シャーレの清掃員やってます。 作:Raitoning storm
「……ここ、は……」
…目覚めて真っ先に目に入ったのは、知ってるけど、知らない天井でした。
「…ううっ…なんか、身体痛い…」
筋肉痛のような痛みをこらえながら、腕に力を込めて起き上がります。…まだぼんやりした頭でも、ここがシャーレの事務室だと言うことはパッと見てわかりましたし、自分が今全体重を預けているのは慣れ親しんだシャーレのソファだと言うことは、その後に理解しました。
「…それにしても、これは…」
…ですが、頭の中のシャーレとは決定的に違うところがありました。
「…ボロボロ、ですね…」
そう、ボロボロだったんです。壁は所々穴が空いていますし、大きな窓ガラスも四隅を除いて砕け散っています。机の上のパソコンなど、もう見る影もありません。
「…空も、なんか、変な色ですし…あっ、クロコさん…!」
クロコさんが近くにいるかもしれないと思って辺りを見回すが、いらっしゃりません。
「…そういえば、あの後、何か触って…うーん…」
こうなった経緯を少しの間追憶しましたが、あまり思い出せません。
「…とりあえず、ここから動かないと…」
このまま座っていても状況が改善しないと思い、ソファから立ち上がって足を床につけました。
「…流石に、もう電源はつきませんよね…」
パソコンの電源ボタン、だったであろうところをポチポチ押してもパソコンは何も答えません。こんなにめちゃくちゃにされているので、電源がないというよりも中の回路がやられているのかもしれませんね…。
「…書類…」
机の上に散乱した書類を見ても、頭の中の疑問を解決できるような情報は手に入りませんでした。やたらと修繕に関する書類が多いですが、周りの状況を考えればむしろ自然なように思えました。…今の状況が自然じゃないといえば、それまでですけどね。
「…何があったんでしょう…温泉開発部が暴れてもここまでにはならないのに…」
僕が知る限りのシャーレの被害と比べても、やはり今のこの状況が圧倒的にひどいことは確かです。
「…キッチンや、給湯室はまだマシな方ですね…。水は出ませんけど…」
…慣れ親しんだ場所がこう、凄惨な状況だと心が痛みますね…。いつも先生や生徒の皆さんにお飲み物を出すときに使っているこの場所が…。
…そういえば。
「…先生、いらっしゃいませんね。」
その後、先生の事務室を出て三階の居住区のエリアへと上がりました。床に穴などは空いていませんでしたが、ほかの部屋も同じように窓が割れていたり壁に亀裂が走っていたり、ひどい有り様でした…。
アリスさんやネルさんたちがよく使っていらっしゃるゲームセンターは、ゲームの起動こそできましたがノイズがひどかったですし…ハルカさんと一緒に様子を見ている菜園の植物は雑草が生い茂っていて…。いつも頑張って管理しているのに…。
いつもどなたかが必ずいらっしゃる自習室にも、誰もいませんでしたし…月見団子を作っり、フウカさんと一緒に料理の練習をした食堂も、だいぶ寂れていました…。
…あと、エンジェル24にソラさんがいませんでしたね…いつもいらっしゃるのに…。
その後、また二階に降りました。体育館にも、実験室にも、射撃場にも、誰もいらっしゃいませんでしたが…
視聴覚室のドアにだけ、部屋の中の光がもれていました。
「…誰か、いるんですか…?」
恐る恐るドアに手をかけ、開けてみると…
僕が、いました。真ん中の通路側の、左側の席に座って。
「………え……」
思わず困惑と驚きが入り混じった声を出すと、彼…というのが正しいのかわかりませんが、振り返って…
「こんにちは。」
と、おっしゃいました。
「…あ、こ、こんにちは…」
「初めまして。」
「は、はい…。」
そういうと、彼は少し微笑んで、
「…困惑するのもわかります。でも、このままというのも何なので…座りませんか?こちら、空いてますよ。」
隣の席をぽんぽんと叩いて、座るように促しました。
「…じゃあ、失礼します…。」
「この視聴覚室、使ったことはありますか?」
「は、はい…何度か…。先生と一緒に、とか…」
「そうですか…楽しかったですか?」
「はい…」
「それは、よかったです。」
「…あ、あの…」
「?」
「その…失礼を承知でお聞きするんですが…その服…」
「…ああ、これですか?」
「その、だいぶボロボロです、よね…?」
「…まあ、ちょっとした諸事情があって。」
「…」
「…やっぱり、先生のように上手くはいきませんね。…やっぱり、話させていただきますね。」
「…?」
「…もう少しだけ、別のことをお話ししたいと思ってたんですけど。僕としても早く打ち明けたい気持ちがありますし。」
「???」
「…もしかしたら、辛い気分にさせてしまうかもしれません。でも、貴方が絶対に知るべきことだと思ってお話させていだたきます。」
「………わかり、ました。」
「ありがとうございます。…では、振り返りましょうか。今まで起こったことを。」
「…こ、これは?」
「先生が、初めてシャーレに来たときの映像ですよ。大変だったんですよ、ヘルメット団が建物を占拠しちゃって。」
「え。…それは、大変でしたね。」
「あそこにいるのが僕です。」
「…と、捕らわれてるじゃないですか。」
「はい。先生が、シャーレの部長に就任される前からシャーレにいたので。」
「そ、そうだったんですか?」
「道に倒れているところを拾っていただいて、そこから。」
「…あ、先生が…」
「これが、先生と初めて会った瞬間です。」
「…」
「あんまりドラマチックじゃないですけど、これが最初の転換点、だったのかもしれませんね。」
「…あの、その…」
「…言いたいことはわかりますよ。僕は、別世界の貴方です。」
「べ、別世界の…?」
「いきなり言われてもわかんないですよね。…続きを見ましょうか。」
「…あ、アビドス…。」
「はい。先生の初任務ですね。」
「…一緒には、行かなかったんですか…?」
「はい。先生がいない間、シャーレでお留守番です。」
「…寂しく、なかったんですか?」
「もちろんありましたが、ユウカさんがいらしたりもしましたし。遅い時間になったりもしましたが、先生も帰ってこられるので。」
「そ、そうですか……えっと、これは…?」
「アビドスの皆さんとヒフミさんと一緒に、銀行強盗をしているところですね。」
「………」
「…そうなりますよね。便利屋の皆さんと出会ったのもこのあたりの時期です。」
「……あ、ホシノさん…」
「そうして、捕らわれたホシノさんを皆さんで助け出して…という感じですね。」
「…知らなかった、です。」
「先生も、わざわざ話すような内容じゃないと考えたのかもしれませんね。」
「次はミレニアムです。ゲーム開発部が廃部の危機になっていますね。」
「そ、そんなにあっさり…」
「連邦生徒会が立ち入り禁止にした廃墟に入って、AL━1S…アリスさんを見つけましたね。」
「…え、な、なんでこんなとこに…」
「…それは、後々わかりますよ。そうして、ゲーム開発部は廃部の危機を逃れた、のでしたが…」
「…名もなき神々の、王女…?」
「…アリスさんの、本当の正体ですよ。もちろん、今のアリスさんはそうであるべきだとは思っていませんが。」
「…知らなかった…。」
「そうして、結果的にアリスさんがゲーム開発部に戻ってきて…という感じですね。」
「よかった…」
「…とりあえず、エデン条約の終結まで振り返ってきましたね。」
「…アリウスの皆さんが、あんな環境で過ごしていたなんて…知りませんでした。」
「でも、今は色々とよくなっていっているらしいので。安心してもらって大丈夫だと思いますよ。」
「…はい。」
「…さて、この続きも振り返っていきたいんですけど…」
「…?」
「…僕がいた世界のことから先に見ていただきますね。あなたのいる世界がたどったのとは、違う結末を。」
「…ど、どういうことですか…?」
「…このまま見ていただければわかりますよ。僕のこの服装の意味も、シロコさんが、貴方をこうしてここに連れてきた意味も。」
「………」
「…これが、捻じれて歪んだ先の終着点です。ただ帰りを待つことしかできなかった、僕が辿った結末。」
「…そん、な…」
「…先生はシロコさんのもとへ送りとどけられました。でも、シロコさんには申し訳ないことをしてしまいました。僕も、できることならあのまま一緒にいたかったのですけど…」
「…それで、クロコさんは、僕を…」
「…正しいことをしたつもりでした。自分にしかできないことだって思って、歩きつづけました。でも、シロコさんには心の傷を残してしまいました。…後悔、しています。」
「……」
「…あと一つだけ、見ていただきたいです。これが、最後に振り返るものです。」
「…なん、ですか?」
「シロコさんと僕の先生が、どうやって貴方の世界に来たか。そして、そこで何が起こったのか、です。」
「……それで、最後ですか。」
「はい。」
「…わかりました。…僕も、見届けます。」
「…ありがとうございます。」
「…これで、終わりです。この一か月後に、あなたがシャーレの清掃員に就きます。」
「…あの。」
「なんでしょう?」
「…どうして、僕は貴方に会えたんですか?」
「…想像が入るんですけど、いいですか?」
「…はい。」
「まず、僕の魂…といえるかわからないですが。精神的なものは、アトラハシースに乗ってこの世界に現界しました。」
「…は、はい」
「その後、路地裏に倒れていた貴方の体に憑いたんだと思います。だから僕たちは今こうして、貴方の殻の中で言葉を交わせている。」
「…な、なるほど。」
「それと、ここに来る前、シロコさんからチョコを受け取っていませんでしたか?」
「は、はい。」
「あれ、恐らく血入りですよ。」
「…え。」
「そのあとに触ったのは、たぶん先生が使っていたシッテムの箱です。シロコさんの血を触媒にして、僕の意識を呼び覚ましたのか…これ以上は、想像でしかないですけどね。」
「…あ、あと…」
「?」
「また、会えますか…?」
「…貴方が望めば、いつだって。」
「…ありがとうございました。色々と。」
「いえ。僕も、ようやく肩の荷が下りた気分ですから。…先生からも言われたと思いますけど、シロコさんのこと、よろしくお願いします。」
「…はい。」
「…では、また。」
「…はい。」
二か月も待たせてすみませんでした。
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それより今の感じを続けてほしい