ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜   作:霧のイージス艦

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事情聴取〜坂柳有栖(健康体で身長椎名ひより並)、神室真澄、山村美紀、森下藍〜

エイジとリムルが退室した後、本日の最後を締めくくるグループの資料を端末に表示する。

坂柳有栖、神室真澄、山村美紀、森下藍。……『ようこそ実力至上主義の教室へ』の高度育成高等学校、Aクラスの面々だ。

資料の備考欄に記載された健康状態と身体測定のデータを見て、俺は思わず二度見した。

坂柳有栖の健康状態が『極めて良好(健康体)』、かつ身長が椎名ひより並み(約160cm弱)とある。前世の原作では先天性の心臓疾患を抱え、杖をついて歩いていたあの天才少女が、この歪んだ世界では五体満足の健康体、しかも平均以上のスラリとした体躯を手に入れているらしい。

思考を巡らせながら、ドアに向かって声をかけた。

 

どうぞ、入って。

 

坂柳

失礼いたします。

 

神室

失礼する。

 

山村

し、失礼します……。

 

森下

失礼いたします。我が校の規律とは異なる空間ですが、お邪魔させていただきます。

 

ドアが開き、4人が入室してきた。

先頭を歩く坂柳有栖は、前世の記憶にある彼女とは明らかに違っていた。杖を持たず、椎名ひよりを思わせるしなやかな高身長の足取りで、不敵かつ優雅な笑みを浮かべて歩いてくる。その後ろを、気だるそうな神室、気配の薄い山村、そしてどこか機械的で独特な丁寧さを崩さない森下が続いていく。

 

そこに並んで座ってくれ。それじゃあ、聴取を始めるよ。

 

4人が着席したのを見届け、俺は資料の読み上げを開始した。

 

まずは坂柳有栖さん。生年月日は3月12日、現在は14歳。所属はDAで『リコリス』。

 

坂柳

ええ、間違いありませんわ。それにしても……驚きました。あのような前時代的で暴力に偏重したDAという組織から、これほど手際よく私たちを連れ出す人間がいたなんて。フフ、少し興味が湧きましたわ。

 

君たちの安全を確保するためだからね。君がリコリスになった経緯は、やはり私立聖エテルナ女子学院の修学旅行における偽装事故だ。

 

坂柳

ええ、その通りです。ただの事故を装って生徒を拉致するなど、組織としての知性を疑う下策。あのような檻に閉じ込められていた時間は、私にとってひどく退屈なものでした。

 

これからは退屈させないよ。……次は、神室真澄さん。生年月日は2月20日、現在は14歳。所属はDAで『リコリス』。

 

神室

ええ、間違いないわ。あんたが新しいボスの代理ってわけ? DAの時みたいに、あいつらの手駒としてまたくだらない命令を下すつもりなら、私は最初からお断りなんだけど。

 

そんなことはしないさ。君の所属理由も同じく修学旅行の偽装事故だ。……続いて山村美紀さん。生年月日は3月17日、現在は14歳。所属は同じくDAの『リコリス』。

 

山村

は、はい……間違いありません。私、影が薄くて……拉致された時も、訓練の時も、誰も私を見ていなくて……。ここでも、私はただの背景のようなものですが……。

 

そんなことはない。君の隠密性の高さは立派な能力だ。ここでは不当な扱いは受けないから安心して。……最後は森下藍さん。生年月日は11月8日、現在は14歳。所属はDAで『リコリス』。

 

森下

はい。私の氏名、生年月日、およびDAにおけるリコリスとしての登録情報に齟齬はありません。質問ですが、貴方はどのような権限を以て、国家の管理下にある私達の身柄をこちらへ移送したのでしょうか。法的根拠、あるいはそれに類する大義名分を伺いたく存じます。

 

やはり森下の口調は、あの独特な四角四面で規律に忠実な、原作そのもののトーンだ。

 

それについても今から話すよ。森下さんの所属理由も同じく修学旅行の偽装事故。

 

よし、一通り4人の確認は終わった。

俺は手元の端末を机に置き、椅子の背もたれに体を預けた。4人の天才、そして曲者たちの顔を見据え、一歩踏み込んだ話を切り出す。

 

さて、形式的な確認はここまでだ。ここからは、俺たちにしか通じない話をしよう。……君たち4人も、前世の記憶を持った『転生者』だね?高度育成高等学校の、Aクラスの皆さん。

 

その言葉が落ちた瞬間、会議室の空気が張り詰めた。神室は目を見開いて息を呑み、山村は小さく身を縮め、森下は眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせた。

しかし、坂柳有栖だけは、一切の動揺を見せず、むしろ愉快でたまらないといった様子でクスクスと笑い声を漏らした。

 

坂柳

フフ、フフフ……。素晴らしい。まさかこの歪んだ世界で、私たちの『前世』の所属まで正確に言い当てる方が現れるなんて。貴方、何者なのかしら?

 

俺も君たちと同じ転生者さ。ただ、君たちがいた世界と俺の世界はちょっと違う。……俺の世界では、君たちが前世で生き、知略を尽くして戦っていたあの『ようこそ実力至上主義の教室へ』の物語が、ひとつの作品として存在していたんだ。

 

神室

はぁ!? 私たちの生きてた世界がお話だって……!? ちょっと、何それ、ふざけてるの?

 

山村

私たちの……Aクラスの戦いが、誰かに見られていた……ということ、ですか……?

 

森下

不可解です。私達の主観的な現実が、他世界においては創作物として消費されていたという主張ですね。にわかには信じがたい事象ですが、貴方が私達の『高度育成高等学校』という秘匿された前世の情報を握っている以上、その仮説の信憑性は無視できないレベルに達していると言わざるを得ません。

 

信じがたいのも無理はない。だけどそれが真実さ。坂柳さん、君が前世で心臓の病気を抱えながらも、Aクラスのタワーとして君臨していたことも、神室さんが彼女に弱みを握られて手駒になっていたことも、山村さんが抜群の観察眼で周囲を監視していたことも、森下さんが占いや独自の規律を重んじていたことも、全部知っている。

 

坂柳

なるほど、私のあの不自由だった身体のことまでご存知ですか。……ええ、ご覧の通り、この世界における私は五体満足、疾患など微塵も存在しない極めて健康な肉体を手に入れましたわ。身長も、あの椎名ひよりさんと同じくらいにまで伸びて……フフ、杖を持たずに自分の足で大地を踏みしめる感覚というのは、悪くないものですわね。

 

その健康な体で、DAなんていうクソ組織の暗殺人形にされかけていたのは皮肉だけどね。だから俺が君たちを保護したんだ。これからは、不当な戦闘を強いるDAに怯える必要はない。この基地を新しい家だと思って、安心して過ごしてほしい。

 

神室

……まぁ、あんな命令絶対の冷たい組織にいるよりは、ここでお世話になる方が幾分マシか。あんたが本当に私たちのことを分かってて助けてくれたって言うなら、一まずは信じてあげるわよ。

 

山村

私のような存在でも、ここにいていいのなら……よろしくお願いします、零さん。

 

森下

理解しました。現在の私達の安全と権利を保障する主体がDAから貴方へと移行したと判断します。緋村零さん、貴方の統制下において、私達の能力がどのように活用されるのか、注視させていただきます。

 

坂柳

フフ、面白いわ。神の悪戯か、あるいは世界線の交錯か。いずれにせよ、これほど興味深いチェス盤を用意してくれた貴方には感謝しなければなりませんわね。……これからよろしくお願いいたしますわ、零さん。

 

ああ、よろしく。改めて、これからよろしくな、坂柳、神室、山村、森下。

 

こうして、高度育成高等学校Aクラスの面々との聴取は、原作そのままの冷徹な知性と独特なユーモアが交錯する、静かで濃密な空気の中で終了した。

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