変態バケツエンジョイ勢。   作:ひつまぶし太郎

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君が妹に似てたから、という話。


幼馴染であるの巻。

 

 

朝。

キリトの部屋からビーストテイマーちゃんが出てくるところに遭遇し、素早くスクショを撮った僕は、この映像がいくらになるかそろばんを弾きながら朝食を口に運んでいた。

 

「タダ飯美味しいなぁ…」

 

「くっ…俺は無力だ…!」

 

「うう…キリトさんごめんなさい」

 

キリトのおごりなので、僕は遠慮なく注文した。

ステーキ、ステーキ、ステーキ、山盛りのキャベツ。

ごきげんな朝食だ…。

 

「あ、そう言えば、確認なんですけど…つまりあれですよね。話の流れから察するに、長ネギ丸さんが噂のバケツさんってことなんですよね」

 

「まぁそう。さすがに子供の前であの格好するのは犯罪だし。今日は優秀なアタッカーもいるし、タンク装備でいいかなって」

 

そう、今の…というか昨日の夜から僕はふんどしバケツではない。

だからこそ、ビーストテイマーちゃんは昨日の話を飲み込んで理解するまで僕の正体に気づかなかったのだろう。

今の僕は、ガチガチの重層鎧と大盾を持ち、明らかに大盾に似合わない短剣を片手に構える、いつぞや僕が提唱した最強の壁役、短剣タンクの装いをしている。

そんな格好をしている理由なんてひとつしかない。

 

───いくらいつもの装備がほんの少しの遊び心と高度な合理性に裏打ちされていたとしても、さすがに幼い女の子の前でいつもの装備をするのは犯罪だ。

 

だから今の僕は、攻撃力は低いものの、攻略組でもトップの堅牢さをほこるDDAのリーダー並みの防御力を有している。

短剣もまた、タンクをするのに最適な毒と麻痺を付与できる一品だから、不意のボスレベルモンスターとの戦闘でも確実に一人は守りながら戦える、というコンセプト装備なのだ。

 

「お前、そんな気遣いできたんだな…」

 

「いつだって僕は紳士だろうに。失礼なやつめ」

 

「人に興味ないだけだろ」

 

「そうとも言う」

 

ちなみに攻撃力が低いとはいったが、今からビーストテイマーちゃんのペットを蘇生しに行く階層で遅れをとるほどではない。

 

「じゃあキリトさんも攻略組なんですね!二人ともすごいです…」

 

「でしょ?」

 

「お前はもっと謙遜しろよ…」

 

「やーまじキリトさんには敵わないっすよ!出会って即部屋に少女連れ込むなんて!尊敬してますマジで!」

 

「おおおい、ごめんって!だから高速タイピングで誰かにメッセージ送ろうとするのはやめてくれ!いや、やめてください!」

 

「ねぇ知ってる?ここのチーズケーキうまいんだってさ」

 

「くそ!持ってけ泥棒!」

 

「やーゴチになりまーす!」

 

 

 

 

 

さて、47階層。

フローリア。

花だらけ、そしてカップルだらけなその街を、無骨な鎧をガシャガシャ言わせながら歩く僕は悪い意味で注目の的だった。

なに見てんだおら。

デスゲームでイチャコラしやがって。

どうせ現実帰ったら別れんだろてめえら。

 

「中指たてんのやめろ。つばを吐くな!」

 

「ノイキャンイヤホンって快適だなぁ」

 

「今俺の声がノイズだって言った?あ?お?」

 

「あ、あの……キリトさん。妹さんのこと、聞いていいですか……?」

 

「ど、どうしたんだい急に」

 

「あたしに似てる、って言ったじゃないですか。それで、気になっちゃって……」

 

おそらく、その視線に耐えかねたのだろう。

ビーストテイマーちゃんは、キリトに何やら話題を振っていた。

だが、キリトの方はと言えば、明らかに聞かれたら拙い話だと言うことを物語る、あ、やべ、みたいな表情を浮かべていた。

僕は、自分の口がニヤァと弧を描くのを実感したが、それに構わずキリトの方に腕を回した。

 

「……へぇー?キリトくぅん、その話僕も聞きたいなぁ〜?」

 

「やー、良いんじゃないか?終わらない?この話やめない?」

 

「あの、私なにか失礼なこといいました?」

 

「いやいや全然!僕はとても興味があるだけで失礼とかほんと!全然!これっぽっちもないから安心していいよ!」

 

「くそ、過去の俺のバカ!今の今まで忘れてた今の俺もバカ!」

 

「え、えっと…もしかして…やっちゃった?」

 

桐ヶ谷和人の妹、といえば思い当たるのはひとりしかいない。

あるいはキリトの義理の両親が夜の大運動会に励んでいたら話は別だが、新しい生命の誕生の吉報は、僕の耳には届いていない。

 

桐ヶ谷直葉。

たしかにまぁ、シリカちゃんと年の頃は近いだろう。

成長期前故にちみっこかったし。

 

でも、助けた理由を聞かれて『妹と似てたから』とは。

ひぃーっ!(過呼吸)

腹が!

腹が捩れる!

 

「か、かっこい…ぷふ、と思うようん…!」

 

「笑うな!」

 

「過酷なブルアカ?妹でとかちょっと引くわー」

 

「お前もうほんと…黙っててくれ!頼むから!」

 

「あははは」

 

「真顔で笑うなよ怖いから」

 

爆笑する僕を置いて、話は進む。

 

「……仲は、あんまり良くはなかったな……」

 

「ほんとにぃ?」

 

普通に仲良かったと思うけど…。

まぁキリト目線だと何かとネガティブになりがちだ。

いざってときのメンタルは鬼強いし光属性なのに、なぜこうも陰キャなのか。

 

「妹って言ったけど、ほんとは従妹なんだ。事情があって、彼女が生まれた時から一緒に育ったから、向こうは知らないはずだけどね。でも、そのせいかな……どうしても俺のほうから距離を作っちゃってさ。家で顔を合わせるのすら避けてた」   

 

スカイプ繋いで駄弁ってた時一緒にテレビ見てたじゃんこの前。

 

「……それに、祖父が厳しい人でね。俺と妹は、俺が八歳の時に強制的に近所の剣道場に通わされたんだけど、俺はどうにも馴染めなくて二年で辞めちゃったんだ。じいさんにそりゃあ殴られて……。そしたら妹が、大泣きしながら、自分が二人分頑張るから叩かないで、って俺を庇ってさ。俺はそれからコンピュータにどっぷりになっちゃったんだけど、妹は本当に剣道に打ち込んで、祖父が亡くなるちょっと前には全国でいいとこまで行くようになってた。じいさんも満足だったろうな……。だから、俺はずっと彼女に引け目を感じてた。本当はあいつにも他にやりたいことがあったんじゃないか、俺を恨んでるんじゃないかって。そう思うと、つい余計に避けちゃって……そのまま、ここに来てしまったんだ」

 

いや長い長い。

僕に茶々入れられたくないからって一息にいいすぎだろ。

シリアスな顔して意地張んなよ。

意地張るかシリアスするかどっちかにしとけどっちかに。

 

「……妹さん、キリトさんを恨んでなんかいなかったと思います。何でも、好きじゃないのに頑張れることなんかありませんよ。きっと、剣道、ほんとに好きなんですよ」

 

「ありがとう」

 

「や、ほんとに恨んでないだろあの子。超いい笑顔で竹刀振り回してたし、こないだなんか地区大会かなんかで優勝してなかった?あの子の竹刀超痛いんだよね…もはやゴリラだよゴリラ。幼体のゴリラ」

 

「長ネギ丸は黙ってろ」

 

「対応の差よ。…もー、悪かったってからかったのは。でも僕の言うこともちょっとは信じていいんじゃない?」

 

「はいはい…」

 

なんでこの幼馴染は僕のことをこんなに信用しないのだろう。

幼い頃にトランプを使ったイカサマでお菓子をカツアゲしまくったからか?

でも、もうあれ十年前とかだし時効でしょ。

 

え、ならない?

そっかぁ…。

 

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