シャーレの清掃員やってます。 作:Raitoning storm
…拭き拭き。
もう何度目かわからない机の掃除。書類の類いがまったくないという、近年稀に見る光景にも慣れてきましたが…この広いシャーレで一人でいるのはやはり落ち着かないですね…。
「…ふぅ。」
机の掃除もひと段落して、布巾もバケツの横にかけて…
「だーれだ」
「ミ°ッ」
後ろから突然声をかけられ、さらにほっぺたに冬特有の冷たい感触を味わったことで、およそ人間が出していいとは思えない声が出てしまいました。
古ぼけた機械のようにギギギ…と後ろを向いてみると、
「…く、クロコさん…」
「ん。久しぶり。」
クロコさんをずっと立たせているわけにもいかないので、とりあえずソファに座っていただきました。…対面になるように座っていたのですが、いつの間にか隣にピッタリくっつく形になってますね…不思議…。
「…そ、それで。今日はどのような要件でお越しに…?」
「…なんとなく。会いに来ただけ。」
「そ、そうですか…。あ。い、今お飲み物淹れますね…」
そう言って立ち上がろうとするのですが、
「お茶はいいから。一緒に座って。」
肩に手を置いて静止されてしまいました。
「は、はい…」
そう言われると、僕は大人しく座ることしかできません。
「…やっぱり、疲れてる?なんか、いつもと様子が違う。」
「え?い、いえ…。最近は、仕事もあんまりないですし…疲れてなんて…」
「…ごめん。言い方が悪かった。そういうことじゃなくて、心理的なこと。」
「し、心理的…?」
おうむ返しにそう返すと、クロコさんは真っ直ぐ僕の方を向いて、
「…率直に言えば、顔がやつれてる。一人だったから?」
「…」
「先生も人が悪い。あなたをシャーレでひとりぼっちにするなんて。」
「…でも、先生も忙しいですし。僕にまで手が届かないのも…仕方ない、です。」
「それでも、誰かシャーレに置くとかすればいい。いくらでも候補はいるはず。」
「…皆さんを、僕の都合に合わせてしまうのも、申し訳ないです。」
「どこか出かけるのは?」
「…シャーレを留守にするわけにはいかないので。」
「…」
僕がそう言ったのち、クロコさんはしばらく沈黙して…そして、
「…クロコさん?」
手を絡めて
「…どれだけ言い訳を重ねてもいいけど、寂しいときは寂しいって言うべきだし、辛いときは辛いって言うべき。」
「…」
「言える相手がいるなら、尚更。」
「…はい。」
「私には、言いたくない?」
「……シャーレで一人でいて、寂しかったです。」
「…ん。ちゃんと言えて偉い。」
「そういえば」
「…?どうかしましたか?」
「渡すものがあるのを忘れてた。」
そう言ってクロコさんは、小さくデコレーションされた小包みをどこからか取り出します。
「ん。バレンタインチョコ。食べて」
「…い、今ですか?」
「うん。一個だけだから。」
ぐいぐいと手元に押してくださるので、受け取って包みを開けます。
「…では、いただきます…」
「うん。一口で食べて。」
「ひ、一口ですか…?結構大きい気がするんですが…」
「大丈夫。いける。」
「わ、わかりました…」
口を大きく開けて、頑張って頬張ります。思ったよりも柔らかいですね…。
「…」
「…どう?美味しい?」
「…は、はい。ちょっとビターな感じで…」
「…よかった。口開けて?」
「え?あ、あー…」
そうして僕の口の中に何も残っていないことを確認したクロコさんは、満足そうな顔をして、
「…ん。」
「…あ、ありがとうございました。ホワイトデーのお返し、頑張ります…」
「…お返しは、こっちから指定してもいい?」
「…え?あ、大丈夫ですけど…」
なんでしょうか…チョコ以外のものですかね…。
「…物じゃなくて、一個、お願いを聞いてほしい。」
「…い、いいですけど…」
「じゃあ、こっち来て。」
そう言って、いつかのようにクロコさんの膝の間に座る形になります…この体勢が、好きなんですかね…?
「…触ってほしいものがある。でも、目で見ないでほしい。だから、手で目隠しする。」
「…?」
「戸惑うのもわかる。でも、言う通りにしてほしい。お願い。」
「わ、わかりました…」
有無を言わせない程ではないですが、少し圧を強めたクロコさん…そうして片手で僕の両目を隠して…
「ごめんね」
みんなはバレンタイン貰えた?
白亜の予告状(清掃員君入り)見たい?
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見たい
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それより今の感じを続けてほしい