二次創作的に存在しうるメイヤ大勝利ルートの観察日誌 作:織津江大志ファンクラブ会員
これはかつてメイヤが属していた国、オサマ王国の諜報メイド達が【必須技能】として基本装備していたものだが…
『人生をやり直したい?
二十年後の君がそう思ったからまさに今戻ってきたのさ
さぁ人生やり直そうぜ!!』
という思考法、及び自己洗脳技術などメイヤは当然ながら習得しているこれまでに幾度となくお世話になってきた。
そして、今現在───
「はぁ……」
メイヤは物憂げな表情で大きなため息をついて空を眺めていた。
ため息をつけばその分幸せが逃げていく…なんて聞くが、メイヤはそれを嘘だと断言出来る。
なにせ、もう幸せなんて限界まで取り逃がしているから。
勘違いのないように言っておくが、メイヤは今幸せである。
今までの人生の中でも間違いなく今この時が一番充実しているし、日々楽しく過ごせている。
ついこの間もレッドキャップ達と一旦の取り決めを成してメイヤの【御主人様】から
のだが……
「あっ…♡タイシ、そこ…っ」
淫猥な水音と嬌声が響き渡り、甘ったるい匂いがこちらまで届いてくる。
目を向ければ、そちらでは子供かと見紛う程に小柄な少女達を一人の男が抱いていた。
身長自体は低い、それこそメイヤの方が高い程だ…が曝け出されたその肉体は驚く程に鍛え上げれられていた。
まるでそれ自体が鎧かと思う程に引き締まった肉体、三人相手に余裕すら感じさせるスタミナ、そして心を読んでいるかのような異常なまでの察しの良さ。
「はぁぁぁ………」
先ほどまでのソレよりも更に大きなため息をついて空を見上げるメイヤ。
否、最早見上げるというより仰向けに寝そべっていた。
こうでもしないと、倒れてしまいそうだったのだ。
メイヤの今の地位は、御主人様の第三夫人といったところ。
良くもなく悪くもなく…
……だからこそ、思うのだ。
先の少女達と御主人様の行為を見て……第一夫人方とオリツエ様の性行為を見て、思ってしまう。
『私だって、そこに入れたのに』…と。
否、私だってどころか自分一人だけが第一夫人として収まる事すら可能だった…というか容易だった。
そんな環境にかつてメイヤは居たのだ。
我ながら本当に勿体ない事をしてしまったと思う。
何せ、いまだに後悔するぐらいなのだ……
御主人様は、お優しい。
第三夫人である自分を第一夫人方と同じように扱ってくださる程に。
………だが、それは決して同じではない。
同じようには同じではないのだ。
毎日のように抱かれる第一夫人方と違い、数日に一度しか抱かれない自分。
行為の最中に見せる御主人様の心の底から愛しているとわかる優しい目。
ああ、一度で良いから私も見てみたい…
「戻れたら……あの時に戻れたのなら、今度こそ間違えないのに…」
そんな事を呟いて目を閉じる。
ああ、どれ程強く瞼を閉じれば……目に焼き付いた先ほどの光景が掻き消せるだろうか。
「んぅ……ん…?」
バッと身体を起こす、どうやらいつの間にか眠ってしまっていたようだ。
「はぁ……本当に駄目ですね、こんな事ではオリツエ様からの評価を徒に落とすだけです」
自己嫌悪に苛まれながらベッドから降り……気付く。
「…………??そもそも、何処ですか…此処は……」
言いながらも、実際はわかっている…いやという程に見知った場所だからだ。
だが、しかし……いやという程に見知っているからこそ、メイヤは此処が何処かわからなかった。
先ほどまで…つい先ほどまで居た死の山脈ではない。
ありえない、そう頭で判断しながらもメイヤの感覚は真逆の答えを出していた。
そう、此処が間違いなくオサマ王国の首都オサマにある慣れ親しんだ自分の家だと。
何をどうしたのか、まるで覚えていないが…いつの間にか王城に居た。
困惑と混乱の極地に立たされ脳が思考を放棄しようとも、手癖になるまでに洗練された日々の反復が身支度から通勤までの全てを済ませたからだ。
「おや、随分と落ち着かない様子ですねメイヤ
鉄の女と噂されようと、やはり異世界人の相手となれば緊張するのですね」
いまだに思考停止していたメイヤを白塗りの派手な格好をしたピエロが茶化す。
「黙れピエーロ、メイヤの緊張を笑えるものか…余とて昨日から震えが止まらぬ
あの死の山脈を一人で生き抜き、あまつさえ生活基盤の獲得に至る程の人間が存在したという事すら衝撃だと言うのに…あまつさえそれが異世界人だと言うのだからな」
オサマ王国国王、オサマ8世は噴き出る汗を拭いながら神経質に扉を睨む。
「異世界……人……?」
呟くようなその声は幸いにも二人の耳には届かなかったようだ。
ああ言いつつも、やはりピエーロも王と同様に緊張していたという事だろう。
どくん、と心臓が鳴るのを感じる。
うるさい程に、早鐘のように心臓が鳴る。
そんなはずが、ありえるはずが、そんな思考を問答無用で黙らせる…胸の痛み。
うるさい程に鳴る胸が痛む…それすらも、今この時が夢ではないと証明する。
一日千秋どころではない。
メイヤは扉が開くまでの一分一秒を数年は経ったかと思う程に焦れったく思いながら待ち続けた。
そして遂に、カチャリと扉が開く音が聞こえた。
『人生をやり直したい?
二十年後の君がそう思ったからまさに今戻ってきたのさ
さぁ人生やり直そうぜ!!』
そんな思考法、メイヤは今までに何度もお世話になってきている。
だからこそ、はっきりと言える。
─────あんなもの、お遊びだ。
自己洗脳?
オリツエ様との初対面の時も使ってましたが??
二十年後の私が戻ってきた?
だったらどうして私はオリツエ様の第三夫人なの???
幾度となく過去の己の愚行を悔いながら反芻していた思考が瞬時に脳裏を駆ける。
「し、失礼します…!」
扉を開けた衛兵に頭をぺこぺこと下げながら、一人の男が入ってくる。
低い身長、お世辞にも整っているとは言い難い顔、おどおどと常に周囲の顔色を伺う自信なさ気な態度。
ああ、ほら…あんまりにもぺこぺこと頭を下げるから衛兵の方が困っているではないですか。
王とピエーロの表情が露骨に切り替わる、与し易しとでも思ったのだろう。
ああ、そうだ…私だって取り繕わなければ。
だってオリツエ様は心が読める、僅かな仕草から思考を読まれるのだ…こんな、こんな───
こんな、子宮を疼かせて…抱いてくださいと子種を懇願する卑しい雌豚だとバレてしまう!
メイヤは咳き込んだフリをしながら咄嗟に口元を手で覆い隠した。
そう、こうでもしないとだらしなく歪んだ口角を隠せなかったから。
メイヤは混乱も困惑も忘れ、ただただ降って湧いた現状の幸福を噛み締めるように必死に表情を取り繕っていた。