変態バケツエンジョイ勢。   作:ひつまぶし太郎

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剣士なら剣で語れみたいな話。


炎の…何番勝負?の巻。

 

キリトは現在、エギルの店に引きこもっていた。

それは第一層のボス攻略でキリトに汚名を被せてしまった負い目から、キリトのポジキャンに精力的なディアベルと、単純な嫉妬によるバケツネギのネガキャンによって、とんでもない風聞が広まっているからだ。

 

「引っ越してやる……どっかすげえ田舎フロアの、絶対見つからないような村に……」

 

いわく、軍が壊滅しかけるほどのボスをユニークスキル使い二人が撃破した。

中でも黒の剣士の二刀流は16連撃でボスのHPが消し飛んだ、とか。

ソードスキルは16連撃だけど夜の方は50連撃だ、とか。

夜の二刀流、とか。

それって偉大なる日本人メジャーリーガーのパクリですよね!?とか。

キリトさんは神的にいい人だから、とか。

ロリコン女たらしのくせにクラインとできてる、とか。

キリト俺達って付き合ってたのか…?記念日デートとかしたほうがいい?とか。

 

噂が噂を呼び、もはやキリトの実像はあっという間に埋もれてしまっていた。

 

「いや最後よ」

 

「たぶんあの馬鹿に口八丁吹き込まれたんだろ…」

 

どうやって調べたのか。

いや確実にバケツがバラしたのだろう。

キリトのねぐらには早朝から剣士やら情報屋が押しかけてきて、脱出するのにわざわざ転移結晶を使うハメになったのだ。

 

「ま、一度くらいは有名人になってみるのもいいさ。どうだ、いっそ講演会でもやってみちゃ。会場とチケットの手はずはオレが」

 

「するか!」

 

そんな会話をするキリト達の耳に、階段を登る足音が聞こえてくる。

 

「お、アスナか」

 

「お前…」

 

「なんだよエギル」

 

「足音だけで女の子言い当てるのはやべーぞ」

 

「いやちげえよ!単に約束してただけだから!」

 

「そ、そうだな…」

 

「こっちを見てくれって!なぁ!?」

 

約束の時間からすでに2時間。

新階層もアクティベートされたし、一度羽根を伸ばしたいから。

そんな理由で今日の約束前に休暇届を出しに行ったアスナがいつまでも来ないから、何かに巻き込まれたのではないかとソワソワしていたキリトは、エギルに生暖かい目で見られていたことに気がついていなかった。

立ったり座ったり、メッセージの取り消ししたりまた送ったり。

コミュ障で対人経験が乏しいキリトは、約束をしてる相手を待つ、ということに慣れていなかった。

 

ちなみに長ネギ丸との約束ではここまで落ち着かないことはない。

だってあいつ約束の三十分前には来てるし。

あれで何かと律儀なのだ。

 

「どうしよう……ふふ。キリト君……大変なことにっ……んふ。なっちゃった……!」

 

「遅刻したうえでなんか笑ってる?」

 

ともあれ、扉を開けて店に飛び込んできたアスナは、顔だけ泣きそうになりながらそう言った。

 

 

 

 

 

『第一回、キリトかなぁ〜やっぱ!ちなみに彼女はアスナに似てるw大会〜!』

 

「いやこれなにぃ!?」

 

『『『『『『いえー!』』』』』』

 

「当事者差し置いて予想外の盛り上がり!」

 

キリトは、なんか闘技場みたいな場所の中心に立たされていた。

 

「クソ、アスナのやつ…!どこであんな技を…!」

 

全てはアスナから話を聞かされ、それを脳が理解する前にアスナの上目遣いによるおねだりによって承認してしまった契約書のせいだ。

後から見直したら、なんかアスナの休暇のために命を懸けることになっていた。

そして今日つれてこられたのは、ついこないだ解放された75階層のとあるエリア。

 

「火噴きコーン十コル! 十コル!」

 

「黒エール冷えてるか~?」

 

「バッチェ冷えてますよ!」

 

コロシアム入り口には口々にわめき立てる商人プレイヤーの露店がずらりと並び、長蛇の列をなした見物人にあやしげな食い物を売りつけていた。

そんな光景を前に柄になく少しワクワクしていたキリトは、しかしそれを楽しませてもらえることもなく、気がつけば衆人環視の中に放り出されていた。

 

野次を飛ばす観客たちに圧倒されるキリトを見てご満悦なのか、観客の中心でマイクを握る長ネギ丸の声は弾んでいる。

 

『この大会はユニークスキル持ちで夜の二刀流キリトくぅんを合法的に吊るし上げる大会でぇ〜す』

 

「合法ではないよな」

 

『合法合法。だってここ警察とかいないから!治外法権!アインクラッドは治外法権!』

 

「犯罪者の思考!」

 

『大丈夫大丈夫。殺人犯とかは僕が定期的に掃除してっから』

 

「公言することじゃない…!」

 

『はいじゃあ第一試合の開始をしていきます!…っと、言い忘れてましたが今回景品はデスゲームに囚われた美少女剣士で血盟騎士団の閃光さんとかいうドカ盛り厨二病要素満載なアスナさんとの1日デート権と閃光さんの休暇届の受理でーす!』

 

『『『『Boooー!』』』』

 

『負けたらキリトは血盟騎士団の下っ端になりまーす!』

 

『『『『『YAー!』』』』』

 

『あと、参加者はキリトだけです』

 

「ただの見世物じゃねえか!」

 

『えー解説席の閃光さん?今のお気持ちはいかがですか?』

 

「…!?え、そんな!台本には私のセリフなかったのに!…えっと、あ、その、き、キリトくん…頑張って!」

 

『はい。毒にもならねぇ水みたいなコメントでしたけどとりあえず第一試合!墓の中身は誰だろな?みんなでぶっ殺したボスモンスターの名前を当てろ!クイズミリシラヤ〜!』

 

「え、意外と面白そう」

 

キリトはとりあえず興味をそそられたのもあって抵抗を諦めると、アスナが半泣きで隣のバケツ頭に掴みかかる姿を尻目に、血盟騎士団の団員が持ってきた丸椅子に腰を掛けるのだった。

 

「でもこのだだっ広い空間の真ん中に座るの落ち着かないわ普通に…」

 

『危ない、危ないって閃光さん!ノー!ユーダメ!ゴリラパワーキンジラレタチカラ!』

 

「誰がゴリラですか、誰が!私の悪評ばらまくのやめてください!」

 

 

 

 

「うおおおおおお!?死ぬ死ぬ死ぬ!やるにしても限度ってのがあるだろ!?」

 

さて、と。

僕は眼下で必死に走っているキリトを見てほくそ笑む。

 

「最近なんか弛んでたからなぁ。このまま二人を休暇に出すとちょっと帰ってこなさそうだし」

 

こないだも、まるでこのゲームで生まれてずっとこのゲームにいたみたいだ、とか言ってたし。

悪いがそんな気持ちでいてもらっちゃ困るのだ。

 

僕はいつだってひりつくボス戦がしたい。

このゲームのまだ見ぬエリアに行きたいし、進行中のストーリークエストも残ってるし、使い所のないアイテムの活かしどころも見つけてないし、もっともっと僕はこの世界で暴れたい。

でもそれは、このゲームの世界にずっといたいって意味ではない。

 

僕はこの世界を遊び尽くして【クリア】をしたいのだ。

鈍間な歩みなんてしてられない。

人生は短い。

ならば太く短くでいきたい所存。 

それに、僕が楽しくても楽しんでない人だっているのだし。

 

『はい、第21試合目のドキドキ障害物競争♡たぶん死なない即死トラップを駆け抜けろ!リア充への憎しみを添えて!終了〜!』

 

「シンプルに試合数多くない!?」

 

『いやぁ、盛り上がりが続く限りはしようかなって』

 

「それ終わるとき飽きられたときってことか?地獄みたいな空気で終わるつもりか?」

 

『だって恥かくの僕じゃないし』

 

「死ね」

 

『よーし、次は槍投げしようぜ!お前が的な!』

 

「ごめんごめんマジで謝るからぁぁあああぶねぇな!?」

 

『…チッ、外したか。はい、まぁ尺的にもねそろそろ最後の試合となりまーす!』 

 

飛距離はだいたい100メートルってとこか。

現実の拳銃弾並の速度出てるんだけど。

流石にキリトの反射速度を前にすると、ここまで距離に余裕があると躱されるなぁ。

まったく…アインクラッドのAIじゃボスすら微動だにできないレベルの一撃を気軽に躱すな。

 

「いや、うん。もう予想できたけどな…」

 

『最後はガ・ちんこ!飲み込んで、俺のスターバーストストリーム。なんと奇遇な!ヒースクリフ団長とのデュエルだぁ〜!』

 

「最低なタイトル!」

 

「すまなかったキリトくん。こんなことになってるとは知らなかった」

 

「嘘つけ!バケツカレーの時とまったく同じ顔してんぞあんた!」

 

「ふっ、なんのことやら」

 

「ああ、くっそ!やってやる!勝てばいいんだろ勝てば!つーかここまでやって休暇もぎとれないとなんのためにこんな苦労したかわかんないし!」

 

「文句があるのならば、剣で語りたまえ」

 

「───ちょ、強!?」

 

「悪いが彼とデュエルは千数回こなしてるのでね、生半可な気持ちで勝てると思わないでもらおうか。…ちなみに、なんのための前フリだったと思う?君を疲労させるためだ。確実に勝つために!」

 

「姑息!」

 

「戦力の流出を防いで、新たな戦力を取り入れるためなら何でもするさ。私は団長だからな」

 

キリトは負けた。

めっちゃいい笑顔で斬り掛かってくるヒースクリフの圧と主にこれまでの疲労のせいで。

 

『はいというわけでデートも休暇もなしでぇ〜す!ざまぁぁぁぁああああああああああ!』

 

『『『『いえー!』』』』

 

『はいかいさーん!終了〜!みんなおつかれ!ばいばーい!』

 

マイクを切って伸びをする僕の足元には、疲労困憊なキリトが転がっており、それを覗き込んで僕は笑った。

 

「よ、おつかれ」

 

「なんの時間だったんだよこれ…」

 

「さぁ?」

 

「さぁって」

 

「えー…じゃあ新階層アクティベート記念ってことで。楽しければヨシ!ついでに金回りもヨシ!お祭り最高!」

 

「このデスゲームエンジョイ勢が…!」

 

「…ま、ほら。こんだけの人数が、帰れてないってこと忘れんなよスカタン。僕らみたいに楽しんでるやつばっかじゃないってこと頭に入れとけよ。最前線にいる以上、僕らは何千人もの命を背負ってんだぜ」

 

僕は最後に言いたいことを言うと、キリトの顔に馬糞をなすりつけ、手を拭いながらその場をあとにするのだった。

 

「くせぇよ!いやうんこじゃなくてセリフの方な!?」

 

 

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