ニチアサアニメのラスボスに転生したけど、追加戦士の妹とは絶対戦いたくない 作:アナユキ
『キュア魔女スターズ!』というアニメについては俺も知っていた。
日曜朝に放送していたいわゆる女の子、特に女児向けのアニメであった。
癒しの力「ステラキュア」を宿す少女達「ウィッチ」が異世界「クージャ」からやってきて人間の心を闇に落としていく存在、「デュラハン」と戦うという物語であり、俺はその後に放送する特撮が好きだったからその流れで見ていた。
子供向けでありながらなかなかに奥深いテーマである『心とは何か』を扱っていて結構考えさせられるストーリーだった事が印象深い。
ただまあ、俺の目当てはあくまでその後に放送する特撮だったので、特別しっかりとストーリーを覚えていたという訳ではなかった。
とはいえ、現状その『キュア魔女スターズ!』の世界に転生してしまった以上、しっかりとストーリーを覚えていた方が良かったと思っているし、何なら裏設定とかも熟知していれば良かったなーと、そのように後悔している。
いや、そもそも女児向けアニメも世界に転生するとかそういう事を想定しろという方が無理だろうし、ある意味このような事になったのは予定調和なのかもしれない。
なんにしても、だ。
俺はこの世界に転生し、そして現在18年の月日が経過していた。
デュランダルという名前を与えられた俺は魔法の世界「ナインタート」の王族であり、かつ俺は人間界の母と「ナインタート」の父とのハーフである。
ちなみに妹もいて、その妹のアロンは人間界に憧れを持っているらしい。
余談というかこれは辛うじて覚えていた原作知識だが、彼女は将来的に「ウィッチ」の追加戦士としてデビューする事が決まっている。
更に言うと、俺は『キュア魔女スターズ!』のラスボスだったりした。
そう、ラスボス。
アニメシリーズのラスボスである。
俺はどうやらこの世界から人間界へと渡り、「デュラハン」を操り悪事を働く事になっているらしい。
一応どうしてそんな事をするのかというと、現在「ナインタート」は深刻なエネルギー不足に陥っており、それを解決するために「デュラハン」を用いて人間の「良心」を回収しようとしているのだ。
……「良心」を回収する方法は、人間の心を傷つける事。
そしてそれを癒す事が出来るのは「ステラキュア」の力を持つ「ウィッチ」だけ……という設定だ。
「はあ」
現状。
俺は今、エネルギー不足で滅びへと向かっているこの世界を救う使命を持っている。
ただ、同時に原作通りに進ませるのは間違っているとも思っていた。
何かの為に何かを犠牲にするのはおかしいと思うし、そしてそれが人の心ならば猶更だ。
更に言うと、子供相手に手を上げるとかしたくない。
いやまあ、俺も現在の年齢は18歳なので子供なのかもだけど。
原作通りに進めば間違いなくこの世界は人間界含めて救われるだろうけれども、だけどそれは数多の苦行を通過する事が必要不可欠であり、ていうかそれ以前に原作知識を中途半端に持っている俺が原作通りのストーリーをなぞる事が出来るとも思えない。
だからこそ、脱線である。
原作通りには進ませず、何とかしてこの世界を救わなくてはならない。
エネルギー不足……より正確に言うのならば魔力不足だ。
「ナインタート」で利用されている主なエネルギーはそれであり、だからこそもしかしたらそれが突破口になるかもしれない。
つまり、新エネルギーの開発だ。
例えば化石燃料……は、真っ先に思い浮かんだけど、莫大なエネルギーを生み出すような代物は現状見つかっていない。
いや、そもそもこの世界には前提として魔力が存在しているのだ、摩訶不思議なメカニズムが働いている以上、俺の創造していないような資源が眠っている可能性はある。
とはいえそれがある事に賭けて穴を掘りまくるのも無駄っぽいし、だからまずは地道に問題を解決しなければならないと、そのように思った。
人間だって今こそ大空を飛行機で飛んでいるけれども、昔、それこそ初期の段階では動力もなしにハンググライダーのようなモノで滑空するのに精いっぱいだったのだ。
だから、この世界でも頑張ればなんとかなる。
それを信じて、努力をしなければならない。
「お兄様」
と、王城にある文献を読み漁っていた俺に話しかけてくるのは妹のアロン。
「お兄様?」
「ああ、アロン。どうかしたのか?」
「今日も調べものですか、お兄様」
「そうだな……前にも話した通り、この世界が直面している問題というものは深刻だ。そしてそれを解決する義務、責務が王族である俺にはあると考えている」
「難しくて、アロンには分からないです」
「アロンはまだまだ子供だからな」
「……お兄様もまだ子供じゃないですか」
「それは、一本取られたな。そうかもしれない」
とはいえ、と俺はとりあえず読み終えた本をぱたんと閉じ、本棚に戻す。
「俺はまだ子供で出来る事も少ないかもしれないけど、だけどそれだって出来る事はある。そう思っているんだよ」
「それなら、アロンも」
「アロンはまだ子供なんだから、難しい事は考えずに遊んでいなさい」
「……もう」
ぷくっと頬を膨らませるアロンの事を見て俺も笑う。
なんて言うか、心が和んだ。
これなら今日ももっと頑張れそうだ。
とはいえ、時間も時間なので一度小休止しようと思い、アロンに「それじゃあ、ちょっと休憩しようか」と声を掛ける。
「おやつを食べよう、アロン。確か冷蔵庫にプリンがあった筈だ」
「! う、うん! じゃあそれじゃあアロンが先に取りに行ってきますね!」
ぱたぱたと走り去る彼女の背中を微笑ましく思いつつ、ふとそう言えば冷蔵庫って如何にも人間界の代物っぽいのにこの世界にはあるんだよなーとかそんな事を思う。
一体あれはどのような仕組みで動いているんだろう。
いや、それ以前にだ。
エネルギー問題の解決策として新しいエネルギーを発見したとして、それを現在主流の魔力の機構にチューニングする事は可能なのだろうか?
あるいは、全く別のシステムを構築しなくてはならないのだろうか?
難しいな、いろいろな意味で。
とはいえ、一度休憩すると決めたのだから今は難しい事を考えるのは止めよう。
俺はそう思って考えを切り替え、ひとまず書庫から出てアロンの見えなくなった背中を追った。
「お兄様!」
と、一足先に冷蔵庫に辿り着きプリンを取って来ていたらしい彼女はぱたぱたと小走りで両の手に片方ずつプリンを持ちこちらにやってきているのが見えた。
急いで、だけどぎりぎり走らないで。
「お兄様、アロンの部屋で食べましょう」
「ああ、そうだな」
俺は頷き、彼女と並んで廊下を歩く。
「えへへ。アロン、お兄様の作ったプリン、大好きです。お母様の作ったプリンにそっくりだから」
「まあ、レシピ通りに作っているだけだよ」
「……お父様はお仕事が忙しくてあまり食べてくれないですけど、だけどこっそり冷蔵庫からプリンを持っていっているのをアロンは知ってます」
「気づくとプリンが減っているのはそれが原因だったのか……」
「お兄様はプリン作りの天才ですね。食べるとみんな幸せになります」
「それは、大袈裟だよ」
とはいえ言われて嬉しくない筈がない。
ていうかちょっと恥ずかしい。
「お兄様は難しい研究よりもずっとプリン作りの方が向いてます!」
「う、うーん。それは嬉しいような複雑だな……」
ともあれ、部屋に辿り着いた俺達はガラステーブルを挟んで座り、いただきますと手を合わせてからプリンを食べ始める。
うん、固めで甘め控えめないつもの庶民的なプリン。
我ながら美味しいと思う。
「んー!」
舌鼓を打っているアロンを見、ほっとする。
良かった、美味しいようだ。
「それで、お兄様の研究はどうなんですか?」
「ん、んー。まあ、良い風に言うのならば悪い方向には進んでないって感じ。悪い風に言うのならば良い方向にも進んでない。つまり進展なしだ」
「……この世界は、いずれ滅びるのでしょうか?」
「万物に終わりは付き物という考えはあるかもだけど、だけどそれは少なくとも今ではないだろうし、それに対抗するために努力する事は間違っていない筈だ」
「……」
「まあ、更に言うのならば少なくともエネルギー不足というのは世界の滅びとは言い難い。今までのような生活は送れなくなるかもだけど」
「アロン、お兄様のプリンを食べられなくなるのは困ります」
「そ、そうか。でも一応人間界に行けば同じようなものを食べられるだろうから」
「人間界……」
彼女は何かを考え込むように少しだけ黙る。
「人間界、お母様の故郷ですね」
「魔力の存在しない世界だ。この世界の住人にとってはとても不思議な世界だろうな」
「……人間界に行く手段は、あるんですよね」
「それは、あるだろうけど。どうしてそんな事を聞くんだ?」
「いえ、ちょっと聞いてみただけです」
にこりと微笑むアロン。
その右頬が若干引き攣っていたので、彼女が嘘を吐いているらしい事はすぐに分かった。
とはいえ黙っているならば追及する必要もないかと思い、そこでは「そうか」とだけ返しておく事にする。
そして、その翌日にそれを後悔する事になるのだった。
「デュランダル様、アロン様が無断で『時空ゲート』を利用し人間界へと向かったようです!」