ソードアート・オンライン〜旭日の防人達〜 作:霧のイージス艦
一之瀬帆波たちがどこか晴れやかな表情で会議室を後にした。彼女たちの会話の余韻が残る中、俺は端末を操作して次の一団のプロフィールを表示する。
西野武子、伊吹澪、橘茜、白石飛鳥。……『ようこそ実力至上主義の教室へ』の高度育成高等学校において、それぞれ独自の立ち位置で波乱の学校生活を送っていた面々だ。
特に伊吹澪や西野武子といった、我が強く一筋縄ではいかないタイプが、この歪んだ世界でDAに拉致され、どのような精神状態にあるのか。息を整え、ドアに向かって声をかけた。
零
どうぞ、入って。
西野
失礼するわ。
伊吹
失礼する。
橘
失礼いたします。
白石
失礼します。
ドアが開き、それぞれに異なる警戒心をまとった4人が入室してきた。
不機嫌そうに腕を組む西野武子、鋭い眼光で部屋の隅々まで睨みつける伊吹澪、元生徒会副会長らしく規律正しくも緊張を隠せない橘茜、そして少し戸惑い気味に周囲を見回す白石飛鳥。
零
そこに並んで座ってくれ。それじゃあ、聴取を始めるよ。
4人が席に着いたのを見届け、俺は端末を操作して資料の確認を開始した。
零
まずは西野武子さん。生年月日は3月10日、現在は14歳。所属はDAで『リコリス』。
西野
ええ、間違い確認に齟齬はないわ。それにしても、随分と大層な基地じゃない。あのDAとかいうクソ組織からあたしたちを連れ出したんだから、それなりの理由があるんでしょうね?
零
君たちの安全を確保するためだよ。君がリコリスになった経緯は、やはり私立聖エテルナ女子学院の修学旅行における偽装事故だ。
西野
やっぱりね。不自然だと思ってたのよ、あの事故。あんな組織に拉致されて、暗殺者みたいな訓練を強制されるなんて、本当に虫唾が走るわ。
零
これからはそんな訓練もないから安心していい。……次は、伊吹澪さん。生年月日は7月27日、現在は14歳。所属はDAで『リコリス』。
伊吹
……チッ、間違いねえよ。あんたが新しいボスの代理か? 最初に言っておくけど、私は誰の命令にも従う気はないからな。DAの時みたいに、銃を持たせてどこかに突っ込ませるつもりなら、今ここで不意打ちでも食らわせてあんたを倒して逃げるだけだ。
零
はは、相変わらず好戦的だな、伊吹さん。そんなことはしないから落ち着いてくれ。君の所属理由も同じく修学旅行の偽装事故だ。
伊吹
……相変わらずって何だよ。あんた、私の何を知ってるってんだ。
零
それについても今から話すよ。……続いて橘茜さん。生年月日は3月11日、現在は16歳。所属はDAで『リコリス』。
橘
はい、間違いありません。私は、生徒会での活動を不当に中断され、気づいた時にはあのDAという組織に拘束されていました。緋村さん、私たちはこれからどうなるのでしょうか……?
零
国家組織の欺瞞から君たちを守り、安全な生活を提供する。君の所属理由も同じく修学旅行の偽装事故だ。……最後は、白石飛鳥さん。生年月日は11月21日、現在は14歳。所属はDAで『リコリス』。
白石
は、はい……間違いありません。私、運動もそこまで得意じゃなくて、あそこの過酷な訓練には本当についていけなくて……。ここに移されて、少しホッとしています。
零
よく耐えたね。もう戦う必要はないから。君の所属理由も同じく修学旅行の偽装事故。
よし、これで4人の確認は終わった。
手元の端末を机に置き、椅子の背もたれに体を預けて4人を見据える。
零
さて、形式的な確認はここまでだ。ここからは、俺たちにしか通じない話をしよう。……君たち4人も、前世の記憶を持った『転生者』だね? 高度育成高等学校の皆さん。
その言葉が落ちた瞬間、会議室の空気が一変した。
橘は驚愕に目を見張り、白石は息を呑んで体を硬くした。西野は「は……?」と眉をひそめ、伊吹はガタッと椅子を鳴らして身を乗り出してきた。
伊吹
あんた、何でそのことを知ってんだよ……! 私たちの前世の記憶なんて、誰にも話したことねえぞ!
西野
ちょっと、何なわけ? あたしたちが前世で同じ学校にいたことまで知ってるなんて、ただの情報収集じゃ説明がつかないし。
零
俺も君たちと同じ転生者さ。ただ、君たちがいた世界と俺の世界はちょっと違う。……俺の世界では、君たちが前世で葛藤し、それぞれの意志で生き抜いていたあの『ようこそ実力至上主義の教室へ』の物語が、ひとつの作品として存在していたんだ。
橘
私たちの生きていた現実が、ひとつの作品……? 嘘……じゃあ、私のことも、生徒会でのことも……?
白石
信じられない……。じゃあ、私たちの秘密が全部知られているってことですか……?
零
ああ、知っているよ。西野さんが思ったことをハッキリ口にして周囲と衝突しながらも、一本筋の通った生き方をしていたことも……伊吹さんが格闘技にこだわり、龍園くんたちと不器用ながらも上を目指そうとしていたことも……橘さんが堀北学前生徒会長を誰よりも慕い、彼のために尽くしていたことも……白石さんがクラスの中で静かに過ごしていたこともね。
橘
な……! ほ、堀北学さんの名前まで出てくるなんて……! そこまで、筒抜けなのですか……。
伊吹
おい、何でアイツの名前まで出てくんだよ! クソ、気持ち悪いな……! じゃあ、私が前世でどんな風に過ごしてたかも、全部その本だか何だかに書いてあったってことかよ!
西野
……へえ。そこまであたしたちの裏事情を知ってるなら、もう隠すだけ無駄ってわけね。でも、あんたがその作品を知ってて、あたしたちをあんなクソ組織から助け出してくれたって言うなら、少しは感謝してあげてもいいわよ。
零
ありがとう。君たちが前世で必死に生き抜いた記憶は本物だ。だからこそ、この世界で君たちがDAなんていう理不尽な組織に拉致されて、暗殺人形として扱われているのが俺は我慢ならなかった。だから保護したんだ。もう、誰かの駒として無理に戦う必要はないんだよ。
伊吹
……ふん。まぁ、戦わなくていいなら、あんなクソみたいな訓練よりはマシだ。あんたの言う通りにしてやるよ。
橘
……なるほどね。貴方の誠意は理解できました。学君のいないこの世界で、どのように生きるべきか迷っていましたが……ひとまずは、貴方の管理下で保護される道を選ばせていただきます。
白石
私も、戦わなくていいなら本当に嬉しいです。よろしくお願いします、零さん。
零
ああ、歓迎するよ。これからよろしくな、西野、伊吹、橘、白石。
こうして、高度育成高等学校の面々との聴取は、前世の因縁と新しい世界の現実を受け入れ、新しい絆を結ぶ確かな温もりの中で、静かに幕を閉じた。