変態バケツエンジョイ勢。   作:ひつまぶし太郎

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カレーは誰でも作れるお手軽料理、という話。
本日3話目。
過去の話も少しだけ加筆しました。
展開に変化はありませんが会話が増えてます。


テロを起こすの巻。

 

 

バケツカレー事件。

あれは別に僕はもちろん、誰も悪くないと改めて思う。

 

…ただ、スキルをカンストさせたばかりだった僕はちょっとテンションが高く、攻略組のリフレッシュをお願いしてきたヒースクリフが想定していたよりもド派手な方向性に僕が動いたのは否めないかもしれない。

でも、巻き込む人の数を増やしたのは僕だけど、作戦を考えたのはヒースクリフだしな。

悪巧みとか策謀とか、僕には無理。

頭が足りんよ頭が。

 

だからあの事件はやはり、誰かが悪いというよりはタイミングが悪かった、そういうことになるんであろう。

そういうことにしておけ。

 

『ところで、見たところ乗馬スキルをあげているようだが』

 

『うん、カンストさせてみた。みんな馬なんて値段は高いし、操作の難易度は高いし、場所が限られるから普段使いも出来ないってんで、あげたがらないみたいだからちょっと試したくなって。ビバ逆張り精神』

 

『ふむ、SAOのスキルはカンストさせるとなにか特殊な効果を持つものもあるが、なにか攻略に有用そうなものはあったかな?』

 

『ない。でも演奏スキルと合わせると、馬だけじゃなくて家畜系モブ全部と一緒に歌って踊れるってことがわかった!一発芸には最適なクソスキルだった!』

 

『ふ…君ほどSAOを遊び尽くしているプレイヤーもいないだろう』

 

『なんか嬉しそうね?』

 

『そう見えるかね』

 

『なんとなく?』

 

言い訳をさせてもらうと、僕もただ遊んで毎日を過ごしている訳じゃない。一応レベルの高さは攻略組でもトップ3には入っているし、毎日二時間ほど迷宮区でマッピングも兼ねてどこかしらのパーティーにお邪魔しながら、しっかりとプレイスキルも上げている。

 

それをした上で、僕はこのゲームの誰ももっていないようなスキルやら武器、未知の探索エリアを求めて遊んでいるのだ。

未知なる娯楽を求めて。

だからヒースクリフも文句は言わないし、むしろ僕の発見をたまに聞きに来るくらいには仲が良い。

文句言ってくるのは委員長気質な閃光さんだが、僕のほうがレベルが高いことを理由に、煽り散らして追い返していた。

 

「…あの騒動ヒースクリフの提案だったのかよ」

 

「そうだよ?じゃなきゃ攻略の鬼の閃光のハサウェイさんが来るわけないじゃん」

 

「閃光のアスナな?」

 

とりあえず僕とヒースクリフは、派手にやった。

最近軍が我が物顔で歩き回り、窮屈になった始まりの町のやつらを焚き付けて、ゲテモノ料理天下一武闘会を開催した。

攻略組だかなんだか知らねえがとりあえず食えや!という気でも狂ったかと言わんばかりののりで始まったそれは、それでも始まるまでは攻略組も楽しみにしていた。

さっきもいったが血盟騎士団の副団長から下っ端、DDAに軍、その他もろもろ攻略組と呼ばれるトッププレイヤー全員が参加していた。

もちろんボッチのキリトも。

 

だが、この大会は複数チームが料理の味を競い合うもので、使う食材はモンスタードロップの食材限定で行われるという解説が司会者の女性から入った辺りで雲行きが怪しくなっていった。

 

───聞いてないぞと焦る攻略組をおいてけぼりに、各チームのキッチンにはとんでもない食材がストレージから実体化されて露になっていく。

 

普通の豚肉や魚もあるにはあるものの、ほとんどが虫やカエル、ゴブリンにコウモリなど、明らかに嫌がらせでしかない食材ばかり。

それに気付いて逃げ出そうとする攻略組たちを、圏内なのを良いことに『まぁまぁまぁ、いいからいいから』とろくに町から出たことないような住人たちが押し留め、席に戻す。

圏内ではいくらレベルが高くても、デュエルでもしない限りダメージを与えることはできない。

それが分かっている連中は、モンスターに立ち向かう勇気はないくせに、攻略組全員を逃がさなかった。

 

…これが要するに、何者かが仕組んだ、攻略組に対する劣等感やら壁やらを取り払おうという取り組みなのだと頭の良いやつが気づいた頃にはもう遅い。

十歳前後の子供たちが純粋な笑顔で運んでくる料理を、無下にも出来るはずもなく。

攻略組は全員その、テロみたいな料理を口に運ぶことになったのだ。

 

「意外と旨くてびっくりした。アスナは泣いてたけど」

 

「でしょ?料理スキル持ちと協力して結構頑張ったから当然だけど。やっぱ努力は裏切らないんだよなぁ」

 

「努力の方向性がなぁ…」

 

食べ物以外の出し物として、フィールドで歌ってた変な女の子とその彼氏をそそのかしてライブをして盛り上げたり、僕が極めた乗馬スキルと演奏スキルの組み合わせによるブレーメンの音楽隊ごっこ、子供たちの劇の公演なんかもして、途中までは大層な盛り上がりを見せていた。

誰かが持ち込んだ酒のせいでどんどん宴会の様相を呈してきて、アホなおっさんの一発芸やら、トッププレイヤーたちによるド派手なデュエル、横行する賭け、セクハラして黒鉄宮に飛ばされるやつが出る始末だったが、それもまたみんな楽しそうで、この企画は上手くいったかに思われた。

 

「ほんと、あそこで終わってたらなぁ」

 

そう。

キリトの言うようにそこで終わっていたら良い話だったのに、司会を勤めていたサーシャさんが酔っ払った勢いで、料理スキルをまともにあげてないのに残った食材でカレーを作ったことで、宴会が一転して地獄になることになる。

 

「あのカレー、見た目も匂いもほんとにうまそうだったよな」

 

「うんこ色のカレーとか、カレー味のうんことか昔から聞くことはあるけど、僕が思うにあれはカレーの見た目をしたうんこだった」

 

───酔っ払って言動が怪しいとはいえ美人が作るカレーだ。

───しかもさっき出てきたゲテモノ料理は見た目はあれだけど味は美味しかった。なんならこのカレーの方がまともな見た目をしている

───さっきからカレーからする匂いも実に素敵じゃないか。

 

攻略組たちはそんな思考と共にカレーに殺到し、そのゲロマズのカレーを等しく全員が口に運んだ。

それはもはやテロの領域だった。

見た目と匂いで騙し、その実使った食材のそのままの味が発揮されたくそ不味いカレー。

 

『うふふ、まだありますからね!』

 

『おい、食べたやつ全員吐き出せ!これもはや毒…ぅ、腹が…!』

 

『お、なんだ攻略組が倒れたぞ!』

 

『おい軍もいるじゃねえか、今のうちにペンキ引っかけとこうぜ。ばれねえだろ!』

 

『おら、いつもバカみたいに偉そうにしてごめんなさいっていってみろ!』

 

撤収作業をして、ヒースクリフに企画のギャラをもらった僕が広場に戻ると、攻略組全員が腹痛のバッドステータスに苛まれており、なぜか軍が始まりの町の住人にいじめられているという地獄絵図が広がっていた。

僕はその日、ヒースクリフの表情に初めて薄笑い以外のまともな感情を見た。

 

「嫌な…事件だったね…」

 

「まさかあの真面目なサーシャさんが酔うと暴走するとは思ってなかった」

 

───結果として、攻略が一週間ストップした。

そして、なぜか料理したサーシャさんではなく企画者の僕がそのツケを払わされ、全員が回復するまでの一週間、ひたすら迷宮区に潜り、マッピングさせられた。

 

この事件は後にバケツカレー事件という名前でアインクラッド中で語り草となり、原因が自分じゃないのにアニメから消されたポリゴンのような気持ちを味わうはめになったのだが。

 

あの時、僕は咄嗟にキリトを巻き込んだ。

だから迷宮区のマッピングは僕とキリトでしたのだけど、そのときのことをいつまでもキリトは引きずっているらしく、定期的に恨み言をいってくる、というわけだ。

ちなみにヒースクリフは莫大な賠償金を払ったと聞いている。

ひたすら稼ぎのいい討伐クエストを受け続けるヒースクリフの顔が、なぜか楽しげに見えたという話もあるから、案外ワーカーホリックなのかも知れない。

生きてる実感があるとか、現実がどうのとか言ってたし、社畜の可能性が高い。

 

「そんなことが…」

 

ビーストテイマーちゃんが笑えば良いのか、引けば良いのかわからない、みたいな顔で僕たち二人を見上げてくる。

 

あの事件で唯一よかったことと言えば、翌日酩酊のバッドステータスが解除されて、冷静になったサーシャさんにタダ飯を奢ってもらえたことだろうか。

あと強いて言うなら、ヒースクリフの目的だったリフレッシュは成功し、攻略組に漂っていた死に急ぐような雰囲気は緩和、攻略組と低層プレイヤーの壁がちょっとなくなって、始まりの町を出て少しずつモンスターに立ち向かうプレイを始めた人が出てきたことも、よかったことにカウントできなくもないかもしれない。

 

…攻略組に出た被害と釣り合ってるかどうかは、ちょっと微妙だ。

 

 

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