
これまでの女子生徒たちやラブコメの住人とは明らかに一線を画す、濃い背景を持った2人。息を整え、ドアに向かって声をかけた。
零
どうぞ、入って。
エイジ
失礼します。
リムル
お邪魔するよ。
ドアが開き、対照的な雰囲気をまとった2人が入室してきた。かつてノーチラス、あるいはエイジと呼ばれ、どこか陰を帯びた鋭い視線を持つ青年と、長い銀髪をなびかせ、外見は美しい少女のようでありながら、中身は完全に落ち着いた大人の男である三上悟だ。
零
そこに並んで座ってくれ。それじゃあ、聴取を始めるよ。
2人が席に着いたのを見届け、俺は端末を操作して資料の読み上げを開始した。
零
まずは後沢鋭二。生年月日は4月8日、現在は15歳。所属はDAで、少年暗殺部隊『リリベル』。
エイジ
……はい、間違いありません。
零
君がリリベルになった経緯は、やはり中学校の修学旅行の最中に事故に見せかけてDAに拉致された、だね。
エイジ
ええ。あの組織に連れて行かれてからは、ただ戦闘人形としての訓練を叩き込まれる日々でした。……でも、この基地に来る前、館内放送でユナの声を聞いた気がしたんです。彼女は……重村悠那は、本当にここにいるんですか?
零
ああ、いるよ。さっき彼女の聴取を終えたばかりだ。前世の記憶を持ったまま、今はリコリスとして保護されている。あとで会わせてあげるから、まずは話を終わらせよう。
エイジ
……! ユナが、生きている……。分かりました。ありがとうございます。
零
うん。……次は、三上悟。所属はDAの『リリベル』、と。資料だとキリトたちと同じ修学旅行の偽装事故で拉致されたことになっているけれど……君に関しては、現在の姿のベースが『シズ』という女性のものになっているね?
リムル
あはは、まぁ書類上はそうなっちゃうよな。俺自身、気づいたらこの世界で中学生の修学旅行に混ざってて、そのドサクサでDAとかいう物騒な組織に引っ張られてさ。この姿の件も含めて、色々と説明がつかないことばかりで困ってたんだ。
一通り2人の情報を確認し終えたところで、俺は手元の端末を机の上に置いた。2人の顔をじっと見つめ、ここから本番だとばかりに核心へ踏み込む。
零
さて、形式的な確認はここまでだ。ここからは、俺たちにしか通じない話をしよう。……君たち2人も、前世の記憶を持った『転生者』だね?
その言葉が落ちた瞬間、エイジは驚愕に目を見張り、三上悟――いや、リムルは「お?」と声を漏らして、長い銀髪を揺らしながら身を乗り出してきた。
リムル
へぇ、お兄さん、そこまで分かってて俺たちをここに呼んだわけだ。もしかして、あんたも前世の記憶がある口かい?
零
ああ、俺も君たちと同じ転生者さ。ただ、君たちがいた世界と俺の世界はちょっと違っていてね。……俺の世界では、君たちが前世で生きて、戦って、旅をしていたあの物語が、それぞれひとつの『作品』として存在していたんだよ。
エイジ
俺たちの生きた世界が……作品……。
リムル
マジかよ。じゃあ俺が前世で通り魔に刺されて死んで、スライムに転生してジュラ・テンペスト連邦国を作ったことも、全部お見通しってわけ?
零
ああ、全部知っているよ。リムルがシズさんの想いと姿を引き継いで、魔王にまで上り詰めたこともね。そしてエイジ、君がSAOの《血盟騎士団》で恐怖に怯え、現実世界でユナのために命がけでオーグマーを身につけて戦ったことも、すべて俺の記憶には残っている。
エイジ
……そうか。そこまで知られているなら、もう何も隠すことはないな。俺はあの世界でユナを救えなかった。だから、この世界で彼女が生きているなら、今度こそ俺の命に代えても守り抜くつもりだ。
零
その意気込みは素晴らしいけれど、ここでは誰も命を懸ける必要はないよ。不当な戦闘を強いるDAからは俺が全力で守るし、ユナともこれからはずっと一緒にいられる。
リムル
なるほどねぇ。別々の世界の住人がこうして記憶を持ったまま集まってるなんて、まるで神様のいたずらだな。でもさ、お兄さんが俺たちのいた物語を知ってるってことは、この世界の行く末についても何か知ってたりするのか?
零
ある程度はね。ただ、この世界は複数の世界線が混ざり合って歪んでいるから、予期せぬ事態も多い。だからこそ、君のような強大な力と知識を持つ存在や、エイジのような意志の強い人間の力が必要なんだ。これからはこの基地を新しい家だと思って、力を貸してほしい。
リムル
まぁ、俺を拉致して暗殺者まがいの訓練を強要してきたDAよりは、お兄さんの方がよっぽど信用できそうだしな。俺にできることなら、喜んで協力させてもらうよ。あ、そうそう、これからは俺のことも本名じゃなくて『リムル』って呼んでくれよ。その方が呼び慣れてるしさ。
エイジ
俺も……『エイジ』でいい。もう後沢鋭二としての窮屈な人生に戻るつもりはないからな。
零
分かった。それじゃあこれからは親しみを込めてそう呼ばせてもらうよ。改めて、これからよろしくな、エイジ、リムル。
こうして、重い過去を背負った青年と、異世界を統べた元スライムとの聴取は、新しい世界での目的と確かな信頼を分かち合う中で、静かに終了した。