シャーレの清掃員やってます。 作:Raitoning storm
使い捨てられた薬莢、起爆に使われ捨てられた手榴弾のピン、大きく歪んでいる銃弾。
役目を失い、ただそこに存在するだけのものが転がりおちている路地。
雨が降り、そこには虚しさ以外の一切を拒絶する景色があった。
「…ここに、いたか。」
目の前でうずくまっている男に向かってサオリが語りかける。
「…みんなが探していた。帰るぞ」
見つめるは、一発だけ空になっている片手銃。少しの虚しさを抱えたその間。
「…このままだと風邪をひく。」
薄汚れた綺麗事を洗い流すように、雨の勢いが強くなっていく。
「…ミサキも、ヒヨリも、アツコも心配していた。早く帰ろう。」
サオリが差し出した手を掴んで、彼も立ち上がっていく。筋組織一本一本に、少しずつ力を込めながら。
彼の中途半端に伸びた髪を雨が濡らし、表情も、感情も、そこに何があるかも読み取れなくなる。
「…心配をおかけしました。すぐに戻ります。」
…もはやそこにどんな感情があるか。誰も知ることは出来ない。彼自身でさえも。
だが、一つだけはっきりしたことがあった。ずっと目を逸らしていた真実を。
この世は、例外なく一切、虚しさで満ちている。
「…」
自室。ベッドと机と椅子しかない、誰が見ても殺風景な部屋。
エデン条約の激動期を終えて、アリウス自治区に留まることに決めた彼は、その自室で、じっとカッターナイフを見つめていた。
本来は自身に送られてくる手紙を開封するために使うものだったが、交流関係を閉じてからは無用の長物と化していたそれを、眺めていた。
「…」
その隣には、刃が鈍く光るナイフ。刀身は決して長いと言えないが、それでも命を奪うには十分な大きさをしている。
あの日。あの悪女を、あの醜悪な笑みを浮かべる悪女を刺し殺したナイフ。血は拭ったが、まだ赤みがなくなっていない。
またはそう見えるだけかもしれない。
「…」
しばらく思案したのち、後者のナイフを机にしまう。
まだ使える。そう思いながら、錆びつかないように刃を服で拭った後ケースにしまう。
そしてカッターナイフを手に取り、刃を少し出してみる。ナイフのように鈍く光はしない。無機質な様子で、意思は感じ取れなかった。
「…」
その刃を指にかけてみる。ナイフと違い、触れただけでは血は出ないが、確かに物を切るものであるという感じが伝わってきた。
少し後ろにスライドすると、鮮血が指から垂れてくる。痛みは少しあるが、心は動かなかった。
「何してるの」
冷たく、確かな怒りを含んだ声が背中から語りかけてくる。カッターナイフを持った手が身体に隠れるように、そして血が出ている指を押さえながら振り向くと、ミサキがこちらを睨むように見つめていた。
「何してたの?危ないこと?ていうか何か隠したよね?何?私には見せられないようなもの?」
今度は、怒りをしっかりと表面化した声で問い詰めてくる。一歩、また一歩と、彼の背中と壁の間の距離がゼロになるまでこちらに歩を進めてきた。
「…別に、なんでもないですよ。ミサキさんが気にするようなことは何もしてないです。」
「じゃあ両手見せて。何もないなら見せられるでしょ。」
「…」
「…あくまでしらを切るつもり?じゃあ無理矢理見るね。」
そうして力任せに彼の腕を引き、彼の両手が抱えるものを確認する。
「…こういう危ないことはしないように言われてるでしょ。とにかく、これは没収だから。どうせ使わないでしょ」
「…ミサキさんだって、似たようなことをしてる。」
「…うるさい。ほら、他に危ないもの持ってない?後で見つけたら、『おしおき』するよ?」
一瞬、机の中にあるナイフのことが頭に浮かぶが、すぐに考えるのをやめた。あれはまだ使える。この虚しさから脱するたった一つの方法。それをするには必要不可欠だから。
「…無いならいいけど。まあ、そもそもそんなもの持ってないか。ほら、行くよ。」
「…なんでですか。もう用は済みましたよね」
「血が垂れた指をそのままにはできないでしょ。絆創膏でも付けるから、早く。」
「…ミサキさんには関係ないですよね。僕の怪我なんですから」
そう彼が言うと、ミサキは明らかな怒りを持って彼に向かう。
「…それ、本気で言ってるの?」
そして肩と血を出している方の腕を掴んだかと思えば、勢いよく彼を床へと押し倒す。床にぶつかった衝撃が内臓にまで伝わる。
「…いっ。」
「…これでわかった?あんたは私たちより弱いの。すぐに死ぬの。銃弾一発でもナイフが掠っただけでも致命傷になるの。」
「…」
「苦しみたくなかったら、言うこと聞いて。…どっちにしろ、楽になんて死ねないからね。一人で死ぬなんて、許されないから。」
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