ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜   作:霧のイージス艦

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桐ヶ谷和人との出会い

紺野姉妹の運命を劇的に変えてから、さらに時は流れ、俺は12歳になっていた。

 

緋村零

さて……今日も頑張りますか……

 

ベッドから起き上がり、学校へ登校するための準備を淡々と進める。制服に着替え、必要な荷物を鞄に詰め、手早く朝食を済ませる。最後に厚手のコートを羽織り、高級マンションの重厚なドアを開けて外へと踏み出した。

 

緋村零

寒っ……

 

思わず身震いするような冷気が肌を刺す。季節は12月。

街はすっかりクリスマス一色に染まり、人々が忙しそうに行き交っていた。すでに中央広場には見上げるほど巨大なクリスマスツリーが設置され、色とりどりのイルミネーションが夜の出番を待っている。

 

緋村零

さっさと学校に行きますかね……

 

華やかな街の喧騒を余所に、俺は冷え切ったアスファルトを踏みしめながら学校へと歩みを進めた。

学校に到着し、上履きに履き替えてから自分の教室へと向かう。

ガラリと引き戸を開けて教室に入ると、すでに多くの生徒たちが集まり、思い思いに雑談を交わしていた。だが、俺が足を踏み入れた瞬間、それまで騒がしかった空間が水を打ったように静まり返り、生徒たちが露骨に俺を避けるようにして距離を取っていく。

 

緋村零

(いつも通りだな……)

 

実は、俺はクラス、ひいては学校全体から嫌われているというか、腫れ物のように避けられていた。その理由は極めて単純明快だ。

1年前の朝田詩乃の郵便局強盗事件の際、俺が犯人を撃退した事実がどこからか漏れ聞こえ、それが歪んだ形で周囲に伝わってしまったのだ。さらに、「夜の街で不良相手にカツアゲ(実際は特訓がてらの喧嘩の制裁だが)を繰り返している」という根も葉もない噂まで尾ひれをつけて広まっていた。

 

緋村零

(まあ、前世でも小学校から高校までずっといじめに遭って孤立していたし、この程度の空気には慣れてるからどうでもいいけどな……)

 

前世における最悪な経験のせいで、俺のメンタルはこれしきの事で揺らぐほど脆くはない。周囲の冷ややかな視線を完全にシャットアウトし、自分の席に腰を下ろすと、鞄から本を取り出して静かに読書を始めた。

 

緋村零

(正直、小学校の授業は退屈極まりないけど、これも義務教育の一環だし仕方ないか……)

 

前世で高校卒業まで終えている俺にとって、現代の小学校で習う勉強など退屈な復習でしかない。早くSAOのデスゲームが始まらないかと、退屈な現実に内心でため息をついていると、やはり現れた。俺の席の周りに、数人のモブ生徒たちがニヤニヤとした歪んだ笑みを浮かべて集まってくる。

 

モブ

おい、お前なんで学校に来てんの?

 

モブ

人殺しの化け物が学校に来るなよな。

 

モブ

死ねよお前、調子乗ってんじゃねえよ。

 

向けられるのは、いつも通りの幼稚で身勝手な罵詈雑言。

だが、俺はページをめくる手を止めず、徹底的に無視を貫く。前世の経験から知っているのだ。こうやって完璧に壁を作り、一切の反応を返さずに無視し続ければ、いじめてくる相手は次第につまらないと感じ、自然と関わってこなくなる。

間もなくして前扉から担任の先生が入ってきた。それと同時に、クモの子を散らすようにモブたちが俺の席から離れていく。

 

緋村零

(まあ、適当に流しますか……)

 

一日の始まりを告げる朝のホームルーム。俺は視線を黒板へと向け、意識をそちらへ切り替えた。

退屈な授業がすべて終わり、放課後の夕方が訪れた。

 

緋村零

帰るか……

 

教科書やノートを鞄にまとめ、そそくさと教室を脱出する。無駄なトラブルに巻き込まれる前に、一刻も早く自宅への帰路に就くためだ。

夕暮れ時の街をしばらく歩いていると、少し開けた通りの角で、一台のスマートフォンと真剣な顔でにらめっこしている一人の少年の姿が目に留まった。その独特の黒髪、そしてどこか見覚えのある顔立ち――。

 

緋村零

(……桐ヶ谷和人だな。道にでも迷ったか?)

 

間違いない。後に『黒の剣士』としてその名を轟かせることになる、ソードアート・オンラインの絶対的な主人公。

ついに見つけた。俺は接触の好機と判断し、気配を殺したまま彼のすぐ近くへと歩み寄った。

 

緋村零

おい、そこのお前。何か困り事か?

 

声をかけると、桐ヶ谷和人がハッとしたようにこちらを振り向いた。

 

和人

あぁ……。実は、この地図にあるスーパーに行きたいんだけど、どうしても場所が分からなくて困ってたんだ……

 

彼が提示してきたスマホの画面を覗き込む。表示されている目的地は、ちょうど俺がいつも帰るルートの途中にある大型スーパーだった。

 

緋村零

そのスーパーなら、俺の帰路の途中にある。案内してやるよ

 

ぶっきらぼうにそう告げると、和人の表情が一気に明るくなった。

 

和人

本当か! 助かるよ、ありがとう!

 

律儀に礼を言ってくる少年に対し、俺は背を向けて歩き出す。

 

緋村零

礼はいい。行くぞ……

 

俺の後ろを、和人が少し早足でついてくる。並んで歩きながら、俺はそれとなく会話を振ってみた。

 

緋村零

お前、この辺りに住んでるのか? 見かけない顔だが

 

和人

あぁ、最近この近くに引っ越してきたばかりなんだ。だからまだ、周囲の地理に全然詳しくなくてさ

 

緋村零

そうか……

 

そんな他愛のない、けれど記念すべき最初の会話を交わしながら夕暮れの街を進む。そして間もなく、目的のスーパーの大きな看板が見えてきた。

 

緋村零

着いたぞ。あそこだ

 

和人

うわあ、本当に助かったよ、ありがとうな! ……そう言えば、お互いに自己紹介もまだだったな。俺は桐ヶ谷和人。君の名前は?

 

買い出しの袋を握り締め、和人が真っ直ぐな瞳でこちらに名前を尋ねてくる。

俺は一瞬だけ足を止め、ポケットに手を突っ込んだまま、彼の記憶に刻み込むように新しい偽名を口にした。

 

緋村零

緋村時雨……。まあ、縁があったらまた会おう

 

それだけを言い残すと、俺は振り返ることなく、夕闇に染まる帰路へと歩みを進めた。

物語の歯車が、静かに、けれど確実に噛み合い始めたのを感じながら。

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